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第21話 リスタート


「ッ! ガハッ!!!」


 体が電流を流されたように震えた。


 意識が戻った。少し遅れてからそれを認識して飛び起きる。崩壊したビルの、辛うじて残ったロビーで明良は眠っていた。


 ソファの上で上半身を起こしたまま周囲を確認する。今は何時だ。どのくらい寝ていた? それを確認できるようなものが周りにはない。


「起きたか……」

「月夜?」


 声のした方に目をやれば、階段があった場所に積みあがった瓦礫の上に、月夜が座っている。


「俺は、どのくらい寝てた?」


「五時間ほど。ぐっすりとな」

「五時間。今は、大体午前一時ってところか。チッ。寝すぎたな……」


 しかし、そのおかげで逆に精力を十分に回復できた。ならば——


「戦いに行くつもりか?」


 歩き始めた明良の背中に冷たい声が降ってくる。


「あぁ、奴をブチのめす」


「……西条定彦は、白馬守の力でその力をさらに強化した。情けない話だが、オレもズタボロにされたばかりだ……。奴の力は、もはやインチキの領域だ。かなうとは思えないな。いくらお前であってもな。……究極のショタは完成した。もう勝ち目はない」


「いいや、まだだ」


「何?」


「まだ究極のショタは完成していない。まだ終わってない、まだ、チャンスはある」


「何処に? お前もアイツと戦ったんだろうが。だったらわかるはずだ。奴の圧倒的な異能性癖を。あれを究極のショタの感性の影響のほかには有り得ないはずだ」


「確かにな。あの強さだ“完成しつつ”あるんだろう。けどな、まだ白馬守は完成してない。まだ何も終わってないんだよ。まだ、戦える」


「……。無茶だな。確かに、お前と戦った時はまだ“完成”していなかったのかもしれない。だがそれでも奴は強力だ。それに、今もまだ未完成だという保証はどこにある?」


 真正面から月夜の問いを受けて、明良もまた真正面から応じた。


「そもそも、究極のショタってのは何だ? 白馬守本人がそうなら守が存在している時点で奴の異能性癖は強化されてなきゃおかしい。それに加えて言うと完成させるって表現も適切じゃねぇ。見つけた、が正解のはずだ」


「……、白馬守にもうひと押し、何かの“属性”が必要だと?」


「不幸属性だ」

 明良は口を挟むようにそう言った。月夜は一瞬、眉を顰めるとマントの下で腕を組んで尋ねる。

「その根拠は?」


「奴らが聖書として流布しているアンソロジーコミック”ショタの宴”だ。内容に差はあるが、そのほとんどが“不幸なショタ”がメインとなる内容だった。家族を事故で失った男の子や、没落貴族の奴隷少年、メンヘラお兄さんに監禁されて調教を受けるショタ。全員が“可哀想なショタ”だ。奴らが求める究極のショタってのはつまり、白馬守が可哀想属性を持った状態……」


 明良は真剣な表情で静かに、ゆっくりと続ける。


「俺たちが守を連れ去るのを許容したのも可哀想なショタを目指すためだろうさ。幸せからの転落それが“可哀想はかわいい”に置いてもっとも重要な要素だからな」


「転落……。そうか、奴らは守がお前になつくのを待っていたんだな……。楽しみにしていた約束を果たせない、それは確かに曇らせ、かわいそうには必要な要素だ。しかし、それがどうしてまだ完成していない根拠になる? むしろ守はこの状況で十分すぎるほどかわいそうだ。意味不明な女装男によくわからんまま連れ去られたんだぞ? むしろ逆だろ。これは、究極のショタが完成したことの根拠だ」


「違う」


 きっぱりと、明良はそう口にする。


「この時間、守はまだ眠っている。守はすごく寝つきがいいんだ」


「あれほどの騒ぎだ……。流石の守でも目を覚ますと思うが?」


「起きない。子供のころ真夜中に目を覚ましたことなんて一度や二度あるかないかだろ?」


「朝遊び疲れたら夜まで熟睡。なるほど、そこを含めて究極のショタというわけか」

「そういうことだ、そして、不幸を認識して曇らなきゃ、ソレは不幸なショタの完成とは言わないはずだろ。それに、完成していない根拠ならまだある」


「なに?」


「なぜ西条定彦は白馬心を連れ去った?」


「ソレは奴の性癖が“おねショタ”だからじゃないのか? 死与太珍教団全体としては白馬守一人十分でも、西条定彦が最強になるためには“究極のお姉ちゃん”も必要だった。奴はおねショタを求めていた」


「奴がおねショタを求めてたっていうのは俺も同意見だが“究極のお姉ちゃん”ってのは多分心じゃない。奴がおねショタに求めているのはお姉ちゃんじゃなくて義姉ちゃん(おねえちゃん)だ」


「……。それだと白馬心を連れ去った理由が結局わからないじゃないか。義理のお姉ちゃんを求めてるなら本当の姉は不要……で……ッ」


 そこまで口にしてから、ようやく一つの可能性にたどり着いた月夜は目を見開いて、口元を手で押さえた。


「西条定彦は、白馬心を殺すつもりだ。そしてそれは恐らく……」


「守本人の目の前で行われる。そうだな?」


「間違いないはずだ。楽しみにしていた朝、幸せになるはずの一日の初めに姉が目の前で殺される。それ以上の不幸はないだろうからな」


 明良は続ける。


「タイムリミットは夜明けまで。あと四時間から五時間ってところだ。それまでに決着をつけてくる」

「まだ付け入るスキがあるのはわかった。でもだから何だ? 奴の力が限りなく完成に近いことは事実だ。奴の異能性癖。オレも生で見たのは始めてだがあの力は無敵だ、付け入るスキはない」


 非難するような口調だった。


 或いは、明良のことをあえて試すようなそんな言葉遣い。


 明良は、それを受けて、一切ひるむことなく答える。


「そんなはずはねぇ」


 否定の声は、意識をそらせば聞こえなくなりそうなほどに小さく、しかし、否応なく注目してしまうほどの迫力があった。


 明良は月夜を指さして告げる。


「奴は一度第一位に負けている。無敵なんかじゃない。あるんだ。矛と盾には決定的な欠点が」


 明良はついさきほどの戦闘を頭の中で鮮明に思い出していた。


「その欠点を、克服するための究極のショタなのかもしれんわけだが」


「だったら尚更だ。それが、完成していない以上はその弱点は克服できていないと考えるのが妥当だ」


 そして、改めて、当然の結論を口にする。


 最初から何も変わってはいないのだろう。最初から結論は決まっている。



「西条定彦を打ち倒す、そして、アイツをブチのめすなら本当に今が最後のチャンス。アイツと戦うなら今しかない」


 明良は月夜から外に目線を移した。雨は降り続けていてその激しさをさらに増していく。祭りは無事に開かれるだろうか。などと考えながら明良は歩き始めた。


「……まて」


「今度は何だ、いい加減にしないとお前からぶっとばすぞ」


 今度は振り向くこともしない、けれども月夜は後ろから続ける。


「西条定彦のことはわかった。けど、幹部の女はどうする?」


「……」


「死与太珍教団には巨乳の女幹部がいたはずだ。もう会ったか? あったのなら手も足も出なかったろう」


 声には答えることができない。


 事実、明良はキョウコと対峙してまともに戦うことなどできなかった。向かい合っただけで体が鉄のように固くなり、まともに動くこともかなわなくなった。


 もう一度戦った所で同じことを繰り返すだけだろう。明良にとっては西条定彦よりも警戒すべき敵だった。


「対策はないんだな」

「相手にしない」


「もしも戦った時に、対策はないと?」


「うるせぇ! 無くてもやるしかないだろうが。さっきから何が言いてぇんだお前はよォ」


 耐えられなかった。はじかれるように振り向いた明良は、そこで驚愕した。


 月夜の瞳がまるで、青い炎のように燃えている。


「ならばキョウコはオレが何とかする」


 静かな闘士は、ほとんど半透明、でも、確かに燃えている。明確な熱を持って。


「……守の影響で強化を受けているのは西条定彦だけじゃない。死与太珍教団全員がその強化の影響にあるだろう。キョウコだって例外じゃないはずだ。王クラスの力を持っていると考えるのが妥当だろう。現にほかの幹部連中は相当強かった」


「構わんさ、相手にとって不足はない。第六位の幹部がなんだ。オレは、このジェイルの第四位だぞ? その称号が不安なら“お前のライバル”でも構わない、少しは信じてほしいものだな」


「……いいんだな?」


 短い質問だった。月夜は答えを口にしない。ただ、明良の真横に並び立つ。


 それが、答えだった。


 そしてもう一つ、月夜は何かを明良に差し出した。黒を基調とした服は『特攻服』。ソレはかつての明良のものだった。


「お前……」


「第六位に挑むんだ。その服はピッタリだと思うが?」


「フッ。違いねぇ」


 傷だらけの巨乳愛シャツの上から、黒の特攻服を身にまとう。


「さて……と」




「じゃあ、行くぜ? リスタートだ」


 マントと特攻服を翻し、二人は同時に飛び出した。


 黒い影が、深夜のジェイルを駆け抜ける。目指すは、死与太珍教団第一教会だ。



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