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第14話 正体



 真っ白な世界、目に突き刺さる光、明かりが、ついた。暗闇が消え去り世界が輪郭を伴っていく。


 謎の襲撃者が攻撃を振り下ろす直前の出来事だった。


 そして、明良は襲撃者の正体を捉えた。床に大の字になって身を投げ出す明良の腹に足を乗せ、今まさに腕を振り下ろそうとする者の正体。


 短い髪、その色は深い青。整った顔立ちの襲撃者は、男にも女にも見えた。身長はそれなりに高く見えるが体型は分からない。


 その全身をマントで覆っていたからだ。


 美少年にも美少女にも見えるその人物は空色の瞳を見開いた。


 しばし、無言の時間が流れる……。


「お前……。月夜(つくよ)か……?」


 そして、、ようやく、ようやく言葉を絞り出した明良は全身に力を込めて体を起こそうとした。

 しかし襲撃者は依然としてその足をどけて拘束を緩めるようなことはない。しかし、空色の瞳には困惑が宿る。


「明良……。か? お前、立花明良か?」


 困惑はやがて驚愕へ、月夜と、そう呼ばれた少女は確かめるようにそう言うと緩やかに明良の腹から足をどけた。


「月夜! やっぱり月夜じゃねぇか! なんだお前だったのかよ。マジでビビったぜ……」


 死与太珍教団の刺客だと思っていた人物の正体は明良にとってはよく知る人物だった。


「……戻ってきていたのか」


 月夜は暫く視線を巡らせると困ったような笑顔を作ってそういった。


「まぁ、ちょっと用事があってな……」


「今までどこにいた?」


「ジェイルの隅の方……スローライフ的な感じで穏やかに過ごしてた」


「そうか……」



 月夜は先ほどまでとは打って変わって落ち着いた声でそう言うと明良の肩に手を置いて、そして……。


「今更何しに戻って来た! このクソ自己中の童貞オットセイがッッッッ!!!」


 直後、目にもとまらぬ早業で月夜が明良の頬をぶん殴った。まるで頬に隕石が激突したような衝撃、いとも簡単に吹っ飛んだ明良はそのまま床を転がる。


「ぃ……。ぐぅ……」


「このビルの管理任せたぜ。あとよろしく。この言葉に聞き覚えがないとは言わせまい」


「ちょっと覚えてないな……」


「お前が究極の巨乳を探すなどとのたまってオレたちの前から消えた日にお前が残した言葉だ」


「……」


 床に転がったまま頬をさする。明良に対して長い脚が振り下ろされた。軽い脳震盪と共に大きく体を揺らした。その時。

「明良!」


 バタンと音が鳴ってドアが乱暴に開かれる。


「そのゴミ男から離れなさいッ! このッ!」


 よく見れば、心の手には消火器が握られてる。廊下から引っ張ってきたのだろう。


「まっ!」


 直後、薄桃色の粉末が勢いよく放出された。


 月夜は一緒にして飛びのいて、それらは全て明良の体を塗りつぶすだけに終わった。


「あ、間違えちゃった……」


「間違えすぎだお前……」


「……白馬心。か。なるほどな、少しづつではあるが見えてきたぞ……」


 一人で納得を始めたらしい月夜の気配にもう既に戦意はない。


「えっと、あれ? なにこの雰囲気?」


 そこで心は遅れてこの奇妙な雰囲気に気が付いたらしい。困惑気味に月夜を見てから明良と目を合わせる。


「取り敢えず、コイツは敵じゃない」

「いいや、コイツは女の敵だ」

「それは本当にそう」


 月夜が素早く割り込んできて、心がそれに同意する。粉まみれの明良はただ一人取り残されて深い息を吐きだすしかなかった。





「そんな訳で……コイツは月夜。何というか、腐れ縁?」


 キッチンの近くに設置された長い机、それにそって並べられた椅子。心と明良は隣に座り、向かい側には月夜が腰かけている。

 そんな感じで、座ったまま脚を組む月夜はため息をつくと頭をかいた。


「この男にセクハラの限りを尽くされた者だ。早い話がお前と同じだな」


「あぁ!」


「語弊のある言い方はよせ」


「語弊? アンタがとんでもないセクハラ野郎であることは事実じゃないの?」


「セクハラ……野郎?」

 

 すると心と月夜はしばし、目を合わせてため息をついた。


「コイツ、ホントにコイツ……」

「白馬心。すまないな、コイツは本当に愚か者なんだ。多分オレたちが受けた屈辱の数々も、こいつの中では些細な事。コイツは巨乳以外に興味がないからな。もっとも、その割には巨乳を前にすると緊張してオットセイみたいになるわけだが」


「気持ち悪い」


「なんか好感度が一気に下がっていってる気がするな……」


「元々ないようなもんだろ」


 月夜が鼻を鳴らして笑う。そんなことはないよな? と、心に助けを求めた明良だったが、心、これをスルー。


「あの、というか月夜さんは、どうしてここに?」


 そして、明良の話から逃げ出すようにそう尋ねる。


「あぁ、さっきコイツが言ったが、オレと明良は腐れ縁でな。不本意ながら。不本意ながらな」

「なんで二回言うんだ……」


「このアホは、昔ノリと勢いでこの建物を作ってな……。だがある日突然、俺は究極の巨乳ヒロインと出会うぜ! とか抜かして疾走してな。それ以来ここの管理はオレが行ってたんだが……」


「アンタって何も考えずに生きている感じ?」


「失敬な、こう見えていろいろ考えてるんだよ、おっぱいのこととかな」


「ソレは何も考えていないのと変わらんだろ。だから裏口の破壊なんて暴挙に出られるんだ。頭が空っぽでなくては説明がつかない」


「……あ、月夜さんがここに来たのってもしかして……」

「あぁ、警報が作動したからな。泥棒か、もしくははしゃいだ死与太珍教団のメンバーが侵入したのかと思ってきてみればこれだ」


「あぁ……あれかぁ……」

「あれかぁ……じゃないのだけれど?」


「どうせ正面入り口のカギをなくしたとかそんなところだろう? かと言って無理やり開けて押し通る奴があるか? 貴様が如何に馬鹿でアホか知れるというものだ」

「酷いいいようだな。心。何とか言ってやれよ」


「コイツのビルなんだし、別に泥棒にも入らせればよかったと思いますよ?」

「え、そっち?」


「全くもってその通りだ。だが、まぁそういうわけにもいかなくてな」

「なんだ。お前、結構義理堅い奴だな……。そんなにここを気にしてくれてたのか……」


 明良が月夜の前から姿を消してから、二年以上の時が流れている。


 その時、明良には最強の巨乳ヒロインと出会うという絶対的な目的があった、それは事実だ。だが、いきなりいなくなってしまったことは事実だった。


 そんな中で二年間、この場所を月夜が守ってくれていた事実に思わず涙腺が緩む。

 それがなんだか照れ臭くって、明良は目をそらした。


「いいや、ぶっちゃけこの品性のかけらもない建物は最悪吹っ飛んでもいい、どうでもいい。ツンデレとかそういうのじゃなくて、本当にどうでもいい、お前も。この建物も」


「……」


「オレはただ、この辺りで好き勝手に暴れる奴を許せない“立場”にあるというだけだ」


「許せない? 立場?」


「あ、あの、その言い方だとまるで……」


「あぁ、そうだったな。ちゃんとした自己紹介を、改めてオレからした方が良いだろう」


 そう言って月夜は椅子から立ち上がる。全身をおおうマントをはためかせた。スレンダーな細い体は少女のものだった。


 平たい胸や細い下半身、白い肌を覆うのは藍色のマイクロビキニのみ。



「オレは露出狂の月夜。今はこのジェイルの王、そのうちの第四位をつとめている。よろしく」



 空色の瞳を持った少女はハッキリとそう名乗った。



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