Vol.8 ロリコンVSショタコン
ウオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ! という重々しい声と。キイィヤァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!! という黄色い声援が、重なって響いた。初めに動いたのは凄まじいスピードで飛翔した西条定彦であった。
真っ赤な彗星が空気を切り裂き飛んでいく。
西条定彦、両手足の先端から最強の矛を解き放ち、獲物に飛びかかる肉食獣
鋭い光が、恐ろしいほどの密度の精力の先端が、鋭辺の首元をロックオン。
「……。許されざる者に、裁きを」
鋭辺が軽く飛ぶようなしぐさで真横によける、定彦の『最強の矛』が爆音とともにステージの床に突き刺さる。
真っ赤な光が変色する、守りを示す青い光。『無敵の盾』が定彦の体を包む。
それと同時に重なるような轟音が響いた。真っ白な光がどこからともなく降り注いで、定彦の体をぶち抜いた。
「定彦さんッ!!!」
アミアが叫んだ。真っ白な光の中で、定彦は何も言わずに立っている。
無敵の盾を発動させた西条定彦の前ではありとあらゆる攻撃が無意味。の、はずだった。
「ッ!!!!!!!!!!!! グァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?!?!?!?!?!」
体中を、ズタズタに引き裂かれるような激痛と共に、喉の奥から信じられないほどの絶叫が漏れ出た。
視界が真っ白に染まって、一瞬呼吸が止まる。その場に膝をついて西条定彦はわけもわからないままに無理に肺を動かす。
「禁断の領域に踏み込んだものに神の裁きを」
「ッ!」
ドガンッ! という爆音とともに宙を舞う。
西条定彦が真っ赤な光と共に、引っ張られるような動きで後ろに飛ぶ。
スポットライトの上に飛び乗った定彦は浅い呼吸を繰り返して、自分の体に触れていく。
「はぁ、はぁ……! はぁッ!」
確認が最優先だった。
手足、頭、体、大丈夫、全部ついている。
「余裕がなさそうだね。元第六位」
嘲るような声が降ってくる。赤毛の少女、男装の麗人とでも呼ぶべき鋭辺はにやりと笑うと肩をすくめた。
非常にわざとらしい。あざとい仕草だ。気に食わない。
スポットライトの上に乗った定彦は改めて体の様子を確かめた。
体には傷一つない、いいやそれどころか服にほころびの一つすらもない。
全くの無傷。
「少しビビったぜ……。この程度で優位に立てると思ってるお前の能天気さにな」
不安定な柱の上に立ち上がりながら定彦は軽く吐き捨てる。
(なんだ。あの異能性癖は……ッ。幻覚? いいや違うな、そのたぐいのものじゃない。体の内側、例えば魂や精力に直接的なダメージを与える系の能力か? わからない)
口ではそんな風に言いつつも、定彦の内心は冷静ではいられない。どんな形であれ、絶対防御の『無敵の盾』が貫かれたのだ……。対して。
鋭辺は余裕の態度を崩さない。
「死与太離詩ッ!」
凄まじい光線が解き放たれた。
無数の最強の矛を一つに束ねることによって威力と速度を向上させた定彦の必殺技の一つ。
ズドッッッッ! という轟音が遅れて響く。
山すら余裕で消し飛ばすことのできるほどの威力を持った破壊の槍が、鋭辺を貫く、はずだった。
「凄まじい威力だ、腐っても死与太珍教団の教祖様。おっと、元教祖様だったね」
「無傷……か、いいや、そもそも当たったという感覚がねェ。どういうからくりだクソロリコン」
「わざわざ教えるはずもないだろうがカスショタコン」
「じゃあ結構だ、自分で探るよ」
「それまでに、体がもてば……な」
鋭辺が定彦に向かって指を向けた。
指鉄砲とでもいうのだろうか、そんな形が、定彦をまっすぐに貫いた。
そ……。こ……。だ……。
ゆっくりと、そんな風に少女の口が動いたように見えた。
その直後。再び凄まじい激痛が定彦の体を貫いた。
巨大なミキサーで全身を切り刻まれるような感覚だった。
真っ白に吹き飛んだ意識がようやく戻ってきたのは床に落下してからだった。
ウオオオオオオオォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ! きゃああああああああああああああああああああああああああああ!!!
という轟音は、如何やらギャラリーが発した歓声らしい。
「クッソ……ッ。ゴミ……がァ……!」
「はいつくばっているゴミはそちらだろう?」
定彦は呼吸を整えながら立ち上がる。
体をズタズタにされたような激痛はいまだに消えない。敵の能力の詳細は不明……。
「現状はそうだと認めざるを得ないなァ。如何やら伊達に王様ごっこに興じてるわけじゃあねェらしい」
定彦はそう吐き捨てると真上に向かって能力を解き放った。
真っ赤な光が天に昇っていく。ズドッ! という音を立ててスポットライトが壊れた。
「?」
スポットライトが落ちてきてステージの周りにある観客席から悲鳴が上がる。
「今のは合図だ。切り替えていく。鋭辺 統。俺も本気になる。ブザマに、惨めに、泥をすすりながら勝ちを取りに行く」
「それが王の戦い方かい?」
「俺はもう王じゃねェ……」
「王でも何でもない人間が、今更どう戦うと?」
「……反逆者らしく。ド派手に、容赦なく」
西条定彦は宣言する。
第一位に敗北し、大きな挫折を味わった。だからこそ究極のショタを生み出して、第一位と再び戦う計画を立てた。全てはこの世界を新たな秩序で満たすため。
しかし、それも失敗に終わった。
突如現れた立花明良は全てを滅茶苦茶にしていった。
すべてを失った。
すべて壊された。
それでも西条定彦は前に進む。
「お前を殺す」
「望むところだ」
直後。轟音と共に定彦が飛んだ。