王の乱心‐14
ご高覧いただきありがとうございます。
『魔奪』を駆使してなんとか燃え盛る炎を突破すると、そこには地面に倒れ伏す大量のプレイヤーたちがいた。スルトは憎々しげにプレイヤーたちを見ているかと思ったけど、視線の先にはヴィオがいて、ヴィオもヴィオでグルグルと犬が威嚇するかのような声を出してスルトとにらみ合っていた。
あ、プレイヤーたちが消えていった。
『あくまで貴様は我の敵となるのだなニーズヘグよ・・・』
「ギャウウゥ・・・!」
とにかくヴィオの傍に駆け付けて・・・そういえば天目さんは大丈夫なのかな。
「天目さん?」
とりあえず呼びかけてみるけど返事がない。とりあえず大きめの岩の陰で天目さんを横にして様子を見ることに。
「あのー・・・天目さーん?」
また返事はなく、フードで顔が隠れてるせいで意識はハッキリしてるのかそれとも気を失って強制ログアウトをくらってるのかがよくわからない。
・・・よし、フードめくっちゃおう。マナーに欠ける行為なのは重々承知の上だけど、ヴィオも心配だし。
「失礼します・・・」
一応声をかけてから私の外套と似たような黒いマントのフードをゆっくりとめくる。
フードをめくって出てきたのは、真っ白で透き通るような肌の美少女だった。髪の毛は肩くらいまで伸びていて、赤の混じったやや明るめの茶髪だった。目は閉じているけど少しつり目なのがわかる。
「美人だなぁ」
少しの間観察して起きないところを見るに、炎の中を駆け抜けている途中で失神でもしたのかもしれない。そうとわかれば天目さんはここに置いてヴィオのもとに行かないといけない。後で必ず天目さんに謝ろうと決めて、元のように天目さんフードを戻し・・・
「あっぶない!」
天目さんのフードを戻そうとすると、ちょうど天目さんの顔があった位置から大量のマグマが吹き出てきた。この吹き出るマグマにどれだけのダメージがあるのか知らないけど、直撃なんてしたら間違いなく無事では済まなかっただろう。
いやそれにしてもよかった、まさか寝てる天目さんの頭の真下から吹き出てくるなんて。いや、ん?何で今天目さんの頭で隠れてるはずの地面からマグマが出てくるのが見えた?
好奇心が抑えられず、さらに罪を重ねるようなことなのは承知の上で天目さんの顔をじっと見つめた。
「ちょっと透けてる・・・?」
天目さんの体はほんのり透けていた。目の錯覚とかではなく、確実に体が半透明だった。私が天目さんの後頭部に手を回したら、天目さんの顔越しに私の外套を纏った腕が見えた。もしかして私と同じような恰好をしてた理由ってそういう・・・?
「!?」
まじまじと天目さんの顔を眺めていると、岩の向こう側からとんでもない爆音が響いてきた。少しだけ顔を岩から出して爆音の鳴り響く方を見ると、スルトとヴィオが戦闘を始めていた。
「早く行かないと」
天目さんにフードをかぶせて岩陰から離れる。ごめんね天目さん、後で土下座でもなんでもするから。
・・・
いざ岩陰から体を出すと、そこはスルトとヴィオの戦闘で細かく砕けた岩が雨の如く舞い散るとんでもない戦場だった。ポ○モンで言うと“すなあらし”みたいな感じ。しかもたまに大きい岩の粒が混ざってて、それが当たると僅かにHPが持っていかれるというまんまポケ○ンみたいな仕様になっている。とりあえず今は誰かを巻き込む心配もないし『魔奪』を発動して視界が悪い中を進んでいく。
少しの間鳴り止んでいた爆音がまた響いたかと思えば、私の傍に巨大なボロボロの柱のようなものが落ちてきて地面に突き刺さった。
「あれ、これって」
姿形は私の見知った物とはかけ離れていたけど、『看破』を使うと正体が明らかになった。
◇◆◇◆◇
焔剣レ ヴァ
効果:不明
状態:半壊
神の牢獄と呼ばれる炎獄の炎を凝縮した剣。一振りで地上全てが焦土に変わると言われている。また、この姿は不完全な姿であるとされている。
焔 は真の を待 け 。
◇◆◇◆◇
「やっぱりあの剣だ」
私の傍に降ってきたのはレルヴァルだった。見た目の通りボロボロに壊れていて、とてもここから元の姿に直せるとは到底思えない。あと、ステータスメッセージに前はなかったはずの1文が追加されてるんだけど、虫食いでまともに読めなかった。とても不穏に感じるけど今は気にしないことにした。
「多分ヴィオがやったんだろうけど、どんな戦いになってるんだろう」
私の身長を優に超える剣に触れて破損具合を見る。刀身は刃毀れなんてレベルじゃ済まないくらい傷ついていて、剣先に至っては今にも自壊しそうなほどひびが入っていた。
「ていうか、触れる?」
今気づいた、レルヴァルに触れる。この剣が最初出てきた時は、触ろうとしても見えない壁みたいなものに阻まれてたんだけど、今のレルヴァルにはすんなりと触れてしまう。えーっとつまりこれは収納できてしまうということでいいんだろうか。
恐る恐るレルヴァルを収納してみると、何か起こるわけでもなくさっくりとインベントリに仕舞うことができた。
「と、とりあえずヴィオのところに行かなきゃ」
あっちもこっちも何が起こってるのかはサッパリわからないけど、とりあえずさっきから鳴り止まない爆音の鳴る方へ足を進める。
ようやく視界が晴れてきたと思ったら、ひと際大きい爆発音がして間を置かずにズズン・・・と地響きのような音が鳴り響いた。
何事かと周囲を見回すと、近くに巨大な腕が横たわっていた。この大きさからしてスルトの腕なんだろうけど、横倒しになってるってことはスルトはヴィオがもう倒しちゃったのかな。
「ギャァウ!」
「ヴィオ?」
不意に空からヴィオの声が降ってきた。真上を見ると、ヴィオがご機嫌そうに空を飛んでいた。何が何だかわからないで混乱していると、ヴィオが招き猫のように手をクイクイを曲げていた。
「こっちに来てってこと?」
「キュウ!」
その解釈で合ってたらしい。前みたく『魔装』で翼を補強してヴィオの元に飛んでいく。高度が上がるにつれて、地面に倒れ伏しているスルトの様子がわかるようになっていった。
「これヴィオが1人でやったの?」
「キュウキュウ♪」
ヴィオは無邪気に褒めて褒めてと頭を擦り付けてくるけど、眼下に広がる光景はとてもじゃないけどそんな気分にはしてくれない。
地面に仰向けに倒れているスルトは、右腕が肩口から先が消し飛んでいて、右足がひしゃげて明後日の方向を向いていた。しかも全身血まみれでところどころ焦げてたりしている。ヴィオ、あなた何をしたの・・・?
まあでも、ヴィオが私のためにこれだけのことをやってくれたというのは純粋に嬉しい。ただちょっと規模がおかしいだけで。
ヴィオを撫でまわしながらこれからどうしようかと唸っていると、足元が少し騒がしいことになっていた。どうやら死んだプレイヤーたちがこのフィールドに戻ってきたらしい。誰も彼も地面に横たわる巨体を見て唖然としている様子だった。
『あーあ、もうやめやめ!だいたい君たち早すぎるんだよね!それに僕の分野は策謀だから力任せの戦闘なんてできないんだよぅ!いくら僕が演技上手だからってあの口調は疲れちゃうし!』
どこからともなく少し高めの中性的な声が聞こえてきた。誰?
『もういらないから返してあげる!』
謎の声がそう言うと、スルトの巨体がゆっくりと起き上がった。なに、第二形態!?
『ほら、目の前に君の嫌いな人間が沢山だよ~』
スルトが無言のまま左手を目線の高さまで持ち上げてグッと握りしめると、私のインベントリからレルヴァルが引っ張り出された。それを防ぐ暇もなく、レルヴァルはスルトの左手に収まって、スルトの全身とレルヴァルが真っ青な炎に包まれた。
『やっぱり魂まで主のものじゃないと完全体にはなってくれないのかなぁ。気難しいお爺さんみたいな剣だねぇ』
燃え盛るスルトの頭の横に小さい妖精みたいなものが浮いているのが見えた。話を聞く限りだとあの小さいのが元凶って感じっぽいけど・・・
『失せロ、道化ガ』
『アハハ、お断りさ!それよりもラグナロクの足掛かりがようやくできたのに、それをみすみす逃しちゃってもいいのかな?上手くミズガルズを滅ぼせれば、アースガルズへの鍵であるユグドラシルも手に入っちゃうんだよ~?』
『・・・』
『じゃあ沈黙は肯定の証ってことで!そら!』
小さい妖精が手をパチンと合わせると、火山がどこまでも続いていたはずのフィールドの空間に亀裂が走って裂け目が現れた。
「あれは、王都?」
空間の裂け目の先には見覚えのある景色の、王都の街並みと王城が映し出されていた。
『さあ、祭りの再開といこうじゃないか!』
◇◆◇◆◇
焔神剣レーヴァテイン
効果:塵滅、神聖特攻、破壊不可
神の牢獄と呼ばれる炎獄の炎を凝縮した剣。一振りで神をも焼き尽くす。
神剣は真の主を迎え、真なる姿へ昇華した。神なる剣より出ずる焔が絶やされることは決してない。
◇◆◇◆◇
◇◆◇◆◇
名前:スルト
種族:焔神
Lv:‐
HP:?/?
MP:-/-
スキル:‐
◇◆◇◆◇
というわけでイベント回第14話目でした。
なんか変なのが出てきました。スルトはその変なのに操られていた・・・?
ともかくイベントは最終局面に入りました。というかこれほんとに第1回イベントなんですかね?雰囲気はまるで終盤ですけども。
この前、ふと柊の名前で検索したら同名or被りが多すぎて引きました。もしかしたらそのうち改名してるかもしれません。




