第91話 仮面舞踏会
「ココが……」
「うん。ココが七幻刀の住処」
屋上に居た一同は七幻刀を信用し建物内へと足を踏み入れる。リオン達は信用したと言っても七幻刀側は一線を引いており、気さくに話してくれるのはシオンとピオのみだった。
アイニーは建物内へ入ると同時に姿を消し何処か胡散臭さ漂うカエデと不気味な圧を立てるリゲルは一歩後ろを歩いていた。
一般的な石造り建造物と大差ない建物の内部は思っていたよりも広く、複雑であった。ポスポロスの住宅街から外れた位置にある住処は、人が住んでいる形跡も直近で使われた形跡も感じられず、ある種の不気味さに拍車を掛けていた。
「…あたし達は別に建物見学に来た訳じゃない。黒鳶について教えろ」
「まぁまぁ廊下で話すのも面白くない」
「どっちでも変わらん」
「フッそんなに知りたいなら教えようか。一旦ここでお別れだ。天音様、コチラへ」
「え?別れるって私も!?」
ふと、ティアナが立ち止まり苦言した。住処へ入ったは良いものの何処に向かっているのかは頑なに話そうとしない七幻刀に痺れを切らしたのだ。ピオは短気な彼女を呑気にすり抜けようとしたが、目が本気だったので仕方無いと足を止めた。
またも説明無しで天音を引き寄せるものだから旅人達の警戒を強めてしまう。ふわふわっとした天音と対照的なリオンは理由のみ、短く尋ねた。
「天音をどうする気だ」
「そろそろ警戒解いとくれよ」
「リオン、ぼくが保障するよ。此処は結界が張ってあるから安全で、それでいて七幻刀は強い」
「ん……」
「ピオさん達に任せよう。彼等が停戦協定を締結させたのなら信用に足る材料はある」
「…わ〜ってる。天音、気を付けろよ」
「私は大丈夫だからみんな頑張ってね…!」
リオンの警戒はシオンが透かさず冷ます。左目のモノクルを光らせ、信用する男が保障すると断言した。ここは大人しくシオンの顔を立てよう。リュウシンの付け足しと別行動を受け入れている天音の存在も相俟ってリオンは溜息付く為に半開いた口で、最後の忠告をした。
天音が去って行くのを見届けてからシオンが言葉を発した。
「最後まで付き添いたいけどぼくもここで別行動を取らせてもらう」
「そうか」
「合格するって信じてるから積もる話はまた後だ」
(…研究の続きを進めよう)
ここでシオンも離脱する。残念そうな表情だが場から離れる速度は七幻刀最速で言葉を返す暇もなかった。
残ったのはリオン、リュウシン、ティアナ、スタファノ、それにリゲルとカエデだ。
廊下で良いとティアナが言ったので何処かの部屋に入る事もなく、夜な夜な活動する霊族とやらの話を始めた。
「さぁ聞かせてもらおうか」
――――――
リオン達が遠退くのを背で感じた天音はピオの隣に並び、早鐘を打つ心臓に手を置いた。
「私から話すのも可笑しな気がするが…」
「?」
「天音様は私達を信用しているらしい。どうして?」
「あっ…えっとそれは…、上手く言えないんですけど…停戦協定を結んだ人ってどんな人なのかなってずっと考えてて。…私には想像もつかないような強くて厳しい人だろうなって、思っていたんです」
「確かにじ〜さんは強くて厳しい人だ」
「でもそれだけじゃないって分かったから。セイルさんって人が居なくなった時、みんな…"人を大切に想う眼"をしていたから…です」
「そうだね……セイルは何というか気難しい子だ。仲良くしてやってよ」
「はいっ!」
兜を持ち直してピオは天音に問うた。スタファノと同種の長耳が彼女の言葉一つ一つを聞き受ける。リオン達と同様に天音も多少の警戒は持ち合わせているが、先程から緩いというか何というか、ふわふわとした天音に訳を聞けば、漸く彼女は地に足ついた回答をした。
水鳥の跳ねる音が遠くで聞こえる。ちゃぽちゃぽ今当に飛び立とうと羽を広げた瞬間、天音の思いが声となった。
天音の返答に納得した様子のピオはフッと笑うと"人を大切に想う眼"をした。
「私からも一ついいですか?」
「何なりと」
「ガーディアンの里の人達は滅多に表に出てこないって聞きました。…ピオさんはどうしてポスポロスで七幻刀の活動を?」
「そうだねぇ…外に出てきた理由は単純だ。外との交流が大切だから」
「!」
(あのときスタファノが言ってた人ってピオさんの事だったんだ)
少しずつメトロジアの様々な街を目で耳で感じた天音は、控えめに訊いた。スタファノに話したところで教えてくれそうにも無い為敢えて口を噤んでいた疑問を投げ掛けた。
"外との交流が大切"とは以前、交易の街メルメイスでスタファノが発していた。結局誰の言葉か聞かず終いだったが、思わぬところで判明し腑に落ちる。
「加えて、里の人間はどうにも臆病者ばかりが揃ってしまってる。里を変えたくて私は七幻刀として活動している…まぁじ〜さんに誘われたからってのも理由の一つだ」
「臆病者…?」
「外へ出るのを恐れる余り、外へ出たい者も縛り付けるような里は臆病だ……さて着きましたよ」
声音も表情も明るいが、どことなく仄暗さを感じさせる台詞に歩幅が合わなくなる。未だ全容の見えないガーディアンの里に少しばかり怯える天音は、扉の前で止まったピオの背に衝突しそうになる。
―――
?「ピオさん」
「アイニーやっほ〜。準備終わった?」
「詰めるだけですから」
中へ入ろうと扉に手を伸ばすが、空振りしてしまった。中から誰かが扉を開けた音がして、その人は現れる。
先程早々と別れた青年アイニーは大きな鞄を軽々持ち上げ、手を振るピオに会釈する。アイニーは立ち去ろうとしたのだが、ピオの背に隠れていた天音を発見し視線を下げた。
「…こんにちは」
「こんにちは」
「その大荷物は一体…?」
「関係ない」
「……ハイ」
おずおずとした挨拶には一言返したが、速攻で無愛想な対応をされ伸びていた背筋が丸まり、アイニーが通りやすいように道を空けた。口元を覆うマフラーに加え、表情の付かない目元と目が合い緊張が走る。
去った背に仲良くなれますようにと祈ったとかいないとか……。
「アイニーってば、几帳面に装束を出してくれてるわ。感謝しないと」
「装束ですか?」
「そう。女神装束」
部屋の中は比較的狭く、大人数で入る事を想定していない造りであった。入口から入って左を向けば引き出し付きの鏡台があり、更に奥には白装束が置かれていた。これから何が起こるのかの意味も込めてピオの言葉を反芻した天音は白装束…もとい女神装束について聞く姿勢を取った。
「どっから話すべきかな……。天音様は神話時代の女神をご存知ですか?」
「知ってます。女神様が五大宝玉の犠牲になった事も」
「そこまでご存知なら話は早い。実は、ここにある白装束は実際に女神が着用した言い伝えが残されている」
「そんな凄いものが……」
「女神様の白装束にはアストエネルギーを高める効果があり、修行にはもってこいと言う訳だ」
「アハハっまるで私が修行するみたいな言い方ですね?!」
「……」
「……ピオさん…本当に?」
「うん」
「わお」
白装束と言っても故人に着せる死装束ではなく、何方かと言えば神職階級の人が身に着ける格式高い装束だ。白一辺倒と思いきや、よくよく見ると細部に施された金の装飾が光っており装束の高級感が覗える。
女神装束の謂れを聞き、冗談めかしに笑ってみた天音だがピオの目は本気だった。間を置いて恐る恐る確かめ、すっかり萎縮した天音。修行などと言われてワクワクする筈もない。
「どうして、天音様に修行が必要か分かるかい?」
「私が弱いから…ですよね。自分の身は自分で守れるようになりたいのに皆にどんどん置いてかれてしまう……」
「実は、私達は偶々雪山に居合わせた訳ではなくてね、ポスポロス近くの集落から視ていたんだ。……そして天音様のアスト能力が覚醒する場面も確と視た」
「そんなところまで、全然気付かなかった…」
「"キャンセラー・ダウン"を常時発動状態に持っていけたなら天音様は誰よりも強かになれる。全部じ〜さんの受け売りだけどね!」
「…!リゲルさんが…。分かりました!私、強くなりたい。皆と隣に並べるように修行します!!」
修行とは、更なる高みへ向かう為の行為である。弱い自分が強くなる為の修行だと感じ取った天音は、ぽろりと弱音が溢れる。独学含め戦闘訓練を積んだ者と戦闘経験のない天音が"物理的な強さ"で対等になれはしない。置いていかれる感覚だけがヒシヒシと肌に刺さる。
しょげる天音に肯定も否定もせずピオは事実だけを述べた。王の居ない王国で停戦協定を締結させ、国を守ってきたリゲルの想いを垣間見た天音は覚悟を決めた。自分の身を自分で守れるだけの力を身につける為に。
「アストエネルギーを高める修行に加えて、天音様には様々な教養を身につけてほしいとも言ってました」
「お勉強……ガンバリマス」
「さぁ脱いで」
「は、…い」
様々な教養が具体的に何を指すのか天音は知らないが、勉学も含まれていると薄々察しゴクリと唾を飲み込んだ。元学生の身、勉強は平均程度に出来るが何せ此処はメトロジア王国。自分の知らない文明をイチから学ぶとなれば、冷や汗が出るのも仕方無い。
鏡台の前に立ち、一先ずの女神装束を着る為に天音はスルスルっと服を脱いだ。
――――――
場面は変わって、リオン達へ。
「ポスポロスのとある建物内で毎夜、霊族が催事を開いていると報告がありまして…」
「曰く"仮面舞踏会"。其方等には仮面舞踏会に潜入してもらう」
「仮面舞踏会だ?」
その霊族はポスポロスにて、仮面舞踏会を開いているとの事。霊族が夜中に如何なる悪事を働いているのかと息を殺して聞けば、単なる催事とは拍子抜けだ。
「霊族が何の為に?」
「直接聞いてみたら良いじゃありませんか」
「気になる事は他にもある。潜入したとしてもアスト感知されたらバレるんじゃ…」
「ならば感知されなければ良い事。その為の仮面、です」
「特殊な仮面を装着する事でアスト感知を阻害する効果が得られる。星の民も霊族も混交された仮面舞踏会を其の者は開く」
「そんな仮面が合ったとは……、噂にも聞いた事がない」
「う〜ん…停戦中とは言え、舞踏会の参加者が噂を流す訳もないってコト〜!オレだったら誰にも告げず愉しみたいからね」
何故どうして、の問答は不要だ。考えるべきは仮面舞踏会の主を捕らえる方法のみ。舞踏会と縁遠い彼等は潜入前の懸念材料を口にした。リュウシンの疑問に答えたのはカエデだが詳細はリゲルが補完した。
星の民と霊族とではアストエネルギーの質が違う。幾ら潜入したとてアスト感知されてしまえば終いだ。
ここで重要になってくるのが仮面舞踏会の仮面の部分。仮面は素顔を晒け出さない為のアイテムに非ず、アスト感知の阻害用にある。俄には信じ難い情報に疑念を抱くが生憎、思考する時間は与えられない。
「…それで潜入する意味はあるのか?霊族の居場所が分かってるなら態々出向いて参加する必要無いだろう?」
「エンターテイメント…と言うのは半分冗談で、今の実力では不意打ちすら成功しないでしょうから相手の罠に飛び込む勢いで是非是非お願いします」
(半分は本気かい)
「俺達に一般人守りながら戦えって事だな」
「流石騎士長さん察しが良い」
「更に言っておくと、参加者は皆無傷で返されています。私達もそれ故に介入するべきか迷っていたところでした」
「戦う気概、他者を巻き込む道理、非戦闘員を護る心意気、見極めさせてもらう」
ティアナの疑問は最もで、カエデの返答も一理ある。不意打ち出来れば越した事はないが下位とは言え黒鳶、成功確率は低いだろう。ならば、相手の術中で仕留めた方が効率的だ。
国の懐刀が意味もなく、一般人の居るエリアで戦闘を支持する筈無いとリオンは思考を回して、一つの答えに辿り着く。
七幻刀とは程々嫌味な人間の集まりなようだ。自分達が事を荒立てねば一般人は今宵も無傷で返される。誰かを巻き込み誰かを護る戦闘をリオン達は強いられる事となり、僅かに意思を固め直す。
「特別に舞踏会用のドレスコードは幾つか見繕って上げましたので感謝してくださいな」
「服?そんなもん何処に……。…!」
「仮面入り。受け取れ」
(重い……?何着入ってんだコレ)
「あたしも着なきゃ駄目か?」
「だ〜め!」
「アイニーさん、ありがとうござい…」
「風使い、余計な繋がりは無用だ」
さて、仮面舞踏会へ行くにはそれなりのドレスコードが必要不可欠だ。現在の服装で参加しようものなら出禁にされても文句は言えまい。一体何時から想定していたのか、気になるところではあるが思考するだけ無駄である。
乱暴にもアイニーが大荷物をぶん投げた。一声掛けても減るものでは無いだろうに彼は何時も口数が少ない。受け取らされたリオンが四着分にしては重量が合わない荷物に視線を向ける横で、ティアナはむず痒い衝動に襲われていた。宵舞踏会のドレスコードなどイブニングドレスに決まっている、出来れば着たくないのがティアナの切なる願いである。
「仮面舞踏会まで多少の時間はある。それまでは自由に過ごすと良い」
?「おー〜い!みんなー」
「あれ?天音も着替えたのかい?」
「うん。着替えました……」
「天音ちゃんカッワイイ〜」
「ありがと!」
説明は以上で終わり。所々説明不足は否めないが、七幻刀が終わりと言ったら終わりだ。リゲル、カエデ、アイニーは役目を終え無駄な交流をする事なく速攻で退散し、代わりに呑気な柔らかい声が近寄ってきた。
立ち去ろうとするティアナの腕を掴み、場に留めさせると天音はニコッと笑った。
女神装束に身を包み首元には王族のペンダントが飾られていたが、それだけでは天音の可憐さを奪えやしない。
「お前は舞踏会行かないだろ」
「え!?舞踏会ってなに!?」
「霊族を捕まえる為の舞台だよ」
「いいなぁ…ちょっと羨ましいかも」
「代われるものなら代わってほしいくらいだ」
「ティアナのドレス姿見てみたかったな〜」
「見なくていい!!!」
「オレがちゃ〜んと目に焼き付けておくよ」
「便乗するな!!」
舞踏会なんて魅惑的な単語に反応し、霊族と言う憂事を追い出し、天音は空想の舞踏会に浸る。
一方のティアナは霊族、黒鳶と対峙する絶好のチャンスに溜息を漏らした。せめて舞踏会への参加を取り止められたならと後ろ向きな彼女に緩い声が飛んでくる。
――――――
―――
あっと言う間に、仮面舞踏会の時間はやって来た。天音と別れ七幻刀の住処から出て暫く歩くと、今は使われていない寂れた劇場が見えてきた。会場は此処のようだ。
「フフーン」
「そんなに珍しいものでも入ってたか?」
「いや〜ホントに」
「何だか嫌な予感がするような……」
会場を監視するも特に怪しい様子はない。持ってきた大荷物を漁り、妙な笑みを浮かべるスタファノの方が余程怪しい奴だ。
「レディーファースト。先ずはティアナから」
「く…」
「着替えた後は化粧と髪結いね!」
「致し方ない………っ!」
既に敵前に立っているような表情でスタファノ手にあるドレスを睨む。逃れられはしない。半刻前に落ちた太陽も彼女の様子に苦笑いしている事だろう。
荷物の中には多種類の衣服と化粧道具が収められており各々気に入った衣服を、と言いたいところだがファッションに興味も無ければ、ファッションセンスの欠片も無い者には任せられない。今この場で荷物の中身を理解出来るのはスタファノしか居ないので必然的に彼が仕切る事となる。
「〜〜〜ー!」
「世界で一番美しいよティアナ」
「世辞は止めろ……」
「髪を結ぶからじっとしてて」
「か、髪など放っとけ…!」
あれよあれよの間にイブニングドレスに身を纏ったティアナが姿を現す。寒色系をメインに扱ったマーメイドラインに暖色系のアクセントが目を惹く立体フリル。下ろした髪束と堪らなくなった紅頬が見る者の心を奪う。
履き慣れないヒールと格闘中の所為か、視線は斜め下を向いていた。
「みつ編み…」
「普段のポニテ姿も可愛いけどみつ編みも似合うよ。…心の音がキミに聞こえなくて良かった」
「何か言ったか?」
「当ててみて」
「…止めておく」
サクッと化粧を施し、慣れた手付きで左横髪をみつ編みにして完成だ。すっかり、しおらしくなってしまったティアナは側に居たスタファノの声すら碌に聞き取れず、聞き返してしまう始末。
無自覚な色艶を上下に動かすティアナを視界に収めたいが、現状の面を見られたくないスタファノは一歩後ろへ下がる。長耳がピクピクと己の心音に敏感になり、珍しく平常心が崩れる。
「んじゃ俺等もちゃっちゃっと着替えるか」
「何言ってるの?」
「ん?」
「お楽しみはこれからじゃん」
「う…嫌な予感当たったかも」
それはそれ、これはこれ。男物の衣服は女物の衣服より簡易に着用出来る。ぱぱっと終わらせて仮面舞踏会に踏み込みたかったが、ここで閃光の如くスタファノが動いた。化粧道具を指と指の間に挿し、ニッコニコで近寄る彼にリュウシンは嫌な汗を掻いた。そして何故だろう、片手には女物の衣服のみ……。
これらの意味成す事態は一つしかない。
「うぅっ……」
「う〜ん…体格的に女装役はリュウシンだね」
「な、なんで僕が」
「オイこら…スタファノ、俺までふざけた格好させやがってッ!!」
「わわっー!面白いからに決まってるじゃん」
「なんで僕がー…!」
こんな時ばかり俊敏なスタファノを止める暇なく、リオンとリュウシンはガッツリ女装させられた。あられもない姿に羞恥飛んで悲運を呪ったリュウシンは滝のような涙を流した。リオンはと言うと、フリルリボンに似合わぬ血管を浮き上がらせスタファノに制裁を下した。
この場に天音が居たなら余計ややこしくなっていた筈なので居なくて良かったと心底思う。決して女装が見られたくないとかでは無く。
リオンに関節技をキメられ、若干息苦しくなるスタファノだが顔面は緩ゆると笑うので更に締めがキツくなる。カオスな空気が漂いつつある場で一体誰が取り仕切れよう。
「男女一組が参加条件だからさ…。諦めなって」
「ひどい…」
「だったら尚更俺がこんな格好する意味なかっただろ!」
「僕を女装させる前提で進めてない!?」
「いてててっ」
(さっきまで恥ずかしがっていたあたしがバカみたいだ)
「何でもいいから早く着替えろ」
「ティアナはオレとペア決定だよ」
「チッ」
突然生えた条件に戦慄したリュウシンは遂に膝から崩れ落ちる。只のお遊びなら兎も角、歴とした意味があっての女装らしい。時には、理不尽な現実と向き合う事も必要なのだと己に言い聞かせ、ドレスの汚れを払う。覚悟を決めた男の顔は何時だって惚れ惚れする。
数分前まで桃色よりも濃い頬を持て余していたティアナは男三人のやり取りで一気に平静さを取り戻した。夜の熱に絆されていた自分が馬鹿馬鹿しくてやってられない。
「予定より遅れた。急ぐぞ」
「最悪だ……」
「ティアナどう?正装のオレは?!とうとう惚れちゃったでしょ」
「普段と変わらん」
「普段からカッコイイもんねオレ」
お月様がまだかと覗き込む頃合い、ようやっと準備が整う。女装を脱ぎ捨てたリオンはイメージに沿った青を基調に、繊細な刺繍がアクセントの燕尾服を着熟す。スタファノは男物にしては装飾の多い派手なジャケットが目印で、薔薇柄のブローチが彼によく似合う。
(ま、男女一組なんて条件無いけど!)
いざ仮面舞踏会へ、参る。




