Vol.6 ロンリーズVS新生死与太珍教団
まるでトンネルのような地下道を、二つの影が駆け抜けていく。
大柄な影と、それに続く小柄な影。
久遠寺と定彦だ。二人(定彦抱えられたアミアを含めれば三人)は長い地下道を走っていた。
「そういえばアミア。お前も目的はスラムの支配なんだったなお前、そこに立って何したいわけ?」
ふとした疑問だった。それを受けてアミアは少し考えてから答える。
居なくなった同い年の友達がどうなったか気になる。というのはある。ただそれ以上に。
「大した理由なんてありませんよ……」
それに続けて。
「何となく、今の支配体制が気に食わないんです」
ロンリーズが気に食わない、結局、そんな理由だった。支配者を気取った連中をのして成りあがりたい。
そんな願望だった。
定彦はそれを聞くと……。
「いいね。俺好みだ……!」
直後。
地下道の先に何かが見えてくる。大きな壁、いいやあれは。
「シャッターか……。つまんねぇなこの程度なら……!」
「教祖殿が出るまでもないであろう」
久遠寺が懐から何かを取り出した。細かい石のようなものだ。それが凄まじい勢いで投げ出されて、シャッターの壁面に当たる。
直後。
真っ白な閃光と共に激しい爆発が巻き起こった。それなりの分厚さを持っていたシャッターが一撃で吹き飛ばされた。
その先に大きな空間が広がっている。
円形。定彦たちが飛び込んだ場所の反対側にも出入り口のようなものがある。天井はドーム状で外の建物二階分ほどの高さがある。
直径にして三十メートルはあるであろう部屋。
その中央に、何者かが立っている。
遠巻きに見てもわかる程の高身長だ。灰色の髪を短く切りそろえている。かなりのイケメン。
ショタのころはさぞかし美少年だったのだろう。
身にまとっているスーツもほかのメンバーのものとは明らかに違う。オーダーメイドであろうことがここからでもよくわかる。
ほっそりとした体によく似合っている。
細めのイケメンは深く息を吐くと軽く首を振った。
「報告を聞いたときはまさかと思いましたが、まさか本当に乗り込んで来るとは」
「ロンリーズの幹部か……」
「……凄まじい精力だ、相当のやり手だぜ。どうする久遠寺」
「ここは俺が引き受けよう」
「おやおや。おかしなことを言いますね。まさかゲームの敵キャラのように一人一人を相手にするとでも?」
そう言って男は、ゆっくりと手を持ち上げた。人差し指を親指で押さえ込んでグッと力をためていく。
デコピン、だなんて称される構えだ。
大した威力が出るはずもな
「ッ!」
「くっ!」
バンッ! という轟音と共に空気の弾丸が飛来する。足の裏から最強の矛を噴出して宙を舞った定彦は、そのままジェットのような挙動とスピードで男の横を通り抜けていく。
「させ……!」
定彦の動きを阻止するために、男が腕を掲げる。
男が最強の矛発動中の定彦に向かって、未知なる異能性癖を行使する。
その直前だった。
男の腕が、見えない何かにはじかれる。
「ッ!」
「……。交錯点の少年達」
久遠寺の異能性癖が発動する。
男の異能性癖に吹っ飛ばされて、もろに壁に突き刺さっていた久遠寺が定彦を行かせるために能力を行使する。
「ほう」
ロンリーズ幹部の男は思わず息を吐いた。凄まじい連携だった。
気がつけばもう既に定彦は、はるか遠くだ。
何よりも恐ろしいことに、ここまで定彦は、一度も久遠寺を見る事すらしなかった。
久遠寺が回避できず攻撃をもろに受けたことも、定彦を先に進ませる為に交錯点の少年達を発動したことも知らない。
知らないけど、信じていた。
作戦会議とも呼べない程の短いやり取りの中で、この選択を行った。
「……。さすがは神殺しとその仲間。かつて女神とそれが率いる集団を壊滅させただけのことはある」
「そういう貴様はたいしたことがないな。所詮はクソ山の大将とその取り巻きといったところか」
「なるほど、如何やら教養はないようですね」
「必要ない故な」
「本当にそうかどうかはこれからたっぷり教えて差し上げますよ」
円形の部屋の中央にて。大柄な男たちがにらみ合う。
「ロンリーズ・サブリーダー。メスガキの保坂 努」
「死与太珍教団、三幹部。ショタ×ショタの久遠寺……」
二人の体からそれぞれ精力が噴出する。
凄まじい光と音の中心、両者は同時に叫ぶ。
「「異能性癖ッ!!!」」
それはまるで合図だった。
凄まじいスピードで西条定彦は駆け抜けていく。
腕の中にアミアを抱えたまま流れ星のようなスピードで長い廊下を走る、と言うよりも泳いでいく。
「ッ! 定彦さん! 壁ですよ!」
「壁……?」
すぐ目の前に迫ったそれは、正確に言うと両開きのドアだった。がっちりと閉じられたドアの素材は何だろう。
多分重機で突っ込んでも壊れないであろう程重厚な素材であろうことはパット見ただけで見て取れる。
しかし。
「最強の矛ッ!」
そんなものは定彦の前には関係ない。あっさりとドアを吹き飛ばして大きな部屋に飛び込んだ。
先ほどとは打って変わって長方形の部屋だった。
暗い。どこを見ても闇が広がっていて、広いということくらいしかわからない。
「降りろアミア」
「……」
アミアを若干乱暴におろしてから定彦は闇の中を進んでいく。
「オイ! 出てこいクソ野郎! この西条定彦が殴り込みに来てやったぜ!!!」
バンッ! という発泡のような音がした。
世界が、真っ白に染まる。
「ッ」
「愚か者の登場、皆の者、拍手で出迎えたまえよ」
声が聞こえてきた。アニメ声。と言えるくらいの高い声だった。その声の直後、割れるような音が響く。万来喝采の拍手。
それを浴びて漸く気が付いた。如何やら自分は今ステージのような場所にいるらしい。
少しへこんだ位置にある客席にはスラムの住民と思われる人々とロンリーズのメンバーらしき人。周囲を囲むように高い位置にも客席があった。そこに座っているのは全員幼女だった。
ファッションショーなんて言葉を連想した定彦はアミアを後ろにかばうように進むと叫んだ。
「まるでショータイムだなァ!」
「本当であれば新しいロリを迎えるためのショーが執り行われるはずだったんだがね」
「アミアを迎えられなくて残念だったな。コイツは死与太珍教団の新メンバーだ」
「くだらないね」
光の向こうに女がいる。
ステージの上にはスポットライトがあって、その中に少女がいた。
「下がってなアミア」
「足手まといの新メンバー。いいや、ショタコンの君じゃあ正しくアミアの力を引き出せないというわけか」
「コイツは戦闘要員じゃないからな。まぁさらに言うならお前程度俺一人で十分ってなァ!」
真っ赤な光がスポットライトに向かって飛んでいく。
バリン! という音を立ててスポットライトが砕け散る。しかし部屋が完全な真っ暗闇に堕ちることはなかった。
サブの明かりがあるのか、それが広い部屋を照らしている。
「ふぅん。思い上がりだね。馬鹿は死ななきゃ治らないか。ロリをこちらに渡すつもりもなさそうだし、もう殺すか……。うん」
スーツ姿の少女。
燃えるような真っ赤な髪をしていてそれを後ろで一つに細く、長く束ねている。
瞳の色も燃え盛るような赤色。身長はかなり高い百八十程だろうか。白いスーツに身を包んだ少女は両手を広げて息を吐く。
「メイドの土産に僕の名前を憶えておけ。僕はロリコン。鋭辺 統。スラム街の王だ」
「俺は西条定彦、この世界をおねショタで染め上げるものの名前を憶えておきな犯罪者」
「肝に銘じておくよ犯罪者」
ロリコンとショタコン。
ロンリーズと死与太珍教団。
そのトップ同士がにらみ合う。
アミアが息をのんで後ろに下がった。
その直後。
「「異能性癖ッ!!」」
二つの声がギャラリーの熱狂にかき消された。