始まる者達16
「……その彼の正体は分かりました。でも、それが一体?」
ドラゴンが会わせてくれた彼ではあるが、それだけでは話が続かない。
「そうだね。話だと気付かなかったかもしれないけど、私はとても大事も言ったんだよ」
「大事な事を?」
ドラゴンが、大地に腹を付けて伏せる。
それは老人が昔話をする為に、椅子に腰を下ろすかのように。
「Cの世界のエルフ達が、次元の裂け目に多くの者を落としたのは、この世界と扉を繋げる為だったんだ」
「世界と扉を繋げる為に……?そっか、欲しかったんですもんね。他の世界の技術が」
「うん、異世界の知識が欲しかった……エルフの世界だって、世界を誰が手中に収めるかと争っていたんだ。そこで、異世界から来た者達の知識は宝そのものだった。自分達の持ち合わせない知識は武器となり、戦争を有利にさせる。最初は、異世界からエルフの世界に異界の者を呼ぶだけであったが、欲望というのは酷いものだよ」
「異次元の扉を繋げようとしたのは……知識を持つ者を沢山連れ去る為?」
「君は優しいんだね」
ドラゴンは優しく笑う、それは火内がまだまだ子供な発想しか出来無い事に、可愛らしさを覚えて、あやすように笑う。
「エルフが考えたのは、この世界を奴隷化する事だったんだよ」
「奴隷…化……それは……そういう意味なんですか?」
「そうだよ、何のひねりも無い事だけど恐ろしい計画。知識を持つ者を手に入れて、戦争をする為の兵力も手にする事が出来る。一石二鳥な計画」
古今東西問わず、植民地にされた国が奴隷化するというのは当たり前にあった話だが、それを異世界というスケールで仕掛けて来たというのは、あまりにも途方も無い話。
「その時はまだ、異次元の扉というのは存在しなかったけど、異次元と異次元が繋がり始めていたんだ」
「それを……彼が止めた?」
「御名答、彼が異次元の扉になるであろう場所を破壊して回ったお陰で、異次元が繋がってしまうというのは防ぐ事が出来たんだ……一回目のはね」
「一回目の?」
「あぁ…一回目のは…ね……」
そこでドラゴンは、何かを思い出したのか、何か後悔の念が混じる溜息を吐いたが、首を小さく横に振ると気を取り直す。
「……一度は断ち切られた異次元への繋がり、だけどそれは、こちらの世界の人間にも気付かれていたんだ」
「気付かれていた?」
「気付かれた理由は色々とあるんだけど……Bの世界の人間達も、同じような事を考えたんだ。Cの世界が欲しいと」
それは欲望と欲望がぶつかり合う、戦いの火蓋が落とされた瞬間であった。