始まる者達49
「ふぅ……」
闇夜の中に溶けていくレインを見送りながら、火内は息を整える。
炎が自分の身を包んで焼こうとしていたが……息を吸う……炎を吸い込んで……
(ありがとう…レインさん……)
最後にレインが何も言わなかったのを理解する事が出来る……ただ種として優れているのではなく……ただ暴力的に力強いだけでなく……ドラゴンには神秘性があるのだと……それを感じ取る事で……
『メキ…メキメキ…………』
『ギョ?』
ドラゴンもどきに握られていた火内が、手を押し返す。
まだ生きているのかと、しぶとい奴だと、ドラゴンもどきは止むを得ないと、もう片方の手も炎に晒して両手で火内を抑え込む。
一度は体から力が抜けたのを感じている、最期の力を振り絞っているだけだと、このまま死ぬまで抑え込めばドラゴンは死ぬのだと力を入れるのだが、
『メキメキメキメキメキメキメキメキ!!!!!!!!!!』
それは、ただ最期の力を振り絞っているのでは無かった。
両の手を燃やし、ドラゴンを苦しめているはずのなのにドラゴンが……ドラゴンが……ドラゴンに……
『メキメキメキメキメキ…………』
ドラゴンもどきの手を振り払って空へと舞い上がり、その姿を現したのは、
『…………』
ドラゴンであった。
それは、ドラゴンもどきの手の中に納まる、人の大きさのドラゴンではない、闇夜の中でも、その大きな輪郭が浮かび上がる程の大きさ。
象に勝るとも劣らない大きさのドラゴンもどきが戸惑う、小さかったドラゴンが、自分達と同じ大きさのドラゴンになった事に。
『『ギョ……ギョォォォォォオオォォォッォ!!!!!!!!』』
肉体による差、筋力、質量……それが互角になっただけ。
ドラゴンもどき達は、ドラゴンから距離を取ると左右に別れる、片方はドラゴンの方に向かい、片方は地上に向かって。
『ヒュ……』
ドラゴンもどきが別れて離れた所を狙って、ドラゴンが急降下する。
それは先程の行いと一緒の行為、質量差がある故に出来なかった行為……だが、
『ギョオォオォォォォォ!?!?!?!?!?』
今は違う。
地上に向かおうとしていたドラゴンもどきの首を掴むと、手応えがある。
先程の大木に触れたかのような、絶望的な質量差を感じる事は一切なく、手に感じるのは獲物を捕らえたという確信で、
『バッサァァァァ!!!!!!!!』
今度は心に思い描いたままに、ドラゴンもどきを地上へと堕とす。