始まる者達35
『……⁉』
咆哮をあげたドラゴンに、リナと対峙していた修行僧が震えた。
本能、遺伝子に組み込まれたドラゴンに対する恐怖が反応してしまったのだろう、軽快に振られていた十手が、途端に鈍重な重しとなって、修行僧の動きを鈍らせ、
「戦っている時に怯えるなんて」
『ゴッ!!』
動きが鈍った修行僧の顔面を、リナの拳がストレートに捕らえた。
パワードスーツの小手を纏ってのストレートは、鋼鉄の拳。
十手のそれと同じで、相手を切り裂く事は出来ないが、相手を砕く事が出来る。
鼻を中心に顔がへこむ…骨が砕けたのだ。
鼻が潰れて、目が潰れて、口が潰れて……顔は壊された。
残された体で敵を追い払おうと腕を振り、残された足をヨタヨタさせて敵から距離を取ろうとするが、
『ゴッギッ!!』
そんな駄々っ子が暴れるような動きでは、リナの拳を止められる訳がない。
鋼鉄の右ストレートが修行僧の左耳の下を殴り、鼓膜を破って顎の付け根を破壊し、
『ゴッギッ!!』
次の鋼鉄の左ストレートが修行僧の右耳の下を殴り、鼓膜を破って顎の付け根を破壊する。
五体のうち、最も重要な頭を破壊された修行僧にもう反撃の手立てはないのだが……
「とどめだ……ココナッツクラッシュ!!!!!!」
反撃の手立てがないからこそ、リナは大技を繰り出す。
自分の腹の付近に、お辞儀させるように修行僧の頭を持って来て、両の手を頭上で組んで振り下ろすのと同時に膝蹴りをする、スペシャル技。
予め下処理をされた頭に、このスペシャル技を耐えられるだけの硬さはなく、頭が潰れた瞬間の音を表現するのすら憚られる光景……かぶりついたトマトから、液体が飛び散るように、修行僧は死んだ。
惨たらしい死に方……普通に生きていれば、こんな死に方はしないであろうという、殺し方をした当の本人は、
「よしっ!!」
赤く染まった自分の体を、勝利の証として満足そうにしている……いつもの模擬戦とは違う……生死を賭けた戦いに、とてつもない高揚感を覚えてしまう。
種としての優劣を付けて、この世に留まったのが自分である事……それがなぜ、ここまで自分を興奮させるのか分からなかったが、
「殲滅してやる……」
リナはにったりと笑って、エルフのRLH狩りを再開させるのであった。