王の乱心‐10
ご高覧いただきありがとうございます。
突然現れた剣っぽいものに困惑しつつも、とりあえず近づいてみる。何か警告のアナウンスが出るでもなく、ただその剣はそこに佇んでいるだけだった。
「でもおっきいね、これ・・・」
ただその剣は大きかった。刀身だけで私の身長を優に超えるくらいには大きい。と、とりあえず『看破』してみる・・・?
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焔剣レルヴァル
効果:不明
神の牢獄と呼ばれる炎獄の炎を凝縮した剣。一振りで地上全てが焦土に変わると言われている。また、この姿はまだ不完全な姿であるとされている。
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こりゃまた何やらとんでもなさそうなものが。神だのなんだのって、いちいちスケールが大きすぎる。これってインベントリに入れたりできるのかな。サイズだけなら世界樹の方が遥かに大きいから問題ないと思うんだけど。
「あ、あれ?」
レルバルとかいう剣に触れようとすると、剣から数センチのところで見えない壁みたいなものに阻まれる。触れないからインベントリに収納もできない、大きすぎるから持ち運ぶこともできないと。うーん、これはどうしたものかと考え込んでいると真下が騒がしいことに気が付いた。プレイヤーが集まって揃って私の方を見上げていた。このままここで考えていても埒が明かないし、下に降りてみる。
「なにか?」
「なにか?・・・って、アレはどういうことなのさ。皆混乱しているんだ」
さっき連れてきた大盾を持っている女の人が人だかりから出てきて、空に浮かぶ剣を指さしてそう言った。
「どういうこと、と言われましても。壊したらああなったので私にも何が何だか」
「アンタの仕業じゃないってことだね、わかった」
大盾の人はそう言うとプレイヤーが集まっている方へ戻っていき、事情を話しだした。「ここでイベント終わりか?」「あの商人ってイベントのお助けNPCなのか・・・?」「そもそもあの剣は何なんだ」とかいろんな声が聞こえてくる。みんな私の方をチラチラ見ながら。勘弁してほしい。
「ご苦労だったな、人間諸君。まさか我の剣を力技で解き放てる者がいるとは思わなかったぞ?」
この状況どうしたもんかと考えていると、上の方から聞き覚えのある可愛い声が降ってきた。その可愛らしい声とは合わないやたらと物騒なことを言いながら。
「・・・お姫様?」
私たちの上に浮かんでいたのは、紛れもないトゥーリ王国第一王女、アリアーナ・ギュルヴィ・トゥーリその人だった。右手に豪華な服を着た壮年のおじさんと、左手にメイドさんを持ってだけど。
あまりの情報過多で立ち尽くしていると、お姫様がメイドさんを投げ捨てた。落ちてきたメイドさんを何とか受け止めてその姿を見ると、なんだか見覚えのある顔をしていた。
「あ、お姫様の庭にいた・・・」
「あなたはお尋ね者の・・・いえ、この際なんでもいいです!アリアーナ様をお助けください!」
メイドさんは私の言葉にクワっと目を見開くと早口で捲くし立ててきた。待って、肩を掴んで前後に揺さぶるのはやめよう。ゲームだけど出ちゃう、色々と。
「待って、どういうこと?そもそもあれはお姫様本人なの?」
「王都の上空に巨大な岩石が砕かれた瞬間、アリアーナ様の庭園に正体不明の燃え盛るゴーレムが現れ、アリアーナ様に攻撃を仕掛けようとしました。なんとかアリアーナ様に攻撃が及ぶことは免れ、ゴーレムの破壊には成功したのですが、ゴーレムの核であろう赤い水晶玉にアリアーナ様が触れてしまい、気付いたらアリアーナ様がこんな・・・」
話している途中でメイドさんは気を失ってしまった。でもまあだいたいわかった、あのクソ野郎がお姫様を乗っ取ったであろうことはよくわかった。
「まあ、そういうことだ。だがこの体を依り代にするにはあまりに脆弱でな。この老いぼれも試しはしたんだが、結果は変わらずだ。しかしだ、我が用意したこの2つの贄は魔力だけは潤沢だ」
「何をする気だ!アリアーナ様を返せ化け物め!」
1人のプレイヤーが声を上げた。ギラッギラの金ぴか鎧で成金趣味みたいな恰好をしている。同じような恰好をした人たちをどこかで見たような。
「そう慌てるな、神に対して不敬だぞ?」
「何が神だ!ちょっと強いだけのゴーレム風情が!」
「無礼者めが、だが今我はとても気分が良い。今ここで終末の続きをできるのだからなァ!」
スルトアバターがそう言うと、お姫様の体に赤いひびが走っていき周囲が熱気に包まれた。
《終末を齎す炎獄の巨神『スルト』が顕現しました》
《決戦フィールドへ移行します》
そうアナウンスが響くと、火山のような場所に立っていた。地面はでこぼこの岩で構成されていて、あちこちからマグマが噴き出している。明らかにさっきまでいた王都ではない。
周りを見回すと、たくさんのプレイヤーたちがそこら中に散らばっていて、王様とお姫様とメイドさんは私たちの後ろで倒れていた。近づこうとするプレイヤーがパントマイムしているところを見るに、多分見えない壁があるんだろう。
『ようこそ、我が世界へ』
どこからともなく野太い男の声が響いた。まだこの決戦フィールドとやらには敵は見当たらないっぽいけど・・・
『我が名はスルト、戯神の遺志を継ぐ忠実な僕なり』
『さあ、精々足掻くがよい。矮小な人間どもよ』
というわけでイベント回第10話目でした。
ついに姿を現したのはスルトです。果たして理菜たちは勝てるのでしょうか。
今日は4月1日、エイプリルフールですね。嘘をついてもいい日ではありますが、必ずしも吐いた嘘が許されるわけではないので匙加減にご注意ください。
投稿者もなにか大きめの嘘をかまそうかと思いましたが、特別な事情があるわけでもないのに投稿を1ヶ月空けたことが嘘のみたいなことなので控えておきます。それはそうとエルデンリング楽しいです。投稿が遅れたのも別の話のネタが浮かぶのも全部フロムが悪いのです。




