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白骨少女が逝くVRMMO記  作者:
鬼の里
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ワザマエ!

ご高覧いただきありがとうございます。

「ディラ、武器のデザインの要望とかがあったら言うの。よほど変なものじゃなければできる限り応えるの」


 天羅さんが鍛冶場の炉の前に腰かけて何かの準備をしながら私に聞いてくる。


「特に拘りはないので、天羅さんにおまかせします。あ、一応前に使ってた武器が残ってるんですけど、見ます?」


「・・・?全壊になったって聞いたの」


「はい、今全壊状態でインベントリにあるんですけど」


 私の言葉を聞いた天羅さんが怪訝そうな表情を浮かべる。


「全壊状態になった装備は勝手に装備から外れてゴミになるはずなの。全壊状態のままで保持されるなんて聞いたことも見たこともないの」


 天羅さんはインベントリから何かのアイテムを取り出して私に手渡してきた。


◇◆◇◆◇


廃材

効果:なし


ゴミ。捨てる以外の用途が無い。


◇◆◇◆◇


「それが全壊状態になった武器のなれの果てなの。元はこれと同じサイズの剣だったの。で、ちょっとそのアイテム見せてほしいの」


 私たちの身長に迫るサイズの大剣がこの手のひらサイズの廃材になってしまうらしい。

 そして全壊状態の細剣を天羅さんに手渡した。装備はできないけどアイテム化はできるようで、私の手元に柄と剣の根元だけ残った細剣が現れた。あの青い炎を纏った剣とぶつかり合った影響か、柄の部分が解けて固まったように歪な形をしていた。

 天羅さんは細剣を受け取って眺めた後、頭を押さえて軽くため息を吐いた。


「ディラはわからないことが多すぎるの。『耐久値自動回復』なんて効果見たことがないの。でも多分この効果のおかげでゴミにならずに済んでいる可能性が高いの」


「そうなんですね」


「この効果を見逃すのはもったいないの。根元だけ残ってる刀身を外せれば柄の部分は使いまわせるから、それでやってみるの」


 天羅さんは慣れた手つきで燃料らしきものを炉に放り込んで、そこに小さな魔法玉を投げ入れた。すると炉に火が入って、薄暗い鍛冶場は火によって明るく照らされた。


「せっかくだから、イベント報酬で貰ったこれを使ってみるの」


 天羅さんはインベントリから濃い赤色の金属の延べ棒を取り出した。イベント報酬って言ってたし、私も貰った『紅金のインゴット』ってアイテムっぽい。


「あの、それだったら私も貰ってるので素材は私が・・・」


 と言いかけると、天羅さんはこっちを向いて両手の人差し指でばってんを作った。


「今回はお詫びの意味も込めてるの。だからディラに素材を使わせるわけにはいかないの」


 そう言って天羅さんは大きいペンチのようなものを使ってインゴットを挟んで炉の中に置いて、炉と併設するように設置されている木の箱?の取っ手を押したり引いたりし始めた。あれかな、炉の中に風を送るための何かなのかな?何度か取っ手の押し引きをすると、木の箱の取っ手は何もしなくても勝手に押し引きをするようになった。

 それを確認した天羅さんは、炉の前に座りなおして中に置いてあるインゴットをジッと見つめ始めた。私は特にやれることがないから、その様子を黙ってみているとコツコツと階段を降りてくる音が聞こえてきた。


「天目さん、おかえりなさい」


「またやっちゃいました・・・ディラさんみたいな浪漫の塊を見ているとどうしても・・・って、天羅ちゃん?」


「私の剣を作ってくれてるんです」


「ディラさんの剣を・・・何だか私が知らない間に随分と仲良くなったみたいですね」


「うるさいの。ディラ、ちょっと問題発生なの。このイベント報酬のインゴットの熱耐性が高すぎて普通の設備じゃ叩けるようにすらならないの」


 天羅さんが炉からインゴットを取り出して金槌で何度か叩いて見せるけど、確かに形が変わる様子は一切ない。それどころか金槌の方が悲鳴を上げているようにも見える。


「このざまなの。この素材で作るのは難しそうなの」


「それだったら、これが使えると思うんですけど」


 インベントリからインゴットと同じイベント報酬である『瓶詰の豪焔』を1つ取り出して天羅さんに手渡した。


「確かにこれは使えそうなの。でも鍛冶屋の天羅のところにこの報酬が来ないのは不条理なの・・・」


「でも天羅ちゃんは便利なスキル貰ったでしょ」


「まあいいの。じゃあ、このアイテムだけは使わせてもらうの。でもこれは借りなの。必ず返すの」


 本当にそこは気にしないでいいんだけど、こればっかりは天羅さん次第ではあるから素直に頷いておく。

 天羅さんはまた炉と向かい合って、瓶の蓋を外して中の青い炎を炉の中に放り込む。すると、炎の色が赤から見覚えのある青に変わって、鍛冶場全体の気温がグンと上がった。


「これならいけそうなの」


 再び炉の中にインゴットがくべられる。さっきまでとは明らかに様子が違い、青い炎にくべられたインゴットはすぐに炉から取り出されて金床に乗せられる。インゴットは赤熱して元の赤色とはまた違った赤色になっていた。天羅さんはすかさず金槌を取り出して赤熱したインゴットを叩く。

 噎せ返るような暑さの鍛冶場の中で、ふと気になったことがあった。


「天目さん」


「はい、なんでしょう?」


「その、生産職の人って皆天羅さんみたいに現実(リアル)と変わらないような作業方法でやってるんですか?ゲームの中だと適当な工程を踏んだらポンと出来上がるイメージだったので」


「あ~それは私たちがちょっと特殊なんです」


「特殊、ですか」


「はい。普通の生産職をしている方はその職に見合ったスキルを持ってるんです。料理人だったら『料理』だったり、それこそ天羅ちゃんみたいな鍛冶職なら『鍛冶』とか『鍛造』だったりですね。でもこのゲームはスキルが無くても、それこそその職に就いてなくても、とりあえず作ってみることはできるんです」


 まあ確かに、私の『細剣術』の3種類もそれが無くたって細剣を振ることはできるわけだし。


「でも1つだけ明確な欠点がありまして、職業やスキルによる作業中の補正といいますか、補助が何もないんです。鍛冶職なら、装備を作ってる時にどこを金槌で打てば上手く仕上がるかみたいなことがわかったり、人によっては金槌一振りで装備が出来上がったりするそうです。そう言った補助をなしでやってるので特殊というわけです。私たちはマニュアル操作って言ってます」


「私たちってことは天目さんも?」


「そうですね。ただ私は天羅ちゃんほど凄いことはしてないです」


 そう謙遜する天目さんだけど、何の補助もなしに新しい魔道具を生み出してるのヤバすぎると思うんだけどなあ。鍛冶みたいにわかりやすい凄さではないと思うけど、天目さんが飛びぬけている気がする。

 でも、わざわざそこまでする意味はあるんだろうか。天目さんが言ってたように金槌一振りで装備が出来てしまうなら、天羅さんのやってることは大して意味がないように思えてしまう。


「『なんでわざわざ面倒な手段を』と思うかもしれないんですけど、実はいいこともあるんです」


 まさに今思っていることを言われてドキリとした。


「これはオフレコでお願いしたいんですけど、マニュアルでやると装備やアイテムの性能が引きあがるんですよね。武器なら攻撃力や耐久力が上がったり、道具なら回復効果が上がってたりという感じです。それでも現時点では大差がつくという程ではないですが、浪漫ってやつです」


「浪漫ですか、いいですね」


「ディラさんもわかっていただけますか」


 そんな感じで天目さんとしばらくあれこれ会話をしていると、天羅さんが剣を打つ音が止んだ。


「できたの!これはいい出来なの!」

前回、あとがきで物語が動き始めるといったな。アレは嘘だ。


本文の補足なんですが、職やスキルを持っているからマニュアル操作に劣るというわけではありません。職やスキル関係なく、少し手の込んだことをすればちょっといい性能の装備やアイテムが手に入るよ!というだけの話です。

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― 新着の感想 ―
[一言] いったい、どんなスペック細剣になったんだ?取り敢えず、火系統属性なのは確実カナー?(・✕・)
[一言] 魔法玉、結構便利なんだなぁ。 浪漫か…。 モチベーションという意味でも大事なのかも。
[一言] ディラは残骸で他のやつらはスキルとかが当たりなのかな?
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