第20話 王の力
光がはじけて、衝撃が広がる。
肉がはじけて骨が折れる。人が壊れる音を明良は聞いた。
そして、その轟音は……
自分の内側から漏れ出た音だった。その事実を少し遅れてから認識した。
首から下が消し飛んでしまったような錯覚。
明良は瓦礫の中におぼれながら血の塊を吐きだした瞬間、燃えるような激痛が遅れてやって来た。
「ぐぅうううううううッッ!!!??? がッッッ!!!!!!」
自分の悲鳴が遠くに聞こえる、あまりに現実感がない、あまりにも実感がない。遠くにあるものゆっくり視認するように、明良はたった一つの事実を緩やかに理解した。
あぁ、自分は負けたのだ……と。
「これが、王の異能性癖だ……」
白一色の世界に徐々に輪郭が戻っていく。瓦礫の中に自分がいる。目の前に見える大穴を開けた建物は先程まで自分がいたビルだろう。
輪郭だけの世界にかすかに揺れる人影。赤い光を腕に宿して笑う男。西条定彦だ……。
「ハァッ……。ハァッ……ッ!」
浅い呼吸だけを繰り返して体を起こそうと試みる。しかしその体がまともに動くことはない。自分の腕が妙に重い。
「おいおい、そんな目するなよなァ。悪いことしてるみたいだろ? なァ?」
「ッ……。ッ」
「内蔵はぐちゃぐちゃ、体中の骨がひしゃげてる。暫くはまともに立つことも、しゃべることもままなんねぇよ」
西条定彦は口を三日月のようにゆがめて両手を広げた。
そして、改めて宣言する。
「これが俺の異能性癖だ、そしてそこに」
(いくら何でも、威力が並外れてる……。まさか、これが……ッ!)
「究極のショタの力」
まるで明良の胸中を読んだかのように、西条定彦はそう言った。
「究極のショタの存在は、俺たちショタコンの異能性癖を強化する。理解が深まれば力が高まる。当然だよなァ?」
でもなぁ……と、定彦はツインテールの片側をもてあそんで、視線を曇った空に移す、そしてため息のように続ける。
「が、まだ足りない……。俺が最強になるためには、あと一歩が届かない。あぁ、そうだ、あと一歩だッ!」
その一歩を進むために西条定彦はここに来た。そして白馬守を連れ去ろうとしている。
「そんなことさせないッ!」
「ァ?」
直後、定彦の頭部に何かがぶつかった。ピンポン玉ほどの瓦礫の破片。それは心が投げたものだった。
「アンタが守に何をしようとしてるかはわからないし、知らない。けど。私の弟に手出しはさせないッ!」
「酷い言いようだな。そりゃあ難癖ってもんだぜ。そもそも、守は……」
「グゥ! うらァッ!!!」
無理やり突き動かした体が道路を崩壊させる。体中が悲鳴を上げて苦痛が口の端から漏れる。大量の血にまみれ、フラフラになりながらも明良は定彦に飛びかかる。
「なるほど、精力を足に集中させて傷を素早く直したか。渾身の一撃だったみたいだが止まって見えたぜ。ショタのグルグルパンチと一緒でなァ」
余裕の回避、ただその余波で髪とスカートが揺れている。
降りしきる雨の中、定彦は両腕を広げる。
一方、明良の体はもう限界だった。その場に膝をついて呻き声をあげる。
「ブッッッ殺してやる……ッ!」
「そこまで俺が憎いってのか? 人に恨まれるような覚えはないが、まぁいい……それくらいじゃなきゃ面白くない」
「おい……。待ちあがれ、どこ行こうってんだ……ッ!」
定彦は明良の横を見せつけるように通り抜けると、白馬心のもとに進んだ。
「俺をそこまで殺したいなら。来いよ。死与太珍教団の第一教会に」
「ッ! 離してッ! 離せッ! この……ッ!」
心の声がむなしく響く。
「心!」
「白馬心と、白馬守を救いたければ、俺のもとに来い。お前を待ってるぜ。なァ?」
「ッ」
一瞬、心と目が合った、しかし、それだけだ。これ以上体が動くことも、能力を解き放つこともない。
いいや、まだ、だ。まだ終わってなどいない。
絶対に助けに行く。それを伝えるのにも、今は視線だけで十分だ。
体中の精力はほとんど使い切った。限界だ。
否応なく、意識は虚空に沈んでいく。
完全敗北。最後に、そんな言葉がちらついた。それを最後に、明良はその場に倒れこんだ。