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星映しの陣  作者: 汐田ますみ
ドラグーン編

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第61話 繋がる想い


「イリヤちゃんおはよ〜安静にしててね」

「……此処は」


 リオン達と別れた後、スタファノはイリヤを連れて集落へと到着した。天音はアカゲソウを採りに断崖に挑み、見事採取に成功するが尻もちをついてお尻を痛めたらしく、若干土被りでお尻を擦っていた。


「ポスポロス近くの集落。イリヤちゃんの怪我は治ってるけど動かない方が良いよ」

「そう言えば治ってる!?…ううん、私が知りたいのは其処じゃない」


「私、天音とスタファノは…えっとリオンの仲間でリオンは雪山に行きました。きっと大丈夫です!」

「……ありがとう天音、スタファノ」

「はいっキミが大事そうに抱えてた水晶はちゃんと有るよ」

「!良かった。ペンダントも無事で」


 意識が戻った直後の数秒は脳が働かず頭痛に苛まれたが直ぐに元通り活性化し、澄んだ青の瞳を左右に動かした。スタファノの言葉を聞き、全身の激痛が治まっている事に気付く。続けざまに自分の事を顧みない態度でイリヤは上半身を起き上がらせた。


 天音の口が自然とリオンの名を呼ぶ。絶対無事と言った保証は何処にも無いし、天音自身も確証している訳では無いが、それでも藁にも縋る思いで助けを求めたイリヤを安心させたかった。


 安心したかはさておき、スタファノは治癒の為に首から外したペンダントと水晶をイリヤの手元に戻す。彼女の表情が乏しい理由は、一度感情を表に出してしまうと堰を切ったように溢れてしまうから。一定のラインを超えぬよう必死に堪えているのだ。


「色々と、ありがとうございました」

「まだ動いたら…!」

「そうそう〜動いちゃダメだよ」

「私はリオンの元に行かなければならない。だから立ち上がって会いに行くの」


「どうして…」

「きみがリオンと一緒にいる理由を私は知らない……今の今まで何処で何していたかさえ知らないし、訊いても多分誤魔化される。リオンの事で唯一分かっているのは、彼は今"縛り"を受けていると言う事だけ。縛りを解けるのは縛りを課した存在、水龍のみ。そして、双方を()()()を私は持ってる」


 イリヤの意志は堅かった。立ち上がろうとしてスタファノに、やんわり両肩を押さえられるが丁寧に振り解き、頭上を上げた。体格差も含め、スタファノの方が有利である事は歴然だが力尽くで座らせはしなかった。強制や束縛を嫌うスタファノらしい行動とも言える。


 対して天音はイリヤに疑問を呈する。彼女を突き動かす源を訊かずには居られない。

 イリヤが話すには、水晶石の地に居る水龍がリオンの現状を曇らせていると云う。水晶石を扱える人間はドラグ一族のみ。故にイリヤは動く。


「じゃあ、オレも着いてこっ」

「スタファノ!?」

「だって怪我を治せるのオレしかいないよ〜。イリヤちゃんの事も知りたいなぁ。リオンの何処が好きなのか、とか」


「なっ」

「す、すす好き…!?」

「天音ちゃん動揺し過ぎ」

「動じてなんかないって!ほんとに!!」

「可愛い〜」

(不思議だな。…あの子、カグヤに似てる。性格も立ち振る舞いも全然違うのに)


「私の家族も傷ついた。…天音、スタファノ一緒に来ても良いよ。リオンの仲間なら信用する」


 気分がコロコロ変わる気分屋のスタファノはイリヤに同行すると許可なく勝手に決めた。却下されれば元も子もないので素早く話題を切り替え、場を転換する。


 スタファノの思惑通り、天音とイリヤは好きの二文字に其々の反応を見せた。初心な天音と違い、意表を突かれはしたがリオンへの想いを否定せず、ふと天音に恋のライバルであったカグヤを幻視した。

 そんな筈ないと、意識を現実に戻し二人の同行を許可した。天音は雪山に行くつもりはなかったが成り行きで立ち上がる。


「キミの家族の身に何が起こったのか、聞かせてほしいな」

「…」

「私が力になれる事は少ないと思います。でも放っては置けません!」


「……うん」

(見間違いじゃない。天音はカグヤにそっくり。よく知ってるよ。その瞳の彩度を)


 天音、スタファノ、イリヤの三人は現状に至るまでの経緯を共有しながら雪山へと歩を進めた。


――――――

 場面は変わって雪山ドラグ。火種が完全に消え去った後、分家へ赴き腰を下ろす。


「リオン」

「カシワ…!変わってねぇな」

「君は少しは落ち着いたかな。こんな(なり)の俺が言っても説得力ないか。ははっ」


 ベッドには包帯を巻いたウィルが悔しげにやるせない拳を握り締めており、隣の腰掛けにはリオンが浅く座り、アスト感知に意識を集中させていた。ティアナは半メートル離れた位置にある窓辺で吹雪を眺めている。山の天候は恐ろしく変わりやすい。


 扉が開かれた。先行するオリヴィアと一人では歩けないカシワと彼を支えるリュウシンが一室に集まった。


「ウィル!!」

「う、オリヴィア痛いよ」

「だってだって…!ウィルばっか最前線に立って私は何もしてあげられない……」

「オリヴィアは結界使って皆を守ろうとしてるじゃん。偉いよ」


「本に書いてあった通りに実践しても結界が何時まで持つか分からない…不十分だった、私の結界。外から街が丸見えで意味無い」

「私は……また家族を守れなかった。家族を守りたいって、あの日強く思ったのに…また届かなかった」


 傷だらけのウィルと再会した途端オリヴィアは彼女の元へ飛び付いた。オリヴィアの行動を察知したリオンは再会の妨げにならないように身体を僅かに捻り、道を開けた。


 末っ子のオリヴィアに泣きつかれ、流石のウィルも平静さを取り戻し表情が穏やかなものに変わる。最前線で戦い、傷ついても守れなかった苦痛だけがこびりつく。皆をサポートしようとも自分が戦えていたらと後悔だけが涙となる。


「俺から話します。ドラグ家に何が起こったのかを。ですが、その前に少し整頓します。先ず秘法術を扱う双龍の遣い手ドラグ家の当代はウィリアムさんから嫡女アロマさんに代わり、雪山の宗家はアロマさんと婿入りのテオドーナさん、そして二人の息子サラくんが住んでいました」


「私達は麓で暮らしてたの」

「テオドーナさんもこの家に居る。アロマとサラくんを想う良い人だった。二人を守ろうとして大怪我して……一番悔しいのはきっと彼だ」


 扉付近に設置された腰掛けにカシワが座り、説明の大前提としてドラグ家の経緯を語る。少年時代の間しか雪山ドラグに訪れなかったリオンも勿論の事、リュウシンとティアナと言った秘法術に明るくない二人にも理解が出来るように噛み砕く。ウィルとオリヴィアはカシワの説明を補足し付け加えた。


「オリヴィアさんの双子の姉エリサーナさんが山麓の街を離れ、一人暮らしを始めて暫く経った頃、幸か不幸かウィリアムさん夫妻がエリサーナさんに会いに行った日事件が起きました」


「リオン…エリサーナはせめて愛した人の傍で暮らしたいってずっと言ってた。その人が居なくとも」

「!つまりアレンは……チッ。アレンは今関係ねぇ」

「だからこの事はパパもママもエリサーナも知らない。エリサーナは特に誰かが傷つくのを怖がるから知らせたくもない」


 事件は前当主夫妻とエリサーナの不在時に起こったので三人はこの地に居ない。前当主のウィリアムは双龍の遣い手としても秀逸であった為、彼が居ないのは痛手だ。


 アレンとエリサーナ。二人の関係は言わずもがな。エリサーナの行動とオリヴィアの言葉によりアレンの所在を理解し掛けたリオンは既のところで思考の海を振り切る。自分に言い聞かせるように関係ないと強調して。


「秘法術を扱う我等を知る者は、少なくとも霊族には居ない筈だった。にも関わらず霊族は突然牙を向いた」

「何人だ」


「僅か二人。しかも内一人は、事が終わるのを眺めているだけでした。たった一人に此処は壊滅したのです」


――――――

―――

―回想―


 長閑で穏やかな天候今日この頃、事件勃発。


「ヌフ。見つけたぞ」

「当たり前じゃない。とっとと終わらせて」


「何者だ!?」

「おかあ…?!」

「サラ!お母さんの後ろに!!」


 ツイン縦ロールの女と上半身裸の男が堂々と正面玄関から入る。但し、扉を破壊して。居間で寛いでいたアロマ達は衝撃音で只事でないと察し、侵入してきた男女に警戒態勢を取る。テオドーナが先頭、後方にはアロマとサラ。息子が状況を把握する前に背に隠した夫婦二人の優しさが滲み出る。


「霊族、黒鳶が一人!」

「二人よ」

「霊族がこのような辺境地に何しに来た!」

「龍の力を頂きに参じた」

「頂くのは水晶石よ」


「停戦協定を忘れたか。互いの領域を侵さぬ様にと霊族側も同意した筈だ」

(アロマ今の内に)

(テオ…)

「ハッ、停戦協定って合って無いようなもんでしょ。主導権は霊族に有るの。醜く卑しい脳しか持ち合わせてない星の民の話を真面目に聞く訳ないの…分かれよ」


 自己紹介から判るのは、霊族の男が己が仁義を重んじる性格…では無く、星の民に対しての宣戦布告、強者の余裕の表れだ。勝ち目が無いのは明白。ならばとテオドーナは小声でサラを連れて逃げるように指示を出す。


 二人が逃走時間を稼ぐ為、距離を取りつつ対話に持ち込む。テオドーナの思いを受け止め、覚悟を決めたアロマはサラに言葉を発しないようにジェスチャーで伝え、辺りを見渡し逃げ道を探す。


 霊族の女は逐一訂正を入れ、最後に星の民を下賤の者と蔑称する。女の崩れた口調からは並々ならぬ怨恨の念を感じる。


「ヌハハッ逃げれるものか」

「くっ」

「アロマ!サラ!」


「利用価値があるのは女の方だったな。男は要らぬか。ハッ!」

「ゔっっ!!?」

「っ!!テ、オ……」

「おとうさんっ」


「落ちろ」

「ぐぁぁあーー!!?!」

「テオーーーっ!!!」


 逃走経路を見出す前に作戦は失敗に終わる。それまで正面に居た霊族の男が瞬きの間にアロマの背後に回り、妻子の逃げ道を塞ぐ。ふと思い出したかのように視線をテオドーナに向け、胸元にめり込む威力の拳を喰らわせた後、一度身体を引き寄せてから力任せに投げ飛ばした。テオドーナは血反吐を吐き

破壊された扉を通過すると山麓の街まで落下した。


 アロマの表情が絶望に、サラの表情が恐怖に変わる。涙を拭う暇無くアロマはサラを抱き寄せ、霊族に抵抗の意思を見せた。


「霊族が水晶石の情報を何処で手に入れたか知らないが、渡す訳にはいかない。…うっ」

「利用価値があると殺されない。便利だな」

「ひっ」

「小僧お前も付いてこい」


 テオドーナを下した後、アロマを気絶させ序にサラをも攫う一連の手順は寸分の狂いも無く行われ、水晶石を狙う二人が如何に強いか物語っていた。


「水晶石探さないと」


―――――――

現在軸


「そして、重症のテオドーナさんが敵の目的は水晶石だって伝えてくれて……漸く私達も異変に気付かされた。カシワとウィルが宗家に向かったのはほぼ同時で、私もオリヴィアに麓を任せて走った」


 リオン達と天音達は突然の襲撃を別の場所で其々聞いていた。口調の違いから文末は多少なりとも変化しているが差異は無い。



回想は続く。

――――――

―回想―


「案外、見つからないのね。探すの疲れた」

「とっとと探し出せ」

「はぁ!?私に意見する気?」


 水晶石は易々と見つかるほど軽い代物では無い。家中探しても見つからず霊族の女はドカッとソファーに座り込んだ。


「あ〜あ、あんたが派手に殺るから面倒臭いのが来ちゃった。自分で処理しなさい」

「ヌゥ」

「家族に手ぇ出すな!!!」

「ウィルさん、彼等は霊族。先走るのは危険だ!!」


 アスト感知するまでも無く、カシワ達の気配を悟ると探す手を一旦止め面倒ごとの処理を行う二人。


 意識を失ったアロマと怯えるサラを見た瞬間、怒りが頂点に達したウィルは敵の素性や能力を探る前に反射的に蹴りを入れる。カシワは一歩手前で急停止し、アスト感知を行った。女は微動だにせず全ての工程を男に押し付け光無き冷ややかな瞳を星の民に向け続けた。


「ぎゃあっ!」

「ぐはっ!?」

「殺す手間も惜しい。小僧、水晶石はどこだ何処に隠した」

「…知、ら…ない……です」

「では拷問に耐えれるか」

「っ!」


 頭部にウィルの蹴りが当たる直前、霊族の男は片手で彼女の足を掴み床に叩き付け、間髪入れずにカシワの鳩尾に拳を入れ、壁に激突させた。衝撃でタペストリーが音を立て崩れ落ち、アロマの意識が僅かに戻る。


 母親の側に引っ付いて肩を震わすサラに質問と言う名の拷問を始めようとしたが、サラを庇う腕が邪魔をした。


「サラには手を出させない…!霊族、水晶石ならココに在る」

「アロ、マ!?」

「古今双龍、いでよ水晶石」


「出現させるタイプだったか」

「道理で探しても見つからない訳ね…時間の無駄じゃない」

(私達では対応し切れないなら…!!)


 完全に意識が回復したとは言い切れないが作戦を練れる程度には思考を回せるようになったアロマは短い詠唱と共に双龍の水晶石とペンダントを二組出現させた。大した驚きもせず、寧ろ苛つきさえ見せる霊族は矢張り格上と言えよう。


 カシワとウィルはアロマの行動を止める暇も無かったが、無策なまま霊族に屈したとは思えない眼光に息を呑み、二人の脳内に共通の一言が過る。


(外部の人間に頼る……)

「カシワ!」

「ヌゥ?」

「フッッ!!」

「…ぐ、何をする」


「ウィルさん!!」

「無駄な事を」

「良いじゃない好きなようにさせておけば。目的には近道かもよ」

「では個人的な目的で動こう」

「あっそ」


 意図的に選んだ青のペンダント付き水晶石をカシワに向かって投げる。抵抗するとは微塵も考えていなかった霊族は一瞬のみ水晶石の軌道を見送り、手を伸ばした。届く筈の手はカシワによって遮られる。水晶石をキャッチすると同時に膝蹴りを入れ、己の肉体が再び傷を負う前に水晶石をウィルに託した。


 案の定、片足に激痛が走ったが繋ぎの役目を果たし、表情に余裕が出来る。ウィルは与えられた役目をカシワ同様、託す為に駆けた。女は尚も気怠げにソファーに沈み、男の勝手さに呆れ溜息をついた。


―――


「ウィル、その怪我は」

「緊急事態、継承者のところに行って!!片方は盗られた」


 イリヤが宗家付近に到着した頃、ウィルは飛び出して彼女に水晶石を手渡し、手短に状況を知らせた。


「盗られた…!?」

「早く!」

「今此処で試すのも良かろうて」

「火の玉!?ウィル危ない!」


 想像以上の事態と妹の怪我に気が動転したイリヤは水晶石を受け取ったものの足早に去る事は出来ず、台詞未満の息を漏らした。


 ウィルはイリヤと向かい合っていたので、気付くのが遅れたがイリヤは宗家の破壊済みの扉前で不穏な動きを見せる敵に気付き、声を荒げた。ウィルを庇うように抱き寄せると次の瞬間には敵の放った特大サイズの火球がイリヤと山麓の街を襲った。


「う…」

「イリヤっ!?!」

「ウィル…」

「ごめん。私の所為だ」


「私、行くね……。水龍の継承者の元に。彼は生きてるから」

「!頼んだよイリヤ。時間は稼ぐ」


 火球だけで無く、火球の影響で風発が起こり大小様々な突起物も吹き飛ばされ、内一つがイリヤの太腿を貫通した。全身に負った火傷も酷いものだが彼女は立ち上がり、前へ進む決意を固めた。



―回想終了―

――――――

―――


「そうして、イリヤさんは水龍継承者であるリオンの元へ向かいました」


 一連の出来事を聞き終えた部屋には静寂が訪れていた。誰も発せず、否。リオンが口を開くのを一同は待っていた。当の本人は目線を下げ表情は読み取れなかったが出血する程噛み締める唇から彼の心情を察する。


「霊族…!」

「アスト感知の程はどうだリオン。俺はギリ宗家に届かない」

「俺もだ。アロマの現状は分かんねぇ」


「ちょっと待って、その霊族…黒鳶って言ったって?」

「はい。テオドーナさんがハッキリ黒鳶だと聞いています」


「噂で聞いた事がある。黒鳶は霊族の中でも更に優れた能力者の集まりだって。……それが二人も居るなんて」


 一口にアスト感知と言っても、感知出来る範囲は異なる。宗家と分家の距離は意外と遠い為、リオンとカシワの感知は届かず囚われた妻子の現状は不明のまま。宗家の立地が雪山に隠れるようにして建てられたのも原因の一つだ。


 霊族側が当たり前のように使っている黒鳶。リュートを携え一人旅をする道中で知った霊族に関する噂話。真偽は定かでは無いが単体でドラグ家を壊滅させた敵が言うには十分な判断材料であり説得力もあった。


「黒鳶…。あたしの探してる男も黒鳶なら分かるかも知れない。素直に情報を渡すとは思えんが、対峙する意味はある。リオン黒鳶はあたしが…」


「駄目だ。俺がやる」

「チッ。二人居るんだ、一人は貰う」

「俺がやらなきゃなんねぇ事だ!」


「まぁまぁ…、リオンもティアナも落ち着いて。気持ちは分かるけど…今は他にやるべき事、あるでしょ?」

「あたしは落ち着いてる」

「…。少し部屋を開ける」


 リオンも勿論だが、ティアナも霊族との因縁がある。黒鳶と聞いて飛び付くが言い終わる前に遮断された。普段より低い声のリオンは益々、息を尖らせる。尚も食い下がる彼女にリオンは喧嘩腰に言葉を吐き出した。


 二人が言い争いをしたところで状況が更にややこしくなるのでリュウシンが仲裁役を買って出た。ドラグ家の手前、仲裁を無視する訳にもいかず渋々受け入れた。

 ティアナ同様リュウシンも霊族には悪い意味での思い入れが強いが、一先ずは二人に冷静さを取り戻させた。


 ゆらりと力無く立ち上がり、リオンは部屋を出て行った。


――――――

イリヤSide


 ドラグ家の身に起こってしまった出来事を話し終えたイリヤは結界の手前まで到着して立ち止まるとポツリと呟いた。


「私達、ドラグ一族は代々秘法術を扱って来た。だから外との繋がりも最小限なの。通常なら、万が一の事態が起こっても王家に助けを求める事が出来るけど…メトロジア城には霊族しか居ない。私達が縋れるのは秘法術を知る者…つまり双龍の継承者を含む数名のみ」


「キミはずっとリオンだけに救援を求めてた。水晶石が水龍用だから?」

「火龍の継承者、アレンは亡くなった。確実に生きてるって判るのがリオンだった」


「アレン…さんはリオンの親友でしたよね。リオン本人から昔のお話を聞きました」

「リオンが君に?」


 助けを求められる唯一の人がリオンだった。生存確認は出来ても居場所までは流石に分からなかった。下手をすればリオンに会えずにボロボロの身体で国中を彷徨う羽目になっていた可能性もある。何故か、火龍の継承者が既に亡くなっていたからだ。無事に生き延びていれば彼にも助けを求められただろうに。


 星降るカラットタウンで天音はリオンの昔話を聞いた。イリヤに伝えれば彼女は驚いたとばかりに目を丸くする。何とも思っていない人間に昔話をする程、人当たりが良い性格とは言えないリオンが天音に話した訳を訊く為、半開きの唇に疑問符を乗せた。然し、街から全力疾走でイリヤの胸元に飛び込まんとする人影に阻害された。


「こんな事、聞くべきじゃないと分かってるけど」

「えっ」

「イーリーヤぁぁ!!」


「うわっオリヴィア!?!」

「えっ!?何なに」

「ドラグ家の女の子って皆可愛いね〜。美人姉妹と過ごしてたなんて、リオンに妬けちゃうなぁ」


「結界に反応があったから絶対イリヤだって思った」

「うん。私も結界はオリヴィアのだって絶対思った。早くリオンと水龍を会わせないと」


 イリヤに注目していた天音は視界外からの飛び出しに大袈裟に驚く。大袈裟と言っても天音は素で驚いているのだ。オリヴィアの相手もそこそこにイリヤは水晶石を握り直し意志を貫く。


 完全に置いていかれた天音とオリヴィアが来ても全く動じず通常運転のスタファノ、彼も本気でリオンを羨ましがっていそうだ。


―――――― ―――

 部屋を出て、直近の曲がり角に向かい壁に背を預けた。独りになり、漸く唇が切れている事に気付き雑に拭った。


(何やってんだよバカ野郎)


 手の甲に滲む血痕が、アレンの最後の姿を思い起こさせ目元が歪む。バカ野郎は己にも当て嵌まる。故にリオンは視線を下げた。


「っ何だ今の音」

「……グッ」

「お前は…誰だ?」

「!此処に居ると言う事は、貴方はリオン殿……いえ、訊くまでもありません」


 ガシャーンと激しい崩壊音が一度聞こえ、次に男性の呻き声がリオンの耳に届いた。気を紛らわす目的で音の出処である色の違う扉の前で足を止めた。一応警戒しつつ、扉に手を掛けたが扉は中の人物によってゆっくり開かれた。


 茶髪に血色の悪い顔を引き攣らせた男性と目が合う。リオンが知らない人物がリオンを知っていた。彼の名を聞き、警戒は杞憂だと悟り肩の荷を下ろす。


「聞き及んでいるかと存じますが、俺の名はテオドーナです」

「お前が、か。そんな怪我で何処に行くつもりだったんだ」

「ソレは……」


「寝てろ」

「然し……アロマとサラが今にも苦痛を与えられているかと思うと俺だけ寝てる訳には」

「傷だらけで何が出来んだ」

「俺が守らなければならなかったんです。じっとして居られません」


 アロマの夫、テオドーナとリオンが出会う。彼の行動と心情を理解した上で敢えて彼に問うた。案の定、後ろめたさを指摘され言葉に詰まるテオドーナに休眠を勧告する。


 リオンの一言で矛を収めるのなら最初から自覚している以上に重い身体を使って扉を開こうとは思わない。無慈悲に現実を突き付ける訳はテオドーナを嫌っているのでは無く彼を気遣う心粋から来るものだ。

 ……守るべき大切な人はリオンにも居た。


「ドラグ家が俺に託したんだろ」

「!」

「俺は水龍に認められた男だ。霊族も黒鳶も全部ぶっ倒して元の景色取り戻してやる。テオドーナ、俺に託せ」


「くっ…リオン殿、お願い致します。アロマをサラを奪われた水晶石を…どうか、お願いします…!」

「ったりめぇだ」


 リオンとて能無しの馬鹿では無い。霊族幹部の黒鳶の強さは客観視出来る。されども彼は託された想いを背負い、黒鳶に挑む。他でも無いドラグ家の頼みだから。


 曇りなき眼に見据えられ、テオドーナは遂に折れる。涙ながらにリオンの肩に手を置くと静かに、力強く、助けを求めた。



深々と雪降る街で繋ぐ想い

象る影、双龍なり。


――――――

―――


体格からして、少年と青年の狭間だろうか。若い男女が寄り添い、道を進む。


?「そろそろ暗くなってきた。休もう」

?「…」

?「心配しないで。最期まで傍に居るから」



道の先で、白雪が降り落ちた。

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