姉と妹分
ご高覧いただきありがとうございます。
という感じでわけもわからないまま私は命の危機を迎えているわけで。確かに滅茶苦茶に怪しい恰好してる自覚が無いわけでは無いけど、そこまで言わなくたっていいじゃん!
「あの・・・これは一体・・・」
「いつまでも白を切るなんて恥を知れなの」
目の前の少女はそう言って私の首筋に当てていた剣を横に薙いだ。片手で行われたはずのそれは、周囲の空気を切り裂いて私たちの少し後方にあった噴水がガラガラと崩れ落ちた。
「む、避けるなんて生意気なの」
こっちは死ぬ気で避けて心臓バクバクだっていうのに、それを引き起こした本人は涼しい顔をして私に肉薄してくる。四方八方から目まぐるしく襲ってくる少女の得物は、見た目通り相応に重い大剣のはずなのに私の細剣と同程度、もしかしたらそれよりも早い速度で私を切り刻まんとしてくる。
少女の大剣は真空波でも出しているのか、少女が大剣を振るうたびに明らかに攻撃が届いていないはずの周りの建物や地面に大きめの傷が入っていた。
「燃え尽きるの」
すると、少女は動きを止めて両手で大剣を構えなおした。
「『越昇』」
何が来るかと戦々恐々としながらしながら構えていると、少女は何かのスキル名を呟いた。その瞬間、辺り一帯がまばゆい光に包まれて、思わず目を閉じてしまう。
「隙ありなの」
目が眩んでいる間に、少女は私と目と鼻の先まで距離を詰めてきていて両手でしっかりと大剣を振りかぶっていた。よく見ると少女の大剣は淡い朱色のオーラを纏っていて、何かの魔法を付与しているように見えた。
なんだかよくわからないけど、私は殺されるっぽい。できれば次会う時は話し合いたいかなあ。
そんな感じで半ば諦めの境地にいると、視界の外から少女に向かって見覚えのある綺麗な水色の玉が飛んできた。
「もういい加減にして!」
少女に水色の玉が命中してバリンとガラスが割れたような音が鳴ると、少女の腹から下が一気に氷に包まれてついでにその近くにいた私の足元も凍りついた。
見覚えがあると思ったらやっぱりあの魔法玉だった。相変わらずの効力のようで、私もついでに足の裏が凍ってしまったけど命の危機は免れた。
「天目、何をするの。このままじゃ天目に不埒な真似をしたこの黒マントを斬れないの」
「そんなことしなくていいって言ったじゃない!あの時は私の状態を見るために仕方がなかっただろうし、それにディラさんは私の顔を見て嫌そうな反応なんて一切してなかったの!」
「え、あの、え?」
「ディラさん、ごめんなさい。実はあの時既に強制ログアウトが切れてて、既に意識はあったんです。でも周りがあまりにも物騒だったのでしばらく寝たふりをしようとして・・・というわけなんです。え、ちょっと、ディラさん!?」
「本当にごめんなさい!」
どうせするなら早い方がいいと思ってその場で地に額をこすりつけた。特に言い訳はない。私のしたことがあの少女に伝わっているなら確かに襲われても仕方がないと思った。
「さっきも言いましたけど、気にしてないので土下座はやめてください・・・!」
「・・・なんだか拍子抜けなの」
姿勢を戻すと、私の隣でまだ氷に覆われていた少女がつまらなさそうな顔をして溜息を零していた。
「もう、ディラさんと一緒に冒険しようって言ったのにいきなり襲い掛かるなんて天羅ちゃんは血の気が多すぎるよ。せめて最後まで話を聞いてほしいな」
「大事な妹分が危機に瀕しているなら、不安要素を取り除くのが姉の役目なの」
この天羅という少女は誇らしげな顔をして、むふんと擬音が聞こえてきそうな具合に胸を張った。というか妹分?姉?現実で交流があったりするのかな。
「それでディラさんに少しお話があるんですけど、ここじゃちょっと微妙ですね。今の戦いで人が集まってきてますし」
天目さんが周りを見回してそう言った。確かに結構派手に街を壊したことも相まって結構な人が集まってきていた。これプレイヤーもそこそこの数集まってるのかな。だとしたらまた面倒なことになりそう。
「ディラさん、こっちです。ほら天羅ちゃんも早く」
「凍っているから動けないの」
「それくらいさっきの付与で溶かせるでしょ」
「むう、妹分が辛辣なの」
天目さんが私の手を引いて近くの路地へと入っていく。
「ディラさん、私の手を離さないでくださいね。天羅ちゃんも」
天目さんはそう言うと、空いている方の手でインベントリから何か取り出した。
それは500円玉くらいのサイズの魔法玉を取り出した。私が見たことのある氷の魔法が込められているものとは違って、中には赤色の歯車がグルグルと回っていた。
「慣れていないと少し酔うかもしれないですけど、どうしようもないので頑張ってください」
「え?」
動揺する私を尻目に、天目さんが魔法玉を人差し指と親指で挟んでクシャリと潰す。天目さん、最初こそ気が弱そうな雰囲気だったけど、割といい性格してるのかもしれない。
すると、天地がひっくり返るあの感覚が襲ってきた。うわ、この懐かしい。王龍さん、元気にしてるかな。というか、この感覚が来るってことは転移してるってことだよね。
ぐにゃりと歪む視界がおさまると、どこかの家の中にいた。
「ここは・・・」
「ようこそ、ここは私と天羅ちゃんのプレイヤーハウスです。場所は王都の貴族街の中ですね」
「黒マントを完全に信用したわけじゃないけど、天目があれを使ってまで招きたいのなら認めてやるの」
「とりあえずこちらへ、ゆっくりしていってください」
手招きでソファの方に誘導され、深く腰を下ろす。さっきの天羅さんとの戦闘で結構疲労していたのか、柔らかいソファが沁みる。フルダイブとはいえ、ゲーム内でここまでシエスタできるとかどういう作りなんだろうか。
「じゃあ改めて自己紹介でも。私は天目、職業は細工師で種族は見ての通り亡霊です」
天目さんがフードを下ろしてニコリと微笑む。あの時見たように天目さんの顔、というか体は全体的に微妙に透けていて、彼女が私と同じアンデッド族ということがわかる。
「天羅は天羅なの。一応鍛冶屋やってるの。種族はわかりにくいけど半竜人なの」
天羅さんはそう言って着ていた服の袖を肩までまくった。その肌には鱗がびっしりと並んでいて、彼女も人ならざる者だということがわかる。
「というか天羅さん、鍛冶屋だったんですね。あの強さで生産職・・・」
「むふふ、もっと褒めるといいの」
あの強さで戦闘職じゃないとかどうなってるんだか。生産職の天羅さんでこれなら掲示板で前線組とか書かれていた人たちはもっと強かったりするんだろうか。
「えっと、私は・・・」
「ディラさんのことは私のお話を聞いてくださってからで問題ないです。ディラさんにも色々あるでしょうし」
「あの掲示板のことなの?別に黒マントがプレイヤーってことがバレたならバレたで変なのは寄ってこなくなると思うの」
「・・・え?バレ?」
え、バレ、え?私、えぇ?
「黒マント、掲示板見てみるといいの。イベントの終わり間際にプレイヤーと同じ消滅の仕方をしているところが配信でばっちり映されてたの。そのクリップとスクショが掲示板を飛び交って、捜索スレは阿鼻叫喚なの」
「そ、そうなんですか・・・」
改めてよく考えるとそりゃそうなる・・・のかな。別に何としても隠したかったわけではないけど、NPCってことにしておいた方がまだ面倒事が減ると思いはしたし・・・
「そ、それはそうとです。改めてディラさん、私たちと一緒に冒険しませんか?」
というわけで新キャラの詳細回でした。
まだ外見に関する詳しい描写はありませんが、天羅は小さい子がどでかい得物を担いでいるという完全に投稿者の趣味を反映したキャラとなっています。そういうのいいよね・・・
それと、なんかこの作品がTwitteで分析されていました。個人の感想とかではなく、品詞がどれだけ使われているか、ポイントやランキングの推移などが乗っていたので、気になる方は投稿者のTwitterからどうぞ。




