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第7話 ショタ×ショタの久遠寺

「無礼な来訪者だな……。ここを教団の拠点と知っての狼藉か?」


 響いてきたのは、途轍もなく冷たい声だった。目の前の教会、その扉を開けて男が出てくる。


 坊主頭でひげ面。鋭い目。筋肉質な体、かなりの高身長だ。明良もそれなりの高身長だが、それよりもはるかに高い。二メートルはありそうだ。


 それだけでもかなり目立つというのに、さらに目立つ要素はその服装だった。


 胸元がザックリと開かれたシャツ。暗い色のカーゴパンツ。死与太珍教団の制服であるはずのコートは腰に巻いていた。


 雄太郎をごく普通と形容するならば、この男はその真逆。異常者が異常な格好をしている。そんな印象を受けた。


 そして、そんな異常な格好が許される当たり相当の上位メンバーであるのだろう。


「知らなきゃこんなところまで来るかよ、カチコミだぜクソカルト」


「品がない男だな。そもそも、我々死与太珍教団は王の意思に従い本来無法の監獄であるはずのジェイルを管理、統治しているのだよ。カルト呼ばわりされる覚えはない」


「詭弁だな。無知な姉弟捕まえてそのうち弟は“象徴”ときたもんだ。これをカルトの所業と呼ばずして何と呼ぶよ」


「……まぁいいさ。下品な部外者に理解も共感も求めぬ。否教徒(サル)教団(にんげん)の教え(フェチ)が理解できるはずがあるまい」


「随分と傲慢だな」


「それが許される立場である故な」


 空気が一気に張りつめていく。心を降ろして後ろに下がらせた明良はキリキリというワイヤーを無理に引っ張っているような幻聴を聞いた。



 直後。



「「異能性癖(リビドー)ッッ!」」


 二つの声が重なった。ダンッ! という音が響き渡って、次に地面が砕けた。


 すさまじい速さで駆け出した二人は広場の半ばで激突する。

 明良の腕が、男の腕が、スローモーションになった世界で素早く動く。



「っ!」


 直後、明良の体に異変が起きた。


 空に掲げて振り下ろさんと握りしめたその腕が、男に激突する前に“はじかれた”


「ふんっ!」


 バランスを崩してのけぞる。その隙を男は逃さない。

 下から、隕石が落ちてくる。


 視界がくらむようなアッパーが、明良の顎を砕いてその体を易々と吹き飛ばす。


「ぐっ!!」

「口ほどにもない」

「ッ!」


 真上にとんだ体が、急降下を開始する。精力を砕けた顎に集中させて傷を回復してから地面をにらむ。

 表面上の傷はすぐさま回復したがまともに体が動かない、まるで電気を流されたようだ。


 このままでは受け身を取って着地することなど不可能……。



(なら……ッ!)



 ありったけの力を込めて明良は両手を合わせて音を鳴らした。それが限界だった、しかしそれで充分。


 そのまま落下して地面に叩き付けられるはずだった明良の体が、ふわり、と落下直前に制止した。


 まるで巨大なクッションの上に着地したかのように不可視の何かに抱き留められて明良は鮮やかに着地した。


 生まれたのは数秒のラグ、その間に肉体の制御を取り戻した明良は真正面から男とにらみ合う。


 二つの乳トンを合わせることによって生み出した反重力。万乳反発(ばんにゅうはんぱつ)


「ギリギリだな。本番はここからだというのに」


「奇遇だなァ。俺も今ちょうど同じ事言おうと思ってたところだ」

「ほう、ならば、ショータイムを始めようか。貴様の息の根は死与太珍教団三幹部が内の一人、久遠寺(くおんじ)が止める」


「笑えない戯言だ、コメディアンや道化師の才能はないらしい」


「いいや」

「あ?」


 鼻を鳴らして笑った久遠寺は両手を広げて告げる。


「オレはコメディアンや道化師じゃない」


「……ッ!」


「踊り狂うピエロはお前さ」


 久遠寺が言い終えるよりも早く明良は真上に飛び上がった。その直後、空気を切り裂きながら飛来した何かが明良の立っていた場所に突き刺さった。


「!?」

「……」


 ニヤリ……と久遠寺が笑う。冷ややかな悪寒。いやな感覚が、明良の背中を撫でる。


「グッ!?」


 直後、驚異的なスピードで銀色の塊が飛来する。


 パチンコ玉のようなものだと、驚異的なまでの動体視力で理解した明良は飛翔する銀色の球に、まっすぐ腕を振り伸ばす。


 重力の変質。おっぱいの重力。乳トン。重力の塊を相手に向かって叩きつける異能性癖は、小規模なブラックホールにも等しい力を持っている。


 無論、ただの金属の塊が耐えられる圧力ではない。


 バキンッ! という音を立てて玉が吹き飛ぶ。


「……」


 久遠寺はまだ笑っている。


「ッ!」


 直後、真っ白な光があたりを包む。


 轟音と熱風が辺りに巻き散らかされた。爆発。爆心地は、乳トンの真ん中。


 砕けた銀の玉、その破片が凄まじい威力で拡散される。


 圧倒的な爆発に明良の体はいとも簡単に飲み込まれた。


「これはかわしきれまい。ショータイムは幕を開ける前に幕切れ。まぁ。死与太珍教団にとっては、程よい“余興”であったか」


 銀の玉を手のひらでジャラジャラもてあそびながら久遠寺は鼻を鳴らして笑った。


「……あ。あぁ……」


「さて、白馬心よ……。わざわざ戻ってきたのだ。覚悟はできていると見て問題はないな?」


「あぁ……」


 白馬心が、かすれるような声を吐き出した。

 そして。


「乳……ッ!!! トォォォォォォォオオオオオンッッッッッ!!!!」


 ズッドオンッ! という凄まじい轟音がたたきつけられた。

 きれいに整えられた広場の地面がえぐれて壊れた。


「明良……ッ!」


「あの爆発から生き残ったか」


 心が叫び、久遠寺がうめく。


 まるで、空気の詰まったペットボトルが水中の奥底から吹き飛ぶように、久遠寺が真上に向かって舞い上がった。


「爆発の直前、万乳反発で真上に飛びのいたんだよ、半重力で真上に向かって落下したってところだな。この反発力こそ万乳反発の最大利点だ」


「なるほどな。如何やらそれなりの実力は持ち合わせているらしい。その自信も頷けるというものだ」


 久遠寺が空中で静止した。

 まるで、地面に着地するような形でその場にとどまる久遠寺はポケットの中から何かを取り出して地面に向かって投げ捨てた。


「お前の異能性癖。見えてきたぜ」

「頃合いであろうな。むしろ未だにわからぬようであれば興ざめもいいところだ」


 ひらひらと、紙吹雪が宙を舞う。

 久遠寺が取り出したそれは紛れもなくただの紙切れでしかない。


「乳トン!」


 スノードームのように舞い踊る紙キレが、衝撃によって吹き飛んだ。

 吹き上げられるように空に舞い上がった紙吹雪が空中で爆発を起こした。

 派手な爆発を真上に、明良は久遠寺とにらみ合った。

 空中に立ったまま両手を広げた久遠寺は自慢げに語り始める。



「オレはショタ×ショタ。つまり男の子同士の恋愛が好きでな。男同士、ではなく男の子同士……。というところがミソだな」


 明良はその言葉を黙って聞いていた。鼻で笑うわけでも、続きを促すわけでもなく、真剣な表情で。


「まだ純粋で、何も知らない幼子は、いずれ気が付く。ただ一人の友達へ向ける友情が。友情ではない事に」



「……。変わっていく感情。変化それがお前の異能性癖か」


「一定の範囲内にあるものの性質を変化させる。例えば紙を爆発物に変えたり、空気をゴムのように変えたりな」


「だが同時に二つまでってところか……。お前ショタ×ショタの純愛至上主義だろ?」


「ご名答よくわかったな」


「……。お前たちが発行している“聖書”読ませてもらったからな。ショタっ子アンソロジーコミック、ショタの宴そこに収録されてるショタ×ショタの部分はお前がかいたものだな?」


「プロットのみだがな」


「いいものだと思ったぜ。だから……」

「……?」

「もったいないな」


 ポツリ……。と、かすかな声でそう言った明良の瞳には、悲哀のような色が宿っていた。

 それも、次の瞬間には消え失せる。


「教祖殿には悪いが、俺は巨乳があまり好きではない。あれはショタ×ショタの間に割り込み全てを崩す悪しきお姉ちゃんだ」


「それが悪なのか、それとも破壊によって新たな道を示す光なのか、ふたを開けてみるまでわかんねーだろうが」


「侵略者の考え方だな。自身の考えを正義として振りかざし、世界に腐敗をもたらす」


「そういうお前は箱庭の端で震えている臆病者だ。変化を拒むありかたが、世界を永久の暗闇に閉ざしていく」


「相容れないな」

「まったくだ」


 直後、一陣の風が吹き抜けた。

 それが合図だった。飛び出した二人が激突し街灯がへし折れて、木々が吹き飛んだ。



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