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白骨少女が逝くVRMMO記  作者:
鬼の里
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世界樹・低層-2

ご高覧いただきありがとうございます。

「ト、トレントぉ?」


 トレントって言ったらあれじゃないのか、1本の樹の幹に顔が浮かび上がっているようなものを指すんじゃないのか。それとも、樹の部品で体が構成されていたらなんでもトレントという扱いになるんだろうか。

 そんなことをぼんやりと考えている間に、スコルがトレントに突撃してしまっていた。


「ギャシャァァァ!!!!」


 小さな子狼が樹とはいえレベル40の魔物に力押しで勝てるはずもなく、スコルは成人男性の腕ほどもありそうな根っこに弾き飛ばされてしまう。


「『闇縛(ダークバインド)』!」


 スコルに向けられていたトレントの追撃を『闇縛』で封じて、洞の端の方まで吹き飛ばされたスコルに駆け寄る。深い傷を負っている様子は無く、それどころかすぐに立ち上がってまたトレントに飛びつこうとしていたため、私はスコルを抱え込んだ。


「スコル、何が君をそうさせているのかはわからないけど、いったん落ち着こう?そうしてるだけじゃ勝てる戦いも勝てなくなる」


 興奮しきりだったスコルは私の腕の中で少し落ち着いた様子を見せて、申し訳なさそうな様子で耳を伏せてしまった。


「怒ってるわけじゃないよ。ただ、ここには私やハティがいるんだからもっと頼ってほしいな。ね、ハティ」


「わふ」


 スコルは完全に落ち着きを取り戻し、改めて私たちはトレントと対峙する。ちょうど『闇縛』から抜け出したトレントがこっちに向かってのしのしと歩を進めてきている状態だった。


「あのトレントの弱点はおそらく体の中心に見える花。私がトレントの気を引くか体勢を崩すから、スコルとハティはその隙に弱点を狙いに行って」


 ワンちゃんズが心得たように吠えたのを確認して、まずは『闇撃(ダークショット)』をトレントの片足へと放った。半分牽制、もう半分は期待を込めて放った『闇撃』だが、トレントはその鈍重そうな見た目とは裏腹に、ひょいと片足を上げてあっさりと回避してしまった。


「意外と身軽なのかな…っと」


 お返しと言わんばかりに伸びてきた根っこを斬り払い、露出している花に向けてもう1発『闇撃』を撃ちこんでみる。するとトレントは歩を止めて根っこを伸ばし、完全に『闇撃』を打ち消した。そしてまた足に『闇撃』を撃ってみると、今度は躱されることなく命中しトレントは地面に転がる形で体勢を崩した。そこにすかさずスコルとハティが追撃を加えようとするも、トレントは地面から根っこを伸ばして自身の体を押すことで横方向に転がって追撃を避けた。


「ふむ」


 花が弱点なのは確定。そして私が隙を作ってワンちゃんズに攻撃させるのもおそらく合っているはず。


「つまり私はトレントを転ばせるだけじゃ足りない、と」


 そろそろ花から放たれる光によるスリップダメージも馬鹿にならなくなってきた。次で決めないとまずそうだ。


「次で決めるよ!」


「「ギャウ!」」


 再び花に向けて『闇撃』を放つ。トレントはさっきと同じように根っこを振るって『闇撃』を打ち消す。今度はトレントの足に向けて『闇波(ダークウェイブ)』を放ち、両足同時に払うことでトレントは地面に伏すことになる。


「『闇縛』!」


 また根っこで転がってしまう前に、細剣を地面に突き立てて放った『闇縛』によって地面から生じた漆黒色の蔦でトレントをその場に縫い留める。ここでトレントの動きが止まっておしまいであれば話が早かったけど、トレントが転がろうとする力が思いの外強い。継続的に『闇縛』を放ち続けないとすぐに蔦を振り切ってしまいそうだ。


「ふぬっ…!この、大人しく…ッスコル!」


 その時、トレントへ飛び掛かるスコルへ向けて一段と太い根っこが伸ばされていた。トレントが暴れるたびに連動して地面から抜けそうになる細剣を抑え込むことで手いっぱいだった私にはどうすることもできず、スコルの背後へ迫る根っこを見ていることしかできなかった。


「わふ!」


 今にもスコルへ届きそうだった根っこは、ハティが噛みついたことによって動きを止めた。そしてその隙にスコルが『闇縛』によって縛られ横たわるトレントの中心に咲く花に喰らいついた。


「シャギャアアアァァアァァアアアアァァァ!!!!」


「うわ!」


 スコルに弱点である花に喰らいつかれたトレントは絶叫しながら暴れまわり、『闇縛』の蔦を千切って洞の中をバウンドしながら暴れまわった。スコルを巻き込んで発狂状態になったのかと思えばそういうわけでもなく、いつ戻ってきていたのかスコルは私の傍で尻尾をぶんぶん振っていた。


「あ、終わった」


 しばらく洞の中を跳ね回っていたトレントは動きを止め、横たわったまま動かなくなった。何かドロップアイテムがあるわけでもなく、ただあの太陽の花とやらを守る存在だったのかもしれない。

 洞の中を満たし続けていた光は収まって、スリップダメージもなくなっていることを確認していると、スコルが足元でキュンキュンと鳴いていた。


「スコル?」


 スコルは花を咥えたまま何かを訴えかけるように鳴いていた。


「どうしたの?どこか痛いの?」


「キャウ…」


 スコルは項垂れてしまい、花を口から離して落としてしまった。


「どうしたんだろう」


 ここでふとノルニルさんが世界樹に入る前に言っていた「条件」を思い出した。


『条件と言っても難しいものではありません。スコルとハティの2匹を連れて世界樹の内部で2つの果実を探していただきたいのです』


 果実…確かノルニルさんはそう言っていた。だけどこれは花だ、『看破』では確か「太陽の実のなり損ね」とフレーバーテキストに書かれていた。地面に落ちている花はトレントから咲いていた時ほど強い光は放っていない。指先でそっと触れ、ダメージが無いことを確認して拾い上げる。そのまま『看破』を使おうとすると、太陽の花は花自身が放つ光とは別の淡い光に包まれた。


「え、なにこれ」


 太陽の花を覆う光が消えると、私の掌には小さな小瓶が乗っていた。


◇◆◇◆◇


太陽のエキス

効果:暗闇状態の軽減


太陽の花から抽出されたエキス。

体に塗布することで暗闇の状態異常の軽減効果があり、防具に使用することで聖属性からの被ダメージを軽減させる効果を付与できる。

アンデッドに使用した場合、10000ダメージを与えるが太陽のエキスの効果で敵が死亡した場合、使用者に経験値は入らない。


◇◆◇◆◇


「はい私には使用不可と」


 なんとなくわかってはいたけど、案の定アンデッド特攻アイテムだった。暗闇の状態異常を軽減する効果は受けることができないけど、その次の防具に使用したときの効果は結構嬉しい。太陽の花の光を直接浴びても問題ないようになれるかもしれない。

 トレントがいた洞から出て、壁に沿って坂を上り半周程したところにまた別の洞があった。スコルは先ほどとは違い落ち着いた様子だけど、今度はハティが興味を示していた。さっきのスコル程興奮はしていないけど、洞の中に入りたそうにしている。


「ハティ、入ってみる?」


「わふ」


 そう声をかけるとハティは躊躇いなく洞の中に入っていった。

 次に入った洞は太陽の花があった洞とは対照的にとても暗くなっていた。壁伝いに慎重に歩いてみるとさっきの洞と同じようなサイズで、洞の真ん中にはこっちもさっきの洞と同じように天井へと伸びる根っこが座していた。


「うーんデジャヴ」


 またまたさっきと同じように絡み合う根っこを細剣で斬っていくと、中から薄っすらと青く光る花が現れた。


◇◆◇◆◇


月の花

効果:なし


月の実のなり損ね。

花の状態だが、周囲に暗闇を展開することができる。


◇◆◇◆◇


「ショギョオオオオオ!!!」


「知ってた」


◇◆◇◆◇


名前:‐

種族:樹人(トレント)


Lv:40

HP:5000/5000

MP:250/250


スキル:「寄生」「吸収」


◇◆◇◆◇

現在リハビリを兼ねて全くの別作品と並行して書いているので投稿間隔がぶれます。

別作品の方は完結まで書けたら一括で投稿する予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] なるほど、神話になぞらえてスコルは太陽を追いかけ、ハティは月を追いかける となると、何か条件を達成してスコルとハティがトレントを倒すことで実が手に入るのかな その辺を考察できるかが攻略の鍵で…
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