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星映しの陣  作者: 汐田ますみ
ドラグーン編

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第68話 救出作戦


「ヌハハハハッッハァッ!!!来い来い来い!!!マーシャルよ。お前は付属品を削げ」

「了解ですジャックさん」


 組手の最中であったジャックとマーシャルは宗家へは入らず真っ直ぐに宗家へ向かう者達の下へ行く。目的はあくまでリオンと天音の生け捕り。ジャックや他の霊族にとって二人の仲間は付属品としてでしか認識されておらず、生かそうが殺そうが何方でも構わぬ存在だ。


「前方に二人!」

「あいつは……!!!」

「あたしが殺る。霊族勝負だッ」


「ヌゥ?騎士長が居らぬなァ」

「殺し損ねた奴が二人も…良いね。自分で殺しとかないとな〈法術 アシッドバインド〉!」

「〈法術 辻風〉」


 リュウシン等も前方の敵を視認する。三人で迎え撃っても良いが、アロマとサラの救出が優先だ。此処で戦力を分断する事に。

 ジャックの顔を見るなり、いきなりウィルは顔を顰める。与えられた屈辱もウィル個人の事もジャックは覚えてすらいない。


 高笑いしながら接近したジャックだが目当てのリオンが居ないと気付くと、その場で足を止めた。相手にされず見下す態度のジャックにティアナは苛つきつつも勝負を仕掛ける。


 一方で正面から抜けようとしたリュウシンとウィルにマーシャルの法術が牙を剝く。赤みがかった細長い紐状のアストを爪から伸ばし二人を拘束する動きを見せた。正確には攻撃対象にウィルは居らず、ティアナを攻撃する。

 ジャックを睨むティアナはマーシャルの接近に気付かず、リュウシンが辻風で紐状の軌道を変え事無きを得るが根本的な解決にはなっていない。


「あんた黒鳶だな」

「ヌフ。それがどうした」

「黒鳶なら…この左肩の印を焼き付けた大男を知ってるか!?」


「良く知っているぞ」

「ー!全て洗いざらい吐いてもらう」

「だが、俺は火龍の力を騎士長に試したい。不運な女…相手はマーシャルだ」


「風対策は嫌でもしてる。喰らえッ!」

「なに!?しまっティアナ!!ゔっ」

「ふっ…!ぐぁあっっ痺、れる……!」

「ビリビリ痺れるだろ。その内に神経やられて動けなくなる」


 攻撃対象から外れたウィルは一足先に宗家に駆け出した。雪山で生きる彼女にとって雪上は庭のようなもの。誰よりも速く、一秒でも早く、家族の下へ急ぐ。


 作戦も大事だがティアナには己の命に等しい目的がある。母親を殺した大男について問えばピンポイントで良い返事が返ってきた。更にと欲を出してしまった事で、視野が狭まったようだ。

 辻風に煽られたアシッドバインドは一向に敵の懐へ届かないが、当然敵側も戦略は練る。積もった雪を蹴り上げ、リュウシンの視界を遮ると彼の右手にアシッドバインドを絡ませ次に油断したティアナの身体を縛る。瞬間、二人の身体に激痛が走った。ビリビリ痺れる痛みは自ずと身体機能を低下させる。


「っ……屈するものか」

「〈法術 水龍斬〉!」

「アシッドバインドが、こうも簡単に…。ジャックさんが一目置くわけだ」

「待っていたぞ。騎士長!いやリオン!!」


「ふぅ…ありがとう助かった」

「あたし一人でも破れたんだがな!!」


 五秒遅れて到着したリオンは直ぐさま助太刀に入る。リュウシンとティアナに絡み付く紐状のアシッドバインドを水龍斬で斬り、二人を解放した。流れるような手際にマーシャルは呆気にとられたが、願ってもない人物の登場にジャックは高まる熱気を大声で発散した。


「火龍の力、存分に味わうが良い!!!」

「リュウシンは宗家に向かえ。ティアナはそっちの男を頼む。…おいジャックとかって言ったな。良いぜ相手してやる」


「「了解」」

「逃がすかッ!」

「〈法術 火箭・三連武〉あんたにも、奴の正体吐いてもらう」


 突進してくるジャックを躱し、カシワに任された通りに現場で指示を出す。総合的な判断でリュウシンを宗家へ、ティアナを留め霊族と対峙させる。

 背を向けたリュウシンに透かさずアシッドバインドを伸ばすマーシャルだが、ティアナに邪魔をされ逃してしまった。彼女は火箭・三連武を本気で撃ったが、敵の誘導は出来ても肝心の攻撃は掠りもせず薄々感じていた事実を確信した。自分より格上だと。上等だ。


「フッ追わなくて良いのか。人質救出されちまうぞ」

「ヌハハッ。言ったではないか。真の目的は騎士長リオンだと。人質など最早要らぬ」


 リオンは単純に霊族と戦えば良いと言う訳では無い。作戦の上で実際アロマとサラを救出するのは本人志願によりリオンだ。ジャックも只では通すつもりも無かろう。


 さて、どうしたものか。

――――――

ロッドSide


「ゔッグッ……!!」

「ほらほらどうしたの?凡夫なりに頑張って作戦立てたよね…頑張って乗り込んだよね?私には通じませんけど?」


 宗家では囮役が機能していなかった。態勢を整え一撃離脱戦法を取ろうとしたロッドだが単純で強大な力の前に膝を付く。実力の全てを出せないでいる単独VS多数は無謀な賭けだったようだ。


「兄さん……弱いね」

(必ず成功させる…。おれの推測通りに行けばそろそろ火花が散る)

「星の民黙ってなさい」

「あ?…霊族さんボクと殺るかい?」


「見世物には丁度良い。そ〜ねホプロと戦いなさい」

「ふざけるな。只でさえ血が止まらぬと言うのに、何故俺が従順だと思うのか」


「ではヴォルフが其の命引き継ごう」

「ヴォルフさん…!」

「ボクはどっちでも構わないからさぁ、早く始めよう。霊族さん、強く在ってくれ」


 よろよろと立ち上がる。如何に傷付こうとも上空のクロス・フェーロンは解除しない。

 危険因子であるエンドを態々宗家に引き入れた理由は二つ。一つは予てからの説明通り、誰彼構わず危害を加える前に姿を現し矛先をコントロールする事。もう一つは密かな博打打ち。バトルロイヤル形式に縺れ込ませると言う事。


 要するに敵同士で殺し合い、削り合い戦力を減らしてくれと言った随分と都合の良い作戦なのだが、仕掛けが上手く作動してくれた様で。エンドと霊族の空気が不穏に流れる中、既に破られた窓から影法師一人が侵入した。


「アロマ!!サラくん!」

「ウィル!?」

「ウィルお姉さん…!」

「助けに来たよ」


 一足先に宗家に辿り着いたウィルがアロマ達に駆け寄る。見知らぬ者が見知らぬ者を引き連れ霊族と対峙する光景はアロマ達にとって困惑に近い。悪人では無いと分かるものの、ウィルの登場まで気は抜けなかった。


「ふざけるなッッ」

「この男だ。結界の使い手!」

「ほう。コミューンアウトを結界と見破る者が居たか」

「じ〜さん、無視する気か?!」


「結界を使われる前に対処しなくては…!」

「無駄だ。結界法術…」

「〈法術 ドラグ・インパクト〉家族を傷付ける奴は許さない」


 常に全体の把握を怠らなかったロッドは結界法術の使い手を発見する。高飛車なリゼットと距離を取り、逸早くホプロを対処しようと攻撃体勢に入る。良くも悪くも血を流す事に頓着しないホプロを助けるべく、ヴォルフが動くが戦う気満々のエンドが阻止する。結果的にエンドはロッドを助ける事なった。


 結界法術を使われる前に何としてでもホプロを止めなければと躍起になる。そして、実際彼を止めたのはウィルだった。一度技を見ているから動けたとも言えるが家族の為に精根を振り絞ったとも言える。


「ッッ許さぬ!!」

「ゔわっ!?」

「ウィル!!!」

「大、丈夫……絶対負けない」


「駄目駄目本気にならなきゃ殺しちゃうよ。〈法術 偉大なる霊柩(ギルティアーク)〉」

「阿呆め。全員生き埋めにする気か」

「ひゅー。強い強い」


(まだか。リオン様……)

「一気に終わらせようかしら」

「そうはさせない!!」

「また…。良い加減面倒〜。どうせなら一度で揃ってなさいよ」


 結界法術が駄目ならばと、シンプルに殴りかかって来たホプロの右ストレートを喰らい蹌踉けるもウィルは既のところで耐えた。ドラグ五姉妹の三女は助けたい一心で精根を燃やす。


 ホプロの乱れた情緒を気にするヴォルフの隙を突いて、ギルティアークを屋内で発動させた。瞬間的に黄色の盾を出し攻撃を反射させ、破られた窓から外に逃すヴォルフ。霊族の強さを再確認したエンドは気分が上がるのを感じていた。


 リゼットがロッドに鉄槌を下そうと、やる気になり右手の人差し指を彼に向け始めた時、ウィルに次いでリュウシンが到着した。


「ロッド、リオンはもう時期来るよ」

「……来なければ困ります」


 リュウシンの言葉を聞きロッドの眼光がより強まる。


――――――

 同時刻、リオンとジャックは一瞬たりとも目を離さず睨み合いを続けていた。ティアナとマーシャルは戦う場を移動したらしく、此処には既に見当たらなかった。


「〈法術 ジャックランタン〉」

「それがてめぇのアスト能力だな」


「如何にもッ!俺のアスト能力血肉化ランプは相手の力を奪い蓄える事が可能!!リオンの力も何れ…いや今すぐにでもーっ!!」

「〈水龍斬〉」


 空中に浮かぶ七つのランプの正体は、アスト能力に由来する物だった。態々アスト能力を開示する理由は無いがジャックの腐った根性が知れて寧ろ良かったのかも知れない。


 満杯の七つランプの内の一つから半分の量のアストエネルギーが飛び出しジャックの身体に浸透する。火龍から奪った力、言わば人間体の火龍が相手だ。

 猛進し、拳を振るうジャックを軽々と避け水龍斬を放つ。リオンが避けた事で行き場の失くした拳は地面を割り、隙が生じた。


「火龍は苦しんでいたぞ!」

「それがなんだと言うのだ!?火龍も水龍も我が糧に成れるのだッ!苦しもうが痛みを伴おうが知った事では無い」


「侮辱しやがったなッ!てめぇに双龍の力を得る権利なんかねぇんだよ!!!」

「ヌハハッでは止めてみろ。水龍の力で!」

「〈法術 海廻天水龍〉!」


 隙が出来たにも関わらずジャックはリオンを一瞥もせずに避ける。火龍の力を宿し、身体機能が向上したジャックの猛攻は水晶石の地で対峙した時より大幅に力が増しており、図らずも苦戦を余儀なくされる。


 リオンにとって己の人生に影響を与えた水龍をアレンを認めた火龍を、侮辱される事は何よりの屈辱であった。少年期から変わらない思考と少年期から積み上げた技能を用いて、海廻天水龍を発動した。斬撃に回転を伴う大技であり、アストの消費も比較的大きい法術を放ち気付く。


(と、こんな奴に構ってる場合じゃねぇ!)

「ヌゥゥ!!」

(一か八か……やるしかねぇか)

「ヌン!」


「ぐ…」

「何処まで飛ぶか見物だ」

「ぐぁっ?!」

「致命傷は与えぬ。死んでしまっては得る力も無い」


 救出作戦の途中である事を思い出す。正確には頭の片隅に存在し、忘れてはいなかったのだがジャックの言動に逐一反応してしまい、忘れかけていた。


 決して手抜きでは無い海廻天水龍を、丁寧に真正面から受け止めニヤリと笑う。盾変化で受け止める際に数メートル後ろへ足が動いたが物とも思わずリオンの脇腹に炎を纏わせた拳を叩き込んだ。

 一度目の衝撃に耐えさせる為に左腕を掴んだ状態で攻撃し体勢を変えず、二度目は一段と重く拳を練り込ませパッと左腕を離した。


「?何か、可笑しい」

(作戦、成功だ……)

「!分かったぞ。勢いに乗って当主の住まう家に突っ込む気だな」


「へっ今頃気付いたって遅いぜ」

「ヌハッハ笑わせてくれる。させぬぞ!!」

「〈水龍斬〉ッ!」


 違和感。不審な行動を取っていたから、では無く騎士長にしては余りにも呆気なさ過ぎると言うジャックの戦闘経験から来る直感。敵をも唸らせる戦闘力が仇となった。


 一度地面に着地してから向きを宗家に正し、再度飛んだ。ジャックの魔の手が迫るより先に斬撃で外壁に大穴を開けた。尚、既に窓は割れていたので大穴を開ける必要は無い。


―――

 衝撃波が辺り一帯を襲う。多くは突然の破壊で驚きはしたが己の身を己で守った。戦えぬアロマとサラはウィルが盾変化でしっかりと守り抜いた。


「アロマ!」

「リオン!?!」

「来いッ!!」


「…全く無茶な男だ」

「こら壁壊して行くなー!」

「細かい事は良いんだよ」

「良くない!!」


(リオン様…)

「霊族より先にファントムが捕らえる!!」

(コイツ、んでペンダントを!?)

「馬鹿ね。ファントム如きが霊族を出し抜けるとでも?」


 壁から壁へ、脱出の最短ルートを走り抜けるリオンは持ち前の動体視力でアロマ達を見つけ出し、手を伸ばした。成長しても変わらぬ身振り手振りに即座にリオンだと気付いたアロマはサラを抱いて彼の手を取ろうと足を動かす。


 全く無意味の外壁破壊にウィルは苦言を呈すが、意表を突くと言う点だけは評価出来なくも無い。何故ならリオンの登場で場の空気は一変したから。

 最初に飛び出したのはエンドだ。ペンダントを光らせ俊足で駆ける。次に一歩遅れて標的を捕えんとしたのはリゼットだ。


「と言うかジャックは何をやってるの?!」

「ヌハハッ此処に居るぞ!」

「もう来なくていいって!!」

「エンドお前の相手はおれだ」

「兄さんにボクの相手が務まるのかい?」


「全部吹き飛ばせば関係ない」

「ホプロ!止めておけ!!」

「風使い!?」

「わしが行く」

「これ以上手を出さないでっ!!!」


 リゼットの背後にジャックが合流し、エンドはロッドによって進行を阻止された。常日頃神経を尖らせているホプロが分家で起こした狂風を再びバタフライナイフに収集させるも味方であるヴォルフが止め、リュウシンが彼の正面に立った。同じ風属性の男として看過出来ないのだろう。


 エンドとロッドが対峙する横を通り抜けて、ヴォルフはリオンの下へ向かうもウィルに邪魔をされる。

 リゼットとジャック、よりによって黒鳶確定の二人がリオン…では無くアロマに迫る。


「アロマ!」

((届かない!?))

「ぐっ届けー!」

「〈法術 離れ難き心(ブリザードテザー)〉」


「しまっ…!」

(殺られる)


 窓辺に足を掛け外へと飛び出した。右手で縄を"空中の足場"クロス・フェーロンに向かって投げ、左手でアロマを抱き寄せようとしたが既のところで床がギシッと音を立てて支えを失う。数秒のイレギュラーが絶望的な状況を作り上げた。


 絶望に屈しはしない、心の強さが希望を引き寄せる。アロマは飛んだ。身体能力の限界を今超える。だが然し、リゼットは何としてもアロマを挽いてはリオンを捕らえるべく法術を放った。リゼットの法術ブリザードテザーは吹雪を巻き起こし、標的と定めた相手に纒わり付く技だ。一度捕まれば、二度と脱出は出来まい。


「やらせねぇ!〈法術 瀑布深水龍〉」

「!なっ」

「ヌゥ面倒な」


 伸ばした手を掴みサラを抱えるアロマを自分の領域内に引き寄せると、リオンは新たなる水龍由来の法術を発動させた。瀑布深水龍(ばくふしんすいりゅう)は数日前に火龍の水晶石の地で水龍が見せた様な水バリアで全身を覆い、水龍斬に似た斬撃を放つ事が出来る防御と攻撃を兼ね備えた技である。


 両手が塞がっているリオンには大した反撃は出来まいと高を括っていた黒鳶二人は意表を突かれる結果となった。リゼットは盾で防御しジャックは身体を捻り避けた。とっさの判断の斬撃は全て回避されてしまったが逃げるに十分な時間は確保した。


(ロス頼んだ)

(〈結界法術 コミューンアウト〉)

「なんで突然消えるの!!?」

「結界法術かァ物好きな星の民も居たものだ…こうなっては見つかりはしない」


「……結界が何?私はアース様の為に目的を果たさなければいけない。せめて、生死の条件が無かったら苦労する事も無いのに…!!」

「ヌフフフフ甘いな。人質を救出して終わるつもりも無いだろう」


「あ〜あ騎士長も消えてしまったし、王女でも狙おうかなぁ」

「ペンダントを取ったぐらいで勝利宣言か?天音様を狙うならおれを倒してからにしろ」

「一々癪に障るなぁ!!!」


 ロッドは直ぐさま空中の足場を操作しリオン等を宗家から遠ざける。宗家付近にはロスが待機しており、事前に決めた作戦通り結界を使い姿を隠す。絡繰が解っていたところで結界法術を見破るのは熟練者でも厳しい。苛つきを隠し切れないリゼットに対しジャックは益々口角を上げた。



「うっ……」


 役目を終えたロスは静かに咳を零した。


―――

 縄を滑らせ二時の方角へ進む。


「リオン…信じていたさ。ありがとう」

「頼まれ事を消化しただけだ」

「それと済まなかった。私が捕まってしまったばかりに、きっと君たちの邪魔をした」


「で?」

「で?って……」

「華麗に助ける俺は格好良かったろ」

「プッアハハハ!!…嗚呼カッコよかった」

「うん…ぼくもカッコいいって思った!!」

「だろ!」


 感謝と謝罪。頼みの綱であるリオンが助けに来てくれた感謝と、霊族の断片的な会話から察した忙しい日々。後ろ暗い謝罪を口にした直後、リオンは嘘偽り無くニカッと笑った。


 逸らかされたのは重々承知だが、彼の笑みは余りに爽やかでそれ以上追及しようとは思わなかった。ぎゅっと目を瞑り事が収まるのを震えて待つサラもリオンに笑い掛ける。


「ただ…壁破壊は流石に無いんじゃないか?」

「っ…。成行きってやつだ」

「後でちゃーんと直してもらうから。棚作りなんて比じゃないくらい大変だぞ」


「経験済みだ。任しとけ」

「まさかとは思うけど……、此処以外にも建物壊したりしてないよね?」

「………」

「…何か言ったら……」


 幾ら致し方無いとは言え、流石にやり過ぎだと誂ってやればバツが悪そうにそっぽ向く。リオンがまだドラグ家に居た頃に、前当主のウィリアムの提案でアレンと一緒に棚作りに精を出していた。そして、スコアリーズにて建物の修繕作業を手伝った経験もある。


 余裕綽々のドヤ顔を浮かべるが、頭主邸を半壊させた罪には罪悪感を抱いているようで何も言えなくなってしまった。自業自得だ。


(そろそろだな)

「んじゃ、俺にはやる事が残ってっから」

「えっ…!」

「またな」


「ちょっ手をはな、うわぁああ〜〜!?!」

「んぎゅ…!!」


 空中の足場の端に辿り着き、リオンはアロマの手を離した。空中で。悲鳴を上げながらも決してサラを離さず落ちていくアロマを見届けてから、リオンは縄に体重を掛けクルリと一回転して空中の足場に乗った。


「アロマ!!サラ!!!」

「うぉ…。……テ、…?テオ!!」

「お父さん!」


 二人を抱き止めたのはテオドーナだった。彼の姿が見えたからリオンはアロマの手を離したのだが、説明不足にも程がある。走る道中で包帯を解き、家族を迎えたテオドーナは心底愛おしげに妻子を抱き寄せる。


「無事で良かった。本当に……本当に!」

「テオもね…、生きていてくれて嬉しい」

「水晶石は僕がずっと持ってたんだよ」

「頑張ったなサラ。良く頑張った!」

「うんっ」


 縄を捨て消えかかっている空中の足場を伝いリオンは駆け出した。宗家は未だ戦闘中だ。

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