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ゴブンリンを退治して冒険者の宿でミルクを飲む運命 (2)

意気揚々と町に入ると、よっぱらったような顔をした男が「あんたどこから来た?」と話しかけてきた。そこの街道を通ってきたことを伝えると、男は、急にギャハハハハ!と大笑いした。それが収まったかと思うと、「あ~面白れぇ……、ゴブンリンに尻をかじられなかったか?」と、また大笑いした。どういうことか聞くと、またまた大笑いし、西の道を通る者はほとんどいないと告げた。


だからってあんなに笑うだろうか?しかし、ゴブンリンを倒してきたことを告げると、男は、驚きのあまり目を見開き、「すげぇ!」と喜ぶ。


「あんな臆病でか弱い小さきみじめな生き物を殺生できるなんて!!」

「えっ?!」そんな風に呼ばれてるのか?!それを聞いて内心ドキッとした。同時に良心の呵責を感じだす。運命で決まっていたのに!と心の中で言い訳をするも、平静を取り戻すことはかなわない。男の反応を見て、“これからは黙っているが吉”と判断したところ、男は、「お~い!!みんな~!!英雄様のご登場だぞ~!」と、周りにいる住民あるいは旅人に積極的に声をかけ、ゴブンリンを倒したことを吹聴した。そして、あっという間に人だかりができてしまう。どうもこの世界では、ゴブンリンのような弱い生き物はなるべく殺生しない方向性のようだ。


人々は、次々と勝手なことを口走る。


「殺してるところが見たい!」「そんな姫様じゃあるまいし」「こんな子供が素手で?!」「なんと残虐な!」「教会で懺悔してきなさい」「あたしの家の裏にもでてさぁ!あんたなら殺せるだろ?!」「俺の方も頼む!」「奢ってくれ!」「~♪(歌)」「彼は王様らしい」「みんな一緒に酒でも飲もう」「この人が伝説の勇者の子孫?!吟遊詩人までいるじゃないか!!」「これが噂の無敵の人か」「宗教組織を壊滅させたらしい」「ドラゴンを討伐したって本当ですか?」「遍歴の騎士にはとても見えない」「でもそうなんだろう。慈愛に満ち困っている人は放っておけないそうだ」「西から来たというだけですごい」「握手してください」「サインください」「今どんな気持ちですか?」


人垣に囲まれ、ざわめきを受け、「KOITURA……」そう思ったところで思考が停止してしまう。何が「KOITURA」なんだろう……。俺は、どうしたいんだろう。そうだ空気になりたい。ジッとしていると、一人、また一人と消えていき、最終的に少数を残して霧散した。そして、残ったグループの一人である身なりのいい老人に、もう一つのゴブンリンの巣を壊滅させるよう頼まれた。金を払うという。聞くところによると、それだけあればしばらくは過ごせるようだ。この世界にきて間もなく、当てもない。そうくれば、先行きも不安なことだし、二つ返事で引き受けた。


彼らと共に北門へ移動し、全身を緑で統一した吟遊詩人がこの機を逃さんとばかりに歌う。「ああ~虐殺者よ~、この偉大な試練を乗り越え~人の心を取り戻し給へ~」不思議なことに、それに合わせて、自然と頭の中に歌が流れた。「ああ~緑の吟遊詩人よ~死後に地獄の門をくぐり給へ~」彼に運命を感じた。


街の北門から続く道は、転生した西の森とほとんど似たようなものだった。曲がりくねっており、切り開かれた森の中へ続く道の先はうかがい知れない。「やわらかな風が花々の甘い香りを運んでくる。どこまでも青い空の下、子供たちの笑い声が響き渡り、心まで晴れやかになる」なんていうようなことは全くなく、これまた使われてないであろう駅の裏側に似た寂れた道にがっくりくる。ここに住む子供が、「門の前の寂れた道で集合な!」と約束したら、北門か西門かで言い合いに発展するかもしれない。よっぱらったような顔をした男が途中まで先導してくれるというのでそのままついていく。とはいえ、聞いてみれば、この道を20分ほど行くだけのようだ。そうすれば、目標である白くて大きい角ばった建築物が見えてくると。帰るときは、この一本道に戻ってくれば迷うことはないと聞き安心する。


この世界で生きていくなら、最低限この程度の冒険はこなせないとだろうと俺は意気込んだ。しばらく二人で歩くと男は、ここで半分だと告げた。つまり10分ほど歩いたということだろう。しかし、景観は何一つ変わっていない。


「あとは頑張れ。俺は神様に呪われたくないから帰らせてもらうぜ!」へっへっへっと笑いながら不吉なことを言い残し男は足早に去っていった。


ゴブンリンは、神聖な生き物なのかと疑念が募る。たしかに運命的な生き物ではあるからこの世界の人々の扱いは間違ってないのかもしれない。でも神様ってひよポンだからなぁ。


「ふぉっふぉっふぉっ」思い出し笑いをしていると、頭上にゴツンッ!と衝撃が走る。「痛ぇ?!」しかし、辺りを見渡しても何も見つからなかった。ぴよポンの仕業、いや、これが神の御業なのだろうか――?「ぴよポン、俺だ!水をくれ!」試しに願うが何も起きない。気にするのはやめ、件の建物が見えるところまで無心に歩くことにした。


光りを反射するあのいやに白い壁を見ると気が滅入る。ほどなくして姿を現したその建築物は、どうみても学校だった。それを意識するやいなや、不思議と外の熱気が勢いを増し、無性に暑さを感じた気がした。

「また学校かよ。このくそ暑い日に二度も登校するなんて」

だが高校ほど大きくないのでおそらく中学校か。あまり時間をかけて暗くなるのもいやだし、パパっと片付けて戻ってしまいたい。


「考えてみたら、今夜、泊まる場所さえ見つけてないじゃないか……校舎の中はエアコンが効いていて涼しく、美少女がいて、教室で俺が来るのを待っている……なんてことはないんだろうな」

地獄だ。地獄だ。

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