始まる者達58
しかし、それだけで怒り狂っていた感情を収め、振り上げた拳を止めるにはいささか、理由が弱いように感じるかもしれないが、
(こいつは…本気だ……)
もう一つ懸念しないといけない事がある……それは(全てを失ってでも、相手を滅ぼしたいか!!!!!!!!!!)その言葉に全てが詰まっている。
原人の体が発光しているのは、あの修行僧達の腕を振った時に感じる力よりも強く、力を体中に纏っている。
原人は分かっている、火内が暴れ回ればこちらの部隊を壊滅する事が出来ると……が、それと同じように原人もなりふり構わず戦えば、相手を皆殺しに出来るという自信もある。
だが、怪我をした相棒を抱えたまま、ドラゴンの猛攻を避けながら戦える……?もちろんそんな事は出来ない。
もしもそれをするというのなら、怪我をした相棒を捨てて戦う事になる……そうなれば、もう引き戻れない。
大切な者を失った先では、手打ちという案は消える……それが分かっているから……
「隙ありだぁぁぁぁ!!!!!!!!」
高周波ブレードを上段に構えて、突っ込んで来るミィオ。
火内と無抵抗で対面する原人は、確かに隙があるが、それは決して油断しているからではない、対話をする為の礼儀。
「うぁぁあぁぁぁ!!!!!!」
ミィオが原人に近付いていく……戦う気は無いと、お互いに失うのは嫌なはずだと……そう訴え掛けていたが目がゆっくりと吊り上がり……相棒を掴んでいる手の力を緩めて……
『バッサァァァァ!!!!!!』
「うわっ⁉」
もう後戻りが出来なくなる……その一歩手前で、火内は大きく羽を羽ばたかせると、ミィオを風圧で押し止め、
『…………』
「…………」
原人と火内はお互いに頷き合うと、原人はそのまま相棒を担いで、森の中へと消えて行ってしまうのであった。
「火内!!!!」
後もう少し…一振りすれば、原人達を始末出来たとミィオが訴えて来るが、
『…………』
「リナ!!」
「うっ…うぅ……」
火内はミィオの訴えを取り合わず、首を後ろに向けると、そこにはうつ伏せでうめき声を上げているリナがいる。
「今行くッス!!」
ミィオは、地面に倒れ込むリナを助けに行き、火内が代わりに残りの修行僧を始末しようとしたが、
『『『サァァァァァ……』』』
修行僧も勝負が決したと判断したのか、風に舞う木の葉のように逃げ出してしまった。