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第4話 安い挑発

「ッ!」

「しッ!」


 光の球体が地面を壊して土埃が舞い上がる。圧倒的な破壊の異能性癖。しかし、そんな力も、当たらなければ何の意味もない。


「お前の異能性癖。随分と強大な破壊の力だ。見たところ巨乳を愛しているようだが。お前にとっての巨乳は随分と暴力的であるらしいなそれがお前の巨乳への解釈か?」

「ッ!」


 真下から突き上げるように衝撃がやってくる。ただのパンチしかし、そう吐き捨てることのできないほどに大きな衝撃が明良を襲う。


「これすなわち性癖の押し付け。下らぬ程度が知れるというものだ」

「それはちげぇな」

「ん?」

「乳ッ! トンッッッッッ!」


 乳トンが敵に命中することはない。地面がえぐれて崩れるのみ。

雄太郎は実に軽やかな音を立てて教会の屋根に着地する。


「何度やっても無駄なこと。お前は僕を認識する事すらできないのだからな」

「お前は二つ間違っている」


「ほう?」


 余裕そうな態度を崩さない雄太郎に向けて、明良もまた余裕ぶって口を開く。


「まず一つ目。俺の乳トンは確かに、重力を制御して相手にたたきつける異能性癖だ。その力は破壊に映るかもしれないが、そうじゃない。重力の操作も、それによる攻撃も、俺の万乳引力(ばんにゅういんりょく)の本質じゃねぇ」


「……」


「おっぱいとは世界だ。おっぱいが持つ引力。その一端が乳トンだ。氷山は巨大だが、見えているのはほんの一部分。お前はおっぱいの先端を少し舐めただけで巨乳を掌握したような気分になっているだけだ」


「言いたいことはなんとなく分かった、二つ目を聞こうじゃないか」


「性癖の押しつけ。そうじゃない。そうじゃねぇよ。異能性癖者同士の戦いとは、これすなわち性癖のぶつかり合い……。ぶつけて来いよ。押しつけだ何だと騒ぐ前に、お前も自分のフェチを、全力で」


「冗談じゃない。自分のフェチをさらせだと? 異能性癖者にとって性癖を開示することは能力をさらけ出すことに等しい」


「ビビってんのか?」

「安い挑発だ」

「だな。無視するか?」

「あえて乗ろう」


 雄太郎は指を立てるとまるで授業でもするような口調で語り始める。


「まず大前提として、ショタというのは単純な白と黒で測れるものではない。肉体年齢がどうだから、精神年齢がそうだから、故にショタだ。故にショタではない。そんな二層構造で測れるほど単純ではないのだよショタは……」


 普通の男は言葉の奥に無数の感情を渦巻かせながら、あくまでも冷静に続ける。


「女児女装とは、いい年の男を、小さな女の子に近づける行為だ。ただ、それが男である以上、完璧な女の子に至ることはない。その道中で、女児女装男子は至る。大人らしい格好がしたい、男に戻りたい、大人になりたい、男になりたい……。その精神性はまさしくショタ」


 雄太郎の体の奥で、光が揺れる。

 無数の感情が、精力となって溢れ出る。


「グゥッ! がッは!?」


 突如、平坦な声が真後ろに迫った。背骨をへし折るほどの衝撃が、明良の体をその場にたたきつける。


「女児女装男子……。彼らは間違いなく“ショタ”だ……」


 即答。精力によって折れた骨を直しつつ立ち上がった明良は、呼吸を荒くしながら雄太郎とにらみ合う。

 だから、雄太郎の眉が不愉快そうにゆがむのも、ハッキリと見て取れた。


「ショタであることから脱却したいと願う姿こそ、もっともショタらしい……。と、なるほどなぁそうすりゃ女児女装男子は間違いなく“ショタ”だろうよ」


「理解したか? もっとも、したところでどうしようもないだろうがな」

「……」

「実際、お前は僕に攻撃を当てるどころか認知することもできぬ」

「ッ!」


 その声は後ろから聞こえた、しかし咄嗟に振り払った腕が何かにあたることはない、代わりに、がら空きになったわき腹を熱い感覚が駆け抜けた。


 腹部にからナイフが抜けて、そこでようやく、刺された事実に気が付く。

 真っ赤な鮮血があふれだす。よろけながらも持ち直した明良は笑って見せた、堂々と。


「強がりはよせ。お前に勝ち目はない」

「だったらなんだ? だとしても、降参する理由はねェだろ」

「愚かだな。降伏すれば生きられるのに、なぜそうしない」


 一度、己の背後の崩れかけの壁に目をやった。物陰に潜むようにしてしゃがみこんでいる心と目が合った。


「互いに異能性癖者。ならもうわかるだろ?」


「ふん、簡単に思いは曲げられない、簡単に譲れない。難儀なものだ」


「譲れねぇもんがある。それぞれの想いがある。さぁいくぜ? 言っておくが、ここからが本番だ」


 直後、明良は両手に大きな光を生み出した。その光は、膨れ上がって、やがて混ざり合う。

 明良の異能性癖。万乳引力。

 おっぱいはただたたきつけるだけのものではない。


「ッ……」




「なぜ神が人間に二つの腕を与えたか……その理由を教えてやるよ」


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