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星映しの陣  作者: 汐田ますみ
ドラグーン編

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第89話 邂逅

 あっという間に明日はやって来た。来てほしくない明日ほど早く来てしまうものだ。


「んじゃ世話になったな」

「お世話になりました!ありがとうございます!」

「お礼を言うのはコッチだっての」


 素直に頭を下げたのは天音とリュウシンの二人のみで後は適当に傍観していた。救け助けられ、の関係は今日を以て解散となる。少々寂しいが此れは彼等の為でもあるのだ。ドラグ家は一般に知られてはならない秘術を扱う一族、矢鱈めったらに関係を築いては隠れ住む意味が無い。


「リオン殿、この御恩は生涯忘れません」

「大袈裟な奴だな」

「ほんと私達だけだったら守り切れなかった。ありがと」

「あたしも漸く探してる男の手掛かりを掴めた」

「僕も今回の戦いで強くなれたような気がするよ」

「みんな真面目だね〜。あ、オレの事は何時でも思い出してくれて良いからね!愉しい思い出が欲しかったら相手になるよ。…あれ無視!?」


 ティアナはマーシャルとの戦いを通して復讐の重みを再度確かめられ、復讐相手である大男の素性を一部知る事が出来た。また、黒鳶と戦うには力不足だとも悟った。

 リュウシンはホプロとの風対決で一皮剥けたと感じていた。彼の憧れの人は何時だって彼を勇気づけてくれる。然し満足は出来ない、リュウシンもまた強くなろうと前へ進む。


 スタファノにとっては嫌な戦闘だったかも知れない。ヒーラー役以外の出番など考えたくなかっただろうが彼にしては頑張った方だ。だが、攻撃技も紡がれた台詞も残念ながら誰も見ていないし聞いてもいない。


「良い?エリサーナに会ったら」

「嗚呼宜しく言っとく」

「言っちゃ駄目!!」

「は!?」

「エリサーナが余計な心配掛けられない。だから絶対言わないで!分かった!?」

「分かった分かった」


「天音……元気でね」

「イリヤさんも皆さんも元気で!」

「リオンの側についてあげてね。きっとそれがリオンにとっての当たり前だから」

「…うんっ」


 オリヴィアと双子のエリサーナは昔と変わらず血を好まない性格なので今回の件は他言無用だ。彼女が知ってしまったら心を痛めるに違いないと双子の妹はリオンに釘を刺す。彼がオリヴィアの注意を適当に受け流している横で天音とイリヤが別れを惜しむ。


 友達のような過ぎたライバルのような関係に落ち着いた二人は笑い合う。恋情を知る者通し親近感が湧くのだろう。

 まだまだ伝え足りないが、チラチラ小雪舞う雪山で立ち止まっていては凍えてしまう。カシワとリオンが無言で頷いたのを最後に、皆は歩を進めた。



(……私の力は止める力。だけどロッドもロスちゃんも救えなかった。…たとえ一本道だったとしても幸せだったとしても、私が肯定したらいけないんだ。目の前で消えてしまう命を王様が肯定したらいけない。……問題はソレだけじゃない)


 ロッドとロスは自ら運命を決めた。ロスのアスト能力は代償変換、ロッドのアスト能力は運命共同体、出逢った二人が行く先はどうしたって天音とは違う道になる。

 王として、なんて大層な考えは端から持ち合わせていない。只、王族の血が流れる自分が二人の選択を認めてしまったら誰にも顔向け出来ないような気がした。


 二人を思い出し、ロッドから受け取ったロスの日記の存在を確かめる。ココに記されているのは五人の中で自分しか知り得ない真実。何時か向き合わねばならない真実。天音は人知れず、決意を改めた。


――――――

 そう小雪が降っていた。チラチラ、チラ見されているとも知らずに彼等は下山しようとしていた。


「…!」

「この気配、…チッ」

「どうかしたの?」

「天音、下がれ。いや天音だけじゃねぇお前等全員下がれ…!」


?「勘、鋭いね」

「この人……確か黒鳶」

「霊、族…!?」


 最初に気付いたのは矢張りスタファノだ。長耳に流れてくる情報の多くは些細な音だが時折、厄介と出合う。思えば最初にドラグ家の窮地を聞いたのもスタファノだった。

 彼の様子が可笑しいと察したリオンは周囲に巡らした神経に加え、アスト感知を行った。質の違うアストが引っ掛かり方角を合わせる。足の向きを変えた事でリオンとスタファノ以外にも異変が伝わり、空気が淀む。


 女性の声が聞こえた。上空からゆっくり降下する彼女は、灰桜色のツイン縦ロールに暗紅色の瞳を冷ややかに細める。ドラグ家襲撃の首謀者の内の一人、リゼット・クロセルが地面に降り立つ。

 冷血なオーラを纏わせるリゼット、彼女が黒鳶だと認識したのは出遭って数秒後の事だった。


「俺がやる」

「また勝手に、…」

「アルカディアに雪は降らない」

「はっ?」

「アルカディア国土はメトロジアの10分の1」

「何の話だ」

「他に知りたいことある?黒鳶の真の実力、なんてどう?」

(会敵しただけでも十分分かる……僕達では絶対勝てない…っ)

「総てはアース様の御意のままに」

「……お前等今すぐ天音連れて逃げろ…ー!」

「リオン!!!」

「天音ちゃん、ここは逃げるんだ!」


 格が違う。リゼットが彼等の前に姿を現した時、実力の半分も出していなかったのだろう。影が薄いのを良い事にリゼットの真なる力量を見て見ぬ振りをした。現在、彼女は本気の殺意を皆に向けている。浴びるような殺意は一瞬にして、心臓を握り潰される錯覚に陥れた。

 視線を霊族から離さずリオンは命令口調で天音を逃がせと頼んだ。天音の腕を側に居たスタファノが掴み、リュウシン、ティアナと共に走り出した瞬間、始まった。


「〈法術 離れ難き心(ブリザードテザー)〉!!」

「ーーッぐぅっ…!!!」


 絡み付く吹雪、強烈な法術を真正面から受けた理由は二つ。一つ、背に天音が居たから。二つ、思考が定まる前に眼前に迫ったから。

 初っ端に大技が来ると事前に予測を立てていたリオンは堅苦しい思考を追い出し盾変化で法術を受け止めたのだが、捌き切れずに出血を伴うダメージを負った。


「いや…、っリオン!」

「気に入らない。星の民が霊族に向ける目が気に入らない。何その目、自分達が被害者みたいな目で見つめちゃってまぁ…正義ヅラのつもり?」

「霊族こそ何企んでやがる」

「……知らなくて良い事を知ろうとしないで。アース様ほどの懐深き御方が、どれほど星の民に失望したことか…!」


 冷血、の中に潜む感傷は厭にこびり付き膿となる。星の民の知らない過去を霊族は憶えている。語るも語らぬも自由、感情のままに吐き出してしまえたら均衡と言う名の天秤は双方の重さに耐え切れず決壊してしまう。

 リオンと対峙するリゼットは抗いようのない現実で過去に縋った。


――――――

―回想―


 此れは和睦が締結されるより少し前の話。


「はぁ…憂鬱」


 やる気の無い溜息を零す少女はリゼット・クロセル。現在よりあどけなさの残る少女は憂鬱な気分を紛らわす様にグラスの飲料を一気飲みした。


(夜会なんて来るんじゃなかったわ。招待を受けたのは私じゃなくて両親。私に代役が務まると本気で思っているの)


 本日、アルカディア王国では夜会が催されていた。夜会に限らず、アルカディアでは定期的に良家同士の交流を目的とした会合が行わている。招待を受けるのは無論、良家と名高い貴族の者達。

 リゼットは貴族の娘として月夜に姿形を取り繕う。髪色と対照的なドレスに着せられ咳込む厚化粧を施され、両親の代わりに出席した。本来なら学校に通っていても可笑しくない年齢である事もストレスの一因を担っているが、彼女が心底下を向きたくなる理由は一つ。


「クロセル家のお嬢さん、ごきげんよう」

「ごきげんよう。ラッセル様」

「あら、お一人?ご両親は来てませんのね」

「えぇ。お忙しいようで」

(社交辞令なんて大っ嫌い。言葉遣いを堅くしただけじゃ壁を作ってるのと変わりない)


「それは残念ですわ。今晩は国王陛下がお見えになりますのに」

「それで黒鳶の方もいらっしゃっていましたのね」

(戴冠間もないうら若き王……。どうにかして取り入ろうとする皆と違って私は興味無い。アース様、とかって言ったっけ?アース様も玉座にふんぞり返ってれば良いのに態々ご苦労様)


 上辺だけの社交辞令で微笑み合う行為そのものがリゼットとって苦痛であった。冷めた自分にすらも嫌気が差す始末で、今すぐ天蓋ベッドに潜り月夜とおさらばしたい処だが、他所の貴族ラッセル家に話し掛けられ叶わなかった。

 クロセル、ラッセルに始まり貴族階級の良家は"セル"の単語が含まれている。姓を聞けば貴族か、そうでないか判別出来ると言う訳だ。


 ラッセル家の嬢はリゼットより歳上で並び立つと姉妹のようにも見えてくる。ラッセル嬢は最後まで微笑みを崩す事無く、挨拶を終えるとクロセル家とは別の貴族の元へ寄って行った。

 本当の意味で一人になったリゼットはぼんやりと霊族の王について見聞きした情報を整頓した。興味ないとは言いつつも相手が相手なだけに舐めた態度は取れまい。況してや、王の居る場で溜息など有り得ない。未だ姿の見えぬ王に対する愚痴を呑み込み、リゼットは端へ移動した。


「聞きました?クロセル家のこと」

「勿論。奥様が不義を働いたとか……」

「イヤですわ。まさか一人娘のリゼット様も不義の末に……?」


「…っ」

(勝手なこと言わないで)

「道理で奥様によく似てらして」

「彼処は土地も狭いですわ、貰い手が現れると良いですわね」

(これだから来たくなかったのに……)


 何処ぞの夫人は子供であるリゼットに対し、寄って集って蔑みの目を向ける。別段リゼットが嫌いだとか対抗心があるとか、そう言った理由がある訳ではなく、単なる暇潰しだ。一定の地位や権力を有する彼女等は貴族社会で右往左往しているリゼットを侮蔑する事で甘い蜜を啜る感覚を味わっていた。自分は正しい、自分は目の前の女より強い立場にあると、目の前の女に確かめさせている。


 目立たない端へ移動したのに悪意は降ってくる。貴族で良かったと感じた事など一つもない彼女は悪意から逃げるように退出しようとしたが、逃れられなかった。


「ごめん遊ばせ。フフフ」

「ーっ」

「まぁ!みっともないフフフ」


 下に沈んだ視線が、水気を感じ取りバッと上がる。先程リゼットの耳に届くように甲高い嫌味を垂らした夫人が行動を起こした。夫人の取り巻きの一人がリゼットに近付き、態とグラスに入ったワインを傾けた。ワインを被ったドレスは赤々と染みを広げ、裾を重くした。


「お嬢様にはワインは早くってよフフフ」

「そうですわ。月明かりが薄汚れを照らす前に退出なさる事ねフフフ」

(もういや。……出て行こうとしたのを知ってて近付いたクセに)


 それが例え故意であろうが無かろうが傷付いた心は戻らない。惨めな姿を見られ見る間に真っ赤に染まる顔面は涙を垂らさぬよう堪えていた。ここで泣いてしまったらそれこそ恰好の餌食だ。自分がすべき対応は微笑みながら穏便に退出する事。


 周りの目を見ずに微笑したリゼットだが、

?「失礼」

「ーー!」


 其の御方は月夜の晩、颯爽と現れた。

 リゼットの肩に羽織りを被せ染み部分を隠すと其の人は大胆にも彼女を横抱きにした。突然の出来事で困惑するリゼットは抱き上げた男性を見つめた。

 煌々とした金の双眸は宝飾品ですら嫉妬し、月夜に映える赤色の長髪は一つに結ばれサラサラと肩に流れる。端正な顔立ちが此方を見つめ、色艶のある唇を開いた。


「これはこれはクロセル家のリゼット嬢。今宵は酔が回りやすい、芳しいドレスに身を包む貴方に酔ってしまいそうだ。然し陰りを知らぬ三日月は貴方が恋しくて一等煌く。私の元へおいで、三日月を落ち着かせる装いを共に選ぼう」

「っ…その私、…あなたは……いいえ貴方様は」


「遅れてしまって申し訳ない。私は先日即位したアルカディア王、アース。どうだろう皆の者いっそのこと着飾りを変えると言うのは。全員分、責任を持って私が取り仕切ろう」

「アース・アルカディア様………」

「不安にならなくて良い。無理に笑わずとも良い。リゼット嬢の映る世界が陰ってしまうではないか」

「…ーーっあ」


 肩に触れる手が熱い。男性の正体は霊族王アースだった。胸中の不敬などアースは知らず、流れるような呂律で悪戯に笑う。興味の欠片も無かった国王陛下の熱が伝う夜中、冷めた心根が上昇していくのを肌で感じる。

 別の意味で顔面紅潮し、心臓が早鐘を打ち血液を運ぶ。アルカディアの王様は聖人君子すら足元に及ばぬほど人格者であり慈愛に満ちていた。


 熱が熱い。冷まさなければ。熱い熱い。このままでは絆された熱が体内を巡り溶かしてしまいそう。……冷まさなくては。


「アース様…リゼットは……リゼットは…!」

「ん?」

「溶けてしまいそうです――!」

「アース様退避を!!!」


 冷めた熱がリゼットの全身を覆い突発的で莫大なエネルギーを生み出した。それまで事の成行きを見守っていた黒鳶が異常事態になると判断し声を荒げる。黒鳶より先にリゼットが速かった。


「これは」

「愛、です」


 部屋一角のみならず、建物全体が凍えた。建物が凍り付いたと言う事は中の人間も相当寒さで震えている事だろう。阿鼻叫喚が一切耳に入らないリゼットは雪帽子を被ったアースに愛を伝えた。物理的に熱は冷まされたものの、後先が思いやられる。


 これがアースとリゼットの出会いであり、彼女のアスト能力覚醒の瞬間でもあった。

 アルカディアに雪は降らない、後で知った雪能力は国にとっても貴重な現象であり、彼女自身も愛の結晶を受け入れ高めた。


―――


(私はアース様を愛してる。慈愛の王は玉座に留まらず、暇を作り民に手を差し伸べた。国王としての光と威厳が混ざり合いアルカディアに降り注ぐ度、私はアース様に恋を重ねた。黒鳶の席に座ったのはそれから間もなくの事)


 恋は人を強くも弱くもする。リゼットは僅かな隙間を見つけてはアースに近付いた。自分だけを見てほしくて愛の結晶を強固なものにしていった。


(けどね、アース様(貴方)には"大切な人"が居るって知ってるの。掛け替えのない女性(ヒト)と見つめ合う瞳が何よりも大好きだから黒鳶の私はアース様の大切を護る)



 ―.星の民が大切を壊した一夜戦争を私は忘れない。一筋の涙が開戦合図だ。封印術が霊族を闇に嚇すまで私は戦い続けた。

 それから月日が経ち途切れた意識が戻る。


「リゼット目覚めたか」

「アースさ…!!ーっま…?」

「黒鳶に命ずる。メトロジア王族の血筋を手に入れる時だ」

(なんて、冷たい)


 封印が解かれて間もない頃、状況が分からず辺りを見渡した。なんだ、アース様が居るじゃないか。駆け寄る前に此方を振り向き目が合う。瞬間、言い掛けた名を呑み込んだ。

 慈愛の熱は、柔しい優しい笑みは、何処へ消えた。酷く冷たい目は他者を蔑む目。あの日の嘲笑から守ってくれたではないか。何故に同じ目をする?


(星の民か。……星の民がアース様を変えたのか。赦さない、赦してなるものか)


―回想終了―

――――――

 現在軸。リオンと相対したリゼットは冷ややかな目で星の民を蔑んだ。


「今の一発で酷い怪我、アース様は生け捕りと命じたから生かすけど、本来ならあんただって同罪」

「ざけんな〈法術 …!」

「遅い」

(何時の間に?!)

「〈法術 豹の懊悩(ヘイルクラッシュ)〉」

「がっ!?」


 倒れる訳にはいかない。血が流れようが構わずリオンは守りから攻撃に転じた。地を蹴り目の前で隙を見せるリゼットに水龍斬を叩き込もうとしたが、不発に終わる。リオンが目で追えないほど俊敏に雪を巻き上げると、次の瞬間には背後を取っていた。

 更にリオンが振り返るより先に法術を放った。背に触れた右手が繰り出す法術ヘイルクラッシュは凝固された雪の結晶を放出する技だ。雪の結晶と言っても正体はアストなので当然、殺傷力は存分にある。


 背に雪の結晶マークが現れたと認知した一秒後、尋常でない痛みが全身を襲い血飛沫が飛ぶ。気が付けば自分の身体は数メートルぶっ飛ばされていた。ゼロ距離攻撃は矢張り堪えるが執念でよろける身体を立ち上がらせる。


「まだ立つんだ」

「霊族、帰って王様に伝えろ。俺が二種族の争いを必ず終わらせる。と」

「〜〜!謀を立てたのはどっちだ!?」


 立つのもやっとの状態で絞り出した言葉はリオンの矜持と信念。血に濡れた指差しはリゼットの地雷を踏み抜き、怒りを爆発させた。殺してしまいそうな勢いでトドメを刺そうと再度リオンに接近する動きを見せた。



 邂逅とは思いがけない出会いを指す言葉だ。当に邂逅と呼ぶに相応しい瞬間が訪れた。


?「きみは休んでな」

「ー!」

((何者だ―!?))

「お前は……」

「…フッ」


 音も無く背後から現れた男はリオンの肩に手を置くと軽々しく飛び越え、彼の前に着地した。リオンとリゼットの間に一線を画すように、右腕を上げ真横に伸ばす。囁くような声は新雪に似た柔らかさを持っていた。

 フードを深く被り面を見せぬ青年の登場でリオンを含め、天音達も戸惑い立ち止まった。


「星の民。……あんた私達を視てた奴ね。…いいやあんた達か」

「……」

「なにっ!?」

(コイツら、どっから湧いて…)

「その態度気に障るなぁ。これ以上私を苛つかせないで」


 リゼットには彼等の存在が視えていたようで、言葉を切ると同時に視線を改めた。眼前に居るフードの青年と同様の外套を羽織った数名が意識外から出現する。

 1名、2名、3名、と雪上に次々足跡を残して現れたフードの集団は真っ向からリゼットに敵対視し、牙を向いた。


?「霊族。大人しく退いてくれると余計な血が流れずに済みますよ」

「あらそう。知らない」

?「対話は無駄。腕尽くで退かせるのみ」

「誰だか知らないけど霊族の傷み、刻んであげる〈離れ難き心(ブリザードテザー)〉」

「〈法術 疾風回旋〉」


「風使い…!」

「!」

(相殺された……星の民如きが!)


 最初にリゼットに挑んだのは2名。フード集団の目的は霊族を退かせる事にあるらしく、リゼットがこの場から消えるのを望んでいた。駆け出した勢いでフードが剥がれ露わになった中年層の男性は糸目を怪しく釣り上げニヒルに笑う。


 星の民の願いなど到底聞き入れる筈もなくリゼットはブリザードテザーを広範囲に放った。彼女の得意技であり、初めて発現した能力でもある。

 ブリザードテザーに対応したのは口元までマフラーで覆い隠す青年層の男性。中性的な見た目で男女の区別など付かない彼は疾風回旋を繰り出した。その名の通りの超広範囲技がブリザードテザーと衝突し、双方消失した。


「おっと、お隣がガラ空きだ」

(…っ!並の人間には出来ない類の所作。…)

「黒鳶と並ぶつもりかッ!?アース様の脅威となるなら今ここで殺す!!」


 相殺直後、マフラーを巻いた青年の背後から糸目の中年男性が飛び出し間髪入れず回転蹴りをかます。リゼットは盾変化で防ぐと見せ掛けて左手で大技を放とうとしたが、相手に気付かれる。彼は蹴りの勢いを落とさずにリゼットの眼前で一回転しながら着地し距離を取った。

 空中では受け身は取れまいが回転蹴りの勢いを利用する事で無理やり身体を捻り隙を失くした所作は、正しく熟練者のソレで眺める事しか出来ないリオンは息を呑んだ。


「〈法術 逆さ氷柱〉ー!」

?「悪い子」

(これも防がれた!?)

「いいや防いでいない。ただやり過ごしているだけだ!〈豹の懊悩(ヘイルクラッシュ)〉」


 手札はまだ残っている。法術 逆さ氷柱は地面から二等辺三角形の氷塊が無数に剥き出し攻撃する技だ。フード集団はいざ知らず、天音達にも被害が想定される攻撃技に対応したのは、少し離れた位置で静観していた兜を被った女性だった。彼女だけは唯一フードをしていないが、素性は変わらず謎のままだ。

 兜の女性が一言呟き、足先でトンと地面を叩くと地中から数多の植物がうねりながら出現し、氷塊に巻き付いて折った。


 恐らく地属性の能力だと推測されるが、それにしたって桁が違う。だが、桁違いに関して言えばリゼットも大概なもので彼女は折られた氷塊をヘイルクラッシュに巻き込み、一面に放った。


「黒鳶序列3位の実力を見誤るな!!私の身体は掠り傷すら許されない」

(来る…!)

「天音!!」

「きみは休んでなって」

「!」


「リュウシン!」

「ぐぅ……!」

(一発でこれほど重いとは…僕の力じゃ)

「生け捕りに、とは仰っていたけど無傷で、とは命じられていない」


 数を数えるのも億劫になるほどの攻撃に其々が対応する。フード集団の内、盾変化を使用したのは2名。リオンの目の前に居る男性と糸目の中年男性のみ。前者は緑、後者は赤色の盾で氷塊を打ち落とす。盾変化を使わずに往なしたのも2名。マフラーを巻いた青年が風を纏わせ吹き飛ばし、兜を被った女性が先程出現させた植物でほぼ全てを叩き落とす。


 一方で天音の元にも氷塊が迫っていた。この際、無傷は諦めたらしいリゼットの固執がフード集団を通り過ぎたが、天音を守るように前に出たリュウシンが受け止めた。

 受け止めたのだが、余りにも重い一撃に数秒と経たずに盾は割れた。平然と往なすフード集団の実力が知れないなどと考えてる場合では無い。


「〈法術 水龍斬〉ー!」

「休んでなって言ったのに」

「…っ助かった」

「チッ。一発防いだ程度で良い気になって……私に敵わないの分からない?そう分からないのね。分からせてあげるわ……!!!」


 動けない、動いてはいけないと自覚しているがリオンは動いた。理性で抑えられるなら最初からリゼットと戦おうなどとは考えない。リュウシンが稼いだ僅かな時間で水龍斬を発動し、氷塊を潰したが傷口は益々開いてしまった。

 堪らず片膝を付いたリオンの肩にそっと触れた天音はフードの青年男性の変化に気付く。まるでリオンが飛び出すのが分かっていたかのような面持ちでほくそ笑んだ彼は片手を下ろしリゼットを見据える。


 否。リゼットに近寄る影と十数メートル先に居る影の二つを視ていた。


?「ここいらが引き際だ」

「!」

(この男、ジャックの…!!レオナルドまで)

「……ヴォルフおじいちゃん」

「離せっ!」

「冷静さを欠いているな。彼等全員と対峙するには少々、分が悪い」

「ク……星の民、忘れない事ね。私は絶対お前等腐れ外道を赦さない」


 人影一人目はジャックの部下と偽りメトロジア王国へ来ていたヴォルフだった。家族想いの彼は欠けコインを使って不器用ながらも孫ホプロと孫同然のマーシャルに教育した。星の民側でヴォルフの素性を知っているのは実際に戦ったスタファノだけだ。故に一声反応をした。

 ヴォルフが何をしに来たのかと言うと、リゼットを退避させる為だ。敵対しないと察知しフード集団は敢えて見逃す。


 人影二人目はレオナルドだ。視覚では認知出来ない位置取りを見つけ、待機していた。中立的な立場になりつつある彼は苛立つリゼットを連れたヴォルフと片目を合わせ、忽ち姿を消した。レオナルドの存在を察し、彼のアスト能力が発動すると直感したリゼットは、彼女にしては安い捨て台詞を吐き何処かへとテレポートした。


「突然消えるなんて…まるであの時の……」

「霊族の気配は完全に消えた。それより」

「そうそう警戒していたら気力の無駄使いですよ」

?「警戒されるくらいが丁度良いと思いますがね」


 後に残った人物は、星の民。リオンら旅人と謎のフード集団。霊族が去った今、旅人の警戒は一箇所に集まり行く彼等に注がれる。姿を見せた4人は勿論、何時の間にやら増えた2人を含めて6人が揃い踏む。

 辺りに只ならぬ緊迫感が漂う中、吐血混じりに息を付いたリオンが彼等の正体に一手踏み込んだ。




「お前達は……まさか―――!」

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