第28話 果て無き性癖の果てに
紫色の光が渦を巻く。
ソレはまっすぐに伸びて、分厚い雲に突き刺さった。
「ハッ! ハハハハ……! ショーーッタッタッタッタッタァ!」
「……イカレてんのか、お前」
紫色の光、その向こう側で、緑髪の少年が両手をあげて笑っている。トレードマークだったであろうツインテールはほどけていた。上半身は裸同然。スカートだけは腰にかろうじて巻き付いている。
誰の目にしてみてもボロボロ。それでも、定彦は笑っている。
この状況がうれしくて仕方がないとでも言いたげな表情だ。
頬は若干赤らんでいて当然ながら髪は乱れている。色気すら感じる出で立ち。
定彦は興奮気味に叫ぶ。
「俺は、今までの俺とは違う!」
「みたいだな。でもそれが何だって言うんだ」
「矛と盾は完成した。死の淵に追いやられて、魂を極限まで削られて、踏み込んだそ、異能性癖の極地! このまま行けば、究極のショタだけじゃねぇ。究極のお姉ちゃんを完成させて、究極のおねショタをおっぱじめることも与太じゃねェ!」
定彦は、高らかに、まるで歌うように続ける。
「満たせるんだ! この腐りきったクソみたいな世界を、優しい秩序で満たしきってやる!」
「その為に……」
「アァ?」
「その為に心を殺すってか? 自分の理想のお姉ちゃんとショタの、おねショタを作るために、既にそこにいるお姉ちゃんを殺すって? お前の言う優しい秩序の為に? ふざけんなよ西条定彦。テメェ神にでもなったつもりか?」
「神。それもいいなァ!! 有象無象の神気取りのカスどもをブッ殺して俺が世界のてっぺんに君臨するんだァ!」
「ほざいてんじゃねぇぞ定彦。お前の秩序とやらはくだらない。俺が全否定してやる」
「馬鹿が何がそんなに気に食わない。くだらない、しょうもねェのはオマエだろ。さっきからピーピーピーピーわめいてるだけだろうがお前って。そもそもお前、何の為に俺のところにきた? あのド貧乳のためか? だとしたらめちゃくちゃだなぁおい。テメェ巨乳好きなんじゃあねぇのかよ?」
「西条定彦……。テメェは」
静かに立花明良は告げる。その先を。
「——、————。」
それを聞いた瞬間、定彦の表情が見る見るうちに歪んで行く。驚愕、信じられないような物を見るような顔はいっその事理解できないものを恐れているようにすら見えた。
「……。……ッ! まさかテメェ! たったそれだけのために!? たったそれだけのことで!?」
「そう思う時点で、テメェはもう小さいんだよ。西条定彦。次がラストだ。俺はお前に教えてやる。お前の秩序なんかなくても、世界は十分あったかくって柔らかい」
「見解の相違だな立花明良。残念だよ。巨乳好きのお前とならもしかしたらおねショタについて語らえたのかもしれないのにな」
「……」
「俺の理想の果てを遮るな」
「もう言葉はいらない。行くぜ西条定彦」
それから、二人はにらみ合って。同時に精力を噴出した。
片方は赤と青を織り交ぜた紫。お姉ちゃん(あか)とショタ(あお)が重なって、混ざり合って、新たな色を作り出していた。
もう片方は美しい純白。
何よりも純粋な白は、同時に、全てを受け入れてくれる色でもある。
純白の光は直前よりも輝きを増していた。
定彦が、死の淵に立って駆け巡る走馬燈のような情景の中でおねショタとは何たるかに気がついて、覚醒に至ったように、明良もまた、ここに来て新たなる答え得ていた。
「「異能性癖」」
声は小さかった。
それとは真逆に大きな音がする。
ドクンッッッッッッッッッ!!!!
心臓が脈打つ音を何倍にも大きくしたような、そんな音だった。
竜巻のように暴れ狂う光は紫と白。それぞれその中央に立っているのは二人の怪物。
立花明良と西条定彦。巨乳に愛を注ぐものと、おねショタを心の底から愛する者。
それぞれの性癖を高らかに掲げて、二人は同時に踏み込んだ。
「死与太珍狂弾ッ!」
定彦の体が光に包み込まれていく。
その姿はまるで弾丸。禍々しい紫の光が攻速で駆け抜ける。余りにも大きな力がすべてを破壊しながら進んでいく。
対して明良はその場から動かずに身構えた。
真っ白な光が世界を、敵対者である定彦ですら包み込んで広がっていく。
「乳秩序ッッッッッッッッッ!!」
「ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
「ガァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
直後、真っ白な光が雲を突き破って、太陽系の全てすらも包み込む。
おねショタと巨乳。
お姉ちゃんも、ショタも、世界も、その外側も、巨乳はすべてを受け入れる。全てを抱擁するのが巨乳だから。
紫色の光が吹っ飛ばされる。
「テメェの……おねショタ! シチュエーション自体は好きだったぜ! だから! 次ぎあうときは思いっきり語ろうぜ!」
「ッッッッッッッッッ!!」
叫びは、さらなる轟音にかき消された。
小さな影が空を舞う、定彦の体が分厚い雲を貫いた。
「性癖に、果てなんてないんだからなァァァァァァアアアアアア!」
波紋のように分厚い雲が消えていく。その向こう側に、青空が見えた。その向こう側には、虹がかかっている。
夜が明けた。
それをもたらした少年は腕をまっすぐに掲げた。
美しい朝日が、廃墟と化した第一協会を照らす。
死すら与太と笑った教団は、今ここに壊滅した。