母
母とどこかのショッピングモールを歩いていた。そこは地下のようで、照明の灯りの印象が強かった。どんな話をしたのかは覚えていない。ただ横に並んで歩いていた。自分はずっと母の方、右を向きながら歩いている。母は、ずっとどこか先を見ていて、この先もずっと自分のことは全く見ることがなかった。
向かった先はお洒落なネイルの店だった。カウンターにショーケースが置かれていて、まるでアイスを選ぶように色の見本が飾られている。前に並ぶ少女と少年は大きな鞄をカウンターの上に置いた。店員はイラストが描かれているそれを開きながら会話をしている。会話の内容も手元も全く聞き取れないし見えなかった。
自分たちの番がくると、「〇〇はお持ちですか?」と聞かれた。聞き取れなかったが、先ほど提出していたイラストが描かれた鞄のことだろうと思った。持っていないと告げると、カウンターの上に置かれていた細めの小さなショーケースが弾かれ、店員は備え付けられている元々ある方のショーケースを指しながら、こちらから選びくださいと言わんばかりに笑顔を貼り付けていた。
小さい方に飾られていた色はもっと可愛らしかったが、大きい方に飾られている色でも満足できそうな風だった。どれにしようか、と自分が選んでいる間、母は斜め後ろからじっと眺めているだけだった。
帰り道。自転車に乗っていた。母はいつも通り前を走っていた。住宅街を抜けると、畦道のような場所に出た。家はぽつぽつと建っている。ここまでずっと知らない景色だった。
ふと、左側に木造の家があるのが気になった。広めな和風建築、その横に納屋のようなものが道の方に口を開けていた。母はその中に入っていった。
自分は止まった。自転車ごと納屋に自ら入っていく母を呆然と眺めた。納屋には小さな墓があった。
大きなホールの中にいた。先程見た納屋のような小さな空間が観客席の一部になっていた。納屋の入り口の部分を少し隠すように背の低い仕切りが設置されている。自分はその前に座った。椅子ではない、ただの仕切りだったが、その場から動けなかった自分は床に座り込んだのだ。
周囲は人が集まり始めていた。観客席は満員だ。広々としたこの空間を呆然と眺め、ふとした時に後ろの納屋を覗き込む、それを繰り返していた。
ある女性が隣に座り込んだ。顔はわからない。喪服を着ていた。ただ怖いことはなく、不思議なだけだった。言葉を交わすことなく、ただじっと二人でステージをぼーっと眺めた。自分はふと、納屋を覗き込んだ。そこには仏壇があった。写真は見えない。けれど、先程の場面で見た小さな墓の前に置かれていた花が、その仏壇には供えられていた。なんとなくぼんやりと見えた写真は、母の面影があった。
横を見ると、女性は泣き崩れていた。




