(U^ω^)わんわんお!
ご高覧いただきありがとうございます。
先日投稿できなかった分の補填となります。
鬼の里内部に突如出現した古代遺跡でAAO内の話題は持ちきりで、その古代遺跡周りがイベントに立ち会ったプレイヤーや情報を聞きつけてやってきたプレイヤーでごった返している中、私たちは里の外れの小さな森の中にいた。
私たちとしてはマイちゃんとそのおばあちゃんを助けるためにすぐにでも遺跡内に突入したい気持ちがあったけど、あの後にレオルが天羅さんの服の裾を咥えてここまで引っ張ってくるという珍事が発生し、何かしらのイベントが発生していると判断したため、レオルの誘うがままにこうして森の中にまでやってきていた。
「ガウ」
「…?アイテムなの」
「なんでしょう、葉っぱ?に何か包まれていますけど」
森の少し深いところまで天羅さんを引っ張ってきたレオルが天羅さんの服をようやく離したかと思えば、私たちに向かってアイテムらしきものを落とした。葉っぱのようなものに包まれた、両手にギリギリ収まらない程度のサイズのものだ。
「これ、天羅たちにくれるの?」
「グル」
「わ、これあったかいです」
◇◆◇◆◇
マイの手作りおにぎり
効果:使用者のHPを500回復、HP継続回復(大)効果を付与
マイによって作られた2つのおにぎり。
気持ちがたっぷりと籠められたそれは、掌だけでなく心まで温まる。
◇◆◇◆◇
「その手の変態に言い値で売れそうなの」
「天羅ちゃん?」
「…冗談なの。ほんとなの」
天羅さんこのアイテムの効果を軽く流しているけど、これは私にとって革命が起きるかもしれない。なにせ通常のポーションや光属性の回復魔法では逆にダメージを受けてしまう某大魔王仕様の私からすれば、デメリットも何もない回復アイテムはまさに闇に差し込んだ一筋の光明である。
こういったアイテムが存在するとわかった以上、料理系統のスキルの入手が急がれる。幸いなことにSPはかなり余裕があるから、適当な生産職をしているプレイヤーに片っ端から『看破』をしてスキルを探さなくては。
「ディラさん?」
「へ?」
「やっぱり話聞いてないの」
「すみません、考え事してました」
今後のスキル事情について考え込んでいる間に2人の間でどうやら話が進んでいたらしい。
「仕方ないの、もう1回説明するから今度はよく聞くの」
天羅さんの説明をまとめると、「掲示板での状況を見るに、古代遺跡内部にギミックがあってそれが現状ではどうしようもないっぽいから私たちも情報集めよう。私たちは王都に行くけどディラはどうする?」というものだった。
ここで私はいつしかおばあさんから聞いた「世界樹の根元に住む『賢者』」というものを思い出していた。その時にも聞いた『神喰』という存在も。なにやら今回も神様が絡んできているっぽいから何か力になってくれるかもしれない。
「…私は少し心当たりがあるので、そっちを探してみようと思います」
「わかりました。では、何かあればDMで連絡しますね」
「何かわかればディラも連絡するの」
天目さんがインベントリからいつか見た歯車が中に入っている魔法玉を使用すると、私の目の前から2人の姿が一瞬で掻き消えた。転移する瞬間を傍目から見るのは初めてだったけど、イメージ通りの「瞬間移動」という感じだった。
さて、世界樹とやらがあるのは大森林ってところだったはず。1番近い街は…トルヴァというところらしい。聞いたことのない名前だったけど、どうやらアーチと王都の間にある街らしく、ヴィオの転移でマーチ~王都間をすっ飛ばした私が知るはずもない街だった。
よしトルヴァに向かおう!と鬼の里を出ようとしたところで、あることに気が付いた。
「………一緒に転移しておけばよかった」
・・・
あの後、何か方法はないものかと掲示板内を探しまくった結果、一部の商人が高値で「八ツ足馬の葦毛」という一度行った街に転移ができるというアイテムを売っていることを知った。鬼の里に来ていた商人が運よくそれを売っていたため、なんとかアーチに再び来ることができた。そしてアーチからトルヴァへの道を今のんびりと歩いていたわけなんですけれども。
「キャンキャン!」
「ガウガウ!」
えー、2匹の子犬ちゃんが私の足元をグルグル回っており、動くに動けないといった状況にございます。茂みからいきなり飛び出してきた時は敵かと思ったけど、正体がこんなに可愛いワンちゃんとわかってしまえば剣など振るえるはずもなし、という感じで現在はワンちゃんたちにいいようにされております。
どうしたものかと思案していると、片方の少し毛色が暗めのワンちゃんが外套の裾にしがみついてきた。
「こらこら、破れちゃうでしょ」
飛びついてきたワンちゃんの前足の付け根を両手で持つようにして私の目線まで持ち上げると、浮き上がったあばら骨が目に入った。小さいから子犬なのかと思ったけど、もしかしてご飯を満足に食べれていないのかもしれない。
持ち上げたワンちゃんを一旦地面におろして、インベントリからレオルからもらったおにぎりを取り出して包みを解き、ワンちゃんたちの前に差し出した。
「食べる?」
ワンちゃんたちは少し警戒するようにおにぎりを匂ぎ、危険なものでないと判断したのか勢いよくおにぎりを食べだした。
器とかあった方が良かったかなという現実的な心配とは裏腹に綺麗におにぎりを完食したワンちゃんたちは、もっともっととせがむように更に私に甘えだした。くっ!まさかこんな形で料理スキルを持っていないことに悩まされるとは…っ!
「ギャウ!」
「ん、どうしたの?」
毛色が若干薄いほうのワンちゃんが突然明後日の方向に吠えたかと思えば、そこには牛…にしては角のサイズががやや殺意に溢れており、赤みがかった毛色の牛っぽい生き物がいた。どうみても敵対しており、立派な角のついた頭を頻りに振りながらブルブルと鳴いている。
「『看破』」
◇◆◇◆◇
名前:‐
種族:炎熱牛
Lv:28
HP:3506/3770
MP:0/0
スキル:「捨て身」「一匹狼」
◇◆◇◆◇
「ご飯が向こうからやってきた」
・・・
若干の強キャラ感を醸し出しながら飛び出てきた牛さんですが、突進してきたところ軽くいなして闘牛みたく遊んでいたら途中で目を回して倒れてしまったので、頭を一突きしたら息絶えてしまいました。なんて儚い…
その牛さんがドロップしたお肉類をワンちゃんたちにあげたところ概ね満足したようで、最初に出てきた茂みに戻っていってしまった。ワンちゃんセラピーが終わってしまった…と少ししんみりしていると、すぐに戻ってきたワンちゃんがぴょんぴょんとジャンプしながら私に向かって吠えてきた。
「こっちにこいってこと?」
「ガウ!」
ワンちゃんに誘われるがまま茂みの奥へと入っていくと、少し開けた場所に出た。小さな滝がや川がある、木に囲まれた場所だった。
「ここに何かあるの?」
「キャウ…」
ワンちゃんが見つめる先には崖に掘られた横穴が開いており、中から赤く揺らめく2つの光が見えた気がした。
『…何者だ』
《特殊依頼『神喰いの獣』を達成しました》
《特殊依頼『陰陽を蝕みし災厄』が発生しました》
《依頼を受理しました》
昔話などで見られる謎の葉っぱのようなものに包まれたおにぎりですが、あれは「経木」というものらしく、木をうすーく紙のように削ったものだそうです。
創作はこういった謎知識が増えるのも楽しみの1つだったりします。




