王の乱心‐9
ご高覧いただきありがとうございます。
えーっと、上空から青い太陽が落ちてきています。何を言ってるんだという気持ちは痛いほどわかります。でも本当に見上げたら青い太陽があるんです。
これを落としたのはあの魔物さんでいいんだよね!?こういうのは先に術者を倒すっていうのが定番・・・っていなぁーい!!!!いつの間に消えたんだあいつ!
「これをどうにかしろって無理があるでしょ・・・!」
とはいえ何もせずに見ているだけってのもできないわけで。でも私は非生物相手はどうしたらいいかわかんないんだよね。これまでは『吸魔』で魔物さんのHPとMP吸ってたからどうにでもなったけど、ステータスを持たないただ燃えてるデカブツなんて対処のしようが・・・ん、MP、魔力か。なるほど。炎だけならどうにかできるかもしれない。多分だけど。誰がいいかな、ある程度強そうな装備着てて話が通じそうな・・・
「ヴィオ!一旦そっちは無視であの大きい盾持った女の人をこっちに!」
「キュウ!」
青い太陽に攻撃を加えようとしていたヴィオを呼び止めて、見覚えのあるプレイヤーの人を連れてきてもらう。うん、やっぱりあの時の人だ。
「あんた、どういうつもりで・・・」
「説明をしている暇がありません、1つだけ質問に答えてください。この青い太陽はあの人型の魔物さんが作り出した魔法ですか?」
「あ、ああ。そのはずさ。アイツが地面に腕を突っ込んだら突然地震が起きて巨大な岩石が宙に現れたんだ。そしてそれが青い炎を纏ってこの有り様さ」
お、これは確定だね。相変わらずヴィオ頼りにはなりそうだけどワンチャンなんとかできるかも。
「わかりました、ではもう戻っていただいて結構です」
「待ってくれ、アンタは何をしようとしているんだ」
「見ての通り、アレを壊そうかと」
まあこの状況ですることなんて1つしかないし・・・なんか訝しげな眼で見られてるけど、やるしかないんです!お姫様の危機なんです!詳しいことは教えてくれなかったけど!
「・・・なにかアタシたちに出来ることはないのか?」
「アレの破壊に関しては特にないですけど、もし岩石部分を壊したときに破片が飛び散ったらそれの処理を。王都が破壊されるのは不本意ですから」
「わかった、皆に伝えてくる」
さて、あの青い太陽をどうやって処理するかなんだけど、それは太陽に近づいて『魔奪』を使うだけ。うーん簡単だ!うまくいかなかったら私の命と王都が犠牲になるだけだね!
いやまあ、無謀ということは百も承知なんだけど正直これくらいしか解決方法が思いつかない。さっき連れてきたプレイヤーの人に聞いた感じあの太陽は魔法の産物っぽいし、魔力を無差別に吸う(らしい)このスキルならいけるんじゃない?ということで。
「さて、やろうかヴィオ」
「キュキュウ!」
今までただのお飾りだった背中の翼を広げる。外套が破れないか心配だったけど、不思議パワーで外套の上から翼が生えるようになっている。ありがたい限りだね。
そんな文字通り骨組みしかない羽で何ができるんだという話だけど、これが飛べちゃうんだ。『邪界樹の洞穴』にいた上位竜骸っていう魔物さんが骨だけの翼で飛んでたのを思い出してどうやったら飛べるのか考えてたんだよ。うんうん唸りながら記憶を引っ張り出してたら、あの魔物さんが1つよくわからないスキルを持ってたのを思い出しまして。
「『魔装』」
それがこの『魔装』ってスキル。最初は魔力の鎧を纏うスキルかと思ってたんだけど、どうやらいろんな形に魔力を形成できるみたいで、骨組みだけの翼に魔力で翼膜を張ることもできちゃうのだ。そして翼膜を張れるということは・・・
「せいっ」
この通り、風を受けて空も飛べると。本物の鳥さんは気嚢だとか風切り羽だとか飛行するのに必要なものがあるけど、ここはゲームでファンタジーな世界!翼と少しの慣れがあれば飛べてしまうのだ!練習始めたばかりの頃は大変だったよ、地面に落下してそのまま死ぬところだったもん。
そんなわけで空を飛べるようになったのでいざ太陽に突撃です。地面から離れたばかりの時はそんなにだったけど、今は熱気がすごい。視界が歪んでる。でも私は何故か熱さを感じない。アンデッドだからかな?
なんて呑気に考えながら飛んでいると、突然アナウンスが鳴った。
《警告、この先には極めて激しい熱気が渦巻いています》
《現在のプレイヤー『ディラ』がこの先に踏み入ると、1秒後に直ちに死亡します》
よし、このタイミングだね。
「『魔奪』!」
すかさず『魔奪』を発動する。一応細剣を抜いてから発動させてみたけど特に細剣に変化はない。武器を媒介させるような魔法じゃないのかな?まあ範囲魔法だしそんなものか。
『魔奪』を発動させてもう一度アナウンスが鳴った所を通ってみると今度は何もなかった。大丈夫ってことなんだろうけど、一応ステータスをチェック。うん、ダメージを受けたりはしてないね。
「ヴィオも平気?」
「キュウ!」
そんなこんなで青い炎が渦巻く太陽にいざ着陸。おお、私が触れたところの炎が全部消えていく。『吸魔』を魔法そのものにも使えたからいけるんじゃないか、という予想は大当たりだった。
「キュ~・・・」
ヴィオがなんだか苦しそうにしてる。さっきまで平気そうだったのに突然どうしたんだろう?『看破』でステータスを見ても特におかしなところはないし、この炎が直接当たるくらいの位置にあるのがダメなのかな?
「これ、範囲広げるとかできないのかな」
体感的な範囲は半径1メートルもないくらい、これじゃ少し不便な気がする。多分こんな使い方想定してないんだろうけども。そういえば、この前は『闇縛』と『吸魔』を同時に発動できたけど同じ魔法の同時発動はできるのかな。今発動してる『魔奪』は私の周りで勝手に発動してるけど、これを他の魔法と同じ感覚で細剣に籠めて・・・
「『魔奪』!」
・・・特に変化が無い。試しにその辺の炎に向かって振ってみる。
「お?おぉぉ~」
細剣を振ると結構な範囲の炎が掻き消えた。同じ魔法の同時発動成功だね、いいじゃんいいじゃん。
そのまま細剣を振り回して邪魔な炎を消してヴィオに出てきてもらう。心なしかまだ少し元気がないように見える。
「ヴィオ、今私たちがいる地面に全力で技をぶっ放してほしいんだけど、いけそう?」
「キュ~キュウ!」
「ありがと、これが終わったら2人でゆっくりしようね」
ヴィオの全力がまだわからないから、念のため十分に距離を取っておく。離れようとした時に眦にたっぷりの涙を溜めて離れないでと懇願されて心が折れそうになってしまった。
「ヴィオ!お願い!」
「ギュルルアァア!!」
ヴィオが吼えると、前にヴィオが暴走しかけた時に見た『鬼火』とかいう青紫色の炎が4個出てきた。ヴィオはまたそれを全部食べて、数秒静止した後に記憶に新しいあのビームを太陽に向けて放った。あの時よりは規模が抑えめではあるけど、それでもとんでもない破壊力だ。巻きあがる煙でよくわからないけど、太陽がゴゴゴと大きな音を立てながら振動しているのが足元から伝わってくる。あれを片手間に防いでたエラさんっていったい・・・
ヴィオが放ってたビームが止むと、太陽がさらに大きく揺れ出した。なんなら私の足元が既に崩れそうになってる。もう壊れるのかな?
「ヴィオありがと!もういいよ、戻ってきて!」
さらに太陽に向かって追撃を加えようとしていたヴィオを止めてそのまま外套の中に押し込み、翼を広げて崩壊寸前の太陽から離脱する。
「あ、崩れ・・・ない?」
砂時計の砂が落ちるように、下の方から細かく崩れそうだった太陽はピタリと不自然に崩壊が止まった。
「うわぁ!?」
刹那、太陽から強烈な引力が発生して太陽の方向に引っ張られる。全力で逆方向に飛行して引力に抗う。まさか本物の太陽になんてならないだろうね!?
引力が突然発生したかと思えば、今度は斥力が襲ってきた。なに!?六道の力でも持ってるって言うの!?
「なんなのほんとに・・・」
ようやく謎パワーが収まったかと思うと、いつの間にか太陽が忽然と姿を消していた。太陽のあった場所には、ポツンと1つのモノが炎を纏って浮かんでいた。
「なにあれ、剣?」
というわけでイベント回第9話目でした。
ヴィオの助力で太陽を破壊することに成功した理菜ですが、太陽の崩壊は止まり突然炎を纏う剣らしきものへと姿を変えてしまいました。次は何が起きるのでしょうか。
プレイヤーさんたちの出番は・・・まあ・・・
前話『王の乱心‐8』のタイトルを『王の乱心‐7』に間違えていました。大変申し訳ありません。




