第48話 織々瀬
リュウシンSide
「〈法術 辻風〉目を覚ましてくれ!」
「目覚めたんだよ!!」
リュウシンVSソプラの戦場は他の戦場よりも拮抗していた。何方も勝らずとも劣らずの力量で牽制し合う。ソプラの説得を試みるリュウシンは辻風で彼の足を止めようとするも盾変化で容易に防がれてしまった。感情が全面に出てきた事により攻撃が単調になったようだ。
「〈法術 アンプリファイア〉!」
「くっ、僕は知ってるぞ!!君が本当に優しい男だって」
「お前に何が分かる!?」
「リオンや天音の正体をファントムに話してないだろう?!彼等が天音を狙わないのもソプラのお陰だ」
「…それがどうした?夢に必要無かったから話してない…!」
「霊族は違うだろう。霊族に話せば君の言う夢とやらに協力したんじゃないか?それでも話さなかったのは、…話せなかったのは君に良心が残っているからっ」
「違う!!!何もかも違う!!」
ソプラも頭に血が上っており動きが単調だ。アンプリファイアを盾で防ぎ言葉を続けた。屋根上で戦う二人の攻撃が近くに居るルルトアに接触しないように細心の注意を払って、リュウシンはソプラと向き合う。
ソプラが街を裏切ってから考えていた事が、リュウシンにはあった。始めて出会った日リオンと天音の正体が露わになり襲撃を受け焦ったがどうにも様子が可笑しかった。霊族もファントムも正体を知らずに見逃した。
つまり敵側で唯一知っているソプラが二人の正体について話さなかったと言う訳だが、これが意味するところはリュウシンの台詞通りの事実だ。
図星なのか、そうでないのかは分からないがソプラは取り乱した。荒げた声で全てを否定する。
(ここからでは何を話しているのかよく聞こえないけど…ソプラのあんな顔初めて見た)
「君が自分の家に妹を上げなかったのも死なせたくなかったから、だろう?」
「違うって言ってんだろ!!!偽物の家族も偽物の街も全部どうでもいいんだ!!」
「どうでもいいって思ってる人間はそんな顔しない!」
(戦わないで、って私が言える訳がない…。声だって届かない…見る事しか出来ない…)
雨風が凌げる屋根の下でルルトアは俯いた。二人の言い合いは雷雨に紛れ途切れ途切れにしか彼女の耳に届かない。何処か、それで安心する自分が嫌になり目を逸らす。
握り締められた両手はすっかり冷めていた。
――――――
リオン、ランスVSソワレの戦場はソワレが小剣を仕舞い、三叉槍を構えた事で状況は一変した。神器が使われる、身構えるには十分過ぎる理由だ。隙が生まれないように、未だ二人のエトワールは交換されたままだった。
「リオン…」
「あ?」
「〈エトワール式法術 織々瀬〉ッ!」
「飛べっ!!」
「は?!」
「いいから!!!」
「ーっ!?」
「ギャハハハハッ、チョー強いじゃん…!」
神器の性能を誰よりも知るランスが、この先起こるであろう状況を危惧し冷や汗と共にリオンに忠告する。事前に何も説明して無かった為に一手遅れた。織々瀬が発動した瞬間、三叉槍の穂先から多量の"水"が現れ二人に襲い掛かる。
水を避ける為屋根に乗り上げたが、加減を知らないソワレは己の身長の三倍近い量を出したので屋根に乗ったぐらいでは水を回避出来ず呑み込まれないように盾変化でガードするしか無かった。
「エトワール…!!」
「っ!」
「あ、間違えた」
防ぐのに手一杯、多量の水による視界妨害、が原因でリオンはソワレの接近に気付くのが遅れた。三叉槍で迫る彼女に対し、槍を構え防御の姿勢を崩さないリオン。二つの武器が重苦しい金属音を立てソワレは思い出した。狙う打刀はランスが持っている事に。
「ランス!来るぞ」
「嗚呼っ」
「喰らえぇえ!!」
「ぐっ!!」
「はぁっっ」
「チッ、また邪魔する…」
サッと向きを変えるとランスの方へ一直線に駆け出した。ソワレの動きに合わせランスも地を蹴った。打刀を扱うのは今回が初めてだが、刀系統のエトワールは比較的扱いやすくリオンよりも達者な動きを見せた。
水引かぬ戦場で神器にも怖れず立ち向かう。是が非でも打刀を奪いたいソワレと是が非でも神器を取り戻したいランス。二人の目的が似通っており、一層熱が吹き出す。目配せでその場凌ぎの作戦を立てるとソワレの背後から槍を突き出すリオン。残念ながら、勘の鋭いソワレには効かなかったのだがリオンとランスの合流には成功した。
「何なんだ、この水は」
「三叉槍タイプの神器、織々瀬の能力さ。水を生み出し自在に操る。これは能力の序盤に過ぎない…」
「マジか」
「織々瀬の力もーっと見せてあげるッ!!」
「!」
三叉槍タイプの神器、織々瀬の能力は大きく分けて二つ。無から多量の水を生み出す、生み出した水を操る。今のところソワレは水を生み出しただけで操った形跡は無い。つまり、神器の力は此処からが本番なのだ。
最低限の説明が終わり、ソワレは三叉槍を使って水を操り攻撃してきた。幾つもの水渦が出来上がり縦横無尽に手当たり次第、破壊する。降り続ける雨と、ソワレのアスト能力である雨量調整とが合わさり最早手が付けられない状態だ。
折角、合流したのも束の間水渦を回避する為リオンとランスは別々に離れてしまった。
「!〜ほんっと羨ましいなぁ才能」
「それそれー!!」
「防ぐにしたって限界があるぞ。何か策はねぇのか」
「無い!それだけ強いんだ神器は!」
「コッチもエトワール使うしか無さそうだランス、エトワール寄越せ」
「放り投げる訳にはいかないからな」
「ボクがキャッチしてあげる!!」
策を練らせない強さを求め神器は造られたのだから無策でも落ち度は無い。それよりも彼は神器に耐えうる才能を持つソワレに少し、嫉妬していた。自分は右腕に包帯を巻くほど大怪我したのにも関わらず、ソワレは一発で決めてみせた。然しソワレも人の子。時々、水渦が不安定になり途中で消える事もある。強さだけでは神器を扱えないと言う訳だ。
(さて、どうするランス…。ない頭フル回転させろ。リオンのエトワールを使えば勝てる可能性はある…が成功確率が低い上に攻撃が外れる可能性もある。完璧なタイミングで当てさせるには…!)
「先ずは神器を取り戻すのが先決だ!兎にも角にもこの水を何とかしないと」
「なら航海法術かっ?!」
「え?!だからそれは駄目だって…」
「咎める人間は居ねぇぜ」
「今咎めたよね!?」
「全部の渦集めちゃえ!」
「っ時間が無い〈エトワール式法術 潮騒〉ーぅっ!!」
「ランス?!微かだが振動してる…?」
ワープケイプ以外では航海法術の使用を禁ずると一昔前に教わった筈だが、ガン無視のリオン。咎めるランス。無駄話の所為で説明するつもりだった作戦が伝わらずランスは巨大渦に巻き込まれた。
巻き込まれながらも潮騒を発動し、盾を出して上手く巨大渦から逃れる。槍はリオンの手元にあるので振動を受け取るのはリオンだが、発動者であるランスには隙の的が見えている。彼はしっかりと打刀を握ったまま漸く説明を始めた。
「いいか、僕は的の位置の指示を出す。槍を突くのはリオンに任せる。正確な位置に当てられれば必ず相手は怯む!!」
「簡単に言ってくれんじゃねぇか…」
「ボクに筒抜けとかバカじゃないの!!?」
「出来ないのか?」
「出来るに決まってんだろ!」
「そうこなくっちゃな」
「位置は常に変わるから用心しろよ。初めはここだ」
「ああ!」
(ドコから…!?〜〜!視界を悪くしたのが仇になってるムカつく!!)
視界の悪さを利用し、互いを認識出来るギリギリの位置で行動開始した。リオンに発破を掛ける必要は無い、彼は何時だって全力だ。
口頭で伝えてはソワレの隙の意味が無くなるので彼女に見られないように自分の左首筋をトントンと二回突く。左首筋に隙の的が出現していると理解したリオンは頷き、どうにかしてソワレに近付こうと足を動かす。
一方のソワレは雨で二人の位置を把握してはいるものの視界の最悪さが仇となり踏み込み切れずにいた。知略を練って詰めるタイプとは掛け離れている彼女が起こす行動と言えば只管、力技で圧倒させる事だ。
「ドッチもくたばれ!!」
「ぐっ!リオン今だ!」
「はっ!!」
「ーっふ、……うっ!」
「カッ!?」
「りお、!?」
「まだやれるッ。次は何処だ!」
「!…次はここだ」
四つの水渦を二つに別け、リオンとランスに向かって放つ。盾程度で防がれぬよう別けた二つを一つに纏めて特大を喰らわせた。ランスは打刀と盾変化の両方を使い、水渦をガードし、更に自分に攻撃が集中するように誘導した。
攻撃の手が和らいだ瞬間を狙い、背後からソワレの左首筋を突く。打刀を持たぬリオンに興味は無いが一応警戒して正解だった。背面の攻撃に無理矢理振り向かず首を捻って避ける。槍が掠り、数滴血痕が飛び散るが歯牙にもかけずリオンと目を合わす。
槍術に慣れないリオンは構えの姿勢から直ぐさま防御の姿勢に変えられずにソワレの攻撃を受けてしまった。三叉槍をリオンの太腿に刺すとそのまま後方に投げ飛ばす。
飛ばされつつも受け身を取り、次の隙の的を狙い出す。リオンの全力に応えるべくランスは隙の的、腹部を叩いた。
「もっと!もっと!!〈織々瀬〉!!!」
「…おいおい」
「ただでさえ、豪雨だってのに…!そんな力使いまくったら街がめちゃくちゃになるぞ」
「ボク、知らないし」
「うっっ!!」
「くっ!ぅあ!」
(こうなったら…)
「!?全く無茶をする」
「バッッカじゃない!!?」
雷鳴の伴う豪雨に加え、戦場は既に水浸しだが、ソワレは更に三叉槍から水を生み出した。ランスの言う通り多過ぎる水量を闇雲に操り多方向に飛ばしまくればスコアリーズの被害は拡大する一方だ。無闇矢鱈に神器を酷使すればソワレ自身にも悪影響がありそうだが、そんなものは知らないとでも言いたげに才能でねじ伏せる。
八つの水渦を四つずつに別け、攻撃開始だ。襲い掛かる水圧に呑まれ、あわや溺死する寸前だったがエトワールを頑丈な壁に刺し、水圧の届かない位置にある屋根に乗り事無きを得る。
が然し、終わらない猛追。打刀エトワールに対する執着と二人を徹底的に懲らしめたい殺意とが相まって水渦が増幅する。リオンは捌き切れないと判断し、盾を出すとその上に乗った。渦めき荒ぶる多量の水をサーフィンの如く、乗りこなす。盾変化を長時間使う事はアストエネルギーを垂れ流すと同義であり危険が伴う為、八割の呆然と二割の尊敬から溜息を付くランスと意味不明とばかりに叫くソワレ。
「お、へへっ案外簡単だな」
「遊んでないで攻撃しろ!」
「わ〜ってるって」
「エトワール奪って、ギッタギタに切り裂いてやる!!!」
「僕が道を開ける。次は決めろ」
「おうよ!」
段々楽しくなってきたのか、リオンは調子に乗り盾でのサーフィンを口角を上げながら熟していた。二度目のお咎めをするランス、少しバツが悪そうに盾変化を解除すると屋根に乗り落ち着いた。
隙の的の位置は変わっていないが再確認のつもりで腹部をトントンと叩き、先陣切ってソワレの隙の的を大きくすると宣言した。三者三様にエトワールを構え宣言通りランスが飛び出した。
「ふっ!」
「はっ!!」
(イケる…)
「渦は幾らでも作れるッ」
「なっ!?」
(しまった油断した…!)
神器を取り戻す為には、ソワレに対して近接戦闘に持ち込まなければ話にならない。彼女の周辺に水は無く一度懐に入れば此方のペースに持っていけると確信したランスは屋根から飛び降り一気に詰め寄る。
無論、眼前には水渦が迫るが対策済みだ。水渦以上に大きい盾を左手で出し力任せに押し込む。徐々にソワレとの距離が近付き、打刀で斬る準備をした。この時、水渦を左右で挟み撃ちにすれば良かったもののソワレは意地を張り一つの水渦だけで押し出そうとしてしまった。ソワレの性格を考えた上でのランスの作戦ならば、彼は地頭が良いと言えよう。
負ける気など毛頭無いソワレ。ランスが水気の無い位置に降りた瞬間を狙い背後に巨大渦を作り襲う。懐に入りさえすれば、と思っていたランスは油断し出遅れる。打刀は準備していたので即座に構えられたが直撃したとして無事では済まないだろう。
「〈法術 滾清流〉」
「リオン…助かった」
「礼には及ばん…ってな」
滾清流で水渦の軌道を変え、ランスの危機を助けたリオン。二対一の対立に助けられたランスは目を合わさずに礼を言い、ソワレと向き合う。リオンの返し言葉は伝わってないが構わなかった。
「はぁっ!」
「う、絶対奪う!」
「槍の使い方が成ってないぞ」
「奪う!!」
「ふっっ!」
「っ!」
「ー取り戻した」
(織々瀬も解除された)
「リオン!」
懐イコール、打刀の間合いだ。ソワレが動揺している内に両手で柄を握り唐竹割りで面を取ろうとするがソワレは三叉槍で防ぐ。流石に反応が早い。防御の後、攻勢に転ずる彼女を煽るランス。槍を使っての戦闘でソワレはランスに敵う筈ないのだ。培ってきた歳月が違う。
隙の的を打刀でも狙いつつ三叉槍を取り返す事に集中する。ランスの猛攻撃に織々瀬の水渦を操る隙も無く、頑丈だった守りも崩れトドメに手頸を斬る。一時的にだが痙攣した手では三叉槍は当然掴めず、遂に手放した。
指先にまで力を込めた左手で手放した三叉槍をガッチリ掴み、即後退する。正面を向いたままステップで離れリオンに道を開けた。織々瀬は解除されたようで水渦も水自体も全て消えた。
「ボクの物だぁっ!!」
「ふっ!!」
「そんなの効かない!!!」
(隙の的の位置が変わった!?)
「リオン違う!ここだ」
「はっ、ー?!」
「ゔっ」
「ランスてめぇ…!」
(意識が飛ぶ…いやボクはまだ負けてない)
「ごめんって」
「ったく」
負けじとランスに突っ込むソワレとランスの見様見真似で槍を構え突かんとするリオン。槍の攻撃が当たるかに見えたが、直前で隙の的の位置が腹部から頭部に変わった。
言葉で伝えても間に合わないと踏んだランスは擦れ違ったリオンの照準を力技で無理矢理ズラす。意図しない方向からの衝撃に不意を突かれ、槍を引っ込めてしまったが横回転で頭部に回し蹴りが直撃したので結果オーライだ。ガンと響く足蹴りが炸裂し意識朦朧とするソワレ。
当ったとは言え横やりを入れたランスに憤るリオン。ランス自身は謝っているが然程悪くは思っていない態度で打刀を返した。取り敢えずは素直に受け取り、リオンもランスに槍を返す。これでエトワールは持主の手に戻った。
「〈サメザメ〉雨はまだ止んでないッッ!」
「こっから先は俺に任せてくれないか」
「…分かった。勝てよ」
「言われずとも」
飛びかかった意識を戻し、小剣を手に取るとサメザメを発動した。伸びた刀身は、雨粒を受け一段深く尖さを増していた。血肉に飢えた獰猛な鮫は死をも畏れない。
三度目の正直。サシで勝てると言う自惚れから来るプライドでは無く、真っ向勝負で勝ちたいと言う純粋な気持ちでソワレとの対戦を希望するリオン。彼の意志を汲み取りランスは下がった。
リオンVSソワレ。リオンのエトワール式法術が鍵を握る。
―――――― ―――
天音Side
「この扉の先だよ。開けるね」
「うん…!」
長い長い地下回廊を走り抜け、天音の体力が底を尽きかけた時ようやっと到着した。舞子のフォルテは稽古漬けの毎日を送っている為か、汗一つ掛かず息切れもしていなかった。
天音の為に一息つき、扉を開ける。現在鍵の所有者はアカメで、彼は欠片の到着を待っているので扉の鍵は開けっ放しだった。少し、力を入れれば呆気なく扉が開き二人は中へ入っていった。
「アカメ!」
「フォルテ、天音さん」
「明かり要らずですね」
「ええ」
「最後の一欠片、どうぞ」
「来る事は分かっていました。ありがとう
ございます」
「私一人では辿り着けませんでした…。フォルテにも助けられちゃったし」
「えっへん」
「早速試してみます」
不思議な方陣が描かれた床に、五つの欠片が揃う。欠片の放つ光は暗闇の部屋を照らし、まるで夜明けの光明の様であったので探さずとも欠片の側に座るアカメの姿を認識する事が出来た。
二人が入ってきた事を確認するとゆったりと落ち着いた雰囲気で立ち上がり近付いた。欠片を受け取ったアカメは天音達に御礼を言い、微笑んだ。何時もと変わらぬ面持ちに何処か安心を覚える天音。無意識の内にこれから起こる出来事に対し肩に力が入っていたのだろう。
「ピッタリ嵌ってるね」
「本当に本当の最後で良かった」
「後は、肝心の再生方法ですが…!」
「ッ!」
「うっ眩し」
「ー!わ、わわっ…アカメさんありがとうございます。また助けられちゃいました…」
「今のは一体…?」
最後の一欠片と言いつつ実はまだ有るのではと心の奥底で思っていた天音だが、継ぎ接ぎ繋で合わさった欠片達を見て、杞憂だったと安心した。
左からフォルテ、アカメ、天音の順で床に置かれた欠片を眺める。眺めているだけでは何時まで経っても欠片は元に戻らない。意を決してアカメは手を翳しアストエネルギーを流し込もうとした。現時点では此れが唯一の方法なのだ。
次の瞬間、欠片が一際強く眩い光を放ち全体を包んだ。暗がりに居る今の三人にとって突然の光量は情報過多であり全員が欠片から目を背けた。体幹を鍛えていない天音は光を避けようとふらふら後退りし、後ろに倒れかける。アカメが支えてくれなければ尻もちをついていた。
「?この床…」
「目がチカチカする〜…」
「すみません、大丈夫ですか?」
「大丈夫です!何度もチャレンジすればきっと欠片もくっつきますよ。私に構わず」
「フフッ頼もしいです。然し、困りました。明鏡新星が再生しなければ吟詠の原曲も手に入りません」
「ねぇアカメ、この床の方陣って最近使った?」
「!そうだ。あの時、私の血に反応したのは明鏡新星と方陣の二つだった」
「血に反応?」
「描きかけのままだけどさ、正しく描けたら使えそうじゃない?」
アカメと天音から少し離れ、一人床と睨み合うフォルテ。方陣が未完成であると気付き方陣の途切れた端まで歩き一つの提案を投げ掛ける。
フォルテの言わんとしている事を察し顎に手を当て数日前を振り返り頷いた。血液に反応したと不穏な事実に肩を竦ませる天音だったが彼女にしては大分落ち着いている方だ。悪戯っ子のような笑みでアカメを見つめ、アカメもまたフォルテを見た。例え確証が無くとも眼前の可能性は方陣しか無いのでやるしかない。
「使おう」
「でも待って、どうやって方陣を完成させれば…」
「私の血に反応しました。もう一度同じように血液を流してみます」
「それは駄目、ですよ」
「死にませんので御安心を」
「アカメ、天音、役立つかもって持ってきておいて良かった」
「筆?」
「フォルテ…!ね、アカメさん筆使いましょう!」
「そうですね」
「じゃあアカメは筆で完成させて、俺達は欠片を中心に移動させよう」
「うんっ」
躊躇いなく、自らを傷付け方陣に手を伸ばすアカメを止める天音。小さな傷だろうと彼女は見たくないのだ。戦時を経験している所為か、当たり前の感性が欠落しているようにも感じてしまい天音は落ち込んだ。何もアカメに限った話では無い、何時も近くに居る彼女の仲間も含まれている。
放っておけば口喧嘩に発展しそうな雰囲気の二人に終止符を打つフォルテ。懐から固形墨と筆を出した。彼に救われてばかりだ。
アカメに渡す際に小箱に入った固形墨に水を垂らし筆に付けやすい配慮も怠らない。因みに水は何処から来たかと言うとフォルテの属性が水らしく法術を使わずに属性放出をしただけと言う訳だ。
「……描き終わりました」
「こっちも準備オーケーです!」
「では向かいます」
「…!」
「ひぇ今度は何!?」
「どうやら正解のようだね」
「だな」
「びっくりした…」
互いの準備が終わり、アカメは筆と固形墨を端に置いて中央に向かったが途端に完成された方陣が光り出し緊迫感を齎す。先程の眼球に傷が付きそうな光量を浴びた事もあり、思わず身構えるが数秒経っても淡く光る以上の"ナニカ"は始まらずホッと胸を撫で下ろす。
「フゥゥー…!」
「一先ず俺達は中心から離れた方が良さそうだね」
「みたいだね…何があるか分からないし」
欠片と向き合い、アストエネルギーを流し込む。一度目より強く注入した事で欠片と方陣の光も強まる。アカメは集中しているようで一切気にしていなかった。フォルテと天音は身の危険を肌で感じ後方に下がった。
光に加え、無から風も生まれ髪が靡く。
(純白、漆黒、真紅…記憶の色、故郷の色)
「はぁっ!」
「アカメ!」
「アカメさんっ」
「ハァハァ、完成しました」
「やったぁ!」
「やったね!」
「明鏡新星が動いてっ…!?」
「何か映ろうとしてる」
「!!」
照らす閃光と吹く強風がピークに達した時、視界から色が消えた。中央に居るアカメの名を呼んだ。彼の安否が不明だ。
程無くして欠片の淡い光以外の全ての現象は治まる。アストエネルギーを出し切り、疲労してはいるが元気そうなアカメ。彼は立ち上がり成功したとの旨を伝える。フォルテと天音は喜びを分かち合うようにハイタッチして彼の側まで駆け寄る。
此れで終いとは誰も言っていない。再生した明鏡新星が自我を持ったかとの錯覚に陥る。無音でアカメの目線の高さまで浮かぶと早速、作動し始めた。
(…思ってたんだ、何処かで会った事があるって……誰かに似てるってーー…!!)
「ーーッ!!?!」




