王の乱心‐16
ご高覧いただきありがとうございます。
今回は本編中に視点移動があります。☆★☆←これの後から視点が変化します。
「本当は儂はこの茶番に介入するつもりは無かったのじゃが、あのマヌケが目覚めてしまってはお主ら異界人だけでは厳しかろう。それにあのゴミにいいように言いくるめられ、『焔神』とかいう分不相応なものにまでなってしまっておる。本来、お前は神なんぞではないだろうに・・・」
エラさんは愚痴をこぼすように、不満げな顔をしながらポツポツと言葉を零していた。一応私に話しかけているようだけど、その姿はまるで何かを悔いているように見えた。
「あの、エラさん」
「あぁ、すまんな。どうしたディラ」
「ヴィオが起きないんですよね。さっきあの妖精みたいなのに眠らされてからいくら揺すったり声をかけても起きないんです。『看破』でステータスを見ても眠りとしか表示されなくて・・・」
「ふむ、ちょっと貸してみろ」
エラさんはそう言うと、私からヴィオをひょいと取り上げて体のあちこちをペタペタと触って「これは面倒な・・・」とボソッと溜息を零すように呟いて私の方に向き直った。
「これは呪いのようなものじゃ。この状況では詳しいことはわからぬが、じわじわと精神を蝕む毒のような面倒な術にかけられておる」
「な、何か!何か直す方法は・・・!」
「落ち着け、どうにかできる手段が無いわけではないが今は状況が状況じゃ。まずはあれを片付ける」
エラさんと話をしているうちスルトの元にたどり着いていた。スルトはあの妖精が作った裂け目に向かってプレイヤーたちを蹴散らしながらずんずんと前進している。
「お主はヴィオを持って待っておれ。すぐに終わらせる」
「でも、いくらエラさんでもあれに1人は・・・」
私がそう言うと、エラさんはニッコリと笑って私の頭に掌をポンと乗せてきた。
「心配するな。儂はこう見えてもこの世界で一番強いんじゃ」
エラさんは私の頭をわしゃわしゃと撫でると、そのままスルトの元へ飛んで行ってしまった。ぐったりとしたヴィオを抱えている私にはどうしようもなく、遠ざかるエラさんの背中を見送ることしかできなかった。
☆★☆
ディラがついてきていないことを確認したエラは、飛行速度を更に上昇させ瞬く間にスルトの元へ到達した。
「久しぶりじゃのう、スルト。お主が炎獄を抜け出したせいで儂の娘が困っておったのじゃが、これはどういうつもりじゃ?」
『我ハ、古の命ニ従い、神々ヲ、コの世界ヲ焼き尽くスのミ。ソのためナらバ、あノ道化の手ヲ取るこトも厭わヌ』
「お前は、最初から何も変わっておらんというわけか」
『邪魔ヲするのナらば、貴様とテ容赦ハせぬゾ繧ィ繝?繝悶Λ』
「言葉を間違えておらんか?弱者の分際でそのような大口が叩けるとは、神に存在進化して記憶と恥でも置いてきたか」
エラの挑発を皮切りに、睨み合っていた両者が激突する。
スルトはレーヴァテインを振るい、エラに向け無数の炎弾を放つ。レーヴァテインより放たれた炎弾の威力はあの妖精もどきがスルトを乗っ取っていた際に出ていたものの比ではなく、周囲のフィールドを構成する岩石すらも溶けだして、所々で赤熱した岩石が水溜まりのように広がっている。
「ほれ、そのような小手先の技に頼るようでは儂は倒せんぞ」
エラはスルトが放った炎弾を虫を払うかのように軽く叩き落とすと、お返しと言わんばかりに空色に輝く手のひらサイズの氷の結晶をスルトに向けて指で弾き、スルトの右の脚部に直撃させた。
『小癪な真似ヲ』
エラの放った氷の結晶を受けたスルトの両脚は地面諸共凍り付き、その場に縫い留められた。
「果たして小癪な真似程度で済むかのう?」
ニヤリと笑ったエラはスルトの凍り付いた足に狙いを定め、急降下しながら接近する。体の上下をくるりと反転させドロップキックのような体勢になり、そのまま両の足で流星の如き蹴りを放つ。
凄まじい勢いで放たれたエラの蹴りは、スルトの右足を貫通し地面へ衝撃を逃がすこととなる。エラの蹴りの衝撃のほとんどを受けた岩石で構築された地面は、その凄まじい衝撃により目視できる範囲ほぼ全域に地割れの如き罅割れを刻んだ。
当然その蹴りを受けたスルトの右足も無事で済むわけがなく、エラが貫通した穴から右足全体に罅が走り、鼠径部から下の右足はガラガラと崩れ落ちた。
『ヌ、オオォ・・・』
「ほれ言わんこっちゃない。すぐさまご自慢の炎で氷を解かせばよかったものを」
スルトはエラを睨み、歯噛みしながらレーヴァテインを振るい左足の氷を解かす。右の手足を失ったスルトの姿は痛ましく、とても戦闘を継続できる様ではなかった。
「もうわかったじゃろう、ここらでお前は帰れ。お前が儂に勝つことは億に一もない。それにお前が消えたら炎獄の管理が面倒なんじゃ」
『クハハ、そうか、こノ力ヲ得てしテも貴様にハ遠く及ばヌというコトか』
スルトは口角を上げ、不気味に笑う。
『ダが、勝負にハ負ケようガ、試合に勝テば良イだけダろウ』
「お前、何を・・・」
瞬間、スルトはレーヴァテインを空間の裂け目に向け放り投げた。
エラが咄嗟にレーヴァテインを止めようと飛び立とうとするも、ぐいと足を引っ張られるような感覚があり、レーヴァテインの元へ向かうことは叶わなかった。
エラの足には細い炎の鞭のようなものが絡みついており、その炎はエラの足を焼き、癒着するような形で文字通りエラの足を止めていた。魔術を行使しようとするも、その悉くが不発に終わり足に絡みつく炎には封魔の効果があることを悟る。
「貴様ッ・・・!」
『油断ガ過ぎタナ繧ィ繝?繝悶Λ。ソの甘さモアスク譲リと言ッたトころカ』
そうしている間にもレーヴァテインの勢いは落ちるどころかどんどん増し、いよいよ裂け目に入ってしまう・・・と誰もが思ったが、矢のように空気を裂き進むレーヴァテインの前に1つの小さな影が現れた。
その小さな影は懐から細身の剣を取り出し、自身の体よりも巨大なレーヴァテインに剣身を斜めに構え立ち向かう。最初はレーヴァテインの勢いに押され、その体ごと裂け目に入っていきそうだったが、徐々に力の均衡は小さな影の優勢へと傾いていく。本来であればその小さな剣でレーヴァテインを押しとどめることは不可能に近いが、よく見ると細剣に僅かな淡い水色の膜が張ってあり、何かの魔法を付与していることがわかる。
そして徐々にレーヴァテインの勢いが削がれ、その進行方向が裂け目から逸れようとしていた。
『ドこまデモ邪魔ヲ!』
スルトがレーヴァテインと衝突している小さな影に向かって、残った左腕に青白い炎を纏わせ炎弾を放とうとするも、横方向からの凄まじい衝撃により中断してしまう。
『繧ィ繝?繝悶Λァ!貴様どウやっテ「縛焔」ヲ!』
「あんなもの、ちょいと時間をかければすぐに解けるわ。それよりもやってくれたなスルト、お前の言う通り儂は少し甘かったのかもしれぬ。そこでだ」
エラは地面に倒れ伏すスルトの胸に貫手で腕ごと刺しこむ。
『貴様、ナにヲ・・・!』
「いやな?ここまで来てしまったら世界に仇なす『焔神』を矯正するよりも新たな『巨人』を生み出そうと思ってな」
『マ、まさカ』
「まさか儂が本気でお前を殺さぬと思ったか?あの羽虫にどう聞かされていたのかは知らんが、儂は怒ると怖いんじゃよ」
スルトの胸から腕を抜くと、その手には燦然と輝く紅色の玉が握られていた。
『ま、待テ!』
「終わりじゃ、何事にも限度というものがある。そしてーー」
エラが紅色の玉を握った手に力を入れる。
「あまり人間を舐めるな」
エラがスルトの胸から取り出した紅色の玉を握り潰すと、エラの手の中で小爆発が起き、それと同時にスルトの体は完全に動かなくなった。
そして、それと同時に、レーヴァテインを止めていた小さな影の持つ剣が砕け散り、レーヴァテインも勢いを完全に失った。小さな影は皆が固唾を飲んで見守る中、空中で光の粒子となり消えていった。
《これにより、脅威は完全に断たれました》
《後日、脅威に立ち向かった英雄諸君に報酬が与えられます》
《お疲れさまでした》
《そして本日24時より、メンテナンスを行います》
《繰り返します。本日24時よりーー》
というわけでイベント回第16話目でした。
これにて決着です。最後に出てきた小さな影とは誰の事なんでしょうか。気になりますね。
いや~長かったですね、イベント回。当初はもっと短くする予定だったんですが、書いてるうちにあーでもないこーでもないとどんどん長くなりまして、気付いたらこんなことになってました。
ですが、計画当初よりも投稿者の納得がいく形で〆ることができたので概ね満足しております。
そして次回は掲示板予定です。




