車いすと路線バス
『元・路線バス運転士』
ってのが珍しいのか、そんな話を聞いた得意先様から色々と訊かれる事が多いです。まぁ10年もその業界に居れば、得意先様相手の欲してるであろう話のタネぐらいは思い当たるので、吹かし話程度は致しますね。
あ、一番ウケが良いのは心霊話です。
※ とはいえ心霊話をペラペラする人って僕自身、なんだかなぁと思っちゃうんですよ。だって、心霊話ばかりする人って胡散臭そうに見えません?
→とはいえ僕自身が一番、胡散臭そうなんですが……
ふとYah〇o!ニュースを眺めていたら香ばしいニュースがありました。まぁ詳細に書いて面倒臭い事が発生しないようある程度ボカして三行で書きますが。
・車いすのお客様が
・映画館でのスタッフの発言に
・キレた
……うん、香ばしいね。
世の中には『バリアフリー法(正式名称:高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律 )』ってのがあり、
『利用者数や施設の規模に応じて、物理的な障壁を取り除くハードのバリアフリー化と、情報提供やサービスの改善を目指すソフトのバリアフリー化が義務づけられています』
と書かれてました。
※出典:国土交通省HP、家族の介護と健康を支える学研のサイト『健達ねっと』
つまるところ、高齢者や障碍者の方々への障壁をなんとかしようぜって内容。そのため大規模店舗や病院等の施設で車いすの運用を阻害するようなものは無くなったし、車いすが乗り込めない電車やバスも減った感想。
(そのおかげで419系といった変態電車も駆逐されたけどさ)
んで、別にそんな話をする訳でなく、タイトル通りに
『車いすと路線バス』
について話していこうと思う訳ですよ。
先のバリアフリー法には公共交通機関である路線バスにも該当し、僕が以前勤めていた某路線バス会社では殆どの車両は車いす対応となっていました。新任教習時代にも車いすの取扱方法をやりましたし、今でもやっているでしょう。
では、路線バス運転士がバス停に車いすのお客様が居たらどうするか?
1・先ず、乗る意思があるかの確認
2・車いす専用の場所の確保
3・スロープの設置
4・固定
5・降車位置の確認
6・発車
とまぁ、これだけの手順がありますね。しかもこれら、順番を守らないと事故に繋がるんですよ。
1・乗る意思の確認
僕自身よくあった事例ですが、電動車いすの方の介添え人さんが帰宅するためにバス停まで送りに来てたってのがあるんです、ですから乗る気は無い。
面倒くさいですが、いちいち運転席から離れて確認しに行きました。
この確認作業を怠ると後々、別の客から
『あの運転士、電動車いすのお客さんを置いてった!』
と苦情が寄せられる事があるんですよ。こちらとしては事情を知ってるからそのような判断をしがちでしょうが、人様は何を言い出すのやらですね。
あと、運転士の選り好みがあり、この人のバスは乗らない、この人は可って方も居ましたね。
2・場所の確保
路線バスの中に車いす専用の場所があり、そこのシートは折り畳めたりします。まずはそこに座ってる方にお願いして場所を空けてもらう必要があります。まぁ断られたって事は無いです、殆どの方は快く譲っていただけますね。ここら辺は日本人の優しさ……でしょうか?
なお、バスによってシートの折り畳み方が違います。全部統一せぇーや。
(きっと富山市にある天龍工業が作ってるんでしょ? 知らんけど)
3・スロープの設置
実はこのスロープ設置が厄介。
先ず、「2」の場所確保をせずにスロープを設置すると事故に繋がるんです。というのもバス車内は非常に狭いため、場所も確保せず先にスロープを引っ張り出して車いすの方が乗り込もうとすると危険が伴います。
まず客の足を車いすで踏んでしまう恐れ。
スロープを上りつつある車いすが、車内でドタバタしてる最中に落下する恐れ。
それよりも、スロープが固着してて出てこない恐れ。(それでチマメを拵えた事がある)
ですので、付添人さん、勝手にスロープを引っ張り出さないでね。
現に、スロープに乗ってた車いすの方が落下した事故事例は、余所でありますから。
4・固定 5・降車位置の確認 6・発車
これは車いすの方から『固定不要』といわれるんですが、安全のために必要な行為です。そしてどこで降りるか訊いて発車となります。
で、この一連の動きのため段取り良く進んでも発車までに5分ぐらい要します。僕が新人運転士だった時代、手間取りすぎて10分以上かけた事がありましたね。ダイヤが遅れるのは仕方ないでしょうし、その件で文句言われた経験はありません。しかし運転士の業務として大変なのは間違いないですね。
僕ら運転士は業務上として言われてた事として、
『お客様には一切触れてはならない』
と厳命されてました。
例え酔いつぶれてグースカ寝てたとしても、そのお客様に触れてはいけません。どうしても起きないお客様にはシートを叩いて起こすしか無いんです。
※まぁ、中にはシート背面を思いっきり蹴とばして起こしてた運転士が居ましたけど
→僕も若かりし頃、某し〇てつジャストラインの運転士にされた事があります
ということは、車いすのお客様であってもそれは不変、触れてはいけないんです。
『すみません、体位を直していただけませんか?』
と、車いすからずり落ちてたとして依頼されても僕らは触れられません。
ちなみに僕は介護職員初任者研修は修了済です。今も休業日には特別養護老人ホームでバイ………ケフンケフン
(有償)ボランティアをしてますからね!
とはいえ、常会(※)では
「電動車いすを乗ってるほどの重度の身体障碍者は、介助人が居ないなら乗車を断っても良い」
と言われてました。その判断はどこら辺でするかは不明でしたが。
※常会
職場の運転士たちで行われる、月イチ程度の会議。労働組合や職場、会社からの上位下達システムと思ってくれたらいいかな? なお、出ないと罰金500円食らう営業所もあるぞ。
これだけあれこれとルールがあり、運行時間にも、後々の休憩時間にも遅れが出てしまうため、ぶっちゃけ運転士としては
『え? 車いすのお客様? 見えませんでしたが何か?』
と、わざと見て見ぬふりして置き去りにしてった事例は知ってるだけで幾数例かはありました。
何せ車いすのお客様を載せても自身の給与が増える訳じゃありませんから。かといって無視して苦情となれば自身の査定に響きますし始末書を書く面倒臭さが発生しますが。
あと、日本人って妙に『順番』を固守しようとする傾向がありますよね、しかも年寄に多い。
例えば、始発のバスに車いすのお客様を先に乗せれば昇降の手間が掛からないなんて誰も考えれば判る話なのに、
「はぁ? こっちはさっきから待ってたんだぞ?」
と、車いすのお客様を優先してほしいと訊いたらブチギレられた事がありましたね。おかげでスロープ引っ張り出したのに、我先とスロープに足を掛けた時はマジで頭おかしいわこのクソ〇ジイと思いましたが。
なお、この路線バスに付いてる車いす用のスロープ、健常者が使用する目的には出来ておりません。非常に危険なので車いすのお客様が安全に昇降したのを確認したら片づけさせてください。
(あと、勝手に引っ張り出さないでください)
そして、よくお手伝いを買って出てくれる別のお客様がいらっしゃいますが、正直言うと段取りが狂うんですよ。運転士が困りますので生暖かく見守ってくれるだけで充分ですよ。
なお観光バスや高速バスにて使用される車両と車いすについて。
(例)
・三菱ふそう エアロクイーン・エアロエース
・いすゞガーラ、日野セレガ など
最近ではエレベータ付きのリムジンバスなどもありますが、原則は
『自力で乗車をお願いします』
って事になってます。観光バス等は乗り込むと5段程度登らないとダメなんですよね。ですから自力で這い上がって貰わないとご乗車できません。
はい。2Fにある階段しかないレストラン、抱えて連れてけと騒いだ元・小学校教師がおりましたね。
バス運転士はそういうことは出来ません。仮に落っことしたら大変ですし、それは業務じゃないし。
『じゃあ、全部エレベータ付きにしろ!』
って思うんですが、じゃあそうした場合の弊害を書いておきますね。
・バス車体価格が跳ね上がる
そのまんまですね。なにせ特別な装置等を付ける訳ですから。
最初から付けておけ? それは三菱ふそうとジェイ・バスに言って、どうぞ。
・車いす1台載せるのに、4人乗れなくなる
これは東京空港交通のリムジンバスでの例だけど、車いす用のエレベータ付きエアロエースでは『車いす乗車時、通常座席4席格納により車椅子1席分を確保』と書かれているのです。
僕が前に居た路線バス会社の空港線なんて、増発なんか呼んでも絶対に来ないようなトコでした。(人員もバスも無いって断ってくる)
しかもそんな会社なのに座席定員制でもない。自由席だ、アホの極みだろう。
もし仮にこんなエレベータ付きバスがあったとしたら、一人乗せるために4人のお客様に泣けと言うのでしょうか?
経験上、はっきり言うわ。
「ふざけんな!」
と、客からキレられるわ!
☆☆☆☆☆
先ほど転記したバリアフリー法ではハード面・ソフト面でのバリアフリーについて書かれてましたが、僕は『心のバリアフリー』も大事だと思うのです。
僕はスーパー等で買い物する際に車いすの方が居れば、わざと距離を取ります。心の中ではその方の邪魔にならぬよう、そして他人に向けられた害意を耳にせぬように。
というかちょっと前の話。車いすで買い物にきてた人に暴言を吐いたババアを目にしてしまったんです。そのババア、大して狭くもない通路なのに
「邪魔だよこの身障者!」
って罵ってるのを見て、ね。
その車いすの方は申し訳なさそうにしてましたが、見てて決して気分のいいものではありませんでしたね。
障碍のある方でも安心して暮らせる社会の実現。
いうのは簡単ですが、それを実践するには『心の余裕』ってのが無いと出来ないことだと思うのです。ただ、今の世の中、そこまで余裕がありません。余裕が無いからこそ、自己を正当化し、相手に害意を向けるのでは無いでしょうか?
☆☆ おまけ ☆☆
419系ってドアが開くとワンステップ上がり、乗り込むんですよ。
冬場はぷしゅーと言うと数センチだけドアが空くんです、手動ドアでしたね。
(今みたいにドア開閉ボタンなんか無かったです)
小さい頃……てか小学3年の冬頃だったと思います。
僕とカミさんがボックスシートに座ってると、ミッション学校の女学生さん2人が相席いいかなと訊いてきました。あ、はいとカミさんが応えたと思います。あの頃でもミッション学校のセーラー服はかわいいと思ってましたね。
窓際に座ってた僕の真向いに少し大人の女学生さん。始発の電車はなかなか発車することなくプラットホームに鎮座し続けてました。発車するまでの間、彼女らは僕らに色々と話しかけてきて、カミさんが応えてました。
「ねぇ、鶴、折れる?」
女学生さんは持っていた紙袋から小さな折り紙を取り出すと折りだしたのです。確か友達が入院中だとか言ってたので、きっと千羽鶴を拵えてたのでしょう。
「あ、ボク、上手いね」
特別器用って訳じゃないですが、ぱっぱっと折ってく様は女学生さんたちを驚かせてました。なおカミさんは特別不器用なため、なかなか折り上がらなかったが。
発車ベル(当時は琴の音じゃなく、ベルでした!)が鳴り、電車が動き出す。
黙々と折ってた鶴をある程度量産した僕は、ふと向かいに座る女学生に目が行ったのです。
向かいに座る女学生さんはローファーを脱ぎ、両足を座席にひっかけて座っていたのです。
ぼんやりとその女学生さんの、明るみになった深淵を見ていた所、隣に座るカミさんから顔面を叩かれましたとさ。
あぁ神様、ごちそうさまでした。
そのため、419系と訊くと『水玉』が思い浮かぶのです。
今でも折り鶴の話が出てくると、あの女学生さんたちの話を思い出してしまいます。
=了=
そのカミさんの百箇日法要がこの前済みました。
思えば40年以上の付き合いだったんですよね。