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星映しの陣  作者: 汐田ますみ
七幻刀編

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102/123

第102話 街角と再会

 七幻刀の住処、地下にて。風が唸った。


「ぐっ…」

「風使いが風に苦戦してどうする」


 約束の三日を越えて、愈々修行に入れるのだと気を引き締めたリュウシンは地下のとある部屋に入り、先に待機していたアイニーに挨拶をした。そこまでは良かったのだが、突如ピオが乱入し地面からニョキニョキと樹木を生やすこと十本。戸惑うリュウシンを余所目に役目を終えたピオはさっさと退室した。

 一体全体何がどうなっているのやらと疑問符を浮かべながらアイニーを見上げると、彼は真顔で言った。


『自然の風を操り、葉を一枚ずつ落とせ』

『はい??』

『口答えするな風使い。全て落とすのが修行の最低条件だ』


 修行内容は自然の風を自然に操り、葉を落とす事。それも一枚一枚丁寧に。十本の樹木を落とすのに一体どの程度時間が掛かるのか想像しようもない作業は、何と言うか……。


(何と言うか、その、凄く……)

「地味だと言ったか?」

「え!?いやいや!」

「……先日見せた突風陣、未完だろう」

「…はい実は。三秒、硬直が解けなくて」

「あれは風を一身に受ける大技。今の風使いでは三秒縮めるどころか、半分の力も使えていない」

「!…分かっています……バオ様の突風陣とは似ても似つかない」

「自然の風を読み、流れを汲んで、初めて真価を発揮する術を二、三修行した程度でそう簡単に扱えると思い上がらぬ事だ」

「……それを扱えるようにする為の修行第一段階が葉落としなんですね…!」

「あぁ……」


 読心術まで心得ているとは油断も隙もない。などと現実逃避した思考でアイニーから目を逸らしたリュウシンは、にっこり笑ってみせる。誤魔化した笑みで果たしてアイニーの機嫌が良い方向に流れてくれるのかどうかはさておき。

 彼の口から修行についての詳細を聞かされた。ゼファロ出身の者にとって突風陣は誰もが知る長の技であり、アイニーほど強かな戦士には嘸や馴染み深い技だろう。


 回りくどい言い草を嫌う彼らしい台詞に体温が下がるのを感じたが、かと言って縮こまる訳も時間もない。自分の成すべきものの為に両頬をパチンと叩いたリュウシンは気合を入れ直した。


「それが終わったら呼べ」

「見てくれないんですか!?」

「面白味がない」

「うっ…。もし僕が不正したらって考えにはならないんですか」

「不正したら、次で落とされるだけだ。不正する顔には見えないが」

「!頑張ります」

「……」


 束ねた長髪がひらりと横揺れしアイニーは背を向けた。断言するに定評のある彼が言うんだ。一応誠実さは伝わっていると信じたいが、少々不安は残る。せめて精一杯の返事を認めてくれたらと淡い期待を抱きアイニーを見送ったが、彼が不意に振り返った。


「手本」

「えっ」

「無意識で操れなければ意味が無い」

「ーっ凄い」

(ここまでの力を身につけるのに、どれほどの修行を…!)


 カツカツ近寄り片手の照準を樹木に合わせた次の瞬間、五本の木から全葉が吹り落ちた。極々、自然に吹かれた様に舞い散った光景は途方もない力の差を意味した。最後の木の葉が落ちたのと同時に彼を見やるが、ぽっかり空いた空間が在るのみで七幻刀の彼は何処にも見当たらなかった。


「僕も負けてられない!」


―――

 面白味が無いと部屋を出ようとしたが、直前で手本を見せる為に振り返ってしまった。そんな自分に苛つく。


(柄にも無い事をした…)

『柄なんて何でも良いじゃない。私は好きだよ。貴方の繋がりを大切にするところ』

(あんたは何時もそうだ。オレの中で微笑んで消える……あんたらしくないよ)


 自嘲気味の影を踏んで止めたのは勝手に作られた幻像。アイニーの脳内で満開の花の如く咲う女性が居た。黒髪の癖っ毛を揺らす彼女は、現実には居ない。



 目を開けても閉じても何処にも居ない。彼女の人生は綴じられたのだから。

――――――

 ティアナとカエデは毎日、修行という名の(しご)きが行われていた。


「ゔぁあっ!?」

「全然なっていない。……赤子の握る力の方が強かった」

「まだ、だ!」


 ティアナが三度攻撃するごとにカエデが一度反撃する。分かりやすい組手方式で回避など造作もない、とティアナは高を括っていたが現実は彼女を追い詰めた。何度やっても回避が間に合わずカウンターを生身で受けてしまう。強気になればなるほど傷は増えてく一方で、カエデに軽口を叩かれる始末。


「術を出さない相手に苦戦し過ぎです。この程度の力で復讐すると語ったのですか」

「御託はいい……次だ!」

「まぁまぁ」

「っ!」


 倒れ伏せる身体を叩き起こし、戦闘態勢を解いたカエデに殴り掛かるが彼は一歩も動かず掌のみで受け止めた。眉一つ動かさないカエデにティアナは顔を歪ませ苦を露呈させた。


「幾ら躍起になろうと勝てはしませんよ。補助薬でも飲んでひと休憩してください」

「……分かった」

「気分転換に散歩でもどうです?」

「あんたの下らない買い物には付き合わん」

「バレましたか」

「休憩、終わった」

「はいはい。次は筋肉を育てる組手です」


 カエデは隙あらば買い物させようとしてくる。意図の読めない面倒ごとをティアナが引き受ける訳なく、言われる前にハッキリと断った。組手中は笑顔一辺倒だったのに、今は困った困ったと眉を曲げる。態とらしい演技にも付き合うものかと休憩を強制終了した。


「より深く、より溜め込んで、娘っ子が普段見向きしない基礎を全身で感じてください」

(より深く、より溜め込んで……)

「〈法術 火箭・三連武〉」

「その調子」


 お次は趣向を変えた組手。素直に従うのはティアナ自身も効果があると薄々感じているから。先程の組手より三倍遅く諸々の所作を行う様は、端から見ると巫山戯ているように見えるかも知れないが本人達にとっては至って真面目だ。


「隙あり」

「っーぐぅ」

「全く、才能ありませんね」

「〜〜うるさい!」

「ほらまた行き急ぐ。スピード緩めて」

(やりにくい…!!)

「今、平静さを保てなければいざと言う時、何も出来やしない」


 火箭・三連武を余裕綽々で回避し、体術を最低限の動きのみで往なし、反撃を喰らわす。瞬きの間に上体を低くし足元を掬うと、傾いた身体に踵落としを入れる。スローモーション組手なので盾変化は間に合うが、それでも強度が足らず華奢な身体は壁に激突した。

 扱かれるのは兎も角、軽口は必要無いだろうと怒筋を現し一直線にカエデに立ち向かう。然し、当然の如く掠り傷すら負わせられず諭される。


「娘っ子の場合、新たに超法術用の技を体得するより既存の技を強化した方が早そうだ」

「だったら、さっさとコツを教えろ」

「師匠に対する言葉遣いが引っ掛かりますが娘っ子の頼みを聞いてあげましょう。確りと受け止めてください」

「はっ?」


 約十分後、汗だくで仰向けに寝転がるティアナが其処には居た。多数の擦り傷は強きを刻まれた証だがティアナには矢張り似合わない。

 修行を積んでいる筈なのに己の生きる理由、復讐が段々遠くなる感覚を植えられているようで気が滅入る。冗談めかしに口を付けば、予想外に乗り気なカエデがティアナを起こした。


「先ずは通常型〈法術 鹿十ノ熨(しかとのひのし)〉」

「ー!」

「そして強化型…〈超法術 鹿十ノ熨〉」

「ーっ!!」

「通常型と強化型の違いは主に二つ。一つはアストエネルギーの凝縮量、もう一つは身体への負荷。分かりますか?現在執り行っている組手こそが最も強くなる為の近道だと言う事に」

「ーっ……減速組手にも意味があったのか」

「理解し、研鑽し、体得し、……やるべき過程はまだまだありますから、それまで心が折れぬよう支えていなさい」


 起こして早々、先を急くようにカエデはティアナと向き合った。攻撃意図を察した彼女が両手を構え盾を出現させたと同時に法術を放った。鹿十ノ熨と呼称した技はカエデの右拳を炎で覆い尽くし、鹿の頭の様な形態に変化させた。盾の強度を最大限に上げ、一撃を受けたティアナは吹き飛ばされるまでは行かなくとも衝撃で数メートル足を擦った。

 息付く暇もなく左拳で超法術 鹿十ノ熨を繰り出す。事前に来ると分かっていてもカエデの超法術を受け止められる筈もなく、ティアナの身体は激痛に耐えかねて膝を折った。


 特に衝撃を与えられた額と両腕からは出血を誘い、一瞬にして意識をもぎ取られそうになる。唇を噛み切り、痛みを分散した事で気絶は免れたのが幸いだ。


「終わりにしますか」

「もっと、もっとだ……あたしが強くなる為に!」

(しおらしく過ごせば良いものを)


――――――

 此方はスタファノとピオの修行場所。見渡す限りのフラワーガーデンで二人の修行は始まる。


「スタ!逃げ腰になるな!!」

「く……」

「逃げ道を作ると逃げ腰の違いは解るだろう」

「分かるよっ!オレだって前に進もうとしてる」

(……ブランクが痛い…これは鍛え直し甲斐がありそうだ)


 威勢の良い声と共に鞭が風を切る。鞭を使用した戦法はピオの教えだ。互いの鞭が剣より鋭く突き刺さる。


 スタファノの回りをピオの鞭が囲みに掛かり、完全包囲される前にスタファノが飛び出すが、一秒前には居た筈のピオはそこには居なかった。

 何処だ何処だと視線を泳がせていると俊敏な彼女は何時の間にか背後に回っており、スタファノの緩んだ鞭を絡ませ地面へ突き落とした。


 即座にバク転で体勢を立て直すと、ジリジリと後退気味でピオの出方を探る。それが逃げ腰だとピオは断言し、根性を叩き直す決意を固めた。


「私のアスト能力からは逃げ出して良いのだぞ」

(来る…!天換術を必要としないピオさんのアスト能力、超毒……が!)

「〈法術 綻びの花〉」

「うわっ」


 不自然にピオが攻撃の手を止めた。トントンと二度地面を突く、技を発動させる時の癖だ。芽吹いた苗が巨木へと生長し、現在の戦闘態勢を無意味だと捨てスタファノは回避に全力する。

 ピオのアスト能力は超毒。その名の通り毒の操者だ。法術 綻びの花はピオの能力が最大限に活かされる術であり、スタファノの緊張は頂点に達しようとしていた。


 二対の巨木に緑と紫の斑模様の花が咲き、満開となったところで発動条件が整う。咲いた毒花は目に見える花粉のような毒性の粒を吐き出し対象を襲う。それだけに留まらず、地面に接触した粒は再び苗となり毒花を咲かすに至る。


「さて、どう出る」

「〈治癒法術 フェリチタ〉」

「うん。大正解。そのまま逃げて回れ。それが()()へと繋がる」


 毒花粉を少々吸ってしまったスタファノは逃げ回りつつ、治癒法術を発動させた。己を治癒するには通常の数倍時間が掛かる。加えて、足を止めれば毒花の餌食だ。

 負荷を掛け、耐え抜いた者が覚醒へと繋がるとピオは言った。果たしてその真意は如何に。


――――――

 浅瀬の間にて。


「どうして………」


 セイルがポツリと呟いた。辺りには誰も見当たらない。彼一人だ。


「修行を付けると言ったのに……どうしてリオンは此処に居ないんだ!?!」

(何処でサボってる……!!)


 思い出される先日の事。水を弾き水面を作ったリオンは熱く語っていたでは無いか。折角、出向いてやったと言うのに肝心のリオンが不在だとは笑わせてくれる。


 セイルのリオンへの好感度は益々下がるのだった。


――――――

―――

 さて、リオンが何をしているかと言うと。


『きみに見せたいものがあるんだ』

(ったくシオンの奴…俺を何だと思ってんだ)


 見せたいものがあると話していたシオンが指定した飲食店で、リオンは肉ソテーに食らいついていた。当初は店の手前でシオンを待っていたが流石に腹は減るとベルを鳴らした。

 辛味スパイスが良い味を出してると昼食の感想は置いておいて、酒を飲み込むと時折感じる視線に神経を尖らせた。


(視られてる。一…二、三……多いな)


 客やウェイターに扮していても微妙な殺気は誤魔化せまい。寧ろ態と見つかるようにリオンの意識を惑わせている。むず痒い視線達はシオンと何か関係があるのだろうか。有るとしたら、説明不足の彼を恨もう。

 大口開けて残りの野菜を一気に掻き込み、支払いを済ませ店を出る。店前で時が来るのを待つのではなく、少し街を散策する。


(付いてきてる)


 怪しい視線達は消えるどころか、増えてリオンを付け狙う動きを見せた。アスト感知で星の民だと判明しているが油断は出来ない。万一ファントムだった場合、街中での戦闘は避けるべきだと判断した彼は人気のない方向へと歩を進めた。



「おい……誰かは知んねぇが出て来い」

?「ふふふ。当ててみて何人居ると思う?」

「感知出来たのは十数名ってとこだな」

「優秀ね。感知阻害のアイテムを知ってる人の警戒色……」

「お前らはファントムか?」

「うっふふ。確かめてみて勝てたら教えてあ・げ・る……」

「なに!?」


 程なくして、リオンは足を止めた。背を向けたまま視線と声を後ろにやると囲っていた人物の一人が姿を現した。声音、体型、共に女性。色香を含んだ滑らかな高音が聴覚を刺激しするが警戒心は緩めない。何故なら彼女がアスト感知を阻害する仮面を装備していたから。

 通常では絶対手に入らない仮面を持つ理由を知りたくば自分達を倒してみよと偉く挑戦的に果し状を叩き付けた。


 彼女の言葉が合図となり、物陰に待機していたアスト感知に引っ掛かった十数名が一斉に牙を向いた。流石のリオンも全員来るとは想定していなかったらしく、危うく後手に回りかけた。


(く…コイツら何モンだ!?)

「鈍ってないね〜」

「いや鈍ってるだろ」

「いやいや鈍ってないよ」

「何の話だ」

「「鈍い」」

「は!?」


 多対一を強いられ、全員を相手にしながら現状を乗り越える策を練る。数的優位を逆手に取り、囲まれぬよう小回りを利かせる。多くの者は体格自体リオンとそう変わりないが間を通り抜け、攻撃すれば味方を傷付けかねない立ち回りを続ける。適当に練られた策が通じるのは相手側に仲間意識が存在するから。であれば、ファントムの可能性は俄然低くなる。


「お次はわ・た・し」

「次は右から来る。気を付けて」

「なっ」

「なんで教えるのよ!も〜〜」

(俺を試してる、のか?)


 鈍い鈍くないの謎言い合いを繰り返していた男二人に代わって前線に飛び出したのは女二人組だった。一人は先程の女性。もう一人は風のように涼やかな声の持主だ。フードの隙間から垣間見えた黒髪の彼女が教えたのは巨岩が飛んで来る事。誰かが持ち上げて飛ばしたらしい巨岩を盾変化で受け止め、大きく後退した。何者か益々見分ける必要が出てきた。


「ふぅー勝手は困る。団体行動の意味を……ぅぎゃ!?」

(まずは一人…)

「ソレを伸しても加点にはならねぇぜ」

「ーっお前がこの集団の親玉か?」

「うんにゃ二番手だ。ほらほらどうした反撃の手が止まってンぜ!」

「ぐっ…!」

「ふぅん筋は悪くねぇ」


 次の二人組は肘打ちが見事直撃し、早々に悪態を付く一人が脱落した。残り一人はリオンの正面に躍り出るなりいきなり足蹴りすると見せかけ、盾で軌道を変えて頭上を取る。鼬の如き小回りに翻弄されたリオンは僅かに切り傷を負う。


「行きます!……うっ!」

(笑ってる…?)

「よしよし、組手は楽しいなぁリオン!」

「カハッ!?そうか、お前が親玉だな」

「楽しくてつい燥ぎ過ぎてしまうよ。俺達の正体分かりかけて来たか、な!!」

「……まさ、か」

「よーと俺を忘れんな!闘え!!」

「嗚呼!」


 最後は三人組だった。最初の一人は薇でも巻かれたように丁寧な組手を取るが、敢なく撃沈する。然し彼は口元の弛みを隠せず、嬉しそうにバックステップで下がる。

 二人目は筋肉質の体格が自慢と見える男性だ。一秒前まで正面に構えていた筈が、今はリオンに鈍い痛みを走らせた。他とは一線を期す所作に彼が集団の統率者だと察するが、同時に違和感が頂点に達する。


 男の声は余りにも頼もしく、慈悲深く、また物懐かしさをリオンに抱かせた。ここでファントムの線を消し、浮かんだ可能性を肯定するように三人目が現れた。格好付けたがりの男とリオンは拳を交わした。拳が擦れる度、彼等の正体が伝わってくるようで暫し戦闘を楽しみ……。


「カシラ取られてんじゃねぇよ。……団長」

「ーっ!」

「〈法術 記憶共有(メモリー・ノート)〉」


 そして。鼬の様な男が死角から飛び出し、リオンの頭を鷲掴み法術を唱えた。其れは百年前の戦で受けた技であり、目の前の男は褐色寄りの肌色を光らせていた。


「お前等、…!」

「何辛気臭い顔してんだ。何時ものように、な?」

「ノーヴル……!!」

「今まで良く頑張ったな」

「……あぁ、…」


 隠していた素顔を曝け出し、正体を現す。彼等とは、かつてリオンが所属していた近衛騎士団の面々である。薄々感じていた仮説がピタリと嵌り少年のような笑みに一筋の照れ臭さを隠した。

 法術を受けた影響で尻もちを付いたリオンに手を差し伸べたのは、元騎士団団長ノーヴル・マキシム。法術を放ったのは副団長レグルス・ジィーゼル。


「辛気臭ぇんだよ!」

「痛っ、何すんだレグルス!」

「ムカついたから殴った」

「おい」

「ハッ仕方無いさ団長、身長が低いほど攻撃的と……ぎゃ!?」

「イータ……何か聞こえた気がしたが気の所為だったらしい」

「余りの暴力性、理不尽な痛み、有り得ない。同じ組織に属しているのに……」

「お前のそれは違うだろ」

「フッ…変わってねぇな」


 懐旧の情に浸っていると唐突にレグルスが殴った。本気で。透かさず間に割って入って来たのは悪態付きのイータ。レグルスとのやり取りを見ていると少年時代に戻ったような色褪せぬ記憶を蘇る。

 他にも周りを囲むのは懐かしい顔ばかりでおおらかな大食漢ビル・グリズリー、艷やかな豊胸を揺らすイロカ・ラヴァーネット、冷静沈着なラーニャ、平均を大きく上回る巨漢レス・ワース。


「久しぶりだなリトン」

「リオン!何回間違えるつもりだリリック」

「そうだったかぁ〜?」

「…リオン俺のこと覚えてる?」

「ゼンマ、か?嗚呼覚えてる。大きくなったな。それとさっきは済まなかった」

「良いさ。効かないもんね」

「ゼンマは騎士団に入って頑張ってるもんな」

「団長、謝るべきは此処にも居る。謝らない、と。そうかそうか…君って人は随分性格が悪くなって……ごはっ!?」


 それからワープケイプで育った悪友リリック・ロックと、元使用人のゼンマ。よくよく見渡せば新顔もちらほらと見えて、騎士団の存在を一層高めていた。

 何度も立ち上がり悪態を付くイータを軽く往なし、心根を同窓会から仕事へと引き戻す。


記憶共有(メモリー・ノート)について軽く説明しとくか。……これは正真正銘俺のアスト能力だ。手を翳した対象の記憶を見るか、逆に記憶を見せるかの選択が出来る。今のは俺がお前の記憶を見たんだ。色々とな」

「シオンのアレは……そうだったのか」

「俺達は現在、騎士団としての矜持を保ちつつ遊撃隊としても動いている。七幻刀と共にな」

「七幻刀と……なるほど面白いものってのは騎士団の事だったんだな。シオン!」

「ありゃ此処に居るってバレてた?」

「ったりめぇだ」

「サプライズ、喜んでくれた?」

「心底な」


 ノーヴルとレグルスが口を開くと自然と騎士団の皆々は静まり返った。先程の記憶共有はシオン経由で知ったが元の原形はレグルスにあると初めて知る。何時の記憶を垣間見られたのかはさておき、ノーヴルは騎士団の現状をリオンに伝えた。

 七幻刀と聞いて、真っ先を浮かんだのは今回の企てを考えたであろう昔馴染の顔だった。鎌を掛けると悪びれる様子もなく企ての張本人シオンがひょっこり顔を出す。


「リオン、戦力が欲しい時は言え。お前には騎士団が付いてる」

「年下の命令を聞く気はねぇがノーヴルの頼みでもある。仕方無いから従ってやる」

「勿論私達もね。あんな事やこんな事をした仲だもん…。私としては小さい君が好きだったけどねぇ」

「イロカ、趣旨違う」

「分かってるわよ。分かってて誘ってるの」

「…団長の頼み、可能な範囲で聞く」

「オイラ達も同じ」

「頼もしい味方だなリオン」

「くくっ頼もし過ぎるかもな」


 来たるべき日に備え、戦力は揃えておくに越した事はない。ジリジリと這い寄ってくるファントムとの対立もだが最も念頭に置くべきは霊族との決着だ。此処に集う仲間達は復活した霊族と対峙し生き残った者達である。こんなに頼もしい味方はそうそう見付からないだろう。

 リオンと騎士団は再会し、未来へと繋がる路は一層深まっていくのだった。

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