STEP 4
再び、監督が現れた。ノートとペンを持って。一瞬、静けさを纏った。
『バンッ』
大きめのノートを、机のようなものに投げ置いた。その音に、背筋が伸びる。配役発表の合図か。
僕は細めノッポ。C級映画級だ。そう監督は言っていた。だけど、僕なんてD級くらいだろう。
運動神経。感情。表情。すべてが、ロボット役以外合わない。そんなやつだ。
監督は、白目気味に上を向く。ノートを広げ、ペンを持つ。そして、早口で喋り始めた。
「主役の君。君は、名前が原公次郎で。すんごい仕事ができるけど、できない感を醸し出しちゃってるコンビニ店長にしようか?」
「あ、はい」
ペンの音が響く。よく、紙が破けないな。そう思うくらいに。
何度も何度も、唾を飲んだ。言葉に出していること以外も書いている。それも、大量に書き込んでいるみたいだった。
「人間じゃなくしちゃおうか。C級映画くらいだと、現実離れしていても、気にならないから」
低い机。そこに、前屈気味の猫背で書いている。その監督の姿に、鬼才感が溢れていた。
細かい配役と、ストーリーを即興で言ってゆく。そんなスタイルに、身体がぞわぞわっとした。
「人間のカタチをしてるんだけど、人間じゃない。それにしよう。新しく、土から誕生した新生物。それだ」
不安が、大量発生してる。特殊すぎる。その場の思い付き。それが、映像になる想像は、まだついてない。
カメラが苦手だ。みんなレンズが、丸いから。四角ければ、素直にいける気がする。
まわりを見れば、みんな頷きながら、聞いていた。メモをしているものもいた。
「キュウリでいう、ズッキーニ的存在。それにするから」
その後、台本が完成。読み合わせをした。
そして、撮影を開始した。ナチュラル演技を褒められた。
僕が主人公の映画は、公開された。かなりの大ヒットとなった。C級にしてはだが。
映画のオファーがあった。A級映画だ。でも断った。ひっそりしたいから。C級でも、かなりギリギリだったのに。