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第5話 倍十輪廻転生連弾

「なぜ神が人間に二つの腕を与えたか……その理由を教えてやるよ」

「わかっていないようだな。お前は僕に触れる事すらできないんだぞ」

「本番はここからだ。今から、お前をブチのめす」


 雄太郎は思わず半歩ほど引き下がった、それはもうほとんど反射的なものだった。ごく普通の少年は嘲るような表情と声で言う。


「安いはったりだ」

「かもな。なら無視するか?」

「……無論、受けて立つさ」


 雄太郎は何も変わらない。戦場にあって変わらず普通にそこにいる。


 何もかもが普通、異常な世界にあってその少年だけは変わることなくそこにいる。

 それこそが最大の異常事態。


「……」

「……ッ!」


 雄太郎のこぶしが振るわれる。不可視、認識不能の一撃が、意識の外から振るわれて、それは……思いっきりからぶった。


 たった一度、攻撃を外しただけ。しかしそれは致命的なまでの隙だった。


「神が人間に二つの腕を与えた理由。それは両手でおっぱいをもむためだ……ッ!!」

「……!!!」



倍十輪廻転生連弾(ぱいじゅうりんねてんしょうれんだん)ッッッッ!」


 ズドッ!

 ガガガッガガガッガガガガガガガガガガガガァ! と、掘削機の稼働音を何十倍にも膨らませたような轟音が響き割った。


 二つの光がほとばしり、左右から雄太郎の体を連続で叩きのめす。

 空中で見えない力の渦に翻弄された雄太郎は口から真っ赤な体液を吐き出してそのまま落下した。


「ぐふっ……ッ。が……ァ……ッ!」

「超巨大なおっぱいに体を丸ごと挟まれてもみくちゃにされる気分はどうだ。女児女装男子の雄太郎……」


「ひゅ……。ぐ……ッ」


「暫くはまともに呼吸もできないはずだぜ。お前の体は重力の塊に連続で、それも左右から殴りつけられた。精力があるし死ぬことはないだろうがまともに動くこともできねぇだろうよ、暫くはな」


「こ……れが、巨乳の力か……。ぐっ。無念だ……届かなかった……」


「いいや。それは違う」


 雄太郎の完全な敗北宣言を真正面から否定したのはその敗北を押し付けた明良本人だった。


「は……?」


「ソレは違うだろうが。雄太郎……」


 明良は静かな声でそうつぶやくと雄太郎の顔の近くにしゃがみこんだ。そして額を軽く小突くと明良はその続きを語りだす。


「お前の異能性癖(リビドー)は強力だった。認識阻害……口にしてみればそれだけかもしれないが。本当に強かった。恐ろしい異能性癖だったよ」


「……。女児女装男子の魅力とは、違和感が消えていく事にあるんだ」


 そして雄太郎はぽつぽつと語り始める。喉の奥にわだかまった血液と共に言葉を吐き出す。


「女児女装がよく似合う……。その姿はどこからどう見ても小さな女の子そのもの。違和感なんて消えてなくなる。そして違和感を認識できるのは、スカートに足を通している己のみ」 


「ふつうそこにあるはずの違和感の消失。それがお前の異能性癖だったんだな。攻撃の前兆、お前の纏う雰囲気、それらすべてを普通としか形容できなかったのはそういうことだろ」


「ッ。ぅ……ごほっ。あぁ、その通りだ……。まぁ、結果はこうだがな……」


「あぁ、これが結果だ……。だがな、それと同時に過程でもある」

「……?」


 雄太郎は動かない体を震わせて視線だけでその先を促す。それを受け取って明良は笑って笑顔で答えた。



「俺たちの性癖に果てなんてものはねェだろ?」



「ふっ。かなわないな」


「女児女装男子。いい性癖じゃねぇかよ……。巨乳お姉ちゃんの手で幼い子供の格好をさせられるショタ君ってシチュエーションはあこがれるよな……。俺も可愛い格好させられたうえで、女の子同士なんだから気にすることないよねぇ。とか言われながらおっぱい押し付けられたいぜ……」


「……ふ。わかっている側の人間だな」


「語らおうぜ。今度は敵同時じゃねぇ。ただの異能性癖者として」


「……。夢物語だ。そもそもお前は死与太珍教団をつぶしに来たのだろう。相容れない」


「死与太珍教団はそれを率いる第六位は、確かに許せない。俺たちは、戦うしかない。でも、それだけじゃないはずだ」


「異能性癖者に限った話ではない。人は、戦い続けるしかない」


「かもな。それで? お前は俺の夢物語を与太話だって笑うのか?」


「……あぁ。そうだな」


「……」


「語ることができる日が来るのなら。ソレは笑えるほどに美しい世界だ」


 そうして雄太郎は四肢を投げ出したまま息を吐いた。

 明確な停戦。ソレは終わりの合図だった。


「お、おわった……の?」


 白馬心が木陰から遠慮がちに顔を出した。眠るように閉じかけていた雄太郎のまぶたが、震えながらも持ち上がる。


「白馬心……。残念……だったな“究極のショタ”はここにはいない」

「……」


 究極のショタという単語に眉根をひそめる明良だったが、それとは真逆に、心が吠えた。目を見開いて、つんざくような声を上げる。


「なによ! 何なのよその言い方! あの子はどこにいるの! 教えなさい!」


 雄太郎は叫ぶ心のほうに視線を移してから、息を吐き出すように語り始める。


「そうだな。ここからは……僕の寝言な訳だが。あの子……。白馬守は、第三教会に輸送された」

「て、手荒な真似してないでしょうね! あの子をッ! 弟を傷つけたら! 私はアンタたちを絶対に許さないッッ!」


 怒り。


 そこにあるのは、ほかの感情を一切排斥した交じりっ気のない純粋な怒りであった。悲痛とも言える心の声が明良の内側に反響する。


 その熱の矛先にあって、雄太郎は、ただ静かに笑う、自嘲気味に、まるで、それを当然だと受け止める罪人のように。


「傷はつけていない。あの子は、僕たちにとって大切な象徴だ……。丁重に扱うさ。と言っても君は納得いかないだろうが」


「ッ! 決まってるでしょ! 守は、あんた達の象徴なんかじゃない!」


 感情のままに叫び息を切らしたまま心は歩き始めた。もはや雄太郎には興味がない、とでも言わんばかりに二人の異能性癖者に背中を向けて。


「ッ! おい待てよ!」

「離してっ!」


 明良は、心の肩をつかんでその動きを制止する。目じりに涙は溜まっていたがそこには確かな決意があった。


「お前ひとりで行ったところで殺されて、それで終わりだ」

「……うるさい」


「そもそもテメェの弟とやらを助ける理由あるのかよ? 雄太郎の口ぶりからして、死与太珍教団に取って大切なのは弟の守だ。だったら死与太珍教団と戦うよりも弟を見捨てて逃げる方がいいだろ? お前の身の安全のためには」


「だからなに!? だから守を見捨てろって!? 冗談じゃない冗談じゃないわ! なんの罪もないあの子を見捨てるだなんて、冗談じゃないッ!」


「だから勝ち目のない奴らに一人で挑むのか? くだらない弟とやらをたすけるために? 愚かもここまでくると笑えるな」


 嘲笑交じりの声で、両手を広げた明良の頬を、電撃のような衝撃がうがった。

 まっすぐに、何のためらいもなく明良の頬に平手を打った心は、絶叫交じりに叫ぶ。


「くだらなくなんか、ないッ!」


 そして明良は心の腕をがっしりつかむと真正面から目を合わせた。



「ド貧乳のくせにいい覚悟だ。気にいった」


「っ……」


 心のほほを大粒の涙が伝う。


「一人で行くんじゃねぇ。大好きな弟を救うんだろ。だったら俺を頼れ」


「……ッ」


「行こうぜ、第三教会。安心しろよ。お前のことも、弟のことも、まとめて救って抱擁してやる」


「……。な、んで、なんでそこまで……」


「相手が誰であろうと真正面から来たなら抱擁する。それがおっぱいなんだよ」

「……バカみたい」


 笑顔でそう告げた明良は、付け足すように告げる。


「それに死与太珍教団とは俺も戦うつもりだ。敵はおんなじなんだよ」

「そう……でも、ありがとう」

「おう」


 要約感情を落ち着けた心は、一度穏やかな笑顔を作ると、明良の顔を両手で緩やかに包み込んだ。

 小さな手のひらから、かすかな温度が伝わってくる。明良はその温度が照れくさくて、そのまま視線をそらした。


「それから……」

「ん?」



「誰がッド貧乳よッ!」



 絶叫。つんざくような叫びと鈍い音が重なった。そうして明良の顔面に心の膝がめり込んだ。



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