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星映しの陣  作者: 汐田ますみ
ドラグーン編

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第67話 反撃開始

 反撃決行まで残り二日。実行部隊組は連携を合わせる為に短い休息を挟みつつ、法術と盾変化を交えた組手を行っていた。


「はっ!」

「舐めんなコラ!!」


 手を変え品を変え回って来たリオンとロッドの順番。盾組手はあくまで訓練の一環として生まれた物だが、本気で闘えば被害は出る。リオンが攻めロッドがカウンターを狙う。


「相当強いね彼。常に数歩先を予測して動いてる」

「だが本気では無い。あたしと組手した時もそうだったがロッドは威力を誤魔化している」


「リオンと本気で闘ったらどっちが強いかな」

「さぁな」


 攻め時に前へ出ず、一歩退いてから再び拳を振るう。まるで常に逃げ道を確保している様な闘い方が続けばリュウシンやティアナでも気付く。ロッドの身体に相当染み込んだ戦闘スタイルは指摘しても直ぐには変えられないだろう。


 リュウシンとティアナが他愛ない会話をする中、数時間闘っていた二人の決着はついた。リオンの攻撃を盾変化で受け止め、一撃目と二撃目の間を縫う様にしてカウンターを喰らわせたロッドだが、反撃を見越したリオンが回避序でに足元を掬い、横転させたところで勝敗は決した。


「今のは避けられただろ」

「いえ、避けたところで隙を狙われ追い詰められて終わり。リオン様の勝ちは決まっていました。貴方は強い」


 リオンが手を伸ばし、ロッドを立たせる。組手の後、互いの総評を行う。騎士団に所属していた頃にも度々、本人達に総評を行わせ切磋琢磨し合う時間があった。闘った本人の感触、客観的意見等々が明らかになり自然とコミュニケーション能力も育まれ、メリットを上げればキリが無い。


 晴天の下、彼彼女等は実力を確かめ合う。


―――

天音Side


(……)

(何だろう……すごく見られてる気がする)


 落ち着かない心音。泳ぐ目。多量の汗。昼食の準備を手伝っている天音は後方からの視線に動揺していた。物陰に佇む彼女は天音に声を掛けるか否か、決め倦ねていた。


「下準備一旦終わりっ。あとは向こうの家で作ろうかな。お手伝いありがとう」

「…あ、はい!」


「イリヤ……話し掛けたら?」

「アロマが大変な時に私情なんか挟めないよ流石に」

「話し掛けたいって顔に書いてある」

「……うん」


「頑張れお姉ちゃん。じゃあ!」

「オリヴィアは誂いたいだけでしょ」

「えへへ」


 昼食の準備と言っても、離れには大した調理器具は揃っていない。そもそも料理場自体が狭く、下準備以外出来ないのだ。事前に離れから動くなとリオンに言われている天音はオリヴィアの声にハッとし彼女を見送った。


 此処のところ、もやもやと複雑な顔を浮かべては沈むを繰り返していたイリヤ。天音が狙われた事実はオリヴィアも知っているので姉の気持ちを察していた。背中を押され、漸くイリヤは天音に話し掛ける。


「ねぇ天音」

「!は、いっ」

「天音は何時からリオンと一緒に?」

「へ?何時からだろう……出会ったのは七月で……そこから三ヶ月と少しくらい?って事はもしかして私の誕生日過ぎてる!?」


(あれ三ヶ月って通じるかな)

「そう。水龍がリオンのアストを強く感じたのも、その時期か」

(通じた…?)


「一緒に旅、してるんだね」

「最初は無理矢理だったような気もする…。いやでも?…思い出した。自分の意志で行こうと思ったのによく分からないまま、リオンに担がれて連れて行かれたんだ」


 何時、声を掛けられるかと齷齪していたので思わず声が上擦る。イリヤの提案で狭い部屋を出て、リオン達が見える場所まで歩く。

 自分より背が高く、責任感もありしっかり者の大人なイリヤが今日だけは天音の目に純情乙女として映っていた。


 天音のいた現代と現世界は時間の流れが違うのは明白。三ヶ月の捉え方も違うのではと危惧したが、正確な暦が在るかは兎も角杞憂に終わったようで。


 イリヤに聞こえぬように天音は小言を呟く。懐かしむにしては随分眉間に皺を寄せ、過去を出会った日の出来事を思い浮かべた。天音の態度が予想外だったのか、イリヤまで眉間に皺を寄せた。


「色んな事があったけど、取り敢えず今はポスポロスに向かって旅してます」

「信頼してるんだ。リオンの事」

「怒られる事も呆れられる事も多いけど私はリオンを信じてます!」


「羨ましいなぁ」

「え?」

「君はカグヤって子に似てる」

「え……!?に、似て、似てませんよ??」

(カグヤの事も……この子は)

「私とカグヤは恋のライバルだった。あの子がくれたコサージュは今でも宝物…。そして、リオンは私の恩人でもある」


 色んな事情が詰まった旅の思い出、其の全てをイリヤに話す事は出来ないが代わりに満面の笑みで彼女の問いに答えた。ふと、イリヤが足を止める。目的の場所であるリオンを含む実行部隊の訓練が見えるテラスに到着した。備え付けの椅子に座り会話は続く。


 リオンを見つめながらイリヤは目を竦めた。一瞬、正体がバレたのかと無駄に焦りまくり余計な態度で口を滑らす天音に苦笑しつつ、彼女は幼少期の記憶を起こした。


「リオンのお陰で、私は私を好きになれた。乗り気じゃ無かったドラグ家の使命も受け入れた。本人はそんな事全く思ってなくて大勢の内の一人としか認識されてないだろうな」

「…どうして私にその話を?」


「君に嫉妬してるから」

「嫉妬?」

「天音がリオンにとって大切な人だから」

「!?大切……そうでしょうか」

「見てれば…分かってしまうよ。天音は眠っていたから知らないだろうけど、凄い顔してた」


「私と出会う前も出会った後も、リオンはずっと戦ってます。邪魔はしたくないのに私は狙われやすいから何時も迷惑掛けちゃう。……危なっかしくて…それだけだと思います」

(…あの日、告白したら何か変われたのかな)


 大勢の内の一人としてしか思われていないと口では言うが、そうであって欲しくないと心が叫んでいた。自分が大勢の内の一人ならば隣の無垢な少女は特別な一人なのだろうと女の勘が伝えていた。


 昔馴染で初恋の相手と再会してからイリヤの心の中で燻っていた熱は再び点火し、大炎を生んでいた。


 過去は変えられない。

 過去は変えたくない思い出だから。

――――――

―回想―


「リオン、もう行っちゃうの?」

「おう。じゃあな」


 子供時代の話。リオン達が双龍の遣い手に会いに行き、より賑やかになった宗家。目眩く日々は過ぎ去りドラグ家で過ごす最終日は、あっと言う間に訪れた。


「ここへは来なくなる?」

「分かんね。けど、水龍の力は手に入れたからな」

「あのさ……」


「ん?」

「あの……っ」


 いじらしい立ち振る舞いのイリヤ。髪もボサボサで寝間着のままで、きっと急いで起きてきたのだろう。

 たった一言が言えず頬は益々紅潮していくが全く持って乙女心を理解していないリオンは疑問符を浮かべるのみで、心の揺らぎは見られなかった。


 イリヤの背後には野次馬のアロマ、ウィル、アレン、シオンが居た。尚アレンだけは意味が分かっていない。


「騎士になったら……」

「なったら?」

「私と……」

(私と何!?!!)


「……っ騎士になったらカッコいいよね!?」

「だよな!カッコいいよな騎士!」

「うん」

(言えない………)


 普段何気なく発している声が今日この瞬間、使い勝手が悪くなる。熱を持つ言葉が喉元を焼き切り、心を穿つ。イリヤは心を飲み込み熱を内に秘める決断をした、してしまった。


 憧れの騎士を褒められ、舞い上がるリオンに呆れ果てる一部を除いた野次馬達。彼の笑顔を見れた喜び反面、告白失敗の現実がイリヤの思考を支配し複雑な感情に苛まれる。


「イリヤ!」

「なに?」

「何かあったら、騎士になった俺が速攻で駆け付けてやるから助けを呼べよな!!」


「ー!…何かある前提?」

「!あ〜…」

「何も無くても来て良いからね」

「気が向いたら、な!!」

「うんっ!」


 一つ約束してくれた。

 告白は出来なかったが約束はしてくれた。

 忘れられない過去は軈て一縷の希望に―。


―回想終了―

――――――


「君は」

「?」


 心の片隅に置いた疑問を今なら、吐き出せるかも知れないとイリヤは思った。

 そして、天音はイリヤの次なる質問に幾度となく見開いた目をもう一度見開く事になった。


「君はリオンが好き?」

「…………へっ!?」

「勿論愛してる、の恋愛的な意味で」


(私がリオンを……!?!)

「信頼はしてます……けれど、恋愛なんて…そんなコト」

「本当に?」

「ホントですっ!だってそんな……」


 言い訳をされないように、恋愛的な意味だと否定される前にハッキリ言い切った。突拍子も無い爆弾発言に狼狽えた天音は、顔が茹で上がったように瞬間的に真っ赤に染まった。


 信頼と恋情は対角線で結ばれる事がある。然し、天音は赤く染まり動揺しながらも否定した。大人の余裕を纏わせるイリヤに丁寧に切り返され、俯く。イリヤは何も天音を困らせたかった訳ではない。ただ己に、芽生えた疑問を確かめたかったのだ。


「本当ならそんなに動揺したりしないと思うけど。他の仲間、リュウシンやスタファノの事訊かれたって真っ赤にはならないでしょ」

「ーっ」


(確かに……二人の事、好きかと聞かれたら好きだって普通に答えるかも知れない。でもリオンの事はどうしてか……動揺してる。自分でもそれは分かるよ)


 図星。そう驚いた事に図星だ。リュウシンやスタファノに抱く感情とリオンに抱く感情は天音の中で、たった今別物だと判明した。


「落ち着いたら聞かせてよ。……天音の本当の気持ち」

「たとえ私がそうだったとしてもリオンには忘れられない大切な人が今も心の中に居るから」


「諦めるの?私は諦めなかったよ」

「!…た、たとえ話です!!!」

「フフ」

(…この気持ちはまだ向き合ってはいけない気持ちだ)


 彼の大切な人の屍を超えて自分は存在する。"どうせ私なんて"と卑屈な考えが抜けない天音は両手を握り締め、甘さに目を背けた。

 成すべき事を成した時、己の隣には誰が居るのだろう。駆ける未来は遠く、淡く。


――――――

―――

 反撃決行当日。穏やかな陽射しと柔らかな冷気が包む本日、救出作戦は決行される。


『"法術クロス・フェーロン"…地属性と水属性の合わせ技だ。本来は、十字形の傷を相手に与えたり地上に残したりする物だが空中でも応用が効く。"上空に無い足場"を作る。合図の後、足場を利用してくれ』


 離れを出る前の言葉を何度も反芻する。法術クロス・フェーロンはロッドの数ある技の内の一つだ。台詞通り、地上が本来の使いどころだが空中にも応用が効くと言う。

 盾変化でも上空の足場を作れなくはないが、盾変化は視界の先でしか発動出来ない。何があるか分からぬ救出作戦、使い勝手は余り良くないと選択肢から除外した。


 実行部隊組との組手を通して、実力は認めてもらったが完全な信頼は得られなかった。

 緊迫した空気の下、ロッドは救出作戦の成功確率を上げる為に単独でとある人物の居場所を突き詰め向かった。


「此処に居たかエンド」

「やぁ兄さん、ペンダントを取り返しに来たんだろう?待ち草臥れたよ。後少しで全てを焼き尽くすところだったのに」


「……」

「連れの女は今日は居ないのかい?兄さん。目の前で殺したらその仏頂面、崩れそうだ」

(正直、エンドを誘導する事は出来ても救出作戦と並行してペンダントを取り戻すのは…、至難の業だ)


「アストエネルギー以上に、コントロールが難しそうだ」

「何ゴチャゴチャ言ってるか意味分からないけど兎に角、殺る気は有りそうだ!!」


 アロマとサラも救出しなくてはならない上にエンドからもペンダントを取り戻さなくてはならない。何方か一方だけを選べばもう一方が悪化する為、ロッドは並行する事にした。

 エンドを野放しにしておくと何をしでかすか最悪な想像しか思い浮かべられない。エンドは悪怯れもせず、堂々とペンダントを首から下げて見せつける。


(最悪、ペンダントは後に回すか…。誘導さえ可能なら勝手に身を削ってくれるだろう)

「火と水、二つの属性を此の身に宿す選ばれし者の裁きを受けろッ出来損ないの兄さん!〈法術 偉大なる霊柩(ギルティアーク)〉」


「ぐっ……!!」

(力は温存しておかなければ)

「どうした!!?そんなんじゃ手応えが無さ過ぎるぞッ!苦しめ!!苦しめ!!!」


 地を蹴り、一直線に駆け出したエンドは法術を発動させた。ギルティアークは右手に火、左手に水の光球を出現させた後二つを合体させ相手に放つ放出系の技だ。その他、調節すれば光球のみを放つ事も出来る。一撃必殺の超威力攻撃に盾変化で対応するも、盾が持たないと判断するや否やロッドは速攻で飛び退き致命傷を避けた。


 然し、エンドが攻撃の手を休める事は無い。次々とギルティアークを放ち、じわりじわりとロッドを追い詰める。盾の強度を調節する事で意図的に破壊させ、飛び退くタイミングをコントロールしている事実にエンドは気付けない。兄の苦しむ姿しか目に映らないのだ。


「〈法術 クロス・フェーロン〉」

「おっと近付き過ぎないようにしないとね」

「…ここだ!」

「背を向けて逃げるのかい兄さん?」


「エンド、お前の攻撃など見なくとも避けられる。撃って来いよ」

「死にたがりだねぇ…ッ!!お望み通り撃ってやるさ!〈偉大なる霊柩(ギルティアーク)〉」


「〈クロス・フェーロン〉」

「ハハハハハッ届くものか!!」


 ギルティアークを往なしつつ、ロッドは反撃の一手を繰り出した。あくまで誘導に過ぎないので当てる必要はないがエンドにとって其れを回避する事は何よりの快感であった。


 クロス・フェーロンにより、地面が十字形に抉り取られ隙間から鋭い水脈のような液体が飛び出しエンドを襲う。気を取られた一瞬を狙い彼から背を向けロッドは逃走した。


 逃げるロッドをエンドが追う構図だ。二人共雪上は慣れない筈だが、不慣れな環境を感じさせぬ戦闘スキルを存分に発揮していた。

 宣言通り背中でエンドの攻撃を躱すロッドはカモフラージュの為にクロス・フェーロンを何度も放った。地面から空中から放たれる無数の刺客にエンドは完璧に対応してみせた。


「なぁ何処へ向かうつもりだ。いい加減見苦しいなぁ」

「行けば分かる」

「まさかとは思うけど今更女が恋しくなったって言うつもりじゃあないよね」


「ロスは……お前の思うような弱者じゃない。嘲るのも大概にしておけ」

「出来損ないの兄さん…の説教ほど嗤えるものは無い。今だってボクから逃げる為に必死に身体を動かしているじゃないか」


(〈クロス・フェーロン〉)

「逃げる為、か。他者を愚弄するあまり表面しか見えなくなったようだ。昔のお前の方が強かったぞ」


 構図も攻防も変わらず。何方も本気では無いので戦力も均衡を保っていた。凡そ兄弟の会話とは思えない冷徹で冷ややかな空気が二人の間を吹き抜ける。


 己の実力を信じて疑わぬエンド、それ相応の力を得てしまったばかりに彼はロッドの上を行く事は叶わない。多数の十字に紛れ、上空に巨大な十字形が出現する。救出作戦に使用する為の足場だ。攻撃用では無いので作戦が終わるまで常時、出現させ続けなければならない。加えてロッドはエンドと宗家の霊族を往なす必要がある。


 負担を負担と思わないロッド。見ている此方が胆力を削られてしまう。


「家…?」

「はっ!!」

「なに!?」

「ヌゥ?」


「フフフ。やぁやぁ霊族の皆さん揃いも揃ってまぁ。……兄さん、何をする気だ」

「急に窓蹴破って来ないでくれる?髪が崩れたら、ただじゃおかないっての」


 次第にロッドとエンドの視界には雪山に隠れるようにして建てられた一軒が映る。ロッドは確信した、宗家だと。エンドが不審に思い行先を防ぐ前にロッドは最高速度で駆けると窓を蹴破り宗家へ大胆にも侵入した。


 ロッドの奇行に宗家に居た者達だけで無く、エンドまでもが警戒を強める。家中には乱入を物とも思わないリゼットと包帯を巻く最中のホプロ、最年長の老兵ヴォルフ、囚われのアロマ、母に抱かれるサラが居た。ジャックとマーシャルは外で組手中だった。


(居た)

「アロマさんですね」

「えっ」


 全ての存在を無視し、アロマの下へ向かったロッドは床に座り込む親子と目線を合わせて言葉を発した。助けに来たのだと伝えようとした矢先、霊族が背後に回り込み踵落としを喰らわせた。


「グゥッ…!!」

「もしかしなくても助けに来た感じ?星の民なんてどうでも良いけど、黒鳶である私からどうやって助け出すつもり?」

「何がしたいのか興味ないけど兄さんの相手はボクだ」


「ヴォルフさん……」

「うむ。侵入者と見て間違い無いだろう。そろそろ来る頃だろうと思ったわい。恐らくあの者は囮…辺りを警戒しておけ。来るぞ」


「はい。ジャックさんとマーシャルにも伝えるべきでしょうか?」

「ジャックは気付く男だ。問題無かろう」


 床に叩き伏せられたロッドの頭部をリゼットは、靴の踵に当たるヒール部分でグリグリと押し付け負荷を掛ける。

 立ち上がろうにも想像以上の重圧が掛かり、中々に上手く行かない。当たり前だが体重の話では無く押す力、筋力の強さの話だ。


 ヴォルフの言葉通り、時を同じくして組手の手を止めたジャックは侵入者の大まかな目的を見抜き独特な笑い声を上げていた。

――――――


「ん、動いた。合図だよ。合図って言うか戦いが始まったって音だね」

(皆大丈夫かなぁ)


 ロッドが宗家へ侵入したと同時にスタファノは合図をキャッチする。目配せのみでカシワに伝えると彼は早速、実行部隊組と後一人に報せに離れを離れた。


 スタファノの隣には不安げに瞳が揺れる天音が居た。役立たずな自分にもどかしさを覚え表情も暗くなる。


「大丈夫だよ〜」

「!あれ私、声に出てた?!」

「顔に出てた」

「あ」


「無事に帰ってくるよ」

「ロッドもロスちゃんも無事に帰ってきてほしい…ロスちゃんはリオン達と一緒だから大丈夫だと信じたいけど」


 何もかも見透かした様な微笑みでスタファノは天音を元気付ける。不安を口に出した覚えは無いと口元を押さえるが残念、出ていたのは表情である。

 指摘されて、思わず両手で頬を押さえ苦笑を零す。和らいだ空気にホッと息を漏らす天音はロッドとロスの安寧も祈った。


「ところでスタファノは行かないの?」

「オレ、ヒーラー役だから。なーっんてね本当は戦力温存の為!」


「もう一つ訊いても良い?テオドーナさんは何処に……?」

「さぁ何処だろうねぇ」


 離れにはイリヤとオリヴィアと先程離れたカシワの三人と天音、スタファノの二人が待機していた。はてさてテオドーナは何処に?


――――――


「どうやら始まったようだ」

「気を付けて。中に居るとも限らない」


 カシワの指示により動き出した実行部隊組は宗家を確認出来るギリギリの位置まで小走りに向かった。ロスの結界法術により、アスト感知されずに近付けたのは勝率を高める上では大きい。


「待ってて今助けるから」

「ロス、お前は此処までだ。サンキュな」

「あ…」

(アレが足場になるクロス・フェーロン…。上手く隠してあんな。そんでもって……やっぱ付いてくるか)


 覚悟は出来ていた。リオンの一言で結界法術が解かれ、皆の姿が顕になる。背中でお礼を言いロスを退避させ、アスト感知した。

 分家や離れは距離が開いていたので、宗家の様子を感知する事は出来なかったがこの距離ならば可能だ。


 肩に掛けた縄を掛け直し、意識を後方に追いやった。自分等を追跡した者の正体は見ずとも分かる。


「お前ら先行って霊族を足止めしててくれ…俺は五秒後に突入する」

「君がそう言うなら」

「信じるからね」


 リュウシン、ティアナ、ウィルの三人は戦地に向かった。残ったリオンは右手を突き出し、斜め前の二時の方角を指差した。


「……」

「コッチ走ってろ。全速力でな」

「リオン殿…ッ!」


 妻子の命運が変わる瞬間、向かわずには居られない。信頼した上で一刻も早く再会したいのだ。テオドーナは二時の方角へ走った。



 五秒後、リオンは駆け出した。

 反撃開始だ―。

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