プロローグ
眼前に広がるは白銀の世界。
霏霏として降る雪をただ茫然と見ていた。
「……」
眠りから覚めてすぐだからか、少し頭がぼーっとしている。
「全国的に強い冬型の気圧配置となり、九州地方の上空にも今シーズン一番の強い寒気が流れ込み、福岡では初雪が観測されました」
つけた覚えのないテレビに視線を移すと、外ではかなりの量の雪が降っているのが分かった。映し出される人々は白い息を吐き、今年初の雪景色を楽しんでいるように見える。
寒さのせいか、だんだんと意識がはっきりとしてきた僕はここではじめて違和感に気づく。白く、無機質な部屋には、テレビや椅子など生活するのに最低限のものしか置かれていない。
「……っ」
突然の頭痛に頭を押さえると、頭には包帯らしきものが巻かれていた。
「…ここは僕の部屋じゃない?」
……あれ?
僕の部屋ってどんなだっけ?
ガラガラ。
音がした方を振り返ると、そこには見知らぬ男性が立っていた。
目と目があった刹那、彼の目から涙が溢れた。
それは雪解け水のように綺麗な涙だった。
そっと抱きしめられた手のぬくもりはどこか懐かしかった。
「良かった……。本当にっ、良かった…」
感涙に咽ぶ男性。
「僕、あなたとどこかで……」
「ん?」
「あなたとどこかでお会いしたことがありますか?」
涙は解け、汗へと変わる。
「……は?」
記憶の蓋はまだ開かない