王の乱心‐8
ご高覧いただきありがとうございます。
「とりあえずディラ、お前を回復するぞ。そんな状態ではこちらが落ち着いて話ができん」
私はヴィオに吹っ飛ばされてただの残骸になったテーブルにもたれかかっている状態だった。
「でも私、普通の回復魔法とかポーション使ったら多分一撃で死にますよ?」
《個体名『繧ィ繝?繝悶Λ』がプレイヤー『ディラ』に『魂』系統の魔法を行使します》
《許可しますか?》
▶YES
▷NO
何か出てきた。許可も何も、回復してくれるんだから拒否する必要が無いんだと思うけど。
「それくらいわかっておる。『魂奪』『魂癒』」
エラさんが何かの魔法を2つ唱えると、半透明の人魂みたいなものが纏わりついてきて少し力が抜けたかと思うと、体がふわっと軽くなる感覚があった。おお、これが回復する感覚なんだ。AAO始めてそこそこ経ったけど回復するのは初めてなのか・・・そうか・・・別に凹んでないし。
「これがアンデッド専用の回復魔法じゃ。それと、中途半端だったから少し吸わせてもらったぞ?なかなかに美味な魂じゃった。ああそうじゃ、そこのトカゲもついでに回復させておいたぞ」
エラさんはニッコリと可愛らしい笑みを浮かべて私にそう言った。魂?そういえばアナウンスがソウルがどうこうって・・・
「あの、魂って・・・」
「さて、ではスキルの話じゃ。何が聞きたい?今度は何も隠しはしないぞ」
エラさんに話を遮られてしまった。
「えっと、じゃあ概要というか効果を聞きたいです」
「効果は最初に言った『半永久的にHPを回復し続ける』じゃ。そのスキルを発動すればダメージを受けた傍から回復するようになる」
「・・・デメリットは?」
「そうじゃのう、強いてデメリットを挙げるとするならば無差別に周囲から魔力を吸い上げるから、不意に生物が近づいてきたらその生物が危ないということくらいじゃな。ああ、それと自分のHPの数値を上回る攻撃を受けたら問答無用で死ぬことくらいじゃな」
「え、それって私には意味ないんじゃ・・・」
そう言うとエラさんに頭をポカっと軽く殴られた。
「阿呆、数刻前まで戦っていたあの人形をもう忘れたか。ああいう継続的にこちらにダメージを与えてくる性格の悪い手合いには十分に効果的じゃ。攻撃や魔法は気合でどうにかできるじゃろう、便利な技術も身に付けておるようじゃし」
エラさんの言う通り、確かにMPさえあれば魔法も受け流せはするんだけどそれって、常に敵を認識していないとダメなんだよね。認識の外、つまり不意打ちとかにはめっぽう弱いわけでして・・・気配を消されて背後からグサー!とかやられたらHPの低さも相まって無抵抗で死んじゃうよ。
まあその辺も自分でどうにかしろってことなんだろうね。何でもかんでも強かったらバランスも何もあったものじゃないし。でも私の状況って結構ハードモードだと思うし、何なら不遇・・・いや、これ以上考えるのはよそう。
「本当に使ったらHPが減ったりはしないんですね?」
「ああ、『吸魔』のようなデメリットはないぞ。前に何も言わずにスキルを渡したのは悪かったが、少しは信じてくれてもいいじゃろう。これはディラのためでもあるんじゃぞ」
「私のため、ですか」
「うむ、あのままバカ蛇のところで放っておいたら一生出てこれんかったじゃろうしな。それに今のままでは儂も困ってしまうしの」
「エラさんが困る・・ですか」
「そうじゃ、あのふざけた人形は是非ともディラに始末してもらいたい」
えー・・・ノーリを守れたからもうお役御免だと思ってたのに。それにワールドクエストであんまりでしゃばるのもちょっと、ねぇ?人間族のアバターを使ってて何かしらの名声欲があるならいいかもだけど、生憎この身はほねほねでして。それにアレを相手にするなら絶対ヴィオの助けがないと無理なんだろうけど、ヴィオをそう易々とプレイヤーたちの目に晒すのも・・・
「そんな顔をするな。ではディラが王都へ向かいたくなることを教えてやろう」
ほう、エラさんが私にニンジンを吊るすらしい。別に行くのがどうしても嫌ってわけじゃないんだけどね。どれほど上質なニンジンを用意できるのか聞こうじゃないか。
「ディラと仲の良い、あの国の王女様はこのままだと死ぬぞ?」
「え、ど、どういうことですか」
「儂からはこれくらいしか言えんのう。さて、行くか?王都」
エラさんがニヤニヤしながらどこかの方向をちょいちょいと指差す。あっちの方向に王都があるらしい。
またエラさんの思惑に乗るようでものすごく不安だけど、あんなこと聞いてしまったら行かないという選択肢があるはずがない。
「行きます。でも最後に1つ、そのスキルはヴィオに影響はないんですか?」
「うむ、問題ないぞ。理由は・・・まあそのうちわかるじゃろう。では受け取るといい」
《個体名『繧ィ繝?繝悶Λ』がプレイヤー『ディラ』にスキル『魔奪』を贈与しました》
《スキル『魔奪』を取得しました》
《称号『亜神の寵愛』を取得しました》
亜神?エラさんって神様だったの?
「効果は実戦で試すといい。王都まで飛ばすぞ」
「あの、エラさんって何者なんですか・・・?」
「最後の質問ではないじゃないか」
エラさんが肩をすくめて薄く笑う。
「まあよい。そうじゃな、罰当たりな『神殺し』とでも言っておくかの。では頼んだぞディラ。あの憎き巨人の木偶人形を無事始末できることを願っておるぞ」
エラさんがそう言って指をパチンと鳴らすと、目の前の景色が書き変わっていく。
・・・
「・・・どういう状況?」
エラさんに転移してもらうと、大きめのグラウンドみたいな場所に放り出された。なんだか周りが薄暗くて違和感を感じる。
周りをぐるりと見回すと、いい感じの装備をしたプレイヤーっぽい人たちが私を取り囲んでいた。なんだか騒ぎ立てているみたいだけど、遠くてよく聞こえない。
「・・・キサマ」
つい最近聞いたことのある声が背中から聞こえて振り返ると、魔物さんが両腕を地面に深く突き刺してヤンキー座りをしていた。なにしてんの?
「思ったより早い再会だったね」
「イマサラゾウエンガコヨウガカンケイハナイ!ソコラノニンゲンモロトモケシズミニナルガイイ!」
魔物さんがそう言うと、地面が大きく揺れて周りの建物のガラスが崩れていく。
「キュウ!」
ヴィオが外套の中から飛び出して上空に飛び上がっていく。ずっと寝てたから心配だったけど元気になったんだね、よかった。
「なにあれ」
ヴィオが飛び上がった方を見上げると、青い炎を纏った超巨大な物体が私たちのいるグラウンドみたいなばしょにゆっくりと落ちてきていた。
というわけでイベント回第8話目でした。
理菜はエラさんの甘言に乗ってしまいました。デメリットがないらしいし、アナ様の身に危険が迫っているなら仕方ないですね。ともあれこれで理菜は無敵ですね!負けるわけがありません!
それにしてもエラさんの正体がよくわからないですね。カミサマ~




