Vol.9 決着
「オォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
重たい雄叫びが響く。腹の底から叫びながら久遠寺は敵に向かってかけていく。
一方。
ロンリーズ副リーダーの保坂は静かなものだった。
「思いのほかくだらないものですね」
ふわり……と、糸くずが舞い上がった。
「……ッ!」
「嘲笑現象」
凄まじい勢いで糸くずが荒れ狂う。まるで巨大な刃を乱雑に振り回したかのような超常現象が保坂を中心に巻き起こる。
両腕が吹っ飛んで一瞬だけ久遠寺の足を止めさせかけた。
坊主頭の大男。久遠寺久一。死与太珍教団三幹部のうちの一人。
久遠寺は、自分に絶対の自信を持っていた。
自分の強さを誰よりも信じていた。
ジェイルに来る前も、来た後も、自分にかなう者はいないとそう思っていた。
『ジェイル内最強のショタコンを自称してるのはあんたか?』
自分より、ショタを愛する奴がいた。
『この程度か?』
自分が認めた王よりも、遥かに強いやつがいた。
そして、自分たちを乗り越えていくやつがいた。
ショタ×ショタ。
純粋な男の子たちは、いずれ、友情が友情ではないことに気が付く。
変化していく。変わっていく感情こそショタ×ショタのすべて。
(俺も……ッ!)
「突進以外に脳はありませんか?」
(変わらねば、なるまい……ッ!)
「るウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオおおおおおお!」
「他愛もない」
直後。叫ぶ久遠寺の体が、ずたずたに引き裂かれた。大柄な体が倒れこむ。保坂の足元。あと一歩。あと一歩で。届かない。
「……やはりあなたのショーはくだらない」
保坂はそれだけを言い残して、歩き始めた。その時。
「ッ!!??」
ドプン! という、泥沼に足をからめとられたような感覚、足が、硬い床に飲まれている。
「……勝った。そう思っただろう」
「ッ!」
「よく見ていればそんな罠にかからなかったはずだ……油断、したなッ!」
久遠寺が吠える。床を泥のような性質に変化させて、保坂の動きをからめとっていく。
「ハハハ! なるほど、少々驚きましたが、依然として、こちらの優位は揺らぎません、僕の動きを封じ込めた、だからといってなんだというのです? 貴方が何をしようと、僕に傷をつけることなどできない」
「……ッそう。かもな……ッ」
攻撃の威力が弱ければ強く、弱ければ強く……。強い攻撃は能力で対処して、弱い攻撃には能力を発動しなければいい。
保坂の能力は強い。それを認めたうえで、久遠寺は宣言する。
「そんな不可能を可能にするからこその、最高のショータイムさ」
ショタとショタ、二人の気持ちは変わっていく。
ずっと、そうだと思っていた。
でも、それだけじゃない!
「交錯点の少年達……ッ! 解除ッ!」
「!?」
直後。床に半分ほどまで埋まりかけていた保坂の動きが止まった。
おう、ここに来てあえて能力を解除する。
こだわりにこだわったショタ×ショタを遠ざける。
「ま、まさか……ッ!」
「お前を押しつぶすそれは、攻撃じゃない!」
保坂の体を、泥から地面に戻ったものが押しつぶしていく。
「ッ!!!?? 異能性癖を、解除だとッ!?」
「……ショタ×ショタ。純愛だけが、すべてではあるまい」
ミシッ! ミシミシミシ……ッ!
という凄まじい音を立てて保坂の体が締め上げられていく。
「グッ! アァッァ!? おま……エェェェエエエエエエエエッ!!!」
ズドッッッッッという音と共に、保坂の攻撃が荒れ狂う。床を、壁を、天井を、そして久遠寺の体を引き裂いた。
「ッッッッッッッッッ!!!」
体中が真っ赤に染まる。
久遠寺は荒い呼吸を繰り返しながら叫び声を上げていく。
普通なら。普通ならば、立っていられないはずだった。それほどのダメージを受けてなおも久遠寺は倒れない。
この程度のことでは倒れない。
「ショタショタの力は、純愛だけじゃない。例え、それが恋じゃなかったとしても。変わらぬ愛はそこにある……ッッッッッッッッッ!」
久遠寺が叫ぶ、保坂が吠える。
「そんなものは詭弁だ! それはショタ×ショタじゃないだろう!!!」
「……そうかもな。俺もそう思っていたさ」
保坂の体を、床が締め上げていく。対して暴れる保坂の攻撃が久遠寺を引き裂いていく。
「性癖とは奥が深い。だから……こんなところでは止まらないッ!」
久遠寺は続ける。
「俺はお前たちの先に行くッッッッ!」
直後。凄まじい音が響き割った。
保坂はもはや、声すら上げなかった。
ボロボロの久遠寺はその場に倒れこんで軽く笑った。
「……ショータイムはこれにて幕引きだ……。すまない定彦……。後は頼んだぞ……」
それが、最後。
久遠寺はボロボロの部屋で静かに目を閉じた。
久一はその場に倒れこんだまま吐血と共に吐きだした。
『まさか、この世界に俺よりもショタが好きなやつがいるとはな……完敗だ殺せよ』
筋肉だるま久一は緑色の髪をした少年を見上げていた。
西条定彦。つい最近ジェイルにやってきたらしい少年だ。
少年は、困ったように肩をすくめると、穏やかに笑って告げた。
『殺さねェよ、ショタコンはみんな友達だ。だから。俺と一緒にこい』
『……。ふん。物好きめ……』