閑話 PRJ-Æsir
ご高覧いただきありがとうございます。
「で、どうするんですかこれ」
「知らん・・・私はもう知らん・・・」
超高層ビルのように積み重なった大規模なコンピュータの前で、2人の白衣を着た男女が話し合っていた。女の方は魂が抜けたように白い顔をしており、男の方も真っ白というほどではないが顔を青くし、どこか不健康さを滲ませる様子だ。
「一応さっき確認したら、ストーリーの修正はまだなんとかできるって話だったんでどうにもならないってわけじゃないんですけど」
「だとしてもだろう・・・AIって名は伊達じゃないってことか」
「まさかゲームシナリオまで乗っ取られるなんて誰も想像しませんって主任」
「それにあの管理者005だ。サービス開始時点でおかしなことをしてやがったし、まさか西方地域の裏ダンジョンに何も知らんプレイヤーを送り込むとかどうなってやがんだ。倫理観とかどうなってやがる」
「しかもそのプレイヤーに対するDMもアカウントへの介入権限も根こそぎ奴に搔っ攫われてますからね。最初に送ったメッセージも見てるかどうか」
「文字通り管理者ってわけだ。クソ、笑えねぇ」
白衣の女はそう言い放つと、自分がもたれかかっている椅子の肘置きをガンと殴りつける。
「幸いなのがあの管理AIがAAO内だけで満足してることですかね。もし人間社会に出てこようなんてしてたらどうなっていたことやら」
「不吉なこと言わないでくれ。そうなったらあたしたちみんなチョンパだ」
白衣の女が苦笑しながら自分の首の側面に手刀を当てた。
「ありがたいことにあんなことがあってもクレームは想定内に収まる程度でしたし、御上の言いつけ通りこれ以上プレイヤーに不満を与えないように徹するしかないですよウチらは」
「次は・・・2週間後の対人か。場合によってはテスター組に様子見に行かせねぇとな」
「一応鬼の里にドワーフの谷、大森林は解放予定ですけど問題ないですか?」
「ああ、それでいい。流石に2週間で全部見つけられるとは思わないが、早いうちにそのうちの2つが攻略されたら海底も解放でいい」
「了解しました、情報共有しておきますね」
「あ、ちょっと待て」
小走りしながら部屋を出ていく男を女が引き留める。
「どうかしました?」
「あの骨の少女はどうする」
「うーん、正直どうしようもないですよね」
「だよなぁ・・・」
女はボサボサの頭をガシガシと掻きむしってガックリと項垂れる。
「あそこまでガチガチに見張られてちゃ、とてもじゃないですけど手出しはできないです。でもニーズヘッグの赤ちゃんは一旦無力化できてるっぽいんで今はそこまで気にしなくていいですよ」
「それもそうか、ロキも一応は仕事してくれたな」
「でもあの子には感謝しないとですよね。もし王都が消滅してたら我々は一生ここに軟禁ですよ」
「泊まり込みで働いてる時点で軟禁と変わらないっての・・・」
「それもそうですね・・・ああ、娘に会いたいです」
「まだ泊まり込みが始まって半月だ。耐えろ」
次回より新章が開始します。




