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星映しの陣  作者: 汐田ますみ
ドラグーン編

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83/123

第83話 リオンVSジャック

 時はリオンの欠けコインが光る数刻前に戻る。


「ホプロよ」

「ヴォルフさん……」


 決着を終えたヴォルフが意識のないマーシャルを背に担ぎ植物群落広がる地に足を向けた。アスト感知の通り、そこにはホプロが居り仰向けでヴォルフを見上げていた。


「痛みは感じるか?」

「…分かりません」

「そうか。…立ち上がれホプロ、前へ進むのだ」

「はい」


 痛覚は戻っていないとホプロは感じていたが、僅かな沈黙が彼の心に引っ掛かりを覚えさせる。微細な変化にヴォルフは霊族の戦士からホプロの祖父へと表情を変え、彼を立ち上がらせた。


――――――

 現在軸。光筋に従いジグザグ道を進むリオンの前に長身長耳の男がフラフラっと現れる。


「やっほ〜〜」

「ん?何してんだこんな所で」

「別に〜?」

「用がないなら俺は行くぞ」

「用…か」

「…何か聞こえたか?」


 何処まで行っても自由人なスタファノはリオンを見つけるや否や気紛れに声を掛けた。彼の気紛れは今に始まった事ではなく日常なので大して重要視していないが、どうにも様子が可笑しかったのでリオンはついつい立ち止まった。


「…。そんなんじゃないよ〜オレ負けちゃったからね。キミは絶対勝たなきゃいけなくなった…それだけを伝え来たんだ」

「勝つ予定だ。気にすんな」

「!」


 陽気過ぎる声音でリオンが勝たねば後がない事を唐突に伝える。一瞬目元が陰ったように見えたが気の所為か、何やら言い淀んでいるようにも感じていたがリオンは態々尋ねたりしない。にっこり笑みのスタファノの頭を擦れ違いざまにトンと叩き、戦場へ向かった。

 リオンの行動が予想外だったのかスタファノは見えない角度で目を見開くと足元に視線を落とした。彼の耳は今でもピクピク動いていた。


――――――


「やっと会えたなジャック」

「ヌハハハハッ!!リオン!!その力頂こう!」

「頂かれねぇよ。火龍の力も今すぐ捨てろ」


 光筋の終着点にジャックは居た。堂々と腕組みをして仁王立ち状態でリオンを待つ彼は再会するなりいきなり倫理観の欠如した宣言をする。丁度良い、殴りやすくて助かる。


「この時を待ち侘びたぞ」

「待ってたのはコッチだ」

「見よ!!〈法術 ジャックランタン〉!」


 徐にジャックランタンを発動させる。彼の法術は攻撃技ではなく、あくまで力を蓄積し放出させる法術だ。使いようによっては攻撃にも使えそうだが、空中に浮かんだ七つのランプをジャックは力を得る為だけに使用していた。

 七つランプには現在火龍の力が蓄積されており、6.5ランプが満杯になっていた。リオンへ見せ付ける為に発動したのでなくランプに入ったアストを自身に取り込む為に発動したのだ。リオンは敢えて見過ごす。


「準備は整ったか?」

「ヌゥ?余裕そうだな勝利を確信した、と言った顔だ」

「ちげぇよ。……てめぇをぶん殴りたくて仕方ねぇって顔だ…!ドラグ家の分、火龍の分、そんで俺の分、最低でも三発入れないと気が収まんねぇんだよ!!よく覚えやがれ〈法術 水龍斬〉……ッ!!!」

「そうこなくてはなぁぁっっ!!!」


 1.5ランプに蓄えられたアストがジャックの身体に吸収され、火力が何倍にも跳ね上がる。足元の雪が余りの灼熱に溶け始めていきその様子はまるで逃げ惑っているようだった。

 リオンは静かに闘志を燃やす。大将戦の自覚もあり霊族に対する怒りもあり、様々な思いが含まれた闘志が今雪山に放たれる。


 ランプが消えると同時にリオンが先制攻撃を仕掛けた。右腕に水属性のエフェクト、水龍斬が現れジャックを喰らう勢いで駆け出したのだがジャックもまた一秒満たない内に地を蹴り、リオンを喰らおうと拳に火球を灯す。

 既に先制攻撃の効力は消えており、先んじて走った意味がなくなってしまったがリオンにはどうでも良かった。


「はぁぁっ!」

「温いわ!!!」

「なっ」

「喰らってみよ!火龍の底力!!」

「がっ!?……まだまだ……火龍の力はこんなモンじゃねぇぞ!!!」

「ヌゥゥッ!」


 真正面から、ではなく正面から向かってくるジャックの拳を既のところで回避すると上体を沈ませ懐に水龍斬を叩き込む。ギリギリまで引き付けてから避けた後、攻撃する事で防御する時間を奪おうとしたが作戦は失敗に終わる。

 自らの懐へ入られたと脊髄反射で反応したジャックは盾変化で水龍斬を的確に防ぐと盾ごとリオンに鉄拳を喰らわせた。火龍の力が籠もった拳は通常の何倍にも威力が上がり、リオンを吹き飛ばした。懐に入った事が逆に鉄拳をモロに喰らってしまう羽目になったがただでは破られないのがリオンだ。


 空中に投げ出された身体を無理矢理捻り、標準を合わせると水龍斬の斬撃を放った。当然ジャックはこれを回避するが、避けた位置には既にリオンが着地している為、一度は当たらなかった攻撃が見事に当たった。


「…態と受けやがったな」

「ヌハハッ。して、生温い中途半端な水龍継承者よ。今の一発は誰の分だ?」

「そう焦んな。今にドデカイの喰らわしてやるよ。ビビって避けんじゃねぇぞ」


 眉がピクリと動く。攻撃は当たったものの僅かに違和感を覚え、険しい顔付きでジャックに問う。隠しもしない彼はリオンを無駄に煽り、精神エネルギーの源であるアストの流れを揺がそうとする。昔のリオンなら挑発に乗せられていただろうが今は違う。精神は揺るがない。雪山ドラグが戦場であるなら尚更に。


「ではでは火龍の力存分に使わせてもらおう!はっ!!」

「ー!〈法術 瀑布深水龍〉!!」

「ぐぬっ…!そう来るかァならば!」

「っこの熱風………」

「このまま骨の髄まで焼き尽くしてくれるわァ!」

「だったらコッチは深海まで沈ましたらァ!!」


 挑発が効かないとなると矢張り選択肢は攻めに限る。周囲の雪を灼熱で溶かしながらジャックはリオンに迫った。避けるのかと思いきや今度はジャックの攻撃をリオンが態と盾変化で受け止めて見せた。勢い有り余る一発は全衝撃を吸収し切れず、ズルズルと立ち位置をズラされたが大した問題ではない。

 至近距離からリオンは瀑布深水龍を発動する。瞬間的に全身を水バリアで覆い多数の斬撃を飛ばす。幾ら火龍の力を得ていようが近距離では攻防一身の法術を躱す事など出来ない筈だとリオンは確信したがジャックは熱風のみで対処してしまった。


 只の熱風ではないのは重々承知。斬撃を焼き尽くす威力の熱風はアストの膜のようなものだ。原理としては法術より盾変化の方が近いだろう。

 リオンは一度似た感触を味わった事がある。百年前の戦が始まった日、アレンとリオン二人を相手取ったアースが行った風発だ。百年前はノーマル状態のアストを放出したに過ぎないが今回は火属性の、挽いては火龍の風発なので必然的に殺傷力の伴われた熱風に変わる。


「「はぁぁぁっー!!」」

「ヌハッハ」

(盾が保たねぇ…!)

「火龍の熱射砲!!」

「〈水龍斬〉!」


 互いが互いに喰らいつく。瀑布深水龍と盾変化、二重で防御し斬撃も幾数放たれているが押されているのはリオンだ。盾の強度耐性の限界が来て一つ二つとヒビが入る。二重防御の一つである盾が砕かれてしまえばこの勝負ジャックが押し勝つだろう。

 ヒビが三度入った瞬間、狙い澄ましたジャックが片手で熱射砲を放つ。熱風の比ではない火力と貫通力を併せ持つ力は生温い盾を容易に砕き、本体を焼き尽くそうと迫る。


 盾にヒビが入った時からリオンは次の一手を画策していた。熱射砲はジャックの拳から繰り出されている。つまり此方も拳を繰り出すまで。瀑布深水龍を解除し、水龍斬で正面から迎え撃つ。

 火力を水圧が衝突し力の中心部で水蒸気の突風が吹き荒れる。水蒸気と言ってもアスト由来なので当然人体に触れれば傷も付く。リオンは頬にジャックは肩に其々細長い擦傷が刻まれ、同時に距離を取った。


「火龍のストックはまだまだ有るぞ。趣向を変えるのも面白かろう…!!」

「!…火で火龍を」

「再現された火龍と闘ってみよ」

「何処までも舐め腐りやがってッ!」

「ヌハハハハ!!どう対処する!?」

「んなモンまとめてぶっ飛ばすだけだ!!〈法術 海廻天水龍〉」

「ヌォッ!!…良いのか?無駄撃ちでアストが随分と減ったのではないか?」

「無駄じゃねぇ」


 趣向を変えたジャックは頭上に火球を集め肥大化させていくと徐々に火球の形状を変化せていき遂には火球が火龍の姿へと模られた。火龍の力から生まれた火龍の塊は、間を置かずに取った距離を縮める。

 ジャックが火龍を見たのは水晶石で力を強奪した時だ。苦しむ声に耳を傾けない彼に怒り心頭顕にするリオンは海廻天水龍を放つ。


 戦闘狂いのジャックが再現された火龍を出して自分は高みの見物を、なんて小賢しい真似する筈もなく火龍の塊と共に本人も闘う気満々で突っ込む。海廻天水龍は火龍塊とジャックが一列になった瞬間に跳躍し力の限り、宣言通りにぶっ飛ばした。頭上から降ってくるリオンを、両腕をクロスさせガードするが人はそれを直撃と言う。

 火龍塊は一瞬にして霧散し、辺りに火花を飛ばした。一方のジャックはと言うと上体が沈みながらも余裕の表情を見せていた。


「これが火龍の分だ!!!はぁっっ!!」

「グッッ!…!!」

「ふっ!」


 一発分では足りないのならと、リオンは海廻天水龍を一度緩め右手でジャックの腕を引き寄せると左手で再度法術を発動させ、顔面を殴った。火龍の分を入れられたジャックは少量の血を流し視界が傾いた。反撃される前に腕を離して距離を置く。二撃目は当たらないと判断したからだ。


「〈ジャックランタン〉」

「アストが減ってんのはそっちだろ!!はっっ!」

「ヌハハ若いなッ!!アストが減ったからチャージするのではない。より酔狂に一戦を愉しむ為に取り込むのだ!それに水龍の力を得る為に空けねばならぬからなァ」

(そして宝玉もな!!!)


 ジャックが笑うのは余裕から来るものではなく戦闘に滾りから来るものだ。勿論余裕もあるが、それ以上に戦闘が愉しくて仕方ないジャックは七つランプを出現させた。1.5ランプ分のアストが切れたのかとリオンは思ったが、実はそうではない。

 初っ端から七つランプ全て吸収したところで戦況は一方的になるだけで興は乗らぬ、とジャックは考えていた。リオンの実力を認めたからこそ彼はジャックランタンで更なる底力を開放する。


 3ランプを吸収する過程でリオンは飛び出した。一度目は敢えて見過ごしたが二度目は無いとでも言うようにジャックに斬りかかる。

 力と力の押し合いでは不利であったが雪上戦に於いては有利である事に変わりない。少年期に何度も駆けた雪山は彼にとって庭も同然。スピードではリオンが勝る。


 肌が焼けるような感覚を味わう。ジャックの間合いに入った証拠だ。会敵する彼もまた棒立ちする訳もなく、走り出す。スピードは矢張りリオンが一歩上だ。然しジャックは拳を振るうのに躊躇いは皆無で離れていようが構わず熱射砲を放った。


「っ…」

「隙有りッ!」

「そうくると思ったぜ」

「なぬ!?」


 熱に当てられ瞬きをした一瞬の内にジャックはリオンを視界から外れ背後に回っていた。彼の辿り道には焼かれた雪が地面に染みており、何処をどう通ったのか丸分かりだったが既に背後を取っているので然程影響は無い。

 瞼の上下運動が止められないと諦めたリオンは次にジャックの行動を予測し当ててみせた。自分から懐に飛び込んで来て助かった。

 ぐるりと右足を軸に半回転すると、身体を浮かして空中回転回し蹴りを決める。半回転する際の勢いを利用し、尚且つ身体を浮かせる事で力点を脚一点に集めた。


「ぐおっ!!!」

「そのまま……〈水龍斬〉!」

「ぬわ!?」

(これでもまだ倒れねぇのか)

「余所事を考えているな!?」

「ーーっがぁっ!?…なに、が」

「ヌハハハハッ!3つ分を一気に取り込んだのだぞ。見誤るでない。貴様が見切ったのはランプ1.5のみである事を忘れるな」

「くっそ…」


 決まらない筈がない。追撃で脚に水龍斬を纏わせ発動させた。ゼロ距離の法術は流石のジャックも分が悪く、回し蹴りを受け止めきれず後方に押し退けられた。渾身の一発だったが強靭な肉体を持つジャックはよろめいただけで倒れず、リオンの思考に雑念を植え付けた。


 カッと見開かれた両眼に火柱が映る。辿り道の焦がし痕から火龍の炎が上がり、唇を噛むリオンに向かって深い爪痕を残した。辿り道とは先程ジャックが通った焼跡であり、リオンは気に留めなかったが実は火龍の炎が焼跡に紛れ仕込まれていた。

 何方も血を流した。然し、リオンの方が倍近い量を流してしまっている。拮抗した戦力が崩れ始めていく。


(あの野郎移動に紛れて仕込んでたな…)

「倒れてもらっては困る。火龍の力はこんなモンでは無いのだろう!?」

(…地面が凍りついてる?)

「氷…?」

「余所事を考える暇は与えぬ!!!……!?」

「氷か…。懐かしい奴を思い出した…」

(水龍の力に氷を纏わせている!?)


 攻撃を受け初めて仕込みに勘付いたリオンは己の鈍さに苛立ち、眉間に皺を寄せた。戦略を練り直す最中に無意識に視線を落とした先、とある現象に気付いた。

 大勢の人間が知識として見聞きした事が有ろうアイスバーン現象。前日は降雪するほど冷え込んでおり、本日も気温は然程変わりない。液体が固体になる条件は満たしている。雪面にジャックの熱が加わり溶け出した雪が急激に冷え固まり氷となっていた。本来のアイスバーン現象とは少々発生条件が異なっているが、兎にも角にも目の前の現象を利用しない手はない。


 直立不動のリオンに大振りするジャックは直後に目を見張った。リオンが右手一本で拳を受け止めていたのだ。しかも水龍斬の型が凍りつき、状態が変わっていた。それだけに留まらず氷はジャックの拳をも絡め取ろうとしており、氷漬けになる前に距離を取らされた。


「ヌゥ…アスト能力は無いと聞くが……もしや天換か?使える者が居るとはな」

「……フッ」


 徐に外套の留め具を外し、放り投げる。口角を上げるリオンの脳内にはかつての演習場の会話が呼び起こされた。


――――――

―回想―


「〈法術 ソリッドソード〉これが俺の法術だ」


 約百年前メトロポリスの一角、演習場にて三人の男がいた。騎士長リオン、元団長ノーヴル、副団長レグルスの三人だ。三人が何をしているかと言うと、激務で寝不足のリオンを強制的に演習場に連れ出したノーヴルとレグルスが法術を披露していたところだ。

 ソリッドソードはレグルスの法術であり、氷の剣を出現させ彼は掲げた。


「氷?それがレグルスのアスト能力か?」

「いや違う。コイツは俺の体質だ」

「体質?」

「ノーヴル説明してやれ」

「言われずとも。人には属性があるのは知ってるだろ。そんでアスト能力も偶に発言する。だが、体質によってはレグルスのように水属性の技を出そうとすると氷属性になっちまう」


「アレンの平熱が俺より高いのも同じ理由か!?」

「そうそう」

「そして意図的に体質・状態を変化させる法術も実はある。それが天換法術だ」

「…俺に取得させる気だな」

「馬鹿で要領の悪いお前が何処まで出来るか知らねぇが取得出来るまで寝かせねぇから覚悟を決めろ」

「じゃレグルスと頑張って!天換法術は高等術だから早めに取得しないとぶっ倒れるぞ」

「なっノーヴル置いていく気か!?」

「おいこら待てこらおいノーヴル誰が行っていいと言った?あんたの能力のが近いだろッ!」


 天換法術の説明と共にリオンは知る。体質が属性に齎す変化を。此の世界の属性は四つしかないが十人十色の体質で属性は如何様にも増える。その一例がレグルスの氷だ。

 体質・状態を意図して天換する天換法術を取得出来れば騎士団長の株も上がるというもの。戦術は増やしておいて損はない。


 鬼の特訓が始まった。


―回想終了―

――――――


(結局、天換法術は取得出来なかったがコツは掴めた。外気が冷え切った今なら天換もどきで十分威力が出る…!)

「水龍斬・氷結バージョン!!」

「酔狂なり!!!」


 不器用なのか要領が悪いのか、リオンは天換法術の取得には至らなかった。そう言えば航海法術も人一倍覚えるのに苦労しレグルスにどやされていたような。

 さてさて兎も角、雪山の冷気に助けてもらいつつリオンは天換法術もどきを発動した。無事成功したのはジャックの高揚した笑みからも明らかだ。


 水龍斬・氷結バージョンは水龍斬を氷漬けにした技と言えば分かりやすいかも知れない。アストの消費も抑える事が出来、攻撃力も上がる一石二鳥の氷結を携えリオンは飛び出した。

 ジャックがリオンのそれを天換法術と断定したか否かは定かではないが狂気じみた笑顔で駆け出すところを見るに、戦闘が愉しければ何方でも良いのだろう。


「もっと見せろ……水龍の全てを!!!」

「てめぇとは戦う理由が違げぇんだよ!!」

「ヌハハハハ!怒れ怒れッ怒りは貴様から力を引き摺り出すッ!!」

「お望み通り受け取れ!!!!」


 刹那、時が止まる。スローモーションの如く時が進みリオンとジャックの右手に込められたアストが触れた刹那、激烈に針が回り時が正常に戻る。当人達が感じたスローモーションは静かなる緊張感だった。そして、瞬く間に破裂し激しく衝突し合う。

 息付く間もなく、氷結水龍斬で斬り込みを掛けるリオンは3ランプ取り込んだジャックの動きに追い付いていた。


 両手に纏った氷結水龍斬で同時に斬るが頑丈な盾で阻止される。ならばと一歩大きく後退し、ジャックが接近するより速く回転しながら氷結斬撃を飛ばす。死角を無理矢理失くされたジャックは氷結が人体に触れる瞬間を見計らって火龍の熱を体外へ放出する。もどきの威力は所詮、熱で消える程度だがリオンの双眸は一段とギラ付く。


「瀑布深水龍・氷結バージョン!」

「ぬっ!?」

「かかったな。水龍斬と同時発動…アストの消費が抑えられてる今だから出来るんだ」

「裏を返せば、アストは残り僅かと言う事か」

「残りの二発分はちゃんと確保してあるから安心しろよ」


 もどきが弱いならもどきを重ねれば良い。回転したままリオンは氷結瀑布深水龍を発動させた。氷結斬撃+氷結斬撃、熱で溶かす暇など与えさせない。狙い通り次々ジャックの身体に傷を付け、彼を退かせる。

 退いた瞬間、氷結瀑布深水龍と回転を解除して地を蹴る。体幹は嫌と言うほど鍛えさせられた。今更目を回したりしない。


「はぁっ!!!」

「ぐおっっ!!!!」

「はぁ…」

(まだ、何かある)


 ジャックの反撃を左手の氷結水龍斬で受け止め右手で腹を斬った。多少距離が離れてしまったが、斬撃を飛ばす時と同じ要領で氷結を伸ばし深手を負わせた。アスト残量が僅かなのは図星だった。氷結で固めて消費を抑えなくては足りないほどに。


 今の一撃をドラグ家の分、若しくは自分の分としなかったのは理由がある。序盤でジャックが態と当たった時のような違和感然り、肌に刺さる空気が妙に生温く歪な不完全体を壊してしまった時のような圧迫感然り。


「……我が血肉化ランプは七つ蓄積された後、残り二つとなる時、酔狂に姿を変える」

「……っ」

「見よ!我が真価!〈法術 ダークランタン〉」



 戦いは未だ終わり時を探している。

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