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星映しの陣  作者: 汐田ますみ
ドラグーン編

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75/124

第75話 焼けるような日和

 時刻は夜を迎えていた。星々の明かりが未来を奪われた子ども達を照らす。


「信じていた星の民に裏切られ挙げ句殺された親父は心底辛かっただろうな。これじゃ何の為に和睦を受け入れたか分かんねぇよ」

「あたしにとっての和睦は歴史の一部に過ぎない。遠い昔の話だ。けど霊族は違うのだな。ここ百年の内に生まれた子供以外は全員和睦と一夜戦争を知る…か」


「そうだ。霊族の受けた悲しみは計り知れない。…霊族全員が一夜戦争の悲劇を知ってるがそんな事今はどうでもいいんだ。俺が此処に居る訳は只一つ、星の民がどんな気持ちで親父を殺したのか確かめる為だ。だから星の民であるお前を殺す」

「父親は嘸や立派な信念を持っていたのだろう。十分伝わったさ。……聞いて損した!」

「なっ!?」


 二人の年齢差は然程開いていない。然しながら星の民と霊族、二種族に別れた故に根本的な話が噛み合わず差異が生まれる。霊族の知る和睦と一夜戦争はリオンですら経験していないと言うのにどうしてティアナが分かろう。


 拘束された状態でマーシャルの独白を嫌でも聞かされて一旦は己の中に落とし込んだが、ティアナは彼を一蹴した。彼女の心の炎は、誰にだろうと打ち消せはしない。たとえ強敵相手だろうと、凍てつく戦場であろうと。

 力を蓄え半ば無理矢理放出し、アシッドバインドを弾き返す。


「どう言う意味だ!」

「言葉のままだ。あんたの父親は星の民に手を出さなかった己の信念を貫く立派な男だが、あんたは違う。父親の顔に泥を塗る最低なクソガキだ。〈法術 火箭・七連武〉!」

「〈法術 アシッドバインド〉一夜戦争の真相を知らない事が即ち星の民の業そのもの!!とっととくたばれーッ!」


 母親を亡くし、助けて欲しかった場面で現れなかった父親と比べての発言は残念ながらマーシャルには届かなかった。ティアナの過去を知ったところで届くとも思えないが。


 ティアナの目的はマーシャルに勝利する事と彼から復讐相手の居場所を聞き出す事だ。戯言など無視して突っ走ってしまっても良いが、ティアナは対話を選んだ。現状の最大攻撃技を発動させ、マーシャルを追い詰める。満身創痍と油断していた彼はぎょっとして距離を取る。


「あんたは何も分かっちゃいない。父親が手を出さなかった民間人に何をしたか。星の民だからと一括にするのか?!あたしは、あの男だけを追っている…!」

「ぐっ」

(急に力が増して…!)

「だったらどうすりゃ良かったんだ!星の民に受けた屈辱をどう処理すれば良い!?お前みたいに親父を殺した奴を探せば良いのか?何処の誰かも分かんねぇんだぞッ!」


「あんたの父親は停戦中に人を傷つけるのか?!」

「!」

「どんな気持ちで殺したか確かめる?確かめるべきは考えるべきは、戦が起ころうとも慈悲を限りを尽くした父親の気持ちだ!」


 土壇場で実力以上の力を発揮し始めたティアナ。単純にマーシャルの話にキレ、戦術を考えず猪突猛進しているだけだがティアナにはこれが一番効率的かも知れない。攻め倦ねていた前半とは大違いだ。


 マーシャルもティアナに食ってかかる。なまじ共通点があるが故の言葉と言葉、力と力がのぶつかり合い。泥沼化した戦闘は実力差が開いていようが最後まで立っていた方が勝利となる。マーシャルは本気で殺しに来ているので彼が勝てばティアナは敗北だけでは済まされないだろう。


「黙れッ!!!」

「ぅあ゛ぁー!」

「星の民に言われずとも…!!」

(じいちゃんは何で俺をメトロジアに連れて来た!?)


(此処は何だ…洞窟か?)

「隠れても無駄なんだよ」


 一定のダメージを与えられたは良いが、防御を放り投げた状態で相手に近付き過ぎてしまった。気が動転し、錯乱し掛けたマーシャルはティアナの首元をアシッドバインドで締め上げると遥か後方に投げ飛ばした。雪山に悲痛な悲鳴が木霊する。


 ティアナの身体は雪で覆われた岩山に激突し、薄暗い空洞へ落ちる。意識を数秒以内で戻し壁を支えに立ち上がった。先日にはホワイトアウトになるほど雪が降り積もった影響で雪山の空洞、雪室が埋まったらしい。

 直ぐに外へは出ずにティアナは雪室を奥へ奥へと進んだ。マーシャルも後を追って雪室に入りティアナの落とした血痕を辿る。


(この部屋なら小回りが利く)

「息を整えて力を振り絞るつもりだろ。不意討ちは嫌いだ」

「ふぅぅ…!〈法術 火箭・三連武〉」

「ほらな?」


「読んだ気になるな!」

「読めるんだよ。お前の動きなんか!!」

「な、に…っ?!」

「仕留めた」


 雪室は意外と広く、通路を渡った先に見えた扉を開くと食糧保存室とは別の部屋を発見する。周りには人が隠れられそうな物品の数々が散らばっており有り難く利用させて頂く。


 扉を閉め、息を潜めるティアナの下に扉を蹴破ってマーシャルが入って来た。彼が一度立ち止まり、もう一度歩を進めたと同時に最後の力を放った。背後からの火矢するりと躱し右足を軸に半回転して振り返るマーシャル。然し視線の先にティアナは居ない。中途半端な位置で臨戦態勢を構え、動きを止める。


 マーシャルが振り返る事を予想し、背後を取ったティアナは盾変化も間に合わない速さで一撃を入れた。直後、ある筈のない衝撃に襲われティアナは壁に叩き付けられた。

 ティアナがマーシャル目掛けて飛び出した時、彼は二手先を読んでいた。後ろ手に回したアシッドバインドで傷口を抉り拘束した。


「…あたしを殺しても虚しいだけだ」

「お前も復讐したところで親が帰ってくる訳じゃない…虚しいのは同じだ」


「復讐すると決めた日から、その先など無いも同然。構わないさ。あたしの母さんは戦士ですら無い。あんたの父親が手を出さなかった民間人だった…!」

「……」

「それにな、あたしだけの復讐じゃ無くなったんだ。あの男はあの男だけは生かしてはおけない存在だ」

(茨道の火を絶やすな……!!!)

「この力は?!」


 全てを奪われた日、全てを捨てた。ティアナのこれまでの言動から母親が如何に大切だったかは明白だ。マーシャルも同様でそこに差異は無い。


 ティアナがマーシャルと違った点を上げれば一つ。"旅をした事だろう"

 茨道を炎が揺らぐ、一滴落ちた。


――――――

―回想―


「ティアナ」

「お母さんっ」



 大好きな母さん。優しい母さん。何時までも穏やかな日々を暮らせると思っていた。


「ティアナ!!貴方だけでも逃げて…!」

「お母さん!!いやぁっ!!」


 別段都会でも田舎でも無い街で生まれ育ち、家族と楽しい毎日を送っていた。仕事上会いたくとも会えない父親が側に居ないのは子にとっては些か寂しい思いはあれど不満も無く毎日が楽しかった。

 彼女の運命を変えたのは百年前の大戦。突如霊族が侵攻し世界が血に染まった。ティアナの生まれた街も例外無く霊族が蔓延り悪の本性を顕にした。


「うぅ……おかあさぁあああん!!!!」

「ククク滾る滾る。さぁ腕を出せ」


 前触れ無く現れた巨漢はケラケラ嗤い、愛娘を守る母親を瞬殺した。亡骸に縋り泣く無垢な少女に目を向けると逃げられぬように左腕を掴んだ。掴まれなくとも恐怖に怯えた少女は逃げられはしない。


「助けてお母さん…っお父さん!」

「俺は霊族。よく見ろ俺の顔を焼き付けろ。俺は如何なる姿に変わろうとお前を見ているぞ。焼印の施しだッ!」

「ーーっぁあ゛!!助け、て…お父さん」

「俺を殺しに来い。待っている」

「お父さん…」

(どうして来てくれないの?助けて…お父さん。助けてよーっ!)


 少女の腕を引っ張ると巨漢は左肩に焼印を施した。自分の言葉を聞いていようが居まいがお構い無しにベラベラ喋り倒し去って行く。

 為す術無しの子供は、為す術を持つであろう両親を頼る。どれだけ泣き喚こうがティアナの元に父親が来る事は無かった。


「こんなのあんまりだ…。あたしにあの男を倒せる力があれば、お父さんが来てくれたらお母さんは死なずに済んだんだ。何でこんなに無力なんだ」


 身も心も穢された状態で少女は立ち上がる。絶望と憎しみを虚ろの瞳に宿して。

 ティアナは大好きが詰まった家を出て行き二度と帰る事は無かった。

―――


「お腹空いた…」


 何時の間にやら締結された停戦協定よりも、ティアナにとっては今日を生きる為の食事の方が何倍も大切だ。薄暗い路地裏で目を瞑ると余計に温かい食事と共に母の笑みが蘇った。

 そんな時は左肩の焼印を見つめ、憎悪を思い出し奮い立たせる。


「…?人が倒れてる」

「……」

「生きてる?でっかい人形?誰も見向きしてない…ただのゴミかも」


 路地裏を抜け、少し歩くとゴミ溜めエリアに人間が倒れているのを見つけ近寄る。人間の顔は青白く生気を感じられない。とてもでは無いが生きているとは思えず人形であると結論付ける。不気味な程に整った出で立ちが、特段造り物感を引き上げていた。


「ハァハァ…あれ今日もある。まだ片付いてないのか」


 盗みを働くようになったのもこの頃。頼れる人脈は無く行き場の無いティアナはとうとう腹を括って軽犯罪に手を染めた。今日も今日とて善人から逃げる日々。粗方、漁り終えたら次の街へ出発しようと思案していたのだが何日経っても離れられない。人間のような人形が気になって仕方無いのだ。


「生きてるようには見えないけど…腐っても無い。人形にしては重過ぎる気も」

「……」

「あたしメイプル、ティアナ・メイプル。この名前知ってる?」

「……」

「あたし探さなきゃいけない。二人の人を。ココに居ると風邪引くよ」


「……ん」

「きゃ、ん動いた?!」


 服装にはポスポロスの技術が織り込まれており、その人の身分証明と自身の目的の手掛かりになるかと思い膝を曲げて屈み観察する。

 当時のティアナは其れを重過ぎると評したが敢えて言い換えよう。"生々し過ぎる"


 矢張り人形では無く人間か。動く気配の無い人物に一言言い残し立ち去ろうと膝を伸ばした瞬間、指先が微動した。驚いた拍子にバランスを崩し尻もちを付いた。


「ん…んん?」

(人間だ。気付かれる前に去ろう)

「アナタが起こしてくれた?」

「え…と違うと思う」

「ワタシは………ダレ?」

「知らない」


 声質は完全に声変わりした男性そのもので、その人が人間の男だと確信する。男が起き上がると被っていたドールハットが落ち、金と銀の鈴がチリンと鳴った。途端に逃げ出したい気持ちが芽生える。盗賊の癖が染み込んでいるようで余り良い気はしなかった。


 見付かってしまえば仕方無い。長らく人と話していなかったティアナはドールハットを被り直した男と言葉を交わした。


「憶えてないの?」

「う〜ん…何か……あ」

「懐中時計?」

「カイコ…」

「カイコ?」


 ティアナに言われ、衣服を弄ると懐中時計を取り出した。どうやら唯一の所持品らしく手を平に乗せると蓋を開け無心で眺め始める。

 男は程無くして顔を上げた。


「ワタシのナマエ思い出しまシタ!ワタシ、クリス・シャン・メリー」

「ソレ以外は?」

「?」

「分からない?」

「……ワカリマセン」


 此れがティアナとメリーさんの偶然の出会いだった。名前以外は憶えているかと問われ、メリーさんは少し考え困ったように笑った。

 嘘付きの顔には見えない。本当に何も憶えてないと見える。


「ティアナ、変?ワタシ何も憶えてない」

「…」

(あ、あたしが自分で名前言ったんだ)

「知らない」

「ワタシ、タカラモノを失くした気がする…。ティアナ、ワタシも探したい」

「付いてこないでね」

「どうして?」

「目立つから」


「…ワタシ透明になれる」

「憶えてるじゃん」

「思い出した。タカラモノは思い出せないケド」


 一瞬、ティアナは何故彼が自分の名を知っているのか考え込んだ。数分前、自分で言った事を忘れてる辺りまだまだ子供だ。

 素っ気無い態度で受け答えするとティアナはお尻の埃を払い、右へ向いた。至極真っ当な理由で断られ、再び懐中時計を見やるメリーさんは彼女の興味を惹く一言を発した。


 沈黙の間が続き、メリーさんの表情が目に見えて落ち込んで更に数秒経過してから彼女は自分も透明に出来るかと問い、頷かれたので同行を許可した。

 二人はそんな出会い方をした。


―――


『勘、か。その仇討ち私の思いも乗せて!そして仇を討っても生きて…ほしい』

『ティアナありがとう。漸く魂に逢えた…。人は巡るのですね』


 旅をして様々な人と出会った。メリーさんと別れリオン達と共に行き、カラットタウンやゼファロで過ごした。そして彼女の転換期とも言えるスコアリーズ。


 同じ焼印の持主ルルトアに出会い、巨漢への憎悪を益々募らせた。神器アルコバレーノに眠る魂アリちゃんと出会い、人の巡りを知った。復讐心は変わらない。されどティアナは言葉の重みを理解して復讐すると誓う。


 強くなりたい、今の弱いままでは言葉の重みに潰されてしまう。茨は喉元に絡み付く。

 其の先の花道など彼女には見えていない。


―回想終了―

――――――

 現在軸。圧倒的不利な状況でティアナの炎は火力を上げた。マーシャルを見据え旅路にて得た知見を冷えた空気に触れさせた。


「何かを得ようとしている時点であんたの負けだ」

「はっ!?」

「あたしの復讐もあんたの目的も喜ばれたもので無い事くらい知っている。だから、あたしは復讐に意義を見出さない。あの男を母さんと同じところへは逝かせない…!!」


 復讐を虚しいと感じるのは手放しに喜べない道だから。達成しても喪失感が増すだけ。最初から復讐に対して感情も意義も失くしてしまえば良い。未成熟の心に花は咲かない。


「〈法術 幻日・三連舞〉…!!」

「うっ!まだ他に技が…!」

(これさえ避ければ俺の勝ちだ)

「あたしを舐めるな」

(いっぺんに飛んでこない!?)


 内から湧き上がる熱が新たなる法術として外へ飛び出す。火箭同様、空中に三本の矢が出現し一本目がマーシャルを襲う。壁に押し付けての拘束が仇となり回避不能の至近距離で直撃を喰らった。殺傷力も上がっているようでこめかみの流血を誘った。


 最大限の警戒を携えマーシャルはティアナから距離を取る。悪あがきだと見下せないのはこめかみの流血が想定外の深さだった為。

 火箭ならば一気に火矢と本体が突っ込んでくるのだが幻日はどうにも違う。残りの二本矢がティアナの側に浮いたままなのだ。


 然し、所詮は付け焼き刃。火箭が自動で目標に迫る法術なら幻日は真逆の手動だ。任意で動かし追い詰める法術。絡繰さえ分かれば、どうってことはない。ティアナが火矢を放たなければならない状況にすれば良い。態と真正面から攻めアシッドバインドを発動させた状態の両手を上げ大振りして隙を見せる。


 雪室の天井がギギギと不気味な音を立て削られていき、ティアナは残りの火矢を正面と背後両方に放った。


「かかったな!」

「あんたの動きは読めている!」

「なっ…ー!?ぐッッ」

「んん゛!落ちろ」


 挟み撃ちを読んだマーシャルは正面を盾変化で防ぎ、上げた両手を一気に下ろし背面へ向けてからアシッドバインドで相殺した。後には手札が尽きたティアナのみ。


 否、端から防がれるのは承知の上。ティアナは罠に誘われた振りをして相殺した際に伴う爆発と天井から降ってくる瓦礫を利用し身を隠しつつマーシャルの懐まで近付いた。懐まで潜り込まれたと気配で察した彼が離れようと足を動かす前に足蹴りして対処する。崩れたバランスの流れに沿い斜め後方から腕を首元を回し力任せに締め落とす。


「カハッ」

(確実に勝ってたのに……負け、…)

「しまった。あの大男について聞き出さなければならなかったのに…」


 幻日・三連舞は絞め技を確実に決める為の囮に過ぎなかった。最後の最後でティアナの読みが勝り、逆転勝利となった。マーシャルの懐からコインを取り凹凸を合わせるとカチッとハマり一つになる。思考停止寸前の脳味噌を働かせ身体よ動けと信号を送る。



「……なんだもう夜明けか」


 気を抜けば気絶しそうになる身体を起こし、狭い通路を通る。コインを握り締め一歩一歩進むが先は遠い。漸く見えた血塗れ越しの出入り口から射し込む光筋は明け方の空気と共にティアナを包む。


 後先考えず初撃から法術を撃ち込み、流れた血の量の重大さに気付かずティアナは我武者羅に戦った。とうとう遂に限界が来たようで障害物の無い平面の通路でドサッと倒れる。

 彼女の意識は途絶えた。


 表か裏か。一夜戦争、大戦により子らは涙を流した。星の民と霊族、二種族の亀裂は子供達にまで及ぶ。同じ方法で奪われたのなら同じ方法で奪えば良い。

 ティアナVSマーシャル 勝者ティアナ。


――――――

―――

 天気良好。正にお出掛け日和なこの日雪山で行われる事と言えば、死闘だ。

 朝の日射しが落ち着いた頃、二つのコインが光を帯びた。


「結局ティアナ戻って来なかったね。僕達も行こうか」

「憂鬱〜」

「……」

「大丈夫だよ。ティアナも僕達も皆無事に帰って来るさ」

「うん…!」


 リュウシンと彼に引き攣られる形で移動するスタファノが玄関先で天音と会話する。既にスタファノの口からティアナが戦いに行ったと伝わっているので天音は帰って来ない彼女に対しても心配性を爆発させていた。


 どれほど嫌だと言ってもドラグ家の未来の為に、自分達の為に彼等は戦う。非常に分かりやすい苦悩の表情を浮かべる天音に、リュウシンはポジティブに笑った。


「リオンのコインは光らないんだね〜」

「今日が霊族の指定してきた日なのに」

「そう言えばリオンも朝から見掛けないけど何処に?」


「麓の町を散策してくるって言ってたよ。その内帰ってくると思うな」

「そうそうお腹が空いたらね帰ってくる」

「子どもじゃないんだから……」

「アハハ…」

「じゃあ行ってくるね」

「うん。帰ってきてね」


 コインの所持者はもう一人。ところが不思議な事にリオンのコインだけは発光する気配を見せなかった。序でに彼自身も朝から見掛けない。微妙に重い空気を茶化すスタファノ、彼なりに気遣っているのだ。きっと恐らく。


 さて、会話も途切れたところでリュウシンが扉を開け天音に手を振る。此れから熾烈な戦が幕を開けると言うにリュウシンの表情は妙に明るく、スタファノの表情は子供っぽい。

 そんな二人に帰って来てと言葉を残した天音の心情たるや如何に。



「…途中でコインが光って、此処に寄らずに行ってしまったらどうしよう。せめてお見送りはしたいよリオン」


 扉が閉まる。膝を抱えて蹲る。傷付いた姿が頭に過る。嫌な妄想を振り払うように首を左右に振って息を吸った。

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