第13話 暗闇の戦い
「「異能性癖ッ!」」
二人の声が重なった。精力が全身からほとばしり真っ暗な世界をほんの一瞬だけ真っ白に染めた。しかしソレは本当に一瞬だ。
一瞬の直後、明良は両手をたたいて真後ろに向かって落ちた。
万乳反発。まるでおっぱいに突っ込んだ物質が跳ねるように、真後ろに弾き飛ばされた明良と心は壁にぶつかることによって止まった。
その直後。
ガキン! と、金属が重なるような音が二人の耳を刺した。
そしてそれに続くようにやって来る、肌を刺すような冷気。
寒い。
いいや、それを通り越してもはや痛い。
肌の内側から無数の針が飛び出している。そう感じてしまうほどに鋭い激痛。
黒い闇の中、見えない吐息は白いだろう。
敵性異能性癖者。もはやそれを疑う余地はない。そして、このタイミングでやってきたということは恐らく死与太珍教団の幹部或いはそれ以上の実力者とみて良いだろう。
「大物のお出ましってことか」
明良は低い声で囁いた。暗闇の向こう側にいる異能性癖者は答えることはしない。
「……どうするの」
「この階には、非常用の電源がある……はずだ」
「はずって」
「この真後ろにドアがある。そこから出て、廊下を右に、突き当りの部屋に入るんだ、そこで非常電源を入れろ。出来るな?」
「……分かった。すぐに戻ってくる」
暗闇の中に静かにドアが開く音がする。
「ッ!」
直後、凄まじいスピードで何かが飛翔した。
暗闇の中、その形すら正確には分からない何かを正確にはじき落として明良は笑った。
「この程度か?」
「……」
暗闇の中の刺客は何も言わない。ただそこにいるということだけが分かった。
(挑発に乗ってこない……か、珍しいタイプだな、それにしても、さてどうしたもんか……)
明良は自分の胸中でのみ呟いた。
正体不明の強敵。視野の制限される暗闇。その二つでも厄介極まりない。
その上にここは室内。それもそれなりに大きなビルの最上階だ。さらに言うと守や心もいる。そんな状況では広範囲の破壊技は使えない。
つまり。
ここでは乳トンが使えない。
「……」
圧倒的な不利。だがしかし、勝機はある。
敵の正体を見破り、能力を見破る。その為には敵を認識しなくては話にならない。
明かりが付けば勝機はある。
勝機というには余りにも他人任せだろうか。
「……ま、そこは仲間を信じてるってことで……」
そんな言い訳じみた独り言がどこかに届くことはない。届かせる必要もないわけだが。
「……」
「……」
暗闇の中二人は同時に動き始めた。緩やかに、大きな円を描くように暗闇の中で動く。
「シッ!」
初めに攻撃を仕掛けたのは明良だった。ポケットから取り出したコインを凄まじい速度で射出する。
先ほど敵の攻撃を撃ち落としたのと同じ技だ。
まるで銃弾のようなスピードでただのコインが空を切る。
ソレは万乳反発の応用技。敵に向かって細かなものを高速で落下させる。
「巨新輪ッ!」
微かな声で告げられた必殺技。それと同時に連続してコインが暗闇の中に飛んでいく。
まるで散弾のような暴力の雨。ガガガガガッ! という音が響いた。
しかし
「手ごたえなし……と」
命中した感覚はない。はじき落されたか、或いは……
「どこを見ている?」
「ッ!?」
その瞬間、その声は真上から降ってきた。
顔面に衝撃が降ってきてそのまま床を転がる。直後、腹部に凄まじい圧力がかけられた。
「クソ! 精力が……!」
もとより精力はつきかけている。何とかして、何とかしてこのマウントから逃れなくてはならない……。
「終わりだ」
直後、視界が、真っ白に染まった。