王の乱心‐11
ご高覧いただきありがとうございます。
はて、これはどうしたものか。
学校の校内放送のように声が響いたと同時に、そこらの地面からスルトアバターを二回りほど小さくしたゴーレムが湧いてきてプレイヤーに襲い掛かっている。肝心のスルト本体はどこにも見当たらない・・・のはいいんだけど、何故か私の元にゴーレムが寄ってこない。あれか?同じモンスターだからとか?
この場にアンデッドプレイヤーがいることを想定してなかったのかとも思ったけど、それならまずアンデッド族を選択できる時点で色々おかしい。
「考えるだけ無駄かな・・・」
ボーっと呆けたままでプレイヤーに怪しまれるのも面倒だし、目に付いたゴーレムを倒していくことにする。それにイベントが佳境にあるのも相まって若干だけどテンションが上がってきてる。成り行きでこんなことになってはいるけど、私だって標準的なゲーム好きな人間というわけだ。今は骨だけども。
「あっ」
近くにいたプレイヤーが顎にフックを喰らって私の足元に転がってきた。頑張って立ち上がろうとしてるけどうまく立ち上がれないところを見るに脳震盪にでもなってるんだろうか。
私と同じように深くフードを被ったプレイヤーが立ち上がれないでいると、このプレイヤーを吹っ飛ばしたであろうゴーレムが追撃をかけてきた。
「ちょっと、ゴーレム来ますけど」
プレイヤーに声をかけても返事はなく、それどころかそのまま座り込んでしまった。多分意識もハッキリしてないんだろう。もしかして強制ログアウトとかくらってるのかも。
しかも例の如く、ゴーレムは私のことは無視してぐったりと座り込んでいるプレイヤーへ一直線に突撃していく。
「『闇縛』!」
別に助ける義理もないけど、目の前で死なれてもばつが悪いし、とりあえずこのプレイヤーに向かってくるゴーレムは片付けることにしよう。ちゃんと戦ってる感じが出て周りの目も誤魔化せそうだし。
それから10分もしないうちに、私の足元に転がってきたプレイヤーが起き上がったのが視界の端の方で見えた。
「起きましたー?」
「え、あ、はい!」
「じゃあこいつらなんとかしましょう。さっきからあなたの方に群がってきて大変なんですよ」
そう、このプレイヤーが起きるまでの数分間、何故か20体くらいのゴーレムがこっちに殺到してきて割と大変だった。あんまりバカスカ魔法使って変なことになるのも嫌だから、次々と飛び掛かってくるゴーレムたちを受け流して地面に転がすだけにしておいた。
「それに、周りのゴーレムも片付き始めてる頃合いですし。ほら、また来ますよ」
「あ、あの・・・そのぅ」
プレイヤーがもじもじしながら何か言い淀んでる。どうしたんだろう。
「私・・・戦闘能力が皆無でして・・・」
「え?じゃあなんでこんな・・・っと!危ないなぁ」
「ひゃあ!」
話してる間に間近まで接近してきていたゴーレムを始末する。このゴーレムたちはオリジナルのスルトアバターと同じように背中に核みたいなものがあって、それを壊せばすぐに動かなくなる。体が小さくなってる分正面からでも核を貫けるから本当に劣化コピーみたいな感じ。
◇◆◇◆◇
名前:‐
種族:スルトアバター[劣]
Lv:28
HP:1950/1950
MP:0/0
スキル:「頑健」「轣ス遖阪?蟾ィ莠コ」
◇◆◇◆◇
ステータスは大したことないんだけど、被ダメージが2/3になる『頑健』のせいでさっさと核を壊さないと面倒な量産壁タイプの魔物さんだ。私は『細剣術:致命』のおかげでしっかり核を狙えばワンパンで倒せる。偶然とはいえ習得しててよかった。
・・・で、この魔法も使わないただの岩の人形が20体程度で私たちを取り囲んでいるわけでして。狙いは背後で腰抜かしてるプレイヤーなのはわかるんだけど、どうしてこの人を執拗に狙うんだろう。
「あの」
「は、はひ!」
「なにかこのゴーレムたちの怒りを買うようなことしました?」
「別にそんなことは・・・あ、でもこれを使ってから私のところにゴーレムが寄ってくるように」
プレイヤーがそう言って取り出したのは水色のガラス玉みたいな物だった。中でキラキラしたものが渦巻いてて一種の工芸品みたいに見える。
「なんですかそれ」
「これは魔法玉と言って、名前の通り魔法を入れておいて後から使える魔道具です」
「便利ですね、初めて見ました」
「お恥ずかしながらこれ、私の手作りなので私しか持ってないんですよ」
「へぇ、それはまた・・・あぁもう、こっちは話してるってのに!『闇縛』!」
話してる間にまたゴーレムが飛び掛かってきたから近くにいるゴーレムたちを『闇縛』で一纏めにしておいた。ちょっとした壁になるから時間も稼げるでしょ。
「で、それはどうやって使えば・・・」
「おい!そっちに3体いったぞ!」
なんだか今日はよく言葉を遮られる気がする。
声をする方を向くと、ゴーレムが3体こっちに向かって走ってきていた。別のプレイヤーと戦っている時にヘイトがこっちに向いたのかな。
「ちょうどいいのでこれ使ってみてください。これには氷の中級魔法が込められているのでゴーレムたちの足元に投げると効果的です」
「ふむ、なるほど」
プレイヤーに言われた通り、私たちに向かってそれなりの速度で走ってきているゴーレムの足元に投げてみる。まさか初期に魔除のポーションを投げまくっていた成果がこんなところでも発揮されるとは。
そしてゴーレムの足元に落ちた魔法玉はというと、ゴーレムたちを氷漬けにしただけでは飽き足らず着弾地点から半径数十メートルの範囲の地形を氷漬けにしていた。
「おぉう・・・これはまたすごいものを」
「いえ、あの、この魔法玉は使った人のMPに応じて威力が変化するんですけど・・・」
「え」
それは最初に説明してほしかったかなぁ~~~~~~~!残念だなぁ~~~~~~~~!
「と、とにかく!魔法玉凄かったです。えーっと、そういえばお名前は・・・」
「あまめって言います。天に目と書いて天目です。細工師してます」
「私はディラ。見ての通り魔法と剣使います」
「あの~・・・つかぬことをお伺いしたいんですけど・・・ディラさんってお尋ね者として張り出されたり、現在進行形で捜索されてる黒マントの商人本人・・・ですか?」
やっぱり知ってたかぁ。反射的に名乗っちゃったけど、捜索スレが立ってる上に見た目と声が晒上げられてるんじゃもうそこまで気にすることじゃないのかも。
「まあ私にも色々あるので・・・それより纏めておいたゴーレムたちを片付けて・・・ん?」
さっきまで『闇縛』でギチギチに固められてなんとか抜け出そうともがいてた筈のゴーレムたちが静まり返っていた。よく見るとこのゴーレムたちの足元にまで魔法玉の氷が広がっている。
近づいて細剣で軽くつついても特に反応はない。『看破』でもしてみようか。
◇◆◇◆◇
名前:‐
種族:スルトアバター[劣]
Lv:28
HP:1950/1950
MP:0/0
状態:切断
スキル:「頑健」「轣ス遖阪?蟾ィ莠コ」
◇◆◇◆◇
「切断?別にどこも切れてないけど・・・」
ふと後ろの方を振り返ると、広がった氷の上に乗っているゴーレムたちが次々とプレイヤーに撃破されていた。そのゴーレムたちはいずれも例外なく動きが鈍かったり完全に停止したりしていた。
ふむ、なるほど。私の予想が正しいなら確かに天目さんをゴーレムたちが狙ってたのにも納得がいく。そういえば天目さん、魔法玉を使ったら狙われるようになったとか言ってたし。
「天目さん、氷の魔法が入った魔法玉ってあといくつあります?」
「えっと、あと3つです。お渡ししましょうか」
「1個でいいです。ありがとうございます」
天目さんはよくわかってなさそうだったけど、いざとなったら残りの魔法玉も貰おう。多分この集団の中だと、私が魔法玉を投げるのが1番よさそうだし。うん、それがいい。
その後、魔法玉の効果も相まって残り少なくなったゴーレムたちは完全に殲滅された。
というわけでイベント回第11話目でした。
理菜と似たような格好の怪しいプレイヤーが登場しました。でも有能です。
パソコンがイカレて下書きとか設定を書き殴ったものが消し飛びましたが投稿者は元気です。ようやくまとまった時間が出来そうなのでぼちぼち投稿頻度を戻していこうと思います。




