いざ鬼ヶ島
ご高覧いただきありがとうございます。
今回はちょっと短いです。
天目さんに呼ばれて子供の元へ向かうと、ベッドの上で天羅さんに両手を握られながら涙目であのねあのねとたどたどしく話す子供の姿があった。子供の額から角が露わになっているのと、天羅さんの服が捲られて鱗が見えているところを見るに、亜人種同士何か通じ合うものがあったのかもしれない。
「大丈夫ですか?」
声をかけると、子供の方がビクンと跳ねてギギギという音が聞こえてきそうな動きでこちらに顔を向けた。その顔はまあ見るからに怯えと困惑が混じった顔で、まあこんなマント2人だと無理もないよねという感じだった。とはいえ、初手に半透明と一部肉が抉れている顔を見せるよりかはいいという判断の結果だったりするけど、どちらにせよ第一印象が最悪なのが悲しい。
「大丈夫なの。この2人は天羅の仲間なの」
天羅さんが子供を抱き寄せて胸の中で頭を撫でまわす。
「・・・黒い」
「そうなの。黒いの。でも怖くないの」
「怖くないの?」
「そうなの。2人ともマイを助けてくれる優しい人なの」
子供は私と天目さんをジッと見つめた後、おずおずいった様子で口を開いた。
「私を、私たちを、里を助けてくれるの?」
「はい、どこまで力になれるか分かりませんが、私たちの全力を尽くします」
天目さんが子供の手を握って琥珀色の目を見つめる。天羅さんから「お前はどうなんだ」的な目線を向けられたから、とりあえず頷いておく。
「・・・わかった、みんなを信じる。里まで案内するからついてきて」
「その前に自己紹介するの」
「えっと、私はマイ。里長の娘・・・です」
「マイちゃんですね。よろしくお願いします」
マイちゃんは天目さんと私を見て不思議そうに首を傾げる。
「2人はなんでそんな恰好をしてるの?真っ黒だし、怖いよ」
マイちゃんのあまりな純粋な疑問に、私と天目さんは顔を見合わせて苦笑するしかなかった。
その後、4人で王都を出て鬼の里があるという北に真っすぐ進んでいく。途中でプレイヤーらしき人が数人で固まったグループを何度も見かけたあたり、他のプレイヤーたちも鬼の里に向かっているっぽい。
しばらく真っすぐ進んでいると、風が強く吹くと共にものすごく小さい黒い粒子が風に乗って流れてきた。
「これ!里にこれが沢山流れてきてお空が真っ暗になったの!」
◇◆◇◆◇
凶衰の根源
効果:???
愛欲と豊穣の力が反転した、負の神力の欠片
◇◆◇◆◇
神力・・・?また神様の仕業なの?まだ神様の仕業かはわかんないけど、この世界の神って碌なことしないんだね。
「『鑑定』の画面が虫食いでよくわからないの・・・」
「AAOってそういうの多いよね。最初のボスの大きいトカゲも『鑑定』が通らないって天羅ちゃんぶつくさ言ってたし」
「あの粒子は凶衰の根源って名前で、神様の力が反転したものらしいです」
「ディラ、わかるの?」
「愛欲と豊穣の力が反転した負の力・・・だそうです」
「みんななにやってるの!早く来て!こっちだよ!」
いつの間にやらマイちゃんが遠くまで進んでいて、私たちを急かしてくる。
「あの粒子は気になるけど今は後回しにするの」
「そうですね、当たったりしても害はないみたいですし」
私たちはマイちゃんを追って駆け足で平原を進んでいった。
・・・
「マイ、本当にこっちでいいの?さっきとは全然違う方向に進んでいるの」
「大丈夫!こっち!こっちに友達がいるの!」
マイちゃんに導かれるままに北に進む途中、私たちは進む道を真東に逸れて鬱蒼とした森を草を掻き分けながら進んでいた。
マイちゃんが大丈夫と言いながらガンガン森を進むのを何とか追いかけていると、少し開けた場所に出てきた。そこにはどこか神聖な雰囲気を漂わせる祠のようなものが佇んでいた。
「レオルー!私!マイだよー!」
「グォルルル・・・」
マイちゃんが何かに呼びかけると、マイちゃんの声が木霊のように響いたと同時に猛獣の唸り声みたいな声も響いてきた。
「大丈夫!この人たちは私を助けてくれたの!ほら!もうなんともないでしょ!」
「グルルル」
どこに何がいるのかまるでわからないから、祠の周りを見渡していると背中をトンと軽く押された。2人のどちらかかと思ったけど、天目さんも天羅さんも私の視界に入っているし、2人とも唖然とした様子で私の頭の上あたりを見上げている。
ゆっくりと後ろに振り向くと、そこには体高が優に3メートルはある巨大な虎が私の背中をつついていた。
「レオル!」
「ギャゥ」
マイちゃんからレオルと呼ばれている巨大な虎は私から離れると、マイちゃんにすり寄っていき、仰向けになってお腹をさらけ出してゴロゴロと喉を鳴らしながら甘えていた。
何だか怪しげな黒いナニカとマイちゃんのお友達が出現しました。
すこーしバタバタしていてなかなか筆を取れませんでした。申し訳ナス!




