第90話 七幻刀編、始動
中盤編スタート!
霊族が去った雪山でリオン、天音、リュウシン、ティアナ、スタファノの五人は謎のフード集団と向かい合い彼等の素性が割れる瞬間を待つ。
髪の毛を弄る冷風が溜息を付いた頃、心当たりがあるらしいリオンが声を発するが途中で遮られる。離れた位置に居た筈の兜を被った女性が瞬きの間に距離を詰め、リオンを覗き込む。
「お前達は……まさか」
「しーっ。傷を閉じるから喋らない喋らない〈治癒法術 スペランツァ〉」
「!」
「スタファノと同じ治癒方法……?」
「……ー!」
兜女が接近した理由はリオンの治癒の為だった。桃色デイジーの花が冠となり、対象者に掛かると傷口が見る見る内に修復されていく。自然治癒では成されないスピードは初見じゃない。何処かで見た光景に一同が長耳の男を見つめる。
全く同じ治癒方法を目の当たりにしたスタファノは兜女の正体を掴んでしまい、思わず後退りした。
「スタ、久しいな。会えて嬉しいよ」
「!!……ぴ、"ピオさん"…っっ!」
「〜〜!あたしの後ろに隠れるな!」
「スタ…女の影に隠れるとは情けない男だ。仕方無い。じ〜さん場所を変えよう」
「………オレは、嬉しくない……かも」
親しげに名を呼び、一歩近付いた女性に対して無意識下で身を引いたスタファノは雪に足を取られ尻もちをつく。常々飄々としている彼が女性に対する態度をこうも変えてしまうとは、一体全体どのような関係性なのか。
スタファノが零した女性の名はピオ。凛とした声を掛けるが当の本人はティアナの影に逃げ隠れた。長耳を両手で塞ぎ小刻みに震える彼はすっかり萎縮し、ピオに関する情報は得られなかった。
両目とも兜で隠れているがピオはぷっくりとした唇で残念がる情を表現し肩を竦める。二人の関係性はさておき、ピオは視線だけフード集団に改めると内一人に向かって提案した。
「終点はポスポロス、だったか」
「!浮いた…!?」
恐らく、フード集団の中でも取り分け格違いの老人がピオの言葉に頷く。厳重な城壁を彷彿とさせる声と立ち姿に解けかかっていた警戒が再び心を支配する。
老人が人差し指をクイッと軽く曲げたら、なんとこの場に居る全員が宙に浮いた。何かしらの能力である事はリオンらにも解るが能力の規模に対して予備動作が少なく、老人の一挙一動から目が離せない。
「少しの間、花弁になった気分で身体を楽にしてると良い。じ〜さんの能力が途切れる事はないよ」
「あの……これはポスポロスに向かっているんですか?」
「うん。警戒されてるな。最初に断っておくべきだったね我等は味方だ」
「俺はお前等を知ってる…気がする」
「私もキミ達の事は知ってる。特にスタファノの事はね」
「!」
「スタファノと一体どんな関係が…」
「我等の組織は、到着次第伝えよう。その前に改めて自己紹介しておこう。私の名は"ピオ・リップクィーン"」
無言を貫く老人の能力を受け入れたと言うよりは抗えぬ以上、大人しくするしか無いと言った方が表現して正しいかも知れない。最初にリオンに声を掛けた男性と治癒法術を使用した兜の女性は友好的な素振りを見せるが二人以外は此方を振り向きもしない。
何者か、何故自分達を助けたのか、等々を問いたい欲を堪えリュウシンが暫定目的地を口にした。警戒の中に一抹の不安を抱える皆を安心させる為、ピオ・リップクィーンと名乗る女性は兜を脱いだ。
露わになったのは壮年女性の優しい目付きと多くを見てきた皺と、それから"長耳"。スタファノと同種の長耳は彼女の出身地を容易に割り出した。
「「「!!!」」」
(なるほどガーディアンの人間か)
「ピオさん、…」
「スタ、大きくなったな。フッそんな目で師範を見てくれるな」
「師範って」
「あんた、やっぱり戦えるんじゃないか」
「……」
(あまり思い出したくないのかな…)
道理でガーディアン由来の治癒法術が扱える訳だ。道理でスタファノと面識がある訳だ。フード集団の根本的な問題は解決していないが、視線が合うだけで少なからず安心感を覚える。ただ一人を除いて。
師弟関係と判明したのには驚いたが、同時に影に隠れるスタファノの心を垣間見た気分になり、天音は胸中で彼の過去を慮った。思慮深い彼女の気持ちが届いたのか、僅かに落ち着きを取り戻したスタファノは長耳から両手を離した。
「さて、見えてきた……ポスポロスだ」
「これがポスポロス…!」
「俺が居た頃と変わってねぇな」
「大きな街とは聞いていたけど…こんなに発展してるなんて……」
(この街であたしの父さんの手掛かりを探す)
(たしかファントムの本拠地も此処に…!!)
浮遊速度は然程速くないが体感より幾分か早く、目的地ポスポロスが見えてきた。ピオが下方を見渡したのを切っ掛けに天音も街を眺める。
天音の目に映るポスポロスは流石、機械仕掛けの街と呼ばれるだけあって古典的な造形美を思わす建築物が建ち並んでいた。雲間に見え隠れする立体構造群は発展都市であると暗に物語っていた。中でも一際目を引くはポスポロスの象徴、鐘鳴る時計塔だ。
王都へ続く城壁は確認出来たが、距離が空き過ぎている為に肝心の王都は見えず終い。目を細めていたリオンは仕方無いと視線を天音に移す。彼女の警戒心は好奇心に移り変わり、両目を輝かせていた。
一方でティアナは父親の手掛かりを、リュウシンはファントムの本拠地を探すように視覚に意識を集中させていた。
「私だけ先に挨拶するのも寂しい。……そう思わない?皆!」
「「……」」
「無愛想な人間の集まりで悪いねハハッ。って事で宜しく"アイニー"!」
「なんでオレが…」
「ぼくはサプライズ的に取っておきたいし…アイニーさんしか居ませんよ」
(コイツ……)
「お前な……はぁ分かった」
ポスポロスへは着いたが老人は降り立つ場所はまだ先のようで能力は解除されない。無言ほど気まずいものはない、ピオはフード集団に陽気な声を向けるが誰一人として反応せず。声の調子と言い、笑い方と言い、スタファノの師範なだけに何処か似通っていた。
脈絡なく、言葉を投げられたマフラーの青年はあからさまにピオに対して、気怠げな態度を取る。一切を意に介さないところが弟子に似てると口にしたら師弟は如何なる反応を見せるのやら。
フード集団の中で誰よりも深くフードを被る青年男性はピオに賛成するように口角を上げた。彼を見るリオンの目は半信半疑に染まっており、そんなリオンを面白がるように彼は更に深くフードを被り直す。
「アイニー。風使い」
「風使い…!?もしかしてゼファロの―」
「話は終いだ。尤も、これ以上関わり合いにはならないが」
「残念。到着っ!」
「んじゃお前達の目的聞かせてもらおうか」
「だってさ、じ〜さん…正体を明かすお時間だ」
「……」
青年の名はアイニー。リオンらを薄目で一瞥し素っ気なく答えるとそっぽ向いてしまった。アイニーに反応したのはリュウシンだ。風使いと聞いては黙っていられない、先程の法術も卓越していた。また風使いの言い回しもゼファロ特有のものだ。親近感から彼に話し掛けるリュウシンだったが、彼はそれ以上の会話を打ち切り一線を引いた。
アイニーの様子に苦笑しつつピオは目的地へ到着したと告げた。程なくして浮遊感覚が消え、地に足がつく。スンッと重くも軽くもない重力が戻り、何処かの屋上に着地した。三角屋根が軒を連ねる中で降り立った家屋には屋根が無く、だだっ広い空間があった。端に視線を移すと大人一人分隠れるような段差があり、リオン達もフード集団も下からは視認出来ない造りになっていた。
リオンが一言、対話を促す。此処まで来て正体を明かさずに終わるなど有り得ないと言った表情で背筋を伸ばす。謎の能力を見せてきた老人が満を持して前に出ると、ゆったりとフードを外し重い口を開いた。
「先ずは、強引に事を進めた非礼を詫びよう……。天音様、それからお付きの方々」
「へっ?私…?!」
「我等は七幻刀。メトロジア王国の、挽いては王位を継がれる天音様の懐刀。天音様をお迎えに上がりました」
「お迎えって……一体何の話ですか……っ?」
「無論。天音様をお護りする故」
「えっと、その私の事は何処で?」
「予言を受ける以前より。ペンダント、並びに開闢の歪についてカグヤ様にお教え致したのはこの私、"リゲル・ノースグレイ"に御座います」
「!」
(カグヤさんの事も…!ううんそれだけじゃない、ペンダントだって見せてないのに当然のように口にしてる。この人達…きっとメトロジアを守ってきた人達だ…)
口を開くなりいきなり、片手を胸に当て片膝付いて非礼を詫びると言った。全く持って見えてこない素性に辛うじて、自分に言われたのだと気付いた天音が齷齪と素直過ぎる反応を見せた。様付けなど身が重いと全力否定したいところだが、身勝手な思いを飲み込み天音は言葉を紡ぐ。
老人の名はリゲル・ノースグレイ。一見近寄り難い空気を纏っているように見えるが、よくよく観察して見ると仄かな温かみを感じる。譬えるなら夕刻前の陽射しのような色のある空気だ。本来のリゲルは後者だろうと推測出来る。
「七幻刀が表に出てくるとはな。……これで繋がった。停戦協定を締結させた星の民ってのはリゲルの爺さん。そうだな?」
「リオン様。話に聞くより頭が冴えるようだ」
「誰だ…そんな適当言ったやつ」
「くくっ。ぼくだよ」
「お前は……」
優雅に立ち上がったリゲルはリオンの確信めいた問いに無言で頷き言葉を続けた。リオンの目的は停戦協定を締結させた謎の星の民を探し出し、話を付ける事だ。ようやっと目的の第一段階が達成され心無しか、薄く笑っていた。
褒めている訳でも貶している訳でもないリゲルの言葉が微妙に引っ掛かる。戦闘面ならいざ知らず、単純な学力は本人も後ろめたい自覚があるのだが一体全体何処のどいつだ。根も葉もある噂を流した人物は思いの外、近くに居た。
深くフードを被っていた青年男性が気さくに声を掛ける。軽く振った右手がフードに触れ、青年男性の顔が遂に判明した。
癖のある紫の長髪に緑玉色の瞳の持ち主は、
「ぼくのこと覚えてる?」
「ーー!?…シオン―――…!」
「リオン」
百年前に別れて以来、所在の掴めなかった青年の名はシオン。かつての少年時代、アレンと共にワープケイプで育ち騎士団へ入団後も何かと切磋琢磨で過ごしていたが、メトロジアに戻ってから噂も情報も頼りなく生死不明だった彼がリオンの目の前に居る。
平均より痩せ気味なシオンはこの百年で随分と成長したようで、頼もしい姿になっていた。他にも昔は装着していなかったモノクルを左目に付けていたが、面影は十分に残っていた。
「ハハッ、シオンが七幻刀に居たなんてな」
「きみが教えてくれたんだろう?メトロジアの裏の組織。…さて積もる話もしたいが、そうは言ってられない。七幻刀が姿を現した理由は只一つ、天音様とリオンの引き渡しだ」
「「!」」
七幻刀。其れは近衛騎士団が誕生する以前よりメトロジア王国を支えてきた影の組織。リオンは騎士団長となった日、つまりは叙任式の終わりがけに七幻刀の存在を知り同郷に話していた。よもや巡り巡ってシオンが組織に加わるとは数奇な運命にも程がある。
目を見開いた後、照れ臭そうに破顔するリオンに一度笑い返したシオンは直ぐさま神妙な面持ちで目的を伝えた。
「ちょっと待てシオン!どう言う事だ!?」
「どうもこうも無い。言葉通りの意味さ、ぼく達は慈善では動かない。何も聞かず言わずにリュウシン、ティアナ、スタファノの三人は此処から立ち去ってくれ」
「はっ?」
「シオン、コイツらなら心配しなくとも……」
「言った筈だ。慈善活動をする暇はない…と」
騎士長リオンと王女の生まれ変わりである天音を直ちに引渡せ、その他の三人は立ち去れ。横暴とも取れる発言に全員が解けかけた警戒心を今一度強く放つ。戸惑っているのは天音だけで、後の四人は発言に対して納得出来ないと言った反応を示す。特に噛み付いたのはリオンだ。シオンと親しい仲なのも相俟って彼は包み隠さず怒りを露わにした。
さらりと流されてしまったが七幻刀は全員の素性を把握しているらしい。自分達は未だ隠し事をしていると言うのに気に入らない。
「あたしは納得出来ない。何故突き放す?」
「ティアナと同意見だ。僕だって納得のいく説明がほしい」
「だからオブラートに包む遠回しは言ったのに。はっきり言ったらどうですか。この先の戦いに彼等は足手まといだと」
「!」
言葉を挟めず、不安を抱えた天音が無意識に後退りする横でティアナが意見する。彼女にリュウシンも同意した。ありふれた仲間意識でも何でもいい、少なくとも七幻刀よりは天音の事を理解しているつもりだ。
意見されるのを承知で提案したシオンの顔は浮かないが、糸目の中年男性はハッキリと明言するに拘る。厳しいようだが、現実を突き付けなければ何処までも食い下がるだろうと懸念しての台詞回しだった。
「スタ、同意してくれるな?」
「…っピオさん、オレは」
「王族の血が途切れぬようカグヤ様は天音様に転生した。王を守るに価しないと、そう言う話をしているのです」
「……?なに?!生まれ、変わりだったのか」
「えっ、あぁあ!」
(ティアナには妹って説明したんだった…!)
「はぁ。何も知らずに側に居たとは…よく生き残れましたね葉っぱ飾りの娘さん」
「妙な渾名を付けるな!…くっ」
「おい風使い」
「僕?」
「お前以外誰がいる。実力が乏わないと分かっているだろ。その為に態々風を使った」
「ー!…確かに僕は弱くて七幻刀の皆は強い」
「理解したなら納得しろ」
最初に声が途切れたのはスタファノだった。彼はピオに再会してから然程言葉を発していなかったが、とうとう遂に何も言えなくなった。
次に目を背けたのはティアナだった。糸目の男は己が名乗る代わりに天音の正体を当たり前のように口にした。ティアナが天音を知ったのは彼女が盗賊の頃の話だ。適当に逸らかしたとバレ、一人居心地が悪くなる天音。分かってなどいなかった、何一つ。
最後に唇を噛み締めたのはリュウシンだった。口数の少ないアイニーに話し掛けられた後、突き放される。なまじ理解力があるからこそ七幻刀と自分達の実力差を悟ってしまった。
「リオン分かってくれ。彼等の為でもある」
「コイツらは勝手に付いてきたやつばかりだが、それなりに世話になってる」
「さぁリオン様、天音様こちらへ」
「あたしは目的を果たす為ならなんだってしてやるさ…!あんた達が拒もうが突き放そうが関係ない。喰らいついてやる!!」
「では勝てますか?」
「…っ」
「言葉に気を付けたほうが良い。実力の成っていない言葉は枯れ葉と同義だ」
「…、実力を付ける為に喰らいつくんだ…!」
「痛い思いはしたくないでしょう」
その気になれば七幻刀は実力行使でリオンと天音を攫う事も可能だろう。然し、あくまで説得を試みる。何故か、答えは至極簡単だ。自らの決断で決別させた方が何かと便利だからに過ぎない。
尚も食い下がったのはティアナ。左肩の焼印を右手で押さえ強気に出るが彼女を制したのは糸目の男性だ。ニコニコと釣り上がっていても目元は笑っていない。イマイチ思考が読み取れない表情はティアナの介入を許さなかった。
大袈裟かも知れないが命を救ってくれた七幻刀と救われたリオン等は険悪ムードに突入していた。このままでは負傷者が出かねない、そんな状況を変えたのは天音だった。
「私は嫌です……」
「天音…」
「彼等は天音様を守るに適さない。このリゲルの言葉を聞き入れてはくれないでしょうか」
「違う、…違います!私は損得で一緒に居るんじゃない。皆と居たいから、皆と旅がしたいから…だから一緒に居るんだ!私は今そう言う話をしてます…ー!弱いから一緒に居られないなんて嫌だ」
「……」
「皆が決めたなら悔しいけど何も言えない。でもこんな別れ方はもっと悔しいよ!そうでしょ?!リュウシン、ティアナ…スタファノ」
「そうだな。俺等の事情にも巻き込んじまった。今更って感じだ」
気が付けば本音が飛び出していた。彼等の為だとか、力不足だとか、聞きたくない刺すような言葉が痛い。七幻刀は己の信念に則り言って聞かせるが天音には我慢ならなかった。
リュウシン達は自分を守る為に居るのではない。目的が一致しただけの寄せ集めだが、天音にとっては掛け替えのない仲間だ。見当外れの見解で彼等の信条に傷を付けないでと天音は強く思った。
出会った頃より明確な意見を言えるようになった天音に成長を感じつつ、リオンは文末を添えるように今更感があると付け足した。思っても見なかった天音の反対意見にリゲルを含めた七幻刀は目を見張る。
「アハハっ!そうだね、天音の言う通りだ。僕達はちょっびっとだけ気圧されてたんだ。僕も残るよ此処に」
「リュウシン…!」
「妹の情報も諦めてないしね!」
「あたしは最初から此処から離れる気は無い。けどまぁ…天音がそこまで言うなら」
「うんっ何度でも言うよ」
「…。天音ちゃんには敵わないな〜。そんなにオレと居たかった?」
「もちろん!皆と居ると楽しいから」
「オレも!七幻刀の人達より皆の方が楽しい音で溢れてる」
「これでもまだ追い出す気か?」
「これじゃ追い出せないや。リゲルさん、ぼくには彼等の絆は断ち切れません」
「仲間、か」
「あ〜あ踏み込んだ後は落ちるだけなのに」
感情論の拙い説得は無事、リュウシン達に届いた。王国の王女としてではなく、一人の星の民として天音を見てきた彼等だからこそ一緒に居たい。
リュウシン、ティアナ、スタファノの順で返事が帰ってくると天音は心底嬉しそうに笑った。星明りの様なキラキラとした笑みは七幻刀には引き出せやしない。
一連の経緯を見届けたリオンはシオンに向き直る。ドヤ顔で圧をかけられ堪らなくなったシオンは両手を上げ降参ポーズを取る。久方振りの同郷は矢張り善人だ。七幻刀の枠に囚われず、笑みを返す。
糸目の男は一言余計な台詞を吐き出し、面に"笑"を張り付ける。
「良かろう。袖振り合うも多生の縁だ」
「本当ですか!?」
「リゲル様!?」
「但し条件がある」
「!」
「メトロジアで夜な夜な活動する霊族を捕らえる事」
「霊族を捕まえるだと?」
「黒鳶の者と聞く」
「黒鳶…!」
七幻刀のリーダー格のリゲルが良しとしたならば、周りの面子も同意せざるを得ない。大体はリゲルを肯定し、反応を薄かったのだが唯一大声を上げた人物が居た。彼はそれまで一声も発せず、戦闘にも参加せずリゲルの側に居た男性だ。声質から察するに七幻刀の中でも一際若手なのだろう。
さて、名を知らぬ青年よりリゲルの次なる一言の方が天音達にとっては重要だ。条件とは如何なるものか覚悟の上で聞けば、霊族と黒鳶なる単語が飛び出してきた。
「最低限の実力を試しそう。黒鳶下位の者だ。勝てねばこの先、地獄を見るぞ」
「俺も行く。文句ねぇな」
「自由にせよ」
「また戦うの…?」
「問題ねぇよ。心配すんな」
「オレも戦うの〜?」
「今回は仕方無いだろう」
「今回も!だよ…」
「あたしは賛成だ。黒鳶……あたしの仇かも知れない」
「アハッ、仇ですか」
「あんた…さっきからあたしに何の用だ…!」
「特にありませんよ。名前でも名乗りましょうか?"カエデ"です」
「おや?きみの名前は…」
「カエデですよ、カエデ。葉っぱの名前、良い名だと思いませんか」
「名前なんかどうだっていい!ふんっ」
これでも譲歩している方だと目で訴えるリゲルにならば此方も、とリオンは前に出た。霊族と聞いた時点で黙ってはいられないので彼が参戦する事は見据えた上での譲歩だ。心配する天音を安心させようとするが、言葉足らずは相変わらずで余り効果が出ているとは思えなかった。
リュウシンとティアナは意気込み、スタファノは少々後ろ向きな溜息を漏らした。彼に構わず、ティアナはやる気を満たそうとしたが思わぬ方向から水を差される。カエデ、と聞きもしない名を名乗った糸目の男は楽しげにティアナに絡む。絡まれる筋合いはない彼女は無視を決め込んだ。
「セイル君も自己紹介したら?」
「!」
「大丈夫だよ」
「ボクは…この男に名乗るくらいなら死んだ方がマシだ!!」
「なっ!?」
「駄目だったか…」
皆が条件を飲んだのを確認するとシオンは徐ろに声を投げた。リゲルの側に居る青年の名はセイル、呼ばれると思っていなかった彼は素直に驚く。七幻刀の中で名乗ってないのは彼だけだ。素性が分かれば多少の接し方や距離感を把握する事が出来ると思い、彼の声に耳を傾けたのだが…。
予想に反してぞんざいな態度を示した。リオンを指差し、乱暴な言葉で纏める。風に吹かれフードが外れようとも構わずただ一人を睨む。
「リゲル様すみません。ボクはまだ許せません」
「私の時代とは違う。考える時間は長く続く。答えを急く必要は無い」
「失礼します……」
青系統の瞳、同色のパッツンとしたボブヘア、左横髪のみ僅かに淡色のセイルはリゲルに断りを入れて去って行ってしまった。セイルの行動にリオン達は呆気に取られるが七幻刀は別段大した反応も見せない。ほんのり口角を下げ、目元を細めただけだ。
「あのセイルってやつ誰なんだ」
「ん?リオンも知ったらきっと驚くよ」
「…説明になってねぇって」
指差し指名されたリオンはと言うと、状況が飲み込めずシオンに説明を求めた。自分はセイルの顔を見ても見ず知らずだが相手は違うようだ。
意味深に説明を放棄したシオンに対しても怒りたいところだが、今日はよそう。
「それじゃ我ら七幻刀の住処に案内しよう」
「……」
無事と言えるかは微妙な落としどころだが話し合いも一息付き、ピオは不敵な笑みを浮かべた。セイルが去った眼下の建物が七幻刀の住処だ。
一同は雪山で冷えた体温が戻らぬ内に再び霊族と戦う事になる。緊迫した空気は薄曇りの空へ吸い込まれていった。
(ひーふーみー…あれ、七幻刀なのに六人?)
ひと匙の謎を残して。




