Vol.4 行くぜ死与太珍教団!
「ぐっ……はぁっ!」
スーツ姿の男たち、ロンリーズのメンバーがまるで山のように積みあがっていた。もう何人目かもわからない山に、新たに一が付け加えられる。
「雑魚ばかりだな」
「うちのチームもお前ら(かんぶ)以外は似たようなもんだけどな」
ロンリーズは弱くない。
スラムというジェイルの中でも特に荒れた環境を支配する軍団だ。大抵の異能性癖者であれば殲滅、拘束できるだろう。
しかし……。
「それ、王が言うか?」
「あん? まぁ事実だろうが」
定彦は、久遠寺は、ジェイルを支配していた死与太珍教団の最上位。
国すら敵ではない彼らにとってはロンリーズなどという組織の末端メンバーはハードルにすら なりえない。
「なんていうか本当に強いんですねぇ……」
「当然だろ。王だからな」
「元だけどな」
水を差すなよな……と、ブツブツ呟く定彦は久遠寺から借りたコートを羽織ったまま周囲を見渡す。
「どうした」
「あぁ、元々服を買いに来たんだよここには……と、ちょうどいいのがあるじゃねぇか」
定彦は避難後の人がいなくなった後の適当な店に踏み込むと中にあった服を身にまとう。
ライムグリーンのシャツ。襟にはフリルがあしらわれていて首元には大きなリボン。方は丸出しで同じ系統の色をしたスカートは短め。
所謂地雷系というファッションに身を包んだ定彦は借りていたコートを投げ返すとその場で回って見せた。
「どうよ」
「髪が変ですね」
「髪型どうにかしろよ」
「つってもなぁ。俺一人じゃ髪セットできねぇんだよ」
「教祖殿がこれか。嘆かわしいな……」
「この年齢の人間が自分の髪の面倒もみられないってどうなんでしょう?」
「定彦はこう見えて不器用かつずぼらなうえに人に甘えすぎるきらいがあるんだ。我が王ながら情けない……」
「うるせぇな。仕方ないだろ。今までは誰かがやってくれてたんだからよ」
「それ、恥ずべきことだと思いますが……」
店の中はもぬけの殻だった。それをいいことに、定彦は店の中をあさっていく。
赤いリボンを手に取って、それを使ってツインテールを作ろうと試みる。
「見てられませんねぇ」
「嘆かわしい……」
「んー! むずすぎるだろなんだよこれ……!」
「はぁ、そこの椅子に座ってちょっとじっとしててください……」
見かねたとでもいうような口調でその辺の椅子を指さしたアミアは定彦の手の中から二つのリボンを取り上げた。
「何だよ」
「いいから早く」
渋々ながら促されるままに椅子に腰かける、そこから先は早かった。パパっという擬音が聞こえてきそうなほど素早い動作で頭に二つの尻尾を作っていく。
髪の毛の束をウサギの耳を連想させるような形のリボンで結んでからアミアは軽く息を吐いた。
「今更ですけどツインテールで良かったんですよね」
「おぉ……」
辛うじて生き残っていた姿見に自分を映しこんだ定彦は思わず息を吐きだした。
「おお……。おお……」
「な、何とか言ってくださいよ。気に食わなかったですか?」
「んや、逆だ……。悪くねぇってのはちがうか。いいねぇ! すごくいいッ! 最高だ!」
思わず立ち上がった定彦はその場でくるりと回ってみせると鏡に映りこんだ自分と見つめ合った。
白い肩は丸見えでリボンの淵には軽くレースがあしらわれている。
スカートは短めでそれも定彦の好みによく合っていた。
「き、きにいってもらえたようで何よりです……」
「お前の、いい腕前だ、死与太珍教団に入らないか?」
「それは嫌です」
「考えておいてくれ」
すっかりテンションはマックスだ。
「ご機嫌に戻ったところで尋ねたいのだが、これからどうする?」
「ロンリーズをぶっ潰す」
「その為にはロンリーズの拠点に乗り込まなくてはならないわけだが? 向こうの拠点もわからぬ状態でいかにする?」
「そうだなぁ。よしアミア、なんとかしろ」
「ボクですか? ン~……えっとぉ……。久遠寺さん、何とかしていただけませんか?」
「そうだな。おい定彦、ない頭をもっとひねってどうにかしろ」
「アミアァ……」
「もう……ン~まぁでもそうですねぇ。ン。しいて言うなら、一つだけ方法がないこともないんですが……」
「何だよ、あるんじゃないか方法ってのが」
「ならそれを試そう。可能性のどうこうはこの際後回しにしてもいいであろう」
「……」
アミアは深くため息をつくと少し迷ってから、やがてゆっくり口を開いた。
「ボクの提示する作戦。それはズバリ囮作戦です!」
「囮……」
「作戦!」
「定彦さんって結構髪の毛サラサラですよねぇ」
「あぁ、自慢の髪質だ」
「キョウコの手入れの賜物だな」
「そこまで人任せ!?」