世界樹・低層-3
ご高覧いただきありがとうございます。
私はワンちゃんズを連れて変わらず世界樹内部を探索していた。月の花を咲かせたトレントは先に倒したトレントと何も変わらず、全く同じ手法で倒すことができた。手に入ったアイテムも「月のエキス」というもので、太陽のエキスと真逆の効果を持つアイテムだった。
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月のエキス
効果:閃光状態の軽減
太陽の花から抽出されたエキス。
体に塗布することで閃光の状態異常の軽減効果があり、防具に使用することで闇属性からの被ダメージを軽減させる効果を付与できる。
聖属性を持つ相手に使用した場合、10000ダメージを与えるが月のエキスの効果で敵が死亡した場合、使用者に経験値は入らない。
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という感じで太陽と月のエキスを入手したわけだ。最初はこのエキス2種はこのダンジョン内で使うためのアイテムだと思って大切にとっておこうと思ったんだけど、しばらく上った先で見つけた洞の中を覗いて気が変わった。さっさと装備の強化に使ってしまおう。
「装備に直接中身をかける…なんてことはないか」
というわけで久しぶりの『錬成』を使用してみることに。エキス2種を掌の上に乗せて『錬成』を発動させると、2つの小瓶が宙に浮かび上がって淡い光に包まれる。
1つのアイテムとなって私の掌の上に戻ってきた小瓶の様子におかしいところは見当たらない。今更過ぎる話だけど、『錬成』に失敗はあるんだろうか。混ぜるもの同士の相性が悪いとか、そもそも『錬成』自体に確率が設定されてるとか…まぁ、わからないことを考えても仕方ない。今はこのアイテムの確認をしよう。
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陰陽化合物・月食
効果:なし
太陽と月の力が混ざり合ったもの。しかし天秤は傾いているように見える。
防具に使用することで聖と闇の属性からの被ダメージを軽減させる効果を付与できる。
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何かよくわからない一文が挟み込まれているけど、効果としてはエキス2種の効果が綺麗に合わさっている。直接使用時の効果は無くなってるみたいだけど特に問題はないように思える。
さて、次は外套とできたてほやほやのエキスを合わせるわけだけど、この『滅聖の外套』には既に聖属性のダメージを軽減する効果、それも極大と詳しい軽減倍率はわからないけど凄そうなものが付いている。ここ効果を持ってる外套にこのエキスの効果がちゃんと付与されるのかなという心配は少しある。
「まさかオーバーフローなんてことは流石に…ええい、ままよ!『錬成』!」
既に脱いでおいた外套とエキスが光に包まれて宙に浮かぶ。さっきエキス2種を混ぜた時と特に変わりはなく、そのままおかしなことも起きないまま私の元に外套が戻ってきた。
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滅聖の外套+
効果:聖属性のダメージを軽減(極大+)、闇属性のダメージを軽減(微)、スキル『鑑定』『看破』の妨害、装備時、一部NPCからの好感度低下(極大)
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私の心配とは裏腹に素直に強化されて戻ってきてくれた。よかったよかった。
「おまたせ、じゃあ入ってみよっか」
『錬成』中、ずっと私の足元でウロウロしていたスコルはさっさと洞の中へ入っていった。洞の中には変わらずトレントの姿があり、根っこの内部から放たれる光も相変わらずだ。
何を隠そう私がエキス2種をさっさと使ってしまおうと思った理由がこれである。何も変わらないトレントが洞の中にいたからだ。もしかしなくても重要アイテムでもなんでもないんだろうか。
「別に無視してもいい場所なのかな?スリップダメージももう受けないし…」
特に目新しいものがあるわけでもないし、一切の警戒をせずに細剣の柄の先に空いている穴に指を通してグルグル回しながらトレントの方へ近づこうとした。
その瞬間、どこからともなく伸びてきた蔦に足を絡め取られた。
「んな!?」
洞の真ん中にいるトレントに変わった様子はない。でもこれまでのトレントは私が根っこを斬り開いて中身の花を見るまで動き出すことは無かったけど、このトレントは様子が違う。それとも、トレントとは別の何かがこの空間に潜んでいるのかもしれない。
足に絡みつく蔦を斬り払い、壁を背にして戦おうとするも今度は背中側から蔦が伸びてくる。その後、四方八方から伸びてくる蔦を斬り捨てながら慎重に立ち回る。その間もトレント自身に変化は見られない。このまま逃げ続けても何も変わらないし、思い切って『看破』を使ってみた。
◇◆◇◆◇
名前:‐
種族:老樹人
Lv:55
HP:8500/8500
MP:2630/2800
スキル:「寄生」「吸収」「樹木支配」「光合成」
『樹木支配』
効果:MPを消費し、周囲の樹木を操る
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なるほど、そこら中から伸びる蔦はこのトレントの仕業だったと。そして種族が「エルダートレント」となっている。そのままトレントの上位互換といったところだろうか。
「弱点を露出させるところからかぁ」
さっきまでのトレントとは違い、弱点が外に出ていない状態からのスタートだから蔦とエルダートレント自身の攻撃を躱しつつ根っこの体に斬撃を入れていく必要がある。さっきまで「弱点を出してから戦闘なんて優しいな」なんて思ってたけど、強化の振れ幅がエグイ。
蔦の猛攻を躱しながらどう攻めたものかと考えていると、視界の端でスコルが捕まっているのが見えた。慌ててスコルの方へ向かおうとすると、スコルの体に触れている部分の蔦が燃えだした。何かエルダートレントの特殊なスキルかと思ったけど、エルダートレントが少し苦しそうにしているのに対してスコルがピンピンしているところを見るにスコルがやったっぽい。そんなことができるならば、と思ったけど、攻撃に転用していないことから察するにカウンター系のスキルなのかもしれない。
「なんにしても状況は変わらないなぁ」
現状、エルダートレントの操る蔦で本体には碌に攻撃が入っていない。なんかこう、わざわざ弱点を露出させないくても外から貫けたらいいんだけど、さすがに細剣を突き刺すのは悪手にもほどがある。最悪細剣が突き刺さったまま返ってこなくなる可能性まである。
「ん、貫く…?そういえば…」
変わらず襲い来る蔦を躱しながら、おもむろに自分のステータスを開く。スキルの一覧には『闇魔法Ⅳ』のスキルが表示されていて、詳細情報を見れば『闇魔法Ⅳ』に含まれるスキルに『闇穿』というスキルが。これだ、これならいける。
「スコル、ハティ!ちょっとだけ私のこと守って!」
時間が無いから詳しい情報は見れてないけど、『闇穿』はチャージしてから放つスキルらしい。動きながらチャージできるかの検証もしたいけど、今は確実にエルダートレントを始末したい。
「ダークぅ…」
腕を真っすぐに伸ばして細剣をエルダートレントの方へ向けて『闇穿』のチャージを開始する。細剣を構えてる理由は…なんとなくそうした方がいい気がしたから。ほら、私の細剣を通して使ったら追加効果乗るし、ね?
チャージを始めて5秒ほど、細剣の先にはテニスボールほどのサイズの黒い魔力の塊が浮かんでいる。もうそろそろ十分なんじゃいかと思うんだけど、一向に『闇穿』は発動しない。何かチャージ完了のような合図的なものも無いし、もしかして任意のタイミングで発動できる系統のスキルなのかこれは。
私の行動に気付いてか、エルダートレントからの攻撃も激しくなってきてワンちゃんズが攻撃を凌ぐのも厳しくなってきている。もうやってみるしかあるまい!
「ペネトレイトォ!」
既にバレーボールほどに大きくなっていた黒い球体をエルダートレントに向けて放った。目にもとまらぬ速さで迫る『闇穿』に、エルダートレントは自身の根っこを束ねて盾にして防御しようとしたけど、『闇穿』の魔力塊は根っこの盾を易々と貫通し、そのまま本体も貫通していった。エルダートレントの体には、放った魔力塊そっくりそのままのサイズの穴が空いていた。
習得から実践まで実に26話




