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星映しの陣  作者: 汐田ますみ
スコアリーズ編

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52/123

第52話 アルコバレーノ


「…」

「最初の勢いはどうした!?」


 エピックVSコケラの戦場。

 雷雨の中、罵倒するコケラの声が木霊した。地面に片膝を付き、出血箇所である左腕を押さえたエピックがコケラを見上げる。ティアナ達の到着を待たずしてエピックの敗北は濃厚となっていた。巨大化したコケラにとってはエピックなど蝿のようなもの。


(水の弦…)

「踏み潰してやる!!」

「…!」

「ぐおぉお!」


 水の弦、出力75を発動した。エピックは移動する際に風の弦を使用する傾向にあるがそれすらも不可能な程に追い詰められておりアストエネルギー切れも間もなくだ。


 然し、風の弦が無くとも移動速度を上げる事は可能だ。コケラの股下を潜ると、直ぐさま屋根に乗り上げ移動を始めた。コケラは彼を追いかけ回し地面に亀裂を生み出しながら駆け出した。屋根伝いの移動も終わりを迎え開けた場所に躍り出ると、コケラはシメたとばかりに足を上げ踏み潰そうとした。


 コケラの単純な動きは読めている。水の弦を発動した状態で足裏に細剣を振るった。彼に潰されぬように速攻で抜け手応えを感じる。水の弦は凍傷を起こす。足裏と言う油断した箇所に凍傷と殺傷を起こされ悶苦しむが、足を振り上げ土煙を生じさせると遂にエピックの細剣を奪った。


「ー!?」

「ゴミクズエトワールはもう無いッ!!」

「…、…」


「おーい!」

「その声は、キャス!?何してる!!」

「いやぁ、少しオルクと語らっていたのだ。そしたら何故かコケラが此方に向かってきて思わず話し掛けてしまったのだ」


「なんだとぉ?!」

「エース大丈夫かぁ…?訓練場までよく来たな。もしかして建物を守る為か?」

「……」

「誘導したのか!!?俺を!!」

「…」


 細剣、つまりレイピアがコケラの手によって完全粉砕された。エトワール使いが手持ちのエトワールを奪われてしまえば大幅な戦力減となる。諦めた訳ではないが、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるエピックの元に外野がワラワラ現れる。


 戦闘を終えたオルクとキャスだ。彼等は二人を発見するなり声を掛ける。エピックが負傷しながらも開けた場所に走り出した理由は建物被害を少しでも減らす為である。コケラがキャスと会話している隙にオルクは彼に近寄りニカッと笑う。随分と呑気な笑顔がエピックに余裕を齎す。


「エースはいつも先の事考えてるからなぁ」

(……少し、邪魔)

「んじゃ頑張れよ!おーいキャス〜!」


「キャス!何勝手にそっち側に付いてんだ」

「俺も色々考えた。それから、もっともっと考えたい。だから今は何もしない時間を作りたいのだ」


「訳分かんねぇ事言ってんじゃねぇ!ローグの指示無視するってのか!?」

「嗚呼、無視する。……む?誰か来たぞ」


 微笑んでいるが水面下でオルクからの解放を望むエピック。戦闘中に話し掛ければ、邪魔者扱いされても仕方無い。何をしに来たのか不明なままオルクは片手を上げエピックに別れを告げるとキャスの方へ走って行った。


 スコアリーズへ来た当初の目的をすっかり忘れ、伸び伸びしているキャスに憤りを隠さないコケラは大声で一喝するも対話不可能であると察し、彼に対して肯定か否定かの二択で回答出来る単純な質問を投げ掛けた。彼はは続きを言いたげだったが雨音に混じった足音に気を取られそれ以上は口にしなかった。


「アイツら…おわっ!?鞭!?!」

「オルクよ。一目見て理解した。あの者が手にしているのが神器だなっ!」

「おーよ、すっげぇなアレを持ってこれるなんて…エースの作戦かもな」


 ティアナとスタファノが訓練場に到着した。スタファノは間髪入れずに盾変化の応用技で鞭を出現させるとコケラに向かって放った。


 キャスと話しやすいように彼を肩に乗せていたが突然足を鞭に巻かれバランスを崩すも何とか転倒を避ける。グラグラとした肩から飛び降りるとキャスは遠目で確認しながら近寄ってきたオルクに指差しで確信を呟く。


「本当に、持ってきた……」

「間に合ったか!?」

「しゃらくせぇ!!」

「うっ」


「キャス俺達は退散しようぜ。特等席で見学だ」

「うむ!」


 この中で、一番驚愕しているのは鞭攻撃を受けたコケラではなく作戦を考えたエピックだ。本当に神器を獲得するとは、彼にとっては嬉しい誤算である。何時の間にか外野二人は去っていき、彼の前にはティアナが現れコケラの前にはスタファノが現れた。


 鞭で拘束しようとしたものの思いの外、コケラが力強く拘束どころか逆に引っ張られ鞭を消してしまったスタファノ。今までの彼ならば此処で気分が変わりそっぽ向いていた事だろう。


「も〜疲れた」

「早すぎだ!」

「ティアナが頑張って〜って言ってくれたら頑張れるかも」


「〜…言う訳無いだろう!!目的の為に戦うんじゃなかったのか?」

「そうだけど…」

「はぁ、あたしのサポートでもしてろ」

「はぁい!」


「…」


 そっぽは向かなかったが、微妙に痛い思いをして一気に気持ちが沈んだスタファノは情けない声を絞り出しティアナに癒やしを求め、突っぱねられる。語尾にハートマークが付きそうな裏声で甘い台詞を望まれティアナは照れ隠しした…とスタファノは思っている。


 スタファノが早々に音を上げ、小動物のような涙目で見つめるものだから、居た堪れない気持ちが沸き起こり彼に役目を与えた。泣き落としに弱い。二人の間に入れずにエピックは棒立ちでやり取りを聞いていた。


「無駄話出来る立場かよっ!!」

「!…」

「神器アルコバレーノはあたしの手にある。これで間違いないな?」

「…」


「秘密兵器もゴミクズエトワールと同じく粉々にしてやる!!」

「確かこうだった筈〈エトワール式法術 アルコバレーノ〉」


 妙な空気に堪らず叫ぶ。コケラとの戦いは終わっちゃいない。気を引き締めティアナはエピックに神器が本物かどうか確認を取る。アリちゃんの天樂の間試練を抜けた彼女は正真正銘の神器だと分かっていたが一応、確かめた。無言で頷くエピックに頷き返し弓を構え、エトワール式法術を発動させた。


 弓を構えるとアストエネルギーの塊である半透明な矢が出現した。それ自体に殺傷力は無いが神器と合わせる事で絶大な力を生む。標的はご丁寧に巨大化している為、余程の不器用で無い限り確実に当たる。


「ふん!で、それがどうした」

「効かない!?」

「なんで…?」


 当然のようにティアナが放つ矢はコケラに当たったのだが、全くもって効いていない。玩具で突かれた程度の反応しか見せず傷一つ見当たらない。エピックの細剣ですら多少の傷痕を残していると言うのに、何故。


「効いておらぬ、どう言う事だ?」

「うーん…多分だけどエトワールの使い方が下手だからだと思うぜ。俺もキャスも最初っから完璧に使えてた訳じゃないだろ?」


「なるほど!エトワールの…それも神器の力を引き出すにはコツがいる。ならばエースに神器を託せば良かろう?」

「そうはいかねぇよ。神器を彼女が持って来たなら選ばれたのは彼女だ。他が神器の力を全部引き出そうとしたってムリ」


「神器とは奥が深いのだなぁ」

「だろ!?だから正規ルートで神器の取り合いした方が良いんだよ。……あ?」

(エース、自分のエトワールどこやった?)


 特等席で見学するオルクとキャス。神器が微塵も効いていない様子にキャスは不思議そうにオルクに訊く。彼の質問に快く答えるだけでなく、解説も交えて噛み砕いて説明する様はオルクの性格がよく表れている。


 益々、神器に惚れ込むキャスから視線を外しエピックの方を見つめる。表情は相変わらず真顔だが、幼馴染のオルクには分かる。彼は焦り始めている事に。その原因はティアナにある訳ではなく手持ち無沙汰の現状にある。


「……エトワールを使うにはコツがいる」

「コツ?」

「エトワールはアストを介して強くなる。只の法術を撃つときの感覚をエトワールに落とし込まないと、エトワール式法術は弱いまま……」


「…コツが掴めなきゃ神器もガラクタになるって訳か。時間が掛かりそうだ」

「…だから、時間は稼ぐ」

「オレも!時間稼ぎ手伝うよ〜」

「なるべく早く使い熟してみせるさ」


 エトワール使いは何も考えずにエトワールを振り回している訳では無い。法術を習う際、アストエネルギーを放出する感覚を先ず最初に覚える。此れをエトワールに落とし込むのがエトワール使いだ。簡単そうに聞こえるかも知れないが実際試すと分かる。むず痒さに襲われるのだ。"放出する感覚"を無意識で行っていたティアナは意識してエトワールに感覚を繋がなくてはならない為、慣れるには少々時間が掛かる。


 エトワールが無くともエピックは前線に立つ宣言をした。生真面目な性格が垣間見える彼に対し、ティアナとの間に無理矢理割り込んで自分も、と伝えるスタファノの都合の良さと言ったら。ただ、現時点ではスタファノの方がエトワールの無いエピックより時間を稼げそうなポテンシャルを秘めている。


「〈法術 荊棘(ローザファッシ)〉」

「こりゃあ!?」

「逃げないように、ね!」


「てめぇらに言われずとも逃げねぇよ!!

〈法術 サイズパフォーマンス〉とりゃ!」

「ーっ〈法術 グランド〉!!!」


「ゴミクズが無くても法術が使えるのか?!だがアストエネルギーの消費がデケェんだろ顔を見りゃ分かんぞ。てか、さっきからチクチクとウゼェ!それ止めろ!!」


「あんたが倒れるまでのカウントダウンだ。よく数えな」

「強がってんじゃねぇっ!」


 コケラの周りをグルッと囲う荊棘。普段の荊棘の高さは2m程度だがコケラ用に上乗せして数倍高くした特別製だ。巨体のまま暴れられたら面倒臭いと考えたスタファノは次いで鞭を出し前に出たが、手に握っていた細剣の欠片を巨大化させ投げ飛ばした。


 スタファノは難なく避けられたが、荒い息が続くエピックは回避しようとした矢先ガクッと視界が揺らいだ。迫る欠片に成す術なしと思われたその時、普通の法術を発動させた。風属性のグランドによりスピードが上がったエピックは見事に欠片を回避してみせたが、負担は大きいようで彼の息はずっと荒い。


 その間にも、ティアナはコツを掴もうと試し撃ちを続ける。


「オルク、何処に行っていた?」

「ちょっとな!エーース!!聴こえるかー?コレ受け取れ!!」

「!」

(スペア…!)


「仲間想いなのだな」

「わっはっは!感謝しても良いぜ」

(〈エトワール式法術 グランド〉)

「クソッまた動きが良くなりやがった」


「オレも負けない…!」


 少しばかり席を外していたオルクが戻って来た。両手にエトワールを持って。右手には斧タイプの彼のスペア。左手には細剣タイプのエピックのスペア。気の利いた立ち回りが出来るオルクは良く通る声で合図すると細剣を投げ渡しエールを送った。


 直前まで投げ渡された物の正体が分からずにいたエピックだが、細剣だと分かるや否や飛び付いてキャッチし、空中でグランドを発動した。心の中でそっと感謝の言葉を述べコケラに斬りかかる。


 然し、勢いを付け過ぎたらしくエピックは軌道を読まれてしまっていた。拳を握り締め彼が間合いへ入るのを待つコケラ。空中受け身が間に合わず、視界に広がる拳をキッと睨むしかないエピックを守るように、スタファノは動いた。鞭を華奢な身体に括り付けエピックから拳を遠ざけると同時に背後へと回らせ鞭を離した。


「…!!」

「ぐぬっ!?」

「当たった〜」


「〈アルコバレーノ〉」

「うっ!?…なんてな!!対策してないと思ったら大間違いだ〈サイズパフォーマンス〉!!」

「防がれたっ!」


「もしかして…コツ、掴んだ?」

「掴んだ。…が」

(まだ、弱い)


 細剣は突く攻撃が主流の武器だが、巨大化したコケラの皮膚は硬く突いただけでは勝負にならない。ましてや普段使いしている細剣と比べて性能が落ちるスペアでは尚の事。

 なので火の弦、出力100の細剣をエピックは斜めに斬り込んだ。それだけではビクともしないが火の弦と合わせる事で、一層殺傷力を高め僅かながらも火傷を負わせられる。


 コツを掴んだティアナが遂にアルコバレーノを使い熟し始める。一息整えてから放つ矢は見るからに殺意が高そうだが、待ってましたと言わんばかりのコケラは何処からか取り出した瓦礫に法術を掛け投げ飛ばす。空中で巨大化し、矢に直撃した瓦礫は盾の役割を果たして地面にバラバラになって落ちた。


 エトワール式法術のコツを掴んだのは事実で間違いないが神器の威力を引き出すにはまだ脆く、更なる猶予が必要だ。


「威力が弱くともタイミングさえ合えばどうにでもなる!!」

「だねっ」


(っ来る!)

「〈荊棘(ローザファッシ)〉」

「またコレか…!!」

「引き付けるから、その隙に」

「分かった」


 何処までも強気な姿勢を保つティアナは戦場が滞らぬように走り出した。彼女に触発されサポートを続けるスタファノは背中を追うもコケラの乱入で立ち止まり荊棘を発動した。


 コケラにとって現状、倒した方が安心するのが神器を持つティアナ。警戒順位が低いのがスペア持ちのエピック。ちょろちょろと動き回る面倒臭い相手がスタファノ。故に狙われるのはティアナだ。彼女に向かう途中で荊棘に道を防がれ、鞭で身体を拘束される。


 ティアナが最善のタイミングで撃てるように自ら囮役を買って出たエピックも駆け出す。


「〈法術 ペリコローソ〉」

「ぐっ!」

「危険な香り、ご堪能あれ!」

「花如きに負けてたまるか!!」


 鞭で拘束したは良いもののスタファノ一人の力では直ぐに千切れてしまう。コケラに引き千切られる前にペリコローソを発動した。鞭伝いにチューベローズの花が咲きコケラに襲い掛かる。鞭は解かれたが鞭以上に身体が縛られている感覚に陥る。無理矢理身体を動かそうとするが中々上手く行かない。


 ペリコローソは花の香りを嗅いだ者の動きを鈍くする法術だ。只管、行動を制限されブチ切れ中のコケラはエピックにまで気を向ける事が出来なかった。一撃離脱の囮に翻弄され続ける。殆ど傷は付けられていないものの、確実にコケラにはストレスが溜まっている。


「ふぅ…」

(そう、大事なのはタイミングだ。思った以上にアストエネルギーの消費も激しい。…一撃で決めさせてくれ)


 ティアナは無駄撃ちを止め、神器を構えた状態のまま不動を徹底する。何時でも動けるように、タイミングを見計らうように彼女の両眼は炯眼(けいがん)となる。


―――――― ―――

フラットSide


(ふっふっふっ)

「ここで大活躍するのが、この私の!!秘蔵コレクションなんです!!」


 こっそりと外に出る影一人。大荷物を抱え、近くの空家へと移動する彼女はフラット。一人楽しげに荷物を一つ一つ丁寧に取り出すと窓を開け、標的を確認した。


「来る日も来る日も私は雑!用!カラットを加工しても私は使えない…。私だけの工房もない!!なんと可哀想な見習い、技巧師!然しフラットはただ泣くだけの女ではございません。人目を忍んで造り続け早20作目。私にだってモードは行なえます!私が造ったエトワールの力、見なさいなっ!!」


 空家で一人芝居を始めるフラット。意外と演技派でメソメソ泣く振りをしたり、無い筈のスポットライトを光らせたり、彼女の裏表ない自由な性格が垣間見える。


「おっきい敵には…丹精込めて造った私だけのエトワール…の中でも、一番モード時間が長かったこの子に決めた!〈エトワール式法術 ハチ号〉」


 並べたエトワールの八番目を手にして、フラットはエトワール式法術を発動させた。弓タイプのハチ号は初動は良かったもののコケラに届く前に消失してしまい残念な結果に終わった。


(うっ…はいそうですよね。私は見習い、技巧師!エトワール使いのように自在に操るなんて、出来ない…!!)

?「な、そのエトワール俺に使わしてくれ」


「ん…?ロアくん!?」

「見習い同士、良いだろ?」

「ロアくん…その頼み、……乗ったぁ!」


 エトワール技巧師はあくまでエトワールを世に生み出すのみ。数十分程度のモードを行ったエトワールであれば試し撃ちも出来るのだが、それ以上は戦士に頼る他ない。只の試し撃ちはエトワール使いでなくとも法術を使う戦士であれば可能だ。


 失意の念を露わにするフラットの元に少年の影、現る。フォルテに説得され渋々帰宅したと見せかけて参戦の機会を窺っていた。


 フラットとロア、互いに見習いと言う共通点があり何処か気が合う二人は協力する事にした。フラットがハチ号を手渡し、性能の説明を軽くしてから構えの姿勢を取る。


「〈エトワール式法術 ハチ号〉発射!!」


―――――― ―――

ティアナSide


「ぬぅ…!!?」

「「「!」」」

(隙が出来た…!!)


 ハチ号は特別な性能を持っていないが飛距離が超優秀。拙い見習い戦士が放った飛矢は真っ直ぐ標的に届いた。大した攻撃力も無いがコケラの気を紛らわすには十分だった。


 飛矢の出処は知らないが、三人は瞬時にして悟る。この機を逃す訳にはいかないと。


「スタファノ!」

「オッケ〜」


「〈エトワール式法術…」

「させるかぁっ!!」

「…」

「どけっ!!」

「ーっっ」


 ティアナの意図を汲んだスタファノは彼女の身体を鞭で縛るとコケラの目線までふんわり上げた。空中で弓を構えるがコケラはまだ、瓦礫を隠し持っていたようで再び防御の姿勢を取る。


 エピックが動いた。颯爽と風の弦、出力100を弾きティアナとコケラの間に割って入る。条件反射でコケラは手にしていた瓦礫を全てエピックに向かって投げつけ、対処した。


 ハッと気付いた時には既に手遅れだった。エピックの狙いは此処にある。コケラの防御する術を失くす為に飛び上がったのだ。瓦礫を盾変化で防ぎながら着地し、事の成行きを見届けるように神器を見上げた。


「 アルコバレーノ〉!!!」

「ぐわぁぁっ!!?!」

「終わりだね」


「神器アルコバレーノ、矢張り強いな」

「まともに当てられたら只じゃ済まない。エースチームの勝ちだな!」


 ティアナが放った矢は瞬間的に七つに分裂しコケラに直撃する。発した威力は凄まじく巨大な身体は元のサイズに戻り、一言も話す隙を与えられずに意識を失い倒れ込んだ。


 緩やかに地に足をつけたティアナ。彼女等を特等席で眺めていたキャスは神器の威力に武者震いをする一方でオルクは腕を伸ばし立ち上がるとエピックにサムズアップした。


 ホッと息を整えたエピックはオルクの方を見て見ぬ振りをする。スペアの件は感謝しているものの此処で反応すれば即座に特訓に付き合わされるに違いない。


(アリちゃん…見えたか桜)

「ティ〜アナ、お疲れ様。どうかした?」

「いや別に」


 雨で視界は悪いが数十メートル上空の景色には確かにガーディアンの里の桜が見えた。アリちゃんに出会うまで気にも留めなかった桜は彼女の中で少しだけ大きくなった。


 神器を見つめるティアナは何時もの強気な眼から変わり他人を想いやる穏やかで優しい眼付きになっていた。


「神器の中で眠るってのは一体どんな気分なんだろうと……ふと思っただけだ」


――――――

―――

オマケ


「懲りませんねロアさん」

「ロアぁ…」

「フラットさんまで……」


 一部始終を魔鏡越しに見ていた三人はロアの行動力を舐めていたなぁと後悔する。

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