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第10話 究極のショタ


 暗い階段の先には広大な地下空間が広がっていた。長い廊下に無数の扉が並んでいる。その見た目を表現するならばホテルなどの宿泊施設。あるいは、独房か。


「多分、お前の弟はここに居る。どうだ? 探せそうか? お前が犬らしく鼻が利くと助かるわけだが」


 この広大な空間をしらみつぶしに、何の手掛かりもなく探さなくてはならない。となると時間がかかるなんて次元の話ではない。


 心は犬耳と尻尾を持っているが、ソレは精力が形作る気管。別に本当に犬になったわけではない。犬っぽい嗅覚や聴覚に期待しすぎているわけではないが、もしかしたら。ということもある。


 どうなんだ? と視線で促せば心はにやりと笑って誇るように言って見せる。


「守はすごくいいにおいがするのよ。あの子の頭に顔をうずめればすぐわかるわ」


「ノーヒントって解釈でいいんだな?」


「お砂糖っぽいにおいがするの。甘い感じのにおい」


「ノーヒントなんだな。どうするんだよ、探せるのかこれ」


「探せるのか、じゃない。探すのよ」


 白馬心ははっきりとそういったが、ピタリと足を止めた。その後ろを少し遅れて歩いていた明良は少し遅れて足を止めた。


「なんだよ」


「面倒なら私一人で探すわ」


「……」


 突き放すような物言いに、若干の心外さを感じながら口を開こうとした明良だったが、それよりも先心が続ける。


「戦いの部分では……凄く助けてもらったし、アンタは、休憩してたら?」

「……お前」


「何よ」


「結構、以外にもいいやつだな、貧乳なのに」


 鈍い音が地価の廊下に響き渡った。

 白心の拳が何のためらいもなく明良のほほを射抜いた。きつい痛みが遅れてやってくる。


「最低ッ!」

「いきなり暴力か? 暴力系ヒロインは流行らないぞ、ただでさえ貧乳なのに」

「セクハラ単細胞主人公もはやらないわよ」

「意味不明だ。俺がセクハラ主人公だと……? 分からん」


「わかれ」


「わからん」



「まぁいいけどさ。で、どうするの? 休んでおく? 人の気配もないし、ぶっちゃけ私一人で大丈夫だと思うけど……」


「あぁ、そうだなぁ。待つのも暇だし一緒に行くわ。万が一ってこともあるしな」


「そう」


 それ以来、二人の間に特に会話は生まれない。長い廊下を、静かに歩く。静かな空間に二つの足音だけが響く。



 代り映えのない景色と、暗い廊下は時間の感覚を奪っていく。



 いったい何分そうして歩いていただろう。



 やがて現れた廊下の突き当り、そこには大きな扉があった。


「ッ!」


 明らかに雰囲気の違う両開きの扉。すぐさまそれに飛びついた心は少し乱暴にノブをひねった。


 重々しい雰囲気の扉は、その雰囲気に反してあっさりと開いた。


 大きな部屋だ。廊下とは反対にとても明るい。全体的に淡いピンク色をしている。テーブルやソファ、棚や机や椅子、それにベッド。生活していくうえで困らないレベルの家具が広い部屋に置かれていて、それらのすべてが小さく可愛らしい色をしている。


 子供の部屋。と言ったイメージだ。


 壁には、どういう訳か窓があってその奥には青空と太陽が見える。



 がしかしよく見ればソレは映像だ。


 小奇麗だがそれがむしろ不気味だった。不審者がおやつやおもちゃで子供を釣るような、うすら寒さ。そんな印象を受ける。


「守ッ!」


 室内で心が叫ぶ。それなりに広く見える部屋も、明良や心にとっては少し狭い。或いは小さな家具と奇妙な圧迫感がそう思わせるのだろうか。まるでドールハウスのようだと明良は思った。


「守!」


 心が続けて叫んだ。直後、ベッドの中で、何かがモゾリ……と動いた。


 掛け布団がはらりと落ちて、その中にくるまっていた子供がおびえた表情で姿を現す。



 そこには天使がいた。


 白い髪が、肩に届くほどまで伸びている。さらさらとした髪は、その子の小刻みな動きに合わせて揺れている。


 気の弱そうな顔立ち、金色の瞳。年齢は十歳前後……。といったところか。服装は白いブラウスに茶色の短パン。


 頭に生えている三角形の耳、お尻の上から生えている白い尻尾。子犬を思わせる二つの要素と、満月のような瞳が、心との血のつながりを感じさせる。


 間違いない、この天使のような“男の子”こそが、心の探していた……。


「守!」

「っ! お姉ちゃん!」


 直後、ベッドに飛び込んだ心は勢いよく守に抱き着いた。


「守……! 守……ッ! もう大丈夫。もう大丈夫だからね……ッ!」


「お姉ちゃんッ、う……ぅう……」



 守は暫く目を丸くして固まっていたが、徐々にその目じりに涙が溜まっていく。



「よかったじゃねぇか。再会できて」




 心と守、姉と弟は抱き合って泣き続けていた。







 そして、その姿を、暗闇の中から見ているものがあった。


 モニター越し、抱き合う姉弟の様子を豪華な椅子に座って見つめていた。



「フ……」


 豪華な椅子に寝転ぶように腰かけた男は楽しそうに笑う。


 そこへ。


「いいの?」


 その後ろから、声をかける女がいた。ゆったりとした声の女はモニターの映像を退屈そうに見つめながら男の肩に手を置いた。


「究極のショタは死与太珍教団強化のために必要なはずでしょ? 究極のショタを用意して、それによって私たちの異能性癖を強化。そして第一位の席を取りに行く。この計画、守くんがいないと何にもならないと思うけど」


「わかんねぇかな? 究極のショタってのは……」


 男は、そこで一呼吸を置くと、真っ直ぐに指を立てて、空中で円を描くようにクルリと回した。


「可哀想なもんなのさ」


「可哀想ねぇ」


「可哀想はかわいい。ショタはかわいい。可哀想なショタは最高級にかわいい。地球が平面じゃないってくらいの常識だ」


「それはわかるのだけど、それがあの子をみすみすここから逃がしていいってこととはつながるの?」


「可哀想ってのは転落なんだよ。不幸で可哀想なショタを完成させるには、一度幸せにする必要があるんだよ」


「なるほど。軟禁状態じゃあ幸せは得られないものねぇ」


「そういうことだ」


 男は、楽しそうに笑う。しかし女の方の視線は懐疑的だ。


「どうしたキョウコ」


「別にぃ……。ただ、ちょっと気になることがあって」


「ほう?」


「この金髪男。どこかで見たことあるのよねぇ」


「知り合いか?」


 男が軽く尋ねると、キョウコは顎に指を当てる形でしばらく考えると。


「覚えてないわぁ」


 と、軽く言った。


「……まぁ、いい。金髪男がどうだろうが、この先何が起きようが、関係ない。世界は。いずれ俺の物だ」


「熱心よねぇ……定彦ちゃんは」



「究極のショタの完成はすぐそこだ。俺達の時代はすぐそこだ。フフフ。ハハハハハハハ!!!」



 暗い部屋に西条定彦の笑い声がこだまする。



 モニターには、金髪男が映し出されていた。



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