赤裸々に
ご高覧いただきありがとうございます。
「そ、それはそうとです。改めてディラさん、私たちと一緒に冒険しませんか?」
「申し出は嬉しいんですけど、その・・・」
「天目のお願いを断るとは万死に値するの」
テーブルを挟んだ向かいのソファに座る天羅さんが、横に立てかけてあった大剣の柄を握ってこちらを睨みつけてきた。
「いえ、あの、断るとかじゃなくて、私がいると迷惑なんじゃないかなって。ほら、私って懸賞首みたいな扱いされてるじゃないですか」
「あの、不躾な質問で恐縮なんですけど・・・」
天目さんが肩を縮こまらせながらおずおずといった様子で片手を少し上げていた。
「ディラさんが私と同じような恰好をしているのって何か理由が・・・?あの、もちろん答えたくなければ答えていただかなくても大丈夫です!」
うーん、特別この2人に悪感情を抱いてるわけでもないし、一緒にAAOするのも嫌どころかむしろ飛び跳ねて喜びたいくらいだし・・・それに、そろそろ秘密を共有できる人が欲しかったのもまた事実。よし。
「えっとですね、天目さんの言う通り、私がこんな恰好をしているのは理由があるんです」
そう言って、長らくかぶり続けていたままだった外套のフードを脱ぐ。
「「えっ」」
2人が驚愕するような声が重なった。いや実際驚愕してるんだろうけども。
基本眠そうにしている目をくわっと見開いて私を凝視してきている天羅さんと、なぜか天目さんはキラキラとエフェクトでも出そうな目で私の顔を見つめてきていてなんだか居心地が悪い。
「まあ、その、見たままです。こんなのでも一応アンデッドに分類されちゃってるので、このフードを被っていないと日光で死んじゃうんです。それにこの外套には聖属性ダメージ軽減効果もあるので手放せなくなってるんですよね」
説明している間に顔を晒していることが気恥ずかしくなって、またフードを被りなおした。フードを被った瞬間に天目さんが「あぁっ」と声を漏らしていた。
「これは難しいの」
「え?」
天羅さんが腕を組んで口を引き結び、眉間に皺を寄せながらそう言った。
「黒マントが黒マントたる所以がその外套なの。だから、場合によっては代わりの装備を作ることも吝かではなかったの。でもアンデッドとなれば話は別なの。ちょっとその外套を貸すの」
「あ、はい」
素直に外套を脱いで天羅さんに手渡す。他に付けている装備が靴とお姉さんからもらった首飾りしかないから、その2つを残して私は初期装備姿になってしまった。ただ私は1つ失念していることがあった。
その姿になってしまったということは、骨で構成された尻尾と翼も出てしまうわけで。
「・・・」
天羅さんに呆れを含んだじっとりとした目を向けられて何とも言えない感じになってしまった。いやだって、こういう相手にとって未知の情報って小出しにしていかないと相手が混乱することもあるだろうし・・・尻尾に関しては若干忘れ気味だったのは否定できないけども!
そういえばさっきから天目さんが言葉を発していないと思って天目さんの方を見ると、いつの間にやらおでことおでこがぶつかりそうな距離まで接近してきていた。
「・・・です」
「へ」
「素晴らしいです!まず私たちに晒してくれたその右頬から首の付け根まで広がる、生命を宿している者としてはまずありえないその抉られたような跡!でも本当に抉られたような傷跡は見当たらず、まるでそこに本来あるはずの、存在しないといけないはずの筋肉、器官、皮膚等がすっぽりと抜け落ちているかのような空虚さ!それだけでも既にアンデッドとして完成されているというのに、ディラさんの人間としてのその体はその点を除いて他におかしなところが見当たらない!そしてその黒い骨のみで構成された尻尾と翼!アンデッド属性だけでは物足りないということですかこのいやしんぼめ!そう、あのイベントの時にその翼を広げて空を飛んでいたと聞きました!その風を受けることも流すこともできない、ましてやその翼を動かす筋肉すらないであろう骨格だけの翼で!素晴らしいです、素晴らしすぎます・・・!あのイベントの時、たまたま王都に居てよかった・・・!運命に感謝です・・・!!!」
天目さんが物凄い剣幕と早口で捲くし立ててきたかと思えば、天目さんがようやく息継ぎをしたころには小躍りでも始めそうなくらいご機嫌な雰囲気を醸し出していた。
そんな感じで私のせい?でハイになっている天目さんを尻目に、天羅さんは私の外套をテーブルの上に広げて興味深そうに眺めていた。
「あの、天羅さん、天目さんはいったい・・・?」
「気にしなくていいの。いつものが始まっただけなの」
「いつもの、なんですか」
「天目は昔から動物とかの骨格標本で興奮する変態だったの。で、成長過程でゲームとかアニメに触れてレベルが引きあがった結果がさっきの"アレ"なの。あの状態の天目に構うだけ時間の無駄なの。でもあの状態じゃなければ天羅の可愛い妹分なの」
まあ、人の趣味なんて十人十色だから特に何も思わないし、そういうので人を判断するのはよくないって思ってきていたけど、その対象がいざ自分になるとこう、なんとも言えない感覚になるね、これ。
「ふぅ、失礼しました。ディラさんのあまりに魅力的な体に興奮が抑えられなくなってしまいました」
「そ、そうですか」
「天目、気は済んだの?さっさと話を戻すの」
天目さんはソファに座りなおして、コホンと小さく咳払いをした。
「私の勘違いでなければなんですが、ディラさんの事情を私たちに教えてくださったということはさっきのお誘いは受けていただける、ということで大丈夫ですか?」
「えっと、私でよければ是非」
「ああよかった!先約があったりして断られても仕方ないとは思っていたんですけど、是非お近づきになりたいと思っていたので嬉しいです!これからよろしくお願いします!」
「断ってたら粉みじんにして庭の花の肥料にしてたの」
不穏な言葉が聞こえてきたけど気にしないことにしよう。それがいい。
「そう思っていただけたなら私もうれしいです。これからよろしくお願いします」
天目さんが私の手を握ってブンブンと上下に振ってくる。一向に手を離す気配がないから行き場を失った片方の手で耳の裏辺りを軽く掻いていると、こつんと何かに当たる感覚があった。
「ああ、そういえばこんなのもありますよ」
尻尾と同じ・・・どころかほぼ存在を忘れていた角を指で指す。
すると天目さんがさっきと同じように目の色を変えて迫ってきた。あ、これは・・・
「自業自得なの」
視界の端で呆れた顔をする天羅さんが見えた。
「ちょっとディラさん!そんなものまで隠し持っていたんですか!?翼と尻尾だけでも私みたいな人間を射抜くのには十分だっていうのに、更に角まで!?しかも立派な翼と尻尾とは違って髪の毛に埋もれるくらいの小さな角なのがまたイイ!ギャップ萌えってやつです!それにーー」
その後、更にテンションが上がった天目さんを宥めるのに少しではない時間を要した。
というわけで仲間加入回でした。
天目の早口部分、大変でしたが書くの楽しかったです。この選択が後の投稿者を苦しめそうではありますが、その時はその時です。
天羅ですが、普段は天目にゲロ甘ですがハイになった天目は別人だと思って一線を引いてます。クレイジーな部分もありますが、しっかり常識人としての側面も持ち合わせております。




