第106話 超級の足掛かり
一夜が明けた。
「へぇーそんな事があったのか」
「あぁ。何だったんだアイツ」
何処ぞに出掛けていたシオンはしれっと出戻り、リオンと組手勝負をしていた。法術を使わぬ盾組手を懐かしみつつ、天井の穴の成行きをシオンに伝えた。あわよくばシリウスについての情報が聞ければ良かったがどうやらシオンも彼の素性どころか、存在すら知らなかったようだ。
「天井に穴を開けるほどの技、ぼくも見たかったなぁ」
「つーか、お前は何処に行ってたんだ」
「ちょっとした野暮用だって。それよりセイルくんとの修行は上手く行ってる?」
「おう。強さの波はあるが継続した力を維持出来れば父親以上になれる素質はある」
「リオンに任せて正解だったよ」
一直線に飛び出した二人の拳は正面衝突した。スピードで勝るシオンの拳がコンマ数秒速く到達したが威力で勝るリオンの拳がハンデをへし折る。シオンに対して距離を取ってしまえば不利だと判断したリオンは只管に近接攻撃を続けたが、シオンの頭脳がそれを許さない。
小分けに出現させた盾変化を土台に、一回転でリオンの背後に着地すると足元を掬おうと上体を下げた。当然リオンは完璧に対応し回避するが、シオンの狙いは此処だ。リオンが体勢を整えるより先に上体を起こし死角へ入り込む。
「!今のは当たると思ったのに」
「そう簡単にいかせるかよ」
一撃が入ると思いきや既のところで盾を出し、防いだ。代わる代わる衝撃が走る攻防戦の勝敗はまだまだ付きそうもなかった。
「どう?次は法術を交えるのは」
「望むところだ!〈法術 水龍斬〉!!」
(…?俺、セイルに修行時間変えるって言ったっけな)
――――――
水の間、浅瀬空間にて。透明な水を掬ってはスラリと指の合間に抜けていく。
「何でだよ…クソ、何で…また居ないんだッ!何処で油売ってんだ!!」
またしても待たされる羽目になったセイルは誰も居ない浅瀬で水を蹴り上げた。
身一つでは強くなれぬと知った。成りたい姿は他人を介していた。だからこそリオンとの修行を受け入れた。…のだが、肝心のリオンは何処ぞへ行ったっきり。
自分勝手な奴だ。思えば思うほど沸々怒りは湧き上がり水面に波紋を作り上げた。次に会った時は先々まで約束を取り付けなくては。そうでなければリオンは捕まらない。
――――――
星の間にて。天音と天音に付くリゲルが場を見守る。
「〈法術 キャンセラーダウン〉……!」
「その調子です」
「つ、疲れる……」
以前にも増してアストエネルギーが安定し天音自身の気力なども鑑みて、愈々実技へと入る。先ずは小さな物から、リゲルが法術を小石に当て天音がそれを解除する。キャンセラーダウンを使う場面は必ずと言って良いほど、逃げ場を失くされ否応無しの状況に陥っていた。その為に突発的な力を生んだが、現状は違う。
杖を構えた自らの手で法術を発動させなければならない。アスト以上に気力の消耗が激しく二、三回終えたところで天音の両目はクルクルと忙しく回っていた。
「よしっもう一回!」
「気力が満ち充ちて集中出来てますね。が、アスト残量を把握しておく事も大切です」
「うっ…はい勿論です」
「天音様、焦りは禁物です。器が昇華されようとも、振れ動く時は大いに傾くもの。自らの気を零れ落としてはなりません」
「へへっ次はもっと動けるよう尽力します」
(私はこの力で大勢の人を繋ぎ止めたい。エトワールの力も借りれば手の届く以上の範囲も適う)
良くも悪くも素直な天音は空元気の演技一振り、熟せずリゲルに注意を促された。幾多の戦場を見てきた。大勢の人と触れ合った。繋ぎ止めたい命に届かず、紅涙を流した。杖を握り直した天音は先を想って己を鼓舞する。
そんな天音に少々含みを持たせたリゲルが髭を上下に動かした。
「シリウスの件、天音様が気に病む必要はありません」
「……でも事実ですよね、王族がやってきた事は力によって人を従える…強欲の王権。私はもう逃げないと決めました。……ってまだ権力とかゼロですけど…」
「……ありがとうございます。神話を生き、宝玉を其の身に宿した私は天音様のお言葉に救われます。シリウスも同様に救われたでしょう」
「私の言葉で救われたら、嬉しいです。シリウスは言い方が一方的だったけど、彼の言葉を聞いて、苦しみを知って改めて頑張ろうと思ったんです!」
万物は流転する。形あるものは常に移り変わっていくが人の、特に強過ぎる情念は特定の形を形成せず己を喰ってかかる。シリウスもまた怨嗟の情念を止められないのだろう。なればこそ"繋ぎ止めたい"。
天音に深々と感謝したリゲルが目を伏せる。瞼の上には神話の情景と友人だった頃の幼馴染が映り、人知れず感傷に浸った。
――――――
香の間にて。ティアナとカエデの睨み合いが続いていた。正確にはティアナの一方的なガン飛ばしをカエデが飄々とした態度で躱しティアナを無駄に苛つかせていた。
「あたしと闘う気あるのか!?」
「ありません」
「くっ…!何が不満なんだ…あんたの命令通り買い出しして補助薬も飲んで、筋力だって鍛えてる……寧ろ不満があるのはあたしだ!!」
「生き急ぐのはお止めなさい。正直、見損なったと言いますか…なんと言いますか、ガッカリです」
「はっ!?」
修行初日や数日の内は真面目に師匠面していたカエデだったのだが、ある日を境に突如態度を変え修行を断るように。ティアナの怒りは只でさえ積もり埋もれている。激情を刺激するように白々しく肩を竦ませ、ガッカリと口にするカエデ。余りに芝居掛かった演技にティアナの沸点は限界に達した。
「どう頑張ったって娘っ子に、飛躍的な強さは手に入りそうにありません」
「今更振り出しに戻す気かッ!!」
「いいえ。私では役不足と思いまして、適当な方をお呼びしました」
「……は?」
カエデは胡散臭い雰囲気を漂わせる男だが取り付けた約束事を無碍にするような不遜さは持ち合わせていない筈だ。今までの修行は何だったのかと激情をぶつければ、思ってもみない言葉が返ってきた。
間の抜けたティアナの声を掻き消したのは扉の開閉音だった。早速、カエデが呼んだと言う人物がお出まししたのか。
(誰だ……?)
「ウチは"パウル・ウルターナー"。寄宿学校主席、近衛騎士団所属。ティアナの師匠に頼まれて、ティアナを嬲りに来た。宜しくどうも」
「騎士団…?」
「はい。丁度近くに居らしていたので、娘っ子に似合うスパーリング相手を連れてきました。では、ウルターナーさん後はお好きなように」
「頼まれました」
「あ〜そうそう一つ言い忘れてました。この砂時計が落ちる前に一本取らなければ娘っ子は強制送還ですので」
「なっ、勝手に決めるな!」
「とっくに始まってます。余所見厳禁ですよ」
「!」
現れた女性の名はパウル・ウルターナー。重量感ある金色の鎧を身に着け、彫りの深い顔が不敵に笑う。発色の良い緑色の外ハネの髪質を結い上げ、ティアナの前に立ち塞がる。
騎士団に居るらしい彼女は七幻刀カエデたっての願いを承諾し特別に七幻刀の住処へ入る事が許可された。
ティアナの許可は当然無く、勝手に事と次第を進めるカエデに噛み付くが彼は背を向けたまま砂時計を逆さにした。
瞬間、桃色のポニーテールが風に揺らいだ。正面から迫る風発、パウルはティアナの動揺など刹那ほども気にせず右足を突き出した。
「〈法術 スパイクドライバー〉!!」
「ーーうっ!?!」
「ほん、今のを喰らって気絶しないとは……打たれ強いなぁ…鍛えがいがありそうだなぁ!」
「〈法術 火箭・三連武〉!!」
「おっと」
(こうなったら、この女から一秒でも早く一本取って見返してやる…!)
突いた右足から放たれる炎は鳩尾を渦状に焼き、ティアナをぶっ飛ばした。法術スパイクドライバーは火属性を足に付与して相手にぶつける近接戦闘向きの技のようだ。まるで全身を焼かれたよう激痛がティアナを襲うが彼女は意地で立ち上がり、火箭・三連武を発動した。
火属性対決を仕組んだ張本人カエデは、勝負事に興味が無いのかサラサラ規則正しく流れ落ちる砂を眺めていた。
――――――
花の間にて。ピオが発動させた結界法術フラワーガーデン内で、スタファノの修行は佳境を迎えていた。
花を咲かせ、樹木を生長させ、散らして、また咲かせる。法術 綻びの花の毒素が己の身体に触れる度、スタファノは治癒法術をあてがった。毒素は取り払えたがアストを消費した代償は重く、焦りの混じった瞳が視野を狭める。
「ぐっ…!はぁ…」
「うん。こんなものだろう」
息付く暇もなく連弾する毒花粉を回避し、鞭を振るった。巨木を倒壊させれば効力を失くすが、何せ重量級な上に複数本構えている。日々の鍛錬を怠ったが故に倒木させるだけの筋力が足りず、脳内で再度戦略を練り直した。
盾変化で目に見える毒花粉は防げても香りまでは対処し切れない。戦闘フィールドの空気でさえ手中に収めるピオに向かって、スタファノは走り出した。
毒花粉を吸わぬよう口元を袖で覆いつつ、鞭で弾いて回る。触れた瞬間鞭にも毒が回り変色するので、一定の位置まで達したら使い捨てる。何度か繰り返しながら直立不動のピオの元に走り込み、再三鞍替えした鞭を伸ばした。
渾身の力を振り絞った攻撃だったが、鞭が皮膚に触れる僅か数センチのところで地中から生えてきた植物に絡め取られ、失敗に終わった。
「はぁっ…疲れた〜」
「音を上げるのが早い」
「え〜。……一応攻略したんだから今日はもう良いでしょ」
「ふっふふ」
「うわぁ〜…何その笑顔……嫌な予感」
「覚醒への足掛かりは掴めたようで何よりだが、スタには足りない要素がある。ここぞと言う時の根性と覚悟だ」
「……耳が痛い」
「そんなスタにピッタリの修行二段回目がある」
「……聞こえな〜…い」
拘束が解かれた瞬間、大の字になって寝転ぶスタファノにピオが一喝するが、彼はどこ吹く風で目を逸らした。腑抜けた返答に締りが悪くなりそうだがピオには、取って置きの手札があった。
やぁやぁとダレるスタファノを起き上がらせ、ネジ巻きイヤリング越しにも聞こえる距離で法術を唱えた。
「〈封印法術 ローズガーデン〉」
「ーーっ!!」
封印法術ローズガーデンは発動に合わせ相手を一輪の薔薇に変えてしまう。ポンと宙に投げ出された黄色い薔薇を風切るように捕まえ、フラワーガーデンを解除した。
「さて……。何処まで持つか」
―――
足りないのは根性と覚悟。かつて持ち合わせていた二つの要素はスタファノが要らないと捨てたもの。
もう一度取り戻す為に、荊棘のアーチを潜る。
(封印法術ローズガーデン……実際見たのは初めてだ…此処は発動者が架した条件をクリアする事で解除される。オレの場合、根性と覚悟…)
血肉に飢えた猛獣の咆哮が刺々しい薔薇園を震わす。何処に潜む猛獣は根性と覚悟を鍛える為に生まれてきた存在。先ずは、立ち向かうかどうかの覚悟が試されている。
「面倒なのはイヤだけど……此処から出られないのももっとイヤだな…!」
スタファノの新たな挑戦が始まる。
―――――― ―――
―――
風の間にて。一枚の葉が自然の風に抗い枝を握り締めていた。だが所詮は葉っぱ、抵抗虚しく地面に舞い落ちた。無論、自然の風を操っていたのはリュウシンだ。
「お、終わったぁぁ……!!!」
(アイニーさんに報告に行かなきゃ……)
自然の風を操り一枚ずつ葉を落とすと云う無茶振りに見事答えてみせたリュウシンは、足元覚束なく尻もち付いた。アストの消費と疲労とが重なり意識を持っていかれそうになるが、グッと堪え現実世界で息をする。
暫く身体を休めたいところだが、これ以上休憩していると折角引き戻した意識が途切れてしまう。額の汗を拭い、リュウシンは立ち上がった。
報告と言ってもアイニーは何処に居るのだろう。抑、今日は七幻刀の住処に居るのかすら不明だ。ともあれ初日以降、風の間に足を運ばなかったのを見るにリュウシンが出向かなければアイニーは修行の具合を知る由もない。
「アイニーさ〜ん!…?アイニーさん!…この辺には居ないのかな。…あ、このマフラーって、もしかして……!」
七幻刀の住処には水浴び場がある。天然の湧き水と温泉水の二種類だ。修行の汗水を流したり、滋養に浸かったりと意外と活躍の場がある水浴び場は、基本的に男女の区別がなく判別材料は入り口の棚の衣服のみ。
現在、棚籠にはアイニーのマフラーとその他衣服が纏まっておりリュウシンは確信した。彼は此処に居る。
常識的に考えて、いきなりズケズケと踏み込むのは良くない、出るまで待つべきだと頭では判っているものの逸る心は収まらず、リュウシンは胸の内で謝罪し靴を脱いだ。
「…」
「アイニーさん!葉を落とし終えました。僕に本格的な修行を付けてください…!突然押し掛ける形になったのは申し訳ありませんが…」
「全くだ」
「……ん?」
(……ん!?)
結論、アイニーは湧き水で身体を浄化していた。普段一つ結びで垂れ下げてある黄緑色の髪をお団子ヘアにし、肩まで浸かっていた。後ろ姿を見付けた勢いで矢継ぎ早に捲し立てたリュウシン、誠意を見せる為に下げた視界は不自然なシルエットを映し困惑した。
衣服の上からでは視認出来ようもない腰元のくびれ、男性にしてはスッキリし過ぎた体型、極め付きは胸元の突起部。
恐る恐る視線を上げると恨めしそうに同色の瞳を細めるアイニーの姿があった。然し、彼は色艶の増した肉体を隠そうともせず滴る水は胸板を楕円状に進み、地面へ飛び降りた。
アイニーの容姿は紛れもなく……。
(アイニーさんって、女性の方……!!!!)
「!?!す、すみませ……」
「おい」
「っ!?ひゃい」
「オレは男だ。…体型の事は誰にも言うな」
「…、…!!!」
男性と思われていた青年アイニーは女性だった。彼は彼女だと判明したが本人が男だと明言するので此処では彼と表記しよう。
温泉にも浸かっていないのに、ぼひゅっと全身が沸騰したリュウシンは咄嗟に目を瞑り、謝罪しようとしたが途中で口を塞がれ淀みない声帯にド突かれた。
無言で首を上下に振る。何度も、何度も。顔面に溜まる熱を逃がすように風を起こした。アイニーの目に映る自分は嘸や情けないだろう、目を瞑っていても蔑みの光景が瞼に映される。
「着替える」
「……お待ちしております……」
矢張り常識には従うべきだ。考えなしの己を恥じてリュウシンはアイニーを見送った。
―――――― ―――
水気を拭いたタオルを地べたに落とす。普段の自分ならしようもないミスに眉がピクリと反応し、タオルを握り直した。そのまま何をする訳でもなく只管タオルを見つめ、呼び起こされた記憶を辿った。
『変だと思うよな。男の恰好で意味もなく過ごすなんて』
『そんな事言ったら私だって頗る変だよ。皆そう…根源にある"理想的で普遍的な人間"との相違点に悩んでそれを変人だと決めてしまっている。貴方の悩みは貴方だけの形……』
かつて隣に居た一人の女性、黒髪の癖っ毛がアイニーの言葉を反芻して可笑しげに揺れ動いた。それは必ずしも茶化す行為ではなく寄り添う姿勢だ。けれども此処には居ない。
「"ソフィア"……」
無意識に漏れ出た慈しみの真名を拾ったのは戸の近くで背筋を伸ばしているリュウシンだった。見まい聞くまいと意識をズラしていたが元吟遊詩人の手前、反響した思いは届いてしまう。
―――――― ―――
衣服を着直し、マフラーを巻き直して戸を開けた。ジッとリュウシンを睨むと無言で立ち去った。靴を履き直したリュウシンは慌てて後を追い、風の間に到着した。
「修行第一段階クリアだ。第二段階を始める。オレと組手勝負だ。但し互いに使うのは自然の風のみ、良いな。自然の風に慣れたとオレが判断したなら、次は最終段階の突風陣の修行に入る。修行法は他に認めん」
「はい!お願いします。……あの、その前に一つ伺っても…?」
「一つだけなら」
特段、早口と言う程でもないが口を挟む隙間を与えてはくれなかった。無言状態が続き突然振り返った時には何を言われるやもと緊張が走ったが、先程の一件を話題に出すつもりは皆無らしい。
複雑な感情を抱えたままでは修行に支障を来す恐れがある。一欠片でも疑念を弾こうとリュウシンは質問を絞り出した。
「"ソフィア"って何方ですか?…盗み聞きした訳じゃありませんけど聞こえてしまって…」
「……ソフィアは童話作家として名を馳せた。そして、繋がりを残したまま死んだ変人だ」
「繋がりを残した……?」
「質問は一つまでだと言っただろう。それとも修行を中断してでも聞き出したいか?」
「!…いえ、すみません」
黒髪癖っ毛の持主の名は"ソフィア"。親しみはあるが聞き馴染みのない童話作家らしい彼女は"繋がりを残したまま死んだ"。更なる疑問が生じかけたが無理矢理切り捨てられ、有耶無耶な対話を終えた。
「構えろ」
「っ!」
(呼吸すらままならない程の風発を一瞬で全開に出来るなんて…やっぱりアイニーさんは凄い人だ。あ、もしかしてジャオが言ってたのはアイニーさんの事…?)
「余所事を考える隙間は無い」
「ーー……ぐはっ!」
(だから、繋がりを持つのは嫌なんだ…!)
戦闘態勢に入る前に風の支配権を奪われた。数日振りに容赦無い風圧を受けたリュウシンは彼らしくない邪念に囚われ、アイニーの接近に対応出来ず呆気なく一本取られてしまった。けれども悔しげに顔を歪ませたのはアイニーの方だった。
余程ソフィアについて問われた事が引っ掛かっているようで、二撃、三撃と間髪入れず圧をかけた。無駄のない精錬とされた動作に防御するのが手一杯だったリュウシンだが、最後の三撃目は自然の風を操りジリ貧で相殺した。
「ジャオが話していた"イトコの姉さん"と言うのはアイニーさんの事ですね……?」
「…イトコはオレしか残っていない。余程オレと風使いを会わせたくなかったらしい」
「じゃあ…結界術をゼファロに教えたのも」
「そうなる。が、関係ない事だ」
「ありがとうございます!!」
「は?」
「僕、ゼファロが大好きです。其処に住む風使いの皆の事も。だから、ゼファロを守ってくださりありがとうございます!」
「お前はオレの地雷を踏み抜くのが上手い」
「え!?」
ゼファロとの別れ際、ジャオが語っていた従姉妹の姉さんとはアイニーだ。男性の装いを好むアイニーに対し態々"姉さん"と発言したならば、それは遠ざける行為。結果的にリュウシンはアイニーに出会い彼女の仕掛けた罠は無意味に終わったが、想いは伝わった。
ジャオの件や、ゼファロの件を連ねて心の底から感謝を伝えようとするリュウシンだがアイニーには逆効果だったようだ。
時に人は、感謝や厚意を思いの通りに受け取らない事がある。リュウシンに説明する気もない彼は不機嫌にマフラーの位置を正した。
こうして彼等の修行は続いていく。




