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白骨少女が逝くVRMMO記  作者:
鬼の里
79/96

陥落

ご高覧いただきありがとうございます。

 あの後、興奮が限界値に達した天目さんはまたもや強制ログアウトを喰らってしまった。天目さんが急にふらりと横倒しになった時は大いに焦ったけど、天羅さんは慣れているのか軽くため息を吐いて天目さんをソファに寝かせていた。


「黒マント、ちょっと付き合うの。さっきは避けられてばかりだったからちゃんと打ち合いたいの」


「それは構わないんですけど、前のイベントで武器が全壊しちゃって今丸腰なんですよね」


 ちなみに、天羅さんに渡した外套は「『鑑定』が入らないから訳がわからないの。どうやって手に入れたのか気になるけど聞くのは勘弁してやるの」と若干不貞腐れた天羅さんに突き返された。やっぱりこの恰好が落ち着く。


「使用武器次第では余ってるのをやれるの。ダメだったら少し時間はいるけど打ってやってもいいの」


「細剣です。サイズは・・・刀身が50センチ弱くらいだったと思います」


「それだったらこういうのがあるの。鋼でできたなんの変哲もないただの細剣なの」


◇◆◇◆◇


鋼の細剣[作成者:天羅]

耐久:350/350


効果:なし


鋼でできた細剣。見た目に反して少し重い。


◇◆◇◆◇


 天羅さんから手渡された細剣を装備して軽く振ってみる。前に使っていた瘴石英の細剣よりかは少し重量を感じるけど、問題なく扱える気がする。


「ありがとうございます」


「そのレベルのは量産できるから気にしなくていいの。じゃあついてくるの」


 天羅さんに続いて部屋を出て地下へ向かう階段を降りていくと、そこにはとても立派な鍛冶場が備え付けられていた。今は炉に火が入っていないからなのか、部屋は全体的に薄暗い。


「ちょっと待つの」


 天羅さんは薄暗い部屋を壁伝いに歩いて行ってある場所で足を止めた。そこは壁掛けにいくつかの両刃剣や金属でできた槌が置いてあるだけの場所だった。


「黒マント、この盾を反時計回りに捻ってみるの」


 天羅さんが指さした先にあったのは、盾に2つの剣が斜めに刺さったデザインの少し小さめのエンブレムのような壁飾りだった。

 言われるままに盾を左に捻ると、ガチャリという音と同時に部屋が明るくなった。


「照明ですか?」


「それだけじゃないの。後ろ見てみるの」


 後ろを見ると、薄暗い鍛冶場だったはずの部屋が、篝火が壁際にいくつか置かれているだけの石畳のだだっ広い空間になっていた。


「これは天羅たちもよくわかってないの。この家に最初からついていた機能なの。鍛冶場と切り替えができるから、武器の試し切りとか天目の魔道具の実験でよく使う場所なの」


「訓練所ってことですか」


「そういうことなの。じゃあ始めるの」


 訓練所の中央まで歩いて行って、お互いに少し距離を取る。


「アクティブスキルの使用はなしの、剣と体術の勝負でいくの。それと、ここで死んでもペナルティはないようにしてあるから遠慮はいらないの」


 コクリと頷いて了承の意志を示して、細剣を構える。あのでっかい大剣をこんなので受け流せるのかという疑問は多少はあるけど、あの大剣よりも大きい剣を止めたこともあるんだし大丈夫だと信じたい。


「いくの」


 天羅さんは急速に私との距離を縮めてきて、頭上から剣を振り下ろしてくる。細剣を右手から左手に持ち替え、柄を握った手を頭の上まで持ってきて大剣が細剣の表面を滑るように少し傾けて構えて攻撃を受ける。相手が大剣ということもあって、かなりの衝撃が来たけど無事に受け流すことができた。

 でもそのまま天羅さんが体勢を崩すことはなく、大剣をあっさり手放したかと思えば、私の細剣の表面を滑る大剣の面の部分を思いっきり横に蹴り飛ばしてきた。


「ぐっ!?」


 蹴りを直接喰らったわけでもないのに、とんでもない衝撃が横から襲ってきて同じ体勢のまま私の体が横にズザザッと移動した。

 その間に天羅さんは大剣を回収していて、今度は刃の部分ではなく大剣の面の部分で私を殴りつけるように横薙ぎに振るってきた。これだけ面積が大きいと細剣では受け流すことが難しいから、今度は攻撃を受けることはせずに素直に後ろに引く。

 大剣が空ぶれば少しは攻撃の手が止むかと思ったら、大剣が空を切っている途中で天羅さんは大剣を両手持ちにして、横への勢いを無理やり殺してまた私の方へ大剣を振ってくる。

 どんな力技だと驚いている暇もなく、大剣を軽々と木の棒のように振ってくる天羅さんの攻撃をいなし続ける。十数発と攻撃を受け続ければ別に剣の達人なんかじゃなくても攻撃の癖が少しは読めてくるもので、少しづつ私も攻撃できることが増えてきた。


「やりにくいの・・・」


 基本的に自分から動くことのない私の戦闘スタイルがお気に召さないのか、天羅さんの表情は変わらないものの、明らかに不満げな様子だった。

 それでも自分から攻めないと決着がつかないこともわかっているようで、天羅さんは私に向かって大剣を振るい続ける。


 あるとき、放たれた袈裟斬りを何とか受け流して、ちょっとの隙に反撃を入れていると、天羅さんがもう我慢ならないといった様子の顔で私を睨みつけてきた。

 天羅さんは後ろ向きに地面を蹴って私との距離を取った。そして大剣を両手持ちで構えて、剣先を地面に突き刺したかと思えば、そのまま地面を抉るように剣を振り上げた。


「『裂爪斬』!」


 天羅さんがそう言うと同時に、大剣が斬り上げた地点から私に向かって5本の目に見える衝撃波が地面を走った。5本の衝撃波は、勢いを緩めることなく地面を裂きながら襲い掛かってくる。

 ちょっと待って、これってどう見てもスキルな気がするんだけど!なんて文句を言う暇もなく、衝撃波が間近まで迫ってきていた。


「『闇波(ダークウェイブ)』!」


 複数の攻撃に対応できる唯一の魔法を撃って何とか凌ごうとするも、全てが相殺するといううまい話があるわけもなく、5本の衝撃波のうち3本が『闇波』を突破してきた。

 魔法でもない衝撃波を細剣でどうにもできるわけもなく、そのまま直撃を貰うと思ったら私の眼前で残った3本の衝撃波が掻き消えていった。天羅さんの方を見ると、ものすごく申し訳なさそうな表情を浮かべていた。


「あの、今のって」


「本当にごめんなの・・・熱くなりすぎたの」


「大丈夫ですよ。でも気を付けてくださいね」


 そう言いはしたものの、自分で言ったことを自分で破ったことに対する罪悪感なのか、天羅さんの表情は晴れない。


「これで黒マントが天羅たちと一緒に行くのをやめるなんてことになったら天目に顔向けできないの・・・」


「そんなこと思ってないですけど・・・じゃあ、1つ私のお願いを聞いてください。それで手打ちということにするので、天羅さんもそう気落ちしないでください」


「わかったの。できる範囲で償うの」


「私の細剣、新しいのを作ってください」


「・・・それだけなの?」


 天羅さんがコテンと首を傾げる。


「はい。その剣でまた打ち合いましょう?次こそスキル無しで」


 私の言葉を聞いた天羅さんの表情に精気が戻っていく。

 ルール違反したとはいえ、天羅さんと打ち合うのはすごく楽しかったし勉強になった。天羅さんも天羅さんで、それだけ熱くなってくれたというのはちょっとばかり嬉しいし。


「・・・またやってくれるの?」


「あ、それと私のこと名前で呼んでください。いつまでも黒マントじゃ寂しいです。それで今回は手打ちにしましょう。天羅さんがそんな感じだと調子狂います」


「わかったの。その、改めてごめんなさいなの。頑張ってディラの剣作るの!」


 私が言えたことではないだろうけど、部屋の中を訓練所から鍛冶場に戻して笑みを浮かべながらそそくさと鍛冶場に向かう天羅さんは、その容姿も相まってどちらかと言うと天目さんの妹のように感じた。

というわけでデレました。

ちなみにですが、天羅はいくら絆されようとも口調の乱れはないの。根っこから「~なの」口調なの。そろそろ物語が動き出すの。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] トッププレイヤーよりレベルなども高く進化してレア種族になった主人公が鍛冶師に負けてるのが違和感ありすぎる。 主人公居なくてもこの子が王都に来たあのイベントのボス倒せてたんじゃね?
[一言] ん〜、固定の仲間は要らなかったなぁ…ソロを突き通しながらも他のプレイヤーと交流する形が良かった… 好みも人それぞれ。イベント終了までは楽しく読ませていただきました。
[一言] これあれか残骸からたぶんつくるんだろモンハンの錆び系武器みたいになるんだろおじさん知ってる
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