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愛犬のクッキー  作者: Satoru A. Bachman
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 僕と由香は楓沼の周りのサイクリングコースを一周して、花見をした後、楓沼の入り口の坂を下って歩いた。東楓駅のそばのカフェで休憩がてらお茶をするつもりだった。仲良く腕を組んで楽しそうに歩いている他のカップルを見て、僕は羨ましいと思った。僕ら2人も一応、手を繋いではいたが、僕は仕方なく僕の左手を軽く握る由香の愛情の感じない手をしっかりと握った。せめて傍から見て仲の良いカップルに見えるように。互いの家に行き来もしなければ、会えない日に電話すらしないカップル。何度会う回数を重ねても行先で待ち合わせて、遊んで、お金を使って、現地でバイバイ。こんなかしこまったデートをいつまで続けなければならないのか。彼女とこれ以上仲が深まることなんてあるのか。あの夜もダメだったっけな。でも、あのとき、たまたま調子が悪かっただけかも知れない。

「あのバレンタインの日の夜の続き、したいなって思うんだけど」

僕は言った。こんな誘い方ではダメだろうと思いつつ。

「嫌だ」

案の定、彼女はそう言った。僕の頭の中でぷちっと堪忍袋の緒が切れる音がした。むかついた。もちろん、僕にだって至らない部分はあっただろう。そりゃ、僕と出会うまで男性経験も無く、内気な性格の由香と初めてホテルに行ったとき、バッグからSMプレイ用の拘束ボディスーツを取り出して、由香に「これを着てくれないか?」と頼んだ僕もとんだ間抜けだった。

「俺たち、なんかお互い、遠いよね」

「え?」

「電話もダメ。互いに家も教えない。恋人どうしなのにこんなに距離を置いてたら、ただの友達みたいじゃん」

間。

「私には何もかもまだ早いの」

「早い?出会って半年も過ぎるのに?」

「早いよ」

「でも、もうちょっと、由香からも歩み寄ってきてくれたっていいじゃん」

僕は怒りを抑えて、なんとか冷静さを保って話し続けた。

「私、1人で生きてきたから、そういうの分からない」

それを聞いた僕の舌は上顎と上の前歯の裏側に触れてはじかれる寸前だった。文字通り、舌打ちをしてしまいそうになった。僕は彼女の“1人で生きてきた”なんていう表現が気に入らなかった。実家暮らしのくせに。自分勝手にも程がある。僕は握っていた由香の手を離した。

「終わりにしよう。俺たち、これ以上一緒にいても意味ないと思う」

間。

「…。わかった。短い間でしたが、ありがとうございました」

「控えめなのは、由香のいいところかも知れないけど、あまり閉鎖的になりすぎないようにね。さようなら」

「わかりました。本当に色々とありがとう、どうかお元気で」

まさかのお礼の連発で、僕は彼女に対して怒りを感じていた自分を恥ずかしく思った。由香と別れた帰り道、どういう訳か目から大粒の涙がこぼれた。





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